フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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そして、ロデニウスに新たな()が昇る

「…………あ……? こ、ここは……」

 ターナケインが意識を取り戻すと、やたら低い、見慣れない天井が目に入った。

「あ、気がついた」

 ターナケインの傍らにいた女性がそう言った。エクスプレッセスティ軍の軍装を着けているがその腕に赤十字マークの入った腕章をつけている。

「俺は……どうなったんだ? 王都は……ここは……」

「どれから説明したらいいのかしら……」

 ターナケインが口にした複数の疑問に、エクスプレッセスティの女性救護兵は苦笑した。

「ここはエクスプレッセスティ軍の野戦病院────仮設の治療施設よ」

 ターナケインが収容されていたのは、ジン・ハークの東側の街道に設けられた野戦病院。UMAP.8-1『ハリケーン』軽装甲車(KrAZ製8輪MRAP)の特装車である野戦救護車と、比較的後方や災害時に使われる三菱『ローザ』の特装車、この2台が並べられていた。

 ターナケインがそんな出自を知る由もなかったが、確かに、多少狭いが医療施設のようだと、横になったまま周囲を観察して、そう感じた。

 その間、救護兵はハンディトランシーバでどこかと会話していた。

 彼女は、それを終えてトランシーバをベルトに着けられたホルダーに戻してから、再度ターナケインに視線を向けた。

「かなり運がいいわよね。あの高度で落ちて、打撲は激しいけど、致命傷を受けなかったとか」

「……エクスプレッセスティ軍が、なぜ敵の俺を?」

 ターナケインは、不思議そうに訊いた。

「私達の軍隊では、戦う意志とその能力がない者は、敵であっても救助、救命すべきと定められているの。それに、私達の文化から言うと、英雄は敵味方問わず、敬意を払うものなのよ」

「英雄、って……」

 救護兵の言葉に、ターナケインは、気恥ずかしさと無力感を感じていた。

 すると、

「や、英雄」

 と、苦笑しながら、他のエクスプレッセスティ軍人とは別の衣装を着けた女性が入ってきた。

「私はエクスプレッセスティ陸軍第21独立飛行中隊……だった、ティンティン・マリー・ゲン少尉。マリーって呼んでくれると嬉しい」

「自分はロウリア王都騎士団第2竜騎士隊……でした。ターナケインです」

 ターナケインは、マリーの自己紹介に応じてから、

「ですが、マリー少尉が、()()()、と言うのは?」

 と、質問した。

「えっと……身体は起こせるか?」

 マリーに言われて、ターナケインは、ベッドの上で上半身を起こそうとする。

「あ、あまり痛むようなら無理しないように……」

 救護兵はそう言ったが、ターナケインは、確かに節々に痛みはあるものの、堪え難いほどの苦痛、というほどではなかった。

「あれを見てくれ」

 マリーはそう言って、明かり取りの窓から、その外を指さした。

「あ!」

 ターナケインの視界に入ったのは、自分と敵対した鉄の竜()()()────AH-21Bが、トラッククレーンで釣り上げられ、トレーラーに載せられようとしているところだった。

 ターナケインがトラッククレーンを見るのは当然初めてだったが、身動きの取れなくなったAH-21Bが荷車で運ばれようとしている事は理解できた。

 そして、その側面の後方が焼け焦げている。

「君の飛竜からの火炎を、エンジン……まぁ、あれの心臓部だ。それが吸い込んだ。なんとか味方の制圧下に不時着したが、エンジンはオシャカだ」

「つまり、 ……もう飛べない、って事ですか……」

「うん」

 マリーの説明に、ターナケインが質問するように言うと、マリーはうなずいて肯定した。

「本国に持って帰ればスペアのエンジンはあるにはあるが、他にも一度完全に分解して直さなきゃならないし、それをやるぐらいだったら、クワ・トイネ内で資源として再利用されると思う」

 マリーはそう説明したが、Mi-17An(Bo)/D系の存在は敢えて黙っておいた。

「なるほど……相打ちにはなっていたんですね……」

 ターナケインは、複雑な気持ちで言いながら、軽くため息をついた。

「あ、そうそう────」

 マリーが、思い出すように言った。

「君のワイバーン、命は助かりそうだぞ」

「えっ!?」

 マリーの言葉に、ターナケインは目を(まる)くして驚いた。

「本当ですくぁ……つつつッ」

「あ、無理しないで、まだ完治には程遠いんだから!」

 ターナケインは、マリーの言葉を聞いて思わず身を乗り出しかけたが、背中に鋭い痛みを感じて、うずくまりかけた。救護兵が慌てて、ターナケインの身体を支え、ベッドに横たわらせる。

「弱装のフルメタルジャケットしか積んでなかった……つまり、ワイバーンと戦うための装備をしていなかったからね。それに銃に対してほとんど真正面だったから、胴体に当たらなかったんだ」

「そうだったんですか……」

 マリーが苦笑しながら説明すると、ターナケインは、複雑な気持ちながらも、少し安堵しつつそう言った。

 しかし、そこでマリーは複雑そうな表情になった。

「今、エク()プレッセ()ティの獣医とクワ・トイネの飛竜医が診ている……ただ、命は助かっても、もう戦場の空は飛べないだろうって話だ」

 

 

「これは後始末が大変なことになりそうね……」

 スズキ『スーパーキャリイ』、セダクションでのライセンス生産品の、ダブルキャブ・800ccスーパーチャージドディーゼル・フルタイム4WDモデル、その軍仕様に乗ったアサギが、そこに一旦停車して、周囲を見渡した。

 無数のロウリア王都騎士団の兵士の遺体が、あたりに横たわっている。

 反吐が出るような無法を働いた侵攻部隊と異なり、士気も高く自国のために戦った王都騎士団を悪く言うのは、流石に憚られた。

 聞き取りの結果、侵攻部隊の戦争犯罪行為について、王都騎士団は、少なくとも能動的には関与していなかったと判断された。侵攻の為に集められた兵を送り出した諸侯や、アデムが励行し、指揮官だったパンドールがそれに無関心だった、というのが事実だと認識された。

「複雑……ですね。国主と一握りの政府の人間が道を誤っただけで、こんな犠牲者が出てしまうんですね……」

 助手席のイーネが、そう言った。

 あたりを記録しようと、アサギが運転席から降りたところだった。

 ガタッ

 最初、アサギはそれを、自分がドアを閉めた音だと思ったが、

「今、何か動きましたよ」

 と、やはり下車しようとしていたイーネが、開けられた窓の外を見て、そう言った。

「え?」

 どう見ても、見渡す限りの屍累々……────の、ように見えたが────

 ガタッ、ガガガッ……

 再度、それが動いた。

「えっ!?」

 それを発見して、アサギと、それにイーネも驚いた。

 2人が発見したのは、ロウリア軍の防具が、 .243WSSMと20mmのフルメタルジャケットでハチの巣状態の中、その盾は細部が幾らか破損しているものの、表面はきれいなものだった。

 そして────

 ガッ……グッ……

 盾が持ち上がり、その下から、線の太い美丈夫の男が現れた。

「こ……これは……」

 アサギとイーネが、驚愕のあまり絶句していると、男はそう言った。

「い、生きてるの……アンタ……」

 その声に気がついて、男が振り返り、声の主であるアサギに視線を向けた。

「…………そうだ、あの時、“光弾”が足元に命中して────それで、気絶していたのか……」

 そういう男は、ロウリア軍重装歩兵の鎧を着ていて判別は難しかったが、立ち上がった様子を見る限り、致命的な重傷を負っているようには見えなかった。

「……そうだ……この盾が守ってくれたんだった…………」

「信じられない……けど、こうしてアンタが実際に生きているって事はそうとしか説明しようがないってことか……」

 アサギはまだ、自身の目に映るものが信じられないようにしつつも、言った。

「その軍装に、その乗り物ってことは────」

 日本ではダイハツの『ハイゼット』デッキバンに近いスタイルの、『スーパーキャリイ』ダブルキャブを指して、そう言った。

「エクスプレッセスティ国防省付臨時特別任務隊、グレイス・アサギ・アダムス陸軍大尉」

「私はクワ・トイネ東部方面騎士団所属、現在はエクスプレッセスティ国防省付4等軍属、イーネ」

 エクスプレッセスティ国防軍軍属の階級は特等から7等までの8段階があり、特等が准尉、7等が二等隊士となる。4等は二等兵曹相当だ。

「俺は、いや、自分はロウリア王都騎士団、重装歩兵大隊所属スワウロ。 …………だが、ここにあなた方がいるということは、ロウリアは負けたということだな……」

「スワウロ氏────うん、負けたと言うか、ハーク34世は捕縛させてもらった。ただ、ジン・ハークの市街戦に入る前に、停戦になった」

「! ジン・ハークは無事なのか!?」

「え、ええ、街は大丈夫」

 スワウロに問われて、アサギは反射的にそう答えていた。

「それよりあなたの身体の方が気になる。今は一見無事に見えても、内臓にどこか異常があるかも知れない」

 イーネが真剣な顔でそう言った。エクスプレッセスティ軍に教えられたこともあるが、クワ・トイネでも、事故にあった飛竜兵などがそうなることがあり、その時は魔法医が診るのが慣例になっていた。それはロウリアも同じだった。

「これに乗って。我が軍の野戦病院まで連れて行く」

 アサギが、親指で背後のキャリイを差す。

「い、いや、俺の事はどうでもいい!! それより……それより家族が……妻がどうなっているのか、知りたいんだ!」

「…………」

 必死な形相で言うスワウロに、アサギとイーネは一瞬、その気迫に一瞬沈黙し、再度目を円くしてその姿を見る。

 だが、アサギはすぐに正気を取り戻すと、

「…………こちらクワ・トイネS(Special)T(Team)。陸ギム西HQ応答願う」

 と、真剣な表情になりつつ、胸元の無線機のPTTスイッチを押しながら、インカムのマイクに向かっていた。

『陸ギム西。クワ・トイネSTどうぞ』

「現在地ジン・ハーク東3km程。ロウリア軍生存者発見。王都騎士団重装歩兵大隊スワウロと名乗っている。医療ケア必要と認む。なお、本人は家族の心配をしているので、ジン・ハーク内医療隊に搬送する。可能であれば御家族に連絡を。以上」

『了解。OUT』

 アサギが通信しているのを、スワウロはハラハラとした様子で見ている。

 小型魔信機は竜騎士団が使っているので、アサギの腰ベルトに吊られているものが携行型通信機で、そこから伸びる途中にスイッチのついたコードと、それに繋がるインカムについて、理解することはできた。

「乗って。ジン・ハーク城塞内の医療隊に向かう。ご夫人については、我が軍の治安維持隊とロウリア王都騎士団本部隊が安否を確認してくれるわ」

 アサギに言われ、スワウロは、イーネの案内で荷台に盾を載せ、重装鎧を着けたままでは少々窮屈な後部席に乗り込んだ。

 アサギは運転席に、イーネは助手席に収まり、アサギがエンジンを始動させる。800cc OHV-VVTエンジンが唸り、ジン・ハーク城に向かう。

「…………城門が、突破されたのか……」

 スーパーキャリイが、とりあえず残骸を左右に除けた城門の様子を見て、複雑そうに言った。

「…………」

 アサギは、ルームミラーでチラリとスワウロを見た。

「大丈夫、直射砲で鉄門を破壊したから、市民にほとんど被害は出ていない」

 アサギが説明しようとしなかったので、イーネは、それを意外に思いつつ、スワウロに説明した。

「それならいいが……」

 やがてスーパーキャリイは、ジン・ハークの三重の城壁のうちの、中城壁の城門外側の横に設けられた、仮設病院にたどり着いた。

「よいしょ……」

 スワウロが、キャビンから降りた時────

「あなた!」

 聞き覚えがある、というより、忘れるはずがない声に、スワウロははっと顔を上げた。

「あ、ああ……」

 スワウロの視線の先に、その姿が映る。

 2人は人目も憚らずに、その場で抱き合った。

「君が……君が渡してくれたこの盾が守ってくれたんだ…………!」

 スワウロは、荷台の盾を視線で指し、そう言った。

 そして、2人はまた抱き締め合う。

 それを他所に、スワウロの家族をここまで連れてきたトレイスティのドライバーが、アサギに向かって親指を上げた。

 アサギは、そのドライバーに苦笑混じりの笑みを向けた。

 

 

 ────────

 ────

 ──

『こちら、エクスプレッセスティ国防省作戦統括本部。クワ・トイネ方面展開中の全部隊へ』

 

『オシリス作戦、全フェイズ状況終了』

 

 

 ────ジン・ハーク王宮、大ホール。

「これより()は────」

 正面の台の上、背後にパタジンとヤミレイが控える中、ルセリアが宣言する。

「これより余は、ハーク・ルセリア・ロウリア35世として、ロウリア国主として君臨する!!」

 わずかに間をおいた後、王都騎士団を中心とした参加者から、盛大な拍手が上がった。

「新王様万歳!」

「ロウリアに栄光あれ!!」

 

 ジン・ハークでの決戦後、ルセリアを担ぎ、マオス、パタジン、ヤミレイが組織したロウリア臨時政府は、エクスプレッセスティ軍、クワ・トイネ軍の軍事的圧力を背景に、叛乱を企図した諸侯に従前からの服従を求めた。

 諸侯の中には、ルセリアをエクスプレッセスティの傀儡として反発する者は少なくなかったが、そのエクスプレッセスティ軍の圧倒的強さがギム敗残兵から伝播した上、そのエクスプレッセスティ軍に対し多大な損害を出しながらも()()()()()()()()()()()()()()()王都騎士団と王宮魔導士団がルセリア側についている為、武力でこれを払おうとする諸侯は殆ど出なかった。 ────残念ながら皆無ではなかった。特に、クワ・トイネ領内での蛮行に対して、賠償を要求された領主に見られた。しかし、挙兵した諸侯はロウリア王都騎士団、エクスプレッセスティ-ロウリア治安維持派遣軍、クワ・トイネ-ロウリア派遣飛竜隊によって各個撃破・制圧された。

 その一方、恭順の姿勢を見せた諸侯に対して、ルセリアは人質としている子弟子女を帰還させるように指示した。

 

 ────そして今日。

 正式にルセリアは、新生ロウリア連合王国の国主として、その玉座につく事を宣言した。

 宣言の直後、1人の半獣人の少女が、ルセリアのもとに寄って来ると、その少女────ハタリアから、花束を受け取った。

 ルセリアはそれを受け取ると、ハタリアに参加者の方を向かせ、肩に手を回して横に抱き合った。そして、それを緩める。

「すぐに、今までの価値観を変える事はできない、それは理解しておる。しかし、すべての差別、すべての無理解、すべての独占は、決して国益にはならぬ。余は、これからのロウリアが、いずれこれらを克服できると信じる」

 

 ルセリアの宣言のセレモニーが行われると、続いて、舞台には明らかにエクスプレッセスティから持ち込まれた長机が運ばれてくる。

 その準備の指揮を、カルシオが行っていた。

 彼は戦闘の後、夜が明けた後、エクスプレッセスティ軍の戦車運搬トレーラーの近くで倒れているところを発見された。治療の後、再びパタジンの片腕として働くことになった。

 長机と3脚の椅子が用意されると、中央にルセリア、左にエミリア、右にカナタがつく。

 そして、3人は、文書にサインをする。

 3人共がペンを置き、その文書を掲げて見せると、カナタが切り出す。

「只今、ロウリア連合王国、エクスプレッセスティ共和国、そして我がクワ・トイネ公国は、ここに全ての戦争行為の終結に同意しました。同時に、我々は北部ロデニウスにおける集団安全保障体制の確立についても同意、成立の運びとなりました。 ────戦争は終わりました。個人個人に怨念、怨嗟はあるかも知れません。それを忘れろとはいいません。ですが、私達各国の代表は、広く国民の安全と繁栄に責任を持ちます。益のない争いはできません。 ────もう一度言います、戦争は終わったのです!!」

 





NAIに描いてもらったルセリア殿下改めルセリア陛下。https://twitter.com/kaonohito2/status/1759227862052450477


評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2
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