「いーかー! お前ら!」
明らかに、女性が意識して男の乱暴な口調を真似しているという感じで、第5空中機動旅団第9空挺連隊麾下第25空挺中隊々長、ユキ・マデリーン・サイトウ中佐が声を上げる。
「これより我々は敵ロウリア首都ジン・ハークの中枢、ジン・ハーク王宮に強襲突入する! 目標はロウリア国王ハーク・ロウリア34世の捕縛! ここまではすでに説明したとおりだ! ジン・ハーク王城の内部図は頭に叩き込んだな!?」
「ハイッ!!」
中隊は定数210名だが、そんな人数で押しかける作戦ではないため、実際には1個小隊30名で向かう。
ただ押しかける先が押しかける先なので、佐官程度の階級の人間が指揮すべきということで、ユキが率いることになった。
「いいか! 内部には非戦闘員も多数存在している! 見極めを誤るな!! 非戦闘員を手に掛けたものは不名誉除隊か生涯禁欲かのいずれかが待っていると思え!」
「ハイッ!!」
ユキの張り上げる声に、再度隊員の揃った返事が上がる。
「宜しい! 総員乗機!!」
「了解!」
ギムの野戦ヘリポートに並んだ、Mi-17An(Bo)/D-C空挺仕様に、それぞれ班ごとに乗り込む。
その中に、明らかに場違いな、シンプルだか激しい動きに向いているとは思えないドレスを来た、ストレートの長髪の少女が紛れていた。
「いいのですか? 危険ですよ?」
小隊長のティイナ・ノギ・ライネン中尉が、その少女に訊ねる。
「構わぬ」
少女は、どこか時代がかったようにも聞こえる口調で、言う。
「これから国を救うという時に、命を惜しんでどうする。この瞬間にも、民が苦しみ、兵が死んでいるのだろう?」
少女は、そう言って口元に笑みさえ浮かべた。
「畏まりました、殿下。ただし、城内では決してお1人にならないように。ジュリー……ジュリエット・フェラン二曹、殿下を頼みます」
「了解です」
ティイナに指名された空挺兵の1人が、敬礼付きでそう返答した。
他の隊員と同じように、ティイナとジュリエット、そして少女も、ヘリのリアゲートから機内に乗り込む。
「25
『了解。25AC、
ユキが胸元のPTTスイッチを押しながら、インカムのマイクに向かって無線越しにそう伝えると、ギム臨時簡易管制がそう伝えてきた。
ドドドドドドド……!!
1基あたり2機のACh-30BDエンジンが、ターボシャフトとは異なる低い2,000hpの咆哮を上げる。
青地に燃える噴水、それを背後に3人の人を表す◯とアーチの線で構成された国籍マークの他に、獰猛に獲物に襲いかかる猫、それに斜体の「25AC」の文字を添えたチームシンボルをエンジンポッドに描いたMi-17An(Bo)/D-Cが、次々と離陸していった。
「マオス殿、兵の集まり具合は?」
「うむ……男であれ女であれ、戦える者は武器を持ち集結した……」
マオスの不安気な表情は、ただ、目の前に迫る国難だけが理由のように見えなかった。やたらと汗をかいている。
「パタジン将軍……死に急いではならん。そなたがいなくなくなったら誰がロウリアを守れるというのだ……」
「…………エクスプレッセスティ軍に対して唯一有効だったのが、騎兵隊の肉薄攻撃だった……事ここに至っては、最早肉弾戦法以外にエクスプレッセスティ軍を止める手段はない。だが、兵だけを突撃させるのは将としてできぬ……死んでいった者達のためにも」
マオスにそう告げるパタジンだったが、その表情はどこか清々しそうでもあった。
──無敵の力を持つ相手にこの命を賭して一太刀浴びせる……将として、いや1人の
「しかし……」
「心配無用だ、マオス殿」
なおもパタジンを思いとどまらせようとするマオスの背後から、別の声がかけられた。
「わしが死なせはせん。王宮筆頭魔導士ヤミレイ、パタジン将軍の背をお守りする」
「ヤミレイ殿……」
ガツン、と、別の金属と石のぶつかり合う音が聞こえた。
「儂も同道させていただこう」
「しゃ、シャークン海将……」
マオスが、ヤミレイの更に後ろから現れたその姿に、一瞬ギョッとする。
「海将、提督、か。最早ロウリアに海軍はない。ならば後は、一兵卒として打って出て、敵に一矢報いるのみ……!!」
そう言って、シャークンは、ハルバートまでは行かない長柄のバトルアクスを、ひょいと肩に担いだ。
「────ありがとう。私は貴殿らが友であることを誇りに思う」
感極まった様子で言いながら、パタジンは抱えていた兜をかぶり、
「全軍に告ぐ! 只今より我らロウリア王国王都騎士団、最後の全力出撃をかける!! 我々の生死は関係ない! 国が亡びるか、敵を倒すかだ!! 強要はしない、どうしても引き返したい者は引き返せ!」
「ウォオォォォォォッ!!」
亡国の危機を前にして、誰一人尻込みするものはいなかった。
「諸君らの勇気に感謝する。我に続けぇえェェェッ!!」
パタジンら自ら先頭となり、丘陵部を登り始めている敵機動兵器────エクスプレッセスティ軍戦車部隊に向かって、突撃を開始した。
「まずいわね……」
ルイーゼは苦々しく呟いた。多数の松明を掲げた無数のロウリア兵が、破壊された門から続々と吐き出され、戦車隊に向かっている。
──このままでは殲滅戦になってしまう。早く、早く仕掛けて……
ルイーゼが焦燥していると、ヒィィィィン……と、夜空を切り裂く音が聞こえた。
『シーマより連絡。目標ポイント設定、使用可能な降下点は想定のC』
『スクルド1了解』
『25AC了解』
『25ACへ。シーマより追加情報、近衛が非戦闘員2名を“肉の壁”にする可能性あり』
『25AC了解』
「いいですか、普段大口叩いといて肝心な時に外さないでくださいよ! 外したら私も一緒に、空軍の教練隊送りなんですからね!」
「私を誰だと思っている!」
「蒼穹の
「そっちはやめろ!! まぁいいわ、見ておきなさい」
イリーナの操るMiG-29Hi/USは、一度ジン・ハーク王城をギリギリかすめそうな高度まで降りると、そこから一転、アフターバーナーは使わないものの、上昇にかかる。
「Shoot!!」
バシュッ……
イリーナ機から発射された10発のCRV7ロケット弾は、その全弾が、誘導弾でもないのに、吸い込まれるように、ジン・ハーク王宮の内城壁内側の庭園部に、命中した。
「降下ポイント確認!」
ユキ達を乗せたMi-17An(Bo)/D-Cが、投光器で、先程イリーナ機のロケット弾が降り注いだ場所を照らした。
「敵部隊は!?」
「クリア! 遮蔽物諸共薙ぎ払われてます」
副操縦士の答えを待ってから、ユキは胸元のPTTスイッチを押し、インカムから無線機越しに下令する。
「25AC、想定通り降下する!!」
『了解!!』
まず、ユキ達の1番機が、その上に陣取る。その左右のスライドハッチと、胴体後部テイルブーム下の観音開きのハッチを開く。
エンジンポッド前部に液冷V型エンジンを冷却するためのラジエーターがあり、飛行中にスライドハッチを開けると強制導風ファンの吸引力に巻き込まれる可能性があるが、そこは命知らずの空挺魂でなんとか……するというわけでは当然なく、冷却系とエンジンそのものの吸気と合わせて、吸気を上に向けるフードが取り付けられている。
そしてロープを投げて下ろすと、同時に4名、最終的に8名が降下した。
「警戒、構え!!」
空挺隊員は、
4人が四方を向き、ユキを含めた4名がその背中を掩護する。
そこへ、次のヘリが降下高度に降りてくる。
ジン・ハーク近衛隊が、何事かと向かってくる。
ダダダッ
サブマシンガンの有効射程は長くない。対人だとせいぜい50mだ。今のは威嚇になればとのより遠い距離からの短い射撃だったが、不運にも1人が胸甲を割られ、飛び込んだ .357Magで血飛沫を上げ、その場に倒れた。
『私達の装備の威力はもう知っているはずだ!!』
3番機の降下中、4番機から、ティイナがスピーカーで怒鳴る。
『命の惜しいものは武器を捨て、両手を上げろ!』
だが、そうしようとする者はほとんど居らず、剣を構え、突撃してくる。
「
言いつつ、童顔にやたら
「4番機、
「散開、敵を掃討!!」
ユキ達、3番機までから降下した隊員が、8つの方向に、規則的に広がる。
ガスタービン系エンジンに比べた際、ほとんど劣っているとされるレシプロエンジンが唯一勝るのが“粘る”ことだ。ガスタービンはほぼ回転数に比例してトルクが上がるため、何らかの理由で回転数が落ちると一気にトルクも下がり、燃焼室をリッチ(燃料増量)にしてもすぐには高回転に戻らない。だが、レシプロエンジンはシリンダーが失火しない限り、低回転域でも太いトルクを発生させることができる。
2,000hp級ディーゼルエンジン2発が生み出す強烈なダウンウォッシュに、ロウリア近衛兵が怯んだところへ、呵責のない射撃が加えられた。
「周辺クリア!」
「1番機の7名、私についてこい! 王宮内に突入する! 残りはティーの指示を仰げ!」
ユキは言いつつ、空になった
通用口と思しき、小さめの扉を発見した。
ユキはまず、胸部ホルスターからCOP .357 4連発ペッパーボックス拳銃を抜き、扉直前で、そのドアの鍵を撃ち抜く。
ユキと7名の隊員が、扉の左右に、M9/357を構えて、身を潜ませるようにする。
「3カウント後に破る! 死にたくなければ扉の前から消え失せろ!!」
扉の内側に向かって、ユキがそう怒鳴った。
「3」
「2」
「1」
ガンッ!
ユキは自ら扉を蹴破ると、直後に室内に向かってM9/357で掃射した。
扉の正面に敵はいないかと思われたが、逆奇襲するつもりだったのだろう、2人の近衛隊が .357Magでハチの巣になった。
「ティー、聞こえるか!?」
一度、部下の隊員達に矢面を任せ、ユキはティイナに無線で呼びかける。
『
「2番機の8名を寄越せ。上階へ向かう! 残りの14名──ジュリー二曹以外の13名は通路確保し掃討に当たれ!」
『了解!』
「
PTTスイッチを放り投げるように手放すと、隊員の弾倉交換の瞬間に躍り出てきた5人程に向かって、ユキは射撃した。
「Clear!」
「Go!!」
『こちら陸ギム西、25AC! 状況は!?』
何回目かの弾倉を交換していた時、ルイーゼからの呼びかけが入った。
「今手が離せん10分待て! OUT!!」
『ランド隊長! こちら第3隊、現在2階階段ホール!』
ランドのインカムに、近衛隊の各兵からの悲鳴のような通信が入ってくる。
『敵は“魔杖”を短くしたような武具を装備ッ! “光弾”を撃ち込んでくる、ぐぁぁっ!?』
「第3隊、第3隊!?」
ランドが呼びかけるが、それに対する応答はなかった。
『第3隊突破された! 敵は正面階段を登っているッ』
『こいつらを女だと思うな!』
「正面階段……まっすぐこちらに来ている……か」
ランドは、思考を巡らせるために呟くが、それに目の前にいた部下が反応した。
「ランド隊長ッ、敵の狙いは少数精鋭の部隊による大王様の暗殺か捕縛では!?」
「おそらくな……しかし……」
ランドは、部下の意見に賛同しつつも、わずかに怪訝そうな表情をする。
「強大な武力を誇示しておきながら回りくどいやり方……いや……」
──外の攻撃そのものが、王宮を手薄にするための陽動かッ!!
ランドは、その事に行き着くと、インカムを操作してチャンネルを切り替える。
「パタジン聞こえるか、パタジン……!?」
ランドが呼びかけるが、応答はない。
「距離が遠すぎるか……」
個人携行型の通信機では、入り組んだ室内から、さらに見通しでも届くかどうかの距離まで離れれば、まず通信は不可能だ。
それは、エクスプレッセスティ側も同じである。彼女らが神聖視する日本製であっても、だ────
「通信士、パタジンに伝えよ! 『王宮内に敵精鋭部隊が侵入した、魔導士部隊を連れて引き返せ』以上だ」
「了解!!」
────では、ルイーゼとユキはどうして通話できたのか。
それは、イリーナ機とともに侵入してきた、電子支援ポッドを搭載したBr-1050A/Sが、上空から携帯局の中継をしているのである。
「3階Clear!!」
「ティー! 5分後に玉座の間に突入する!」
『了解、合流します』
「OUT!! 陸ギム西
『こっちはもうすぐ全面衝突になる! 急げない!?』
「無理な注文、後退しても構わんなんとかする。OUT!!」
──
──大王様だけはなんとしても守らねば……!!
あれ……ユキ隊長はとりあえずのネームドで配置したはずのキャラなのに、書いてるうちにどんどんユキ隊長のキャラが立っていく……なぜだ。
これは絶対また登場しますね。
イリーナの「そっちはやめろ」な渾名も、元ネタありますが、解る人いるかな……(汗
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https://twitter.com/kaonohito2