────パーパルディア皇国、第3外務局懲罰軍フェン懲罰艦隊。
「艦長!」
80門級戦列艦『ガリオス』で、通信士官が艦長に報告する。
「フェンへ先行した竜騎士が呼びかけに応答しません。通信途絶から2時間以上が経過しています。作戦中に何らかの障害があったと考えられます」
しかし、その報告を受けた艦長は、呆れたような表情になる。
「
艦長は不愉快そうにそう言ったが、
「まぁまぁ」
と、壮年期後半から初老の入り口程度の年格好の人間が、会話に割って入ってきた。
「ポクトアール提督!」
「飛竜が戻らぬのは事実、油断はしない方が良いのではないか?」
艦長がポクトアールと呼んだ艦隊指揮官は、しかし危機感を持っていると言うよりは、艦長を宥めるようにそう言った。
「『獅子搏兎』……艦隊の全力で任務に当たるよう、各艦に通達しなさい……攻撃の指揮は各艦長にお任せしますよ」
「了解しました! 提督のご期待に応えてみせましょう!」
艦長が、意気揚々とそう言った、その直後。
「艦長! 東北東80°の方向、船影確認! フェン王国海軍です!」
メインマストの見張り台の見張員が、伝声管を使わず、ほぼ真下にいる艦長に伝えた。
「よし! 魔導砲片舷全40門、装填開始!!」
────一方、フェン王国水軍
『皇国海軍が接近中』
『合戦準備!』
帆船の甲板上に砦が乗っているような構造の、フェンの海防艦が、パーパルディア艦隊に対して、戦闘の準備を整えていた。
「もともと、飛竜だけで終わらせる気はないということか……」
「風向きは我らに利がある。敵が側面の砲を展開する前に先制する」
水軍長クシラは、副官の言葉に対して、どこか自信あり気にそう言った。
「クシラ殿……勝算がお有りで?」
「『捨身必殺』、敵は我らが砲を持たぬ蛮族と思い油断しておろう。そこが狙い目だ」
クシラは言う。
フェン水軍旗艦『剣神』の櫓の前方には、野太いが極めて古典的な大砲が顔を覗かせていた。
「奴らは知らぬ、我が旗艦の前方開口部に、極秘ルートで入手した大口径魔導砲があることを!!」
────『見晴らし亭』。
『サルナイ准将!!』
サルナイが着けている、無線のインカムに、サイリー ポルツィフルガール艦長の、切羽詰まった声が聞こえてくる。
『「ライバーシー」が単独行動をしています!!』
────『ガリオス』艦上。
「風が悪いな……」
艦長はそう呟くように言ってから、
「蛮族相手にもったいないが、『風神の涙』を使え」
「はっ!」
艦長の下令に、水兵が答える。
『風神の涙』は、魔導具のひとつで、“魔石”を使い、装置に組み込まれた
起動された風神の涙の風により、戦列艦は向きを変えようとする。
────『剣神』艦上。
「敵艦加速! 一斉に回頭を開始しましたッ! 敵の砲がこちらを向きます」
──この風で向きを変えただと!? 先に砲を向けられ陣形を組まれたら勝機はない……
副官の驚愕混じりの声に、クシラは焦る。
「魔導砲を放て!」
クシラはそう下令する。
「しかし、ここからでは……」
「牽制でも構わんッ!!」
副官に対し、クシラは声を張り上げてそう言った。
「魔導砲射撃────待て!!」
────『ガリオス』艦上。
「回頭完了! 砲撃準備!」
ガリオスを始め、パーパルディア艦隊が射撃準備に入った時────
『こちらはエクスプレッセスティ共和国海軍「ライバーシー」!! フェン、パーパルディア両軍に告ぐ、戦闘を中止せよ、戦闘を中止せよ!!』
パーパルディア艦隊とフェン水軍が戦闘に入る寸前、エクスプレッセスティ海軍フリゲート、『ライバーシー』がその間に割り込んできた。
『パーパルディア軍に告ぐ! 我がエクスプレッセスティ共和国は、フェン王国について、正式な国交樹立は完了していないが、独立主権国家として承認した!! フェン王国に対する武力行使は断じて看過しない! 直ちに回頭し、フェン領海外へ出よ!!』
ライバーシーは搭載しているLRAD(“Long-Range Acoustic Device” 長距離音響発生装置)のスピーカーで、パーパルディア艦隊に向けて怒鳴りつける。
「エクスプレッセスティ軍……だと……」
ガリオスの艦長が、一瞬その怒声にひるみつつ、ライバーシーを凝視している。
「いったい何が起きているのかね!?」
「提督!」
艦内にいたポクトアールが、艦長の下に駆け寄ってきた。
「エクスプレッセスティ共和国の海軍艦が、突如として我々の射線に割り込んできたのです」
「なんと!」
艦長の報告を聞いて、ポクトアールも右舷側、フェン水軍との間に立ち塞がったライバーシーを見る。
「しかし……」
艦長は、最初こそ慌てふためいていたが、ライバーシーを観察している内に、逆に憤りの視線をライバーシーに向けた。
「魔導砲はたったの1門、それも小口径。所詮女ばかりの国に用意できるのはそこまでよ」
「艦長!?」
艦長の発言に、ポクトアールは驚いたような声を出す。
「目標、自称エクスプレッセスティ海軍艦!!」
「待つのだ、艦長!!」
ポクトアールが静止しようとするが早いか、
「撃てーッ!!」
艦長は、ライバーシーめがけての砲撃を命じてしまっていた。
僚艦の内、『剣神』への射撃体勢を取っていた戦列艦も、ガリオスに倣ってライバーシーに砲火を開いた。
────ライバーシーの属するクィアストーム級、元・英国トライバル級フリゲートは、エクスプレッセスティ海軍の運用ドクトリンから離れた対潜艦だった。
2010年代に大改装の対象になり、防空能力の強化と対艦ミサイルの運用能力を得たが、その分対潜能力は減量されてしまった。その一方で、対空装備も万全とはいい難い。
自国発注のヴェネレイト級駆逐艦が就役すると、それまでクィアストーム級が負っていた任務を旧式駆逐艦に取って代わられるようになった。
かと言ってコルベットの補完役としてはデカすぎるし、9隻の大所帯のウミノシルエット級と異なり、3隻なので整備で足を引っ張るだけ、という状況になっていた。
さらに世界転移後は、これは誤解を生まないよう確実に根も葉もない噂と断っておくが、クワ・トイネに供与するという噂も出た。
この為、クィアストーム級乗組は、出世街道を外れた“島流し”と見做されていた。
その事もあって、この老朽フリゲートでフェンへの攻撃を防ぎきれればと、パーパルディア艦隊に対し、躊躇うことなく立ちはだかったのである。
グワッ、ドッ、ドン!! ドゴォッ!!
1.5kmという至近距離から無数の砲弾を浴び、さすがの近代艦も激しいダメージからは逃れられない。
ミサイルキャニスターはもろに命中弾を受け、海面に落下しながら、装填されていたミサイルが誘爆した。艦載化2K21『クーブ』短SAMの発射機、魚雷発射管も破壊され脱落した。元々COSAG方式だったが、高温高速燃焼ボイラへの換装で1基のみとなっている煙突もボロボロになった。
────が、やはり戦列艦に出来たのはそこまでだった。
ドゴォオォォォン!!
「────な!?」
ガリオスのすぐ横で、僚艦『パオス』が大爆発を起こし、バラバラになった。
ライバーシーの57mm砲3発がパオスの舷側の砲座を貫き、魔導砲が誘爆したのだ。
ライバーシーはボロボロになりながらも、破壊された煙突から陽炎を立ち上らせながら、機関を全開にして、転舵しながらパーパルディア艦隊に迫る。
「何が起こっ……────」
ドゴォオォン!!
ガリオスの艦長が言い切る前に、続いて戦列艦『クマシロ』がやはり大爆発を起こした。パオスの受けた破壊ほど強烈ではなかったが、クマシロは
「むっ!?」
クシラはそれに気がついた。
近代艦の行動とは思えない“殴り込み”をかけたライバーシーを、比較的後方にいた50門級戦列艦が狙っている。
「エクスプレッセスティ艦を援護せよ! 魔導砲撃ち方用意、右舷側の敵50門級戦列艦!!」
クシラの下令とともに、剣神は、照準を合わせる為に、わずかに変針する。
「射撃準備よし!」
「撃てッ!!!!」
ドォンッ!!
ライバーシーが、最早目と鼻の先────RWS『SIGMA20』の20mm機銃の有効射程に飛び込んだ状態で、射撃を続けていると、その横で、ライバーシーが撃っていない小型の戦列艦が、剣神の魔導砲によって艦首に大穴を開けられ、一気に沈んでいく。
「フェンの水軍もやるわね……さすがサムライの国といったところかしら?」
ライバーシー艦長、ペイジ・タイラー中佐は不敵に笑う。
「艦長! 即応弾を撃ち切りました!」
ライバーシーのMK110 57mm砲が沈黙する。
「こうなったら体当たりをかけてあげなさい! 目標、右舷側敵旗艦!」
お互いの乗組員の顔が確認できる程の至近距離から、ライバーシーは強引に面舵を切った。
「まさか! ぶつける気か!?」
ガリオスの艦長が、ペイジ艦長の意図に気づいた時は、もう遅かった。
ガッ、グシャアッ! メリメリメリ……
ライバーシーの右舷がガリオスの左舷側に食い込んだ。パーパルディアの魔導戦列艦は木造艦体の内側にインナーアーマーを持っているが、いくらエクスプレッセスティ海軍の艦としては小柄とは言え、基準2,500トンの質量に意味はなさなかった。左舷側の構造物を破壊され、ガリオスの艦体内部に浸水を生じさせていた。
「移乗だッ! 中に乗っているのは所詮女だ、移乗攻撃に持ち込め!」
ガリオスの艦長はそう指示をした。
しかし、マスケットとサーベルを装備して甲板に集結しようとしたパーパルディア兵を、20mm機銃が無慈悲に薙ぎ払った。
どうにかライバーシーの艦体に取り付きかけたパーパルディア兵も、同じように応戦の為に出てきたライバーシーの甲板要員が、UAKB-1/243『Malyuk』ブルパップ式アサルトライフルで射撃を浴びせる。 .243
「ど、ど、どうすればいいんだッ!?」
戦列艦『マミズ』の艦長が、“接近戦”で単艦暴れまわるライバーシーのもたらす破壊に、腰を抜かしてしまいながら、恐慌状態に陥っている。
すると────
ドゴォオォォォンッ!!
ドガァアォォォンッ!!
周囲の僚艦2隻が突然、木っ端微塵になった。
「右舷側後方! 敵増援です!」
メインマスト見張り台の見張員が、泡を食った様子で、マミズの艦長に向けて声を上げた。
艦長が振り返るが、まだ肉眼ではそれは芥子粒にしか見えなかった。だが、次の瞬間、僚艦に、確かにライバーシーとは逆方向から、光の矢のようなものが突き刺さり、哀れにも一撃で粉砕された。
ドガァンッ!!
その一方で、マミズの舳先側でも、比較的小型の戦列艦が、艦首を破壊され、風神の涙を使って推進していたことが仇となり、大量の浸水で艦首から一気に沈んでいく。
──最早我らの部隊ではエクスプレッセスティ艦隊にはどうやっても勝てない!! フェン海軍の排除も不可能だ!!
マミズの艦長は決断する。
「撤退だ! 回頭、回頭せよ!!」
────『見晴らし亭』。
『敵艦隊、回頭を開始。攻撃の意図は見られない模様』
ポルツィフルガールのサイリー艦長がそう伝える。
「了解。追撃不要」
サルナイは、無線でサイリーにそう言ってから、はぁっとため息をついた。
「ほとんど問答無用でやってしまいました……」
「向こうから先制してきたわけですから、さほど思い悩む必要はないかと。あとは政府の方でなんとかしますので」
片腕で頭を抱えかけたサルナイに対し、スンヨンは苦笑しながらそう言った。
「ですが、単独行動の末の戦闘行動を由とするわけにはいきません。国防省マターとして乗組員には懲戒処分を行うことになるでしょう」
サルナイの表情は晴れないままだった。
『こちらライバーシー。サルナイ准将、応答願います』
インカムに、そのペイジ艦長からの通信が聞こえてきた。
「こちらサルナイ。お前ら帰ったら覚悟しとけ。どうぞ」
『どのみち島流し済みです。それと、パーパルディア艦隊の指揮官を救助、捕縛しました』
「了解。丁重にお取り扱いしろ。OUT」
サルナイが通信を終えたところで、シハンらフェンの高官達がサルナイ達のところにやってきた。
「お見事であった。 ……失礼かもしれないが、正直ここまでやるとは思わなかった。
シハンは、「カカカッ」と笑い声混じりにそう言った。
「“女性だけの国”ではありますが、同時に私達の軍はサムライの弟子、
スンヨンが、こちらも確りとした意志を感じさせる笑みで、そう答えた。
「これでパーパルディアも、エクスプレッセスティと関係している国に手を出せばどうなるか、思い知ってくれればいい、のだが……」
シハンは、口元で笑いつつも、考え込むように眉間にしわを寄せる。
「はい。こちらが圧倒的すぎて、敗残兵の言葉を信用するかどうか、数で圧倒できると考えたりしないかどうか……」
「パーパルディアはハーク34世の治世下のロウリアに輪をかけてプライドと体面を気にする。そこから再度の攻撃を企図する可能性は低くない……な」
スンヨンの憂慮の言葉に、シハンも同意の言葉を告げた。
戦闘終了。
エクスプレッセスティ共和国海軍 被害
フリゲート『ライバーシー』中破。負傷者35名。
フェン王国水軍
被害なし。
パーパルディア皇国監察軍艦隊 被害
ワイバーンロード 20騎(全滅)。
戦列艦 22隻中14隻被撃沈 戦死8,350名 捕虜64名。
捕虜の内の1名はポクトアール監察軍提督。
なお、撃沈数の内少なくとも4隻はフェン水軍『剣神』の戦果である。
クィアストーム級フリゲート
元・英国トライバル級フリゲート
主な武装
MK110 57mm砲 ×1
アスター30Block1NT SAM または R-360K『ネプチューン』 SSM共用キャニスター4連装✕2
2K12『クーブ』艦載化短SAM発射機 3連装✕1
RWS『SIGMA20』ガン・ミサイルコンプレックス砲塔 ✕1
GSh-23/20L 2銃身20mm機銃 ×1
『ミストラル』近SAM4連装発射機 ✕1
RBU-1200 5連装対潜迫撃砲 ×2
RPK-2対潜ミサイル発射可能な533mm魚雷発射管 連装✕2
機関:COSAG方式(COmbined Steam-turbo And Gas-turbine)
三菱重工製のより新しいものに換装。
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