フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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※要注意!!※
 イーネファンの方が居られましたら、要注意かもしれません。


また、2023/10/30 20:18(JST基準)の時点で、
『狂宴の終わり』(システム上の第32話)
 と
『そして、ロデニウスに新たな陽ひが昇る』(システム上の第33話)
 の2本について、一部内容の変更を伴う加筆を行いました。


アイランド・オブ・エビル作戦編
エクスプレッセスティ、9月某日の閣議


 エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。総統府。

「転移による国内の混乱は、現在はほとんど見られなくなっています」

 ユリ・キャサリン・タナカ内務省長官は、円卓を囲んだ閣議でそう告げた。

「治安維持の観点からは、転移後の犯罪発生率はむしろ下がっています。ですので、この数字だけ見れば、悪いものではないのですが……────」

「ですが?」

 ユリが少し言い澱むと、国家元首であり閣僚を束ねる立場でもある、エミリア・ハートリー総統が問い返した。

「この部分は、管轄となる産保省長官から報告をお願いします」

「解りました。レイナ産保省長官、お願いします」

 ユリの言葉に、今度はエミリアが、レイナ・ソフィア・タカラ 産業・保健省長官の発言を促す。閣僚の視線が、そちらに集まった。

 産業・保健省は、日本で言えば経済産業省と厚生労働省が一体となった機構である。 …………なんでやねん、と思った人は多いはずだ。

 真面目な話をすると、産業を活性化する側と、産業における安全・衛生を監督する側が一体だと、組織内で利害が一致してしまって国民の不利益になる場合がある。

 だが、エクスプレッセスティが敢えて一体としている理由はある。この国が事業としての売春を認め奨励しつつ、その衛生・安全の為に強力な法的規制を設けている点だ。

 性産業を励行しつつ性産業従事者とそれによって影響を受ける社会一般への衛生・防疫面のリスク管理を一元化するため、エクスプレッセスティではこの両者が一体となっている。そして下部組織として性産業事業者を監督する「売春管理局」と、ついでに「フリーセックス社会推進局」がある。

 ────が、今はそんなおピンク関係とはまったく異なる分野の報告である。

「北部ロデニウス戦争の際は、工業製品、特に半導体製品の生産量が増加しまして、国内生産は増加傾向にあったのですが、現在は下落傾向にあります」

「理由は?」

 レイナ産保省長官の報告に、エミリアが聞き返した。

「素材の不足です。特に半導体が深刻です」

「やっぱりそうなるか……」

 レイナが言うと、エミリアが苦い顔をした。

「我が国は転移前、国内で製造される半導体製品向けのシリコンウェハの89%を日本から輸入していました。幸い内製化の動きがあったため技術導入自体は進んでいました。もっとも日本の品質を要求されると難しいものがありますが……もっと深刻なのは、原料の珪石の不足です」

「あれ」

 レイナの言葉に、軽く驚いた声を出したのは、マコト・ハンナ・イノウエ国防省長官だった。

「珪石って国内でも採れていなかったっけ?」

 エクスプレッセスティ共和国東部のプラ連山系は、その成り立ち自体は火山性ではないのだが、その際の地殻変動によって火山活動が発生したとされる山があり、その周囲に珪石の採取可能な場所があった。

「我が国の珪石はシリコン含有量がそれほどなく……一応生産は可能ですが、必要量にまったく足りません。この為、現在は備蓄と再生回収で不足分を埋めている形です」

「マリーナ長官」

 レイナの説明があった後、エミリアが総統府情報総局々長のマリーナ・ボロディンに視線を向けた。

「珪石について、この世界で産出の情報はある?」

「現在調査途上ですが…………」

 マリーナはそう、前置きしてから、

「噂になっていました西方の近代化国家、ムー国で、すでに電磁波による無線通信技術があるそうです。それで、その線で調査を進めた所、どうやらフェン王国がムー国に対して火山性資源の輸出を行っている、ようなのですが……」

「あー……────」

 マリーナの言葉に、エミリアが微妙な声を出し、顔を覆う仕種をしながら苦い顔をした。

「パーパルディア皇国か……」

「はい」

 マリーナが言う。

 パーパルディア皇国は、“第三文明圏”、と呼ばれるフィルアデス大陸の中でも、最大の国だ。この世界における特定の強国、いわゆる“列強”と呼ばれる国の一角を成している。

「ハーク34世時代のロウリア以上の、極端な覇権国家でして……特に現皇帝になってからその傾向が強まり、フィルアデス大陸とその周辺の島嶼国家のほぼ全てに対して、自国官僚の治外法権の強要と、その国の外交への干渉をしていまして……下手にフェンに我が国が資源獲得に乗り出すと、反発してくる可能性が非常に高いです」

 実際、エクスプレッセスティが距離的に近いフィルアデス大陸の諸国家よりも、クワ・トイネ公国との関係の構築を優先したのは、前者に下手にちょっかいかけるとパーパルディアが介入してこようとする可能性があったためである。

「うーん……近いうちになんとかしないとならないのかしらね……」

 エミリアが腕を組んで、唸るような口調でそう言った。

 フィルアデス大陸でも外れの方、魔獣、と呼ばれる獰猛な動物が多数棲息し、人が居住するのには適していないとされるグラメウス大陸との地峡にあるトーパ王国やネーツ公国は、パーパルディア皇国の干渉があまり強くないらしく、国交を樹立させることができた。

 ただ、トーパ王国は自国の安全保障の懸念があるらしく、トーパが外部から攻撃された際にエクスプレッセスティが軍事介入する“ベルンゲン覚書”が交わされた。ただ、それはパーパルディアが対象なのか、というエクスプレッセスティ側の質問に対しては、そうではない、と回答していた。

 話をもとに戻すと、厳密には“第三文明圏”とフィルアデス大陸は完全なイコールではなく、その外側に存在するトーパやネーツとの国交樹立や国家間協定締結には、パーパルディアは首を突っ込んでこなかったが、フェンはパーパルディアの首都エストシラントからも目と鼻の先、ということもあって、パーパルディアの介入を招く可能性が高い。

「けれど、それなのにどうしてムーには輸出しているのかしら……」

 マホバ・ペガスワース科学技術省長官が言う。

「それは簡単です。ムーは近代化しているために、国力もかなり高いと思われます。この為、同じ“列強”であってもパーパルディアではムーに軍事的に太刀打ちできない、という可能性が非常に高いのです」

 マリーナがそう説明した。

 すると、

「だったら、いっそ大手を振ってフェンで資源採掘しちゃったらどうかな」

 と、マコトが言った。

 閣僚の視線が、一気にマコトに集まる。

「だって、ロウリア()()()進んでる、程度の国なんでしょう? だったらさ、あっちからちょっかいかけてきたら、こちらはこちらで、自衛って名目で叩き潰す、でいいんじゃない?」

「ちょっとマコト」

 エミリアが嗜める。

「今はメディアを入れてないからいいけど、外でそんな発言しないでね。スキャンダルになるわ。それに、大陸国家相手だと、リスクは結構あるわよ」

 ロウリアは、必ずしも一枚岩ではなかった事と、ハーク34世がジン・ハークからの脱出を考えなかった事とで、短期決戦で済んだが、実際に大陸国家相手に戦争を起こして、相手側の攻勢を粉砕するのは簡単でも、パーパルディア全土を制圧するには多数の兵員を必要とし、そして外征軍としての能力が限定的なエクスプレッセスティ国防軍はそれに足るだけの人員数を持っていない。まさか格上相手にクワ・トイネやロウリアの力を借りるわけにも行かない。

「発言、宜しいでしょうか?」

 手を挙げてそう言ったのは、ハンナ・テイラー外務省長官だった。

「どうぞ、ハンナ」

「はい。パーパルディアがムーには手が出せない、というのであれば、まずはムーとの国交樹立を優先し、名目上、ムーを経由してフェンの資源を得る、というのはどうでしょうか?」

 ハンナがそう言うと、エミリアは軽くため息をついた。

「ひとまずはそれが一番穏和なやり方かしらね……」

 エミリア含め、閣僚が「それは名案だ! そうしよう」とならないのは、ムーは永世中立という立場をとっているためだ。

 もちろん、永世中立だからと言って貿易をしないわけではない。だが、パーパルディアが動いた時、永世中立の国は巻き込まれるのを嫌って交易や交渉を止める可能性がある。

 それが厄介なのは、エクスプレッセスティ国防軍の装備品に現れている。エクスプレッセスティ国防軍は、その装備品にアメリカ製を排除しがちなのは何度か説明したが、それ以上に徹底して排除されているのがスイス製である。スイスは特にエリコン社は西側でベストセラーとして採用されている兵器が多い。しかし、自国が片方の勢力に加担しないという前提から、自国製・自国原設計の兵器の国境を越えた移動を制限している。2022ウクライナ-ロシア戦争で、NATO兵器の供与が一部遅れたのは、スイスがこの権利を行使したためだ。

「では、その方向で動きます」

 しかし、現状では他に名案もなく、そう決めるしかなかった。

「それと……宜しいでしょうか」

「マホバ、どうぞ」

 マホバの発言に、エミリアが促す。

「科学技術省としてはクワ・トイネ、ロウリア両国内での地下資源調査を開始したいと思います。それに当たって、外務省にも交渉の協力を要請したいのですが」

「外務省としてはなんの異存もありません。協議のための実務者会の設定をお願いします」

 マホバの提案に、ハンナがそう答えた。

「マホバ、解ってると思うけど」

「もちろん」

 エミリアの済まし顔での言葉に、マホバは笑顔で答える。

「採掘に当たっては現地に環境被害を出さないよう、最大限の配慮をします」

 

 

「んっ、ぁっ、はっ、ぁ、ぁぁんっ!!」

 

「やっ、はっ、そっちっ……までっ、擦る……ッ……なんてっ……ッ」

 

「あっ、ぁぁぁぁぁっ!!」

 

 エナジポリス郊外、グレイス・アサギ・アダムス陸軍大尉の自宅。

「はい、冷たいものですよ」

 そう言って、イーネ・グレイシス・アダムス陸軍二等兵曹は、2つ持っていた『アクエリアス』の500ml缶の1本を、ベッドに座って呼吸を整えている様子のアサギに差し出した。

「はぁ…………」

 アサギは、胸をなでおろすような仕種をしつつ、熱に浮かされたような甘いため息を吐いた後、イーネの手からそれを受け取った。

 2人は一糸まとわぬ姿である。そして、イーネの股間にはつい先日まで存在していなかったモノが存在していた。

 イーネはギム奪還の直後から、エクスプレッセスティに帰化申請をしていた。エクスプレッセスティでは、女性や女性的性的マイノリティであり、エクスプレッセスティの社会の理念に理解があれば、割と国籍取得が容易である。もちろん、犯罪歴などは制限があるが。

「でも、意外ですね」

 ハーク・ルセリア・ロウリア35世のロウリア連合王国国王即位に伴い、エクスプレッセスティ、クワ・トイネ、ロウリア間の戦争が終わった頃。エクスプレッセスティでは蒸せ来る夏の暑さが緩み始めていた。 …………本来、南半球にあったエクスプレッセスティにとって、この時期は、冬の寒さが緩みだす頃なのだが。

 国内ニュースポータルでは、第3波となる“(ワー)(ルド)(トリ)(ップ)(シン)(ドロ)(ーム)”が伝えられていたが、軍人として鍛えているが故か、アサギにはそれは無縁だった。

 エアコンは入れず、開けられた窓から緩く風が入ってきている。ただ街路沿いなので、自動車などの通行音も入ってくるが。

「けど、意外でしたね」

「もー……何度も言わないでよ」

 苦笑するように言うイーネに対して、アサギは恥ずかしそうに言った。

「アサギさんが、実は()()だったなんて……」

 イーネの男性機能取得は、そう言うことである。イーネの帰化前はアサギが攻め手(タチ)だったが、本来のアサギの性向はこちらだった。

「もー……」

 30過ぎているはずのアサギは、顔を手で覆うような様子で、少女が照れているような、恥ずかしそうな表情と姿勢になる。

 イーネの背後の窓で、トロリーバスが通過する音が聞こえてくる。

 すると……────

 その時、アサギのスマートフォンが、メール着信の音を鳴らした。

「はい、アサギさん」

「あ、ありがとう」

 イーネが、テーブルの上にあったアサギのスマホを取り、アサギに差し出す。アサギは、イーネに礼を言いながら、それを受け取る。

 そして、アサギはスマホのロックを外し、そのメールに目を通して、少し硬い表情をしていた。

「どうか、したんですか?」

 イーネも真顔になって訊く。

 アサギはスマホを2台持っている。今メールが着信したのは、公的な連絡も入ってくる物の方だ。

 そして、陸軍士官であるアサギがメールの内容を見て深刻そうな表情をするというのは、国防軍に関するネガティブな情報、つまり、武力行使事態にまつわるなにかである。

 イーネが感じる限り、エクスプレッセスティ国内が、内乱が起きるような様子ではなかった。国籍取得の関係でエムブラセクスに滞在していた時期もあったが、 ────イーネはその源流を知らないものの────民族自決ではなく“新たな理想社会の建設”を目的として建設されたエクスプレッセスティのその理念のバックボーンにある物、国の体制構築、インフラ整備、工業と現代農業の定着、そしてサブカルチャーに至るまで、日本の影響が強すぎて、日本人のお祭り好きと固有のユーモアと頭ン中お花畑ぶり、それに鉄道が2分と狂わずに動くのが当然と思ってる面、これを4倍濃縮してそれにセックスを付け加えたような国民性だから、暴力で叛乱起こしたろとか考える人間がそもそもほとんどいない。

 ただし、日本と同じように、怒らせすぎて爆発した時の反応、それについても、まだこの世界は、クワ・トイネとロウリアしか知らない。

「うん……緊急ってわけじゃないんだけど」

 アサギは、スマホの画面を消灯させながら、イーネに視線を向けて、そう言った。

「どこかキナ臭さでも?」

 イーネがさらに表情を険しくして、訊ねる。

「うん……」

 アサギは、そう言いながら俯きがちになって、困惑気な表情をした。そうしてから、再度イーネに視線を向ける。

「いいのよ? イーネはまだこの国民になって浅いし、まだ選挙権にも制限あるんだから、軍を退官しても……」

「いえ。今のわたしはエクスプレッセスティの国民であり、軍人ですから。この国のために戦いますし、国防省の命に背く気もありません」

 イーネは、しっかりとした様子で、そう言った。

「上等」

 アサギは、口元で笑い、イーネを魅了した強気そうな笑みで、そう言った。

 狙っているわけでは決してないが、マコトの言葉が“嘘から出た現実(まこと)”になりかけていた──── ────

 





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