今から約数十万年前、神話の時代。
魔獣の棲息する地、グラメウス大陸から、魔王ノスグーラが、本来群れることを知らぬ魔獣を統率し、軍勢を作り上げると、人の住まう地────陸路からはフィルアデス大陸、海路からはロデニウス大陸へと攻め込んだ。
人は圧倒的な魔王軍に敗走し、追い詰められ、ロデニウス大陸のエルフの聖地、リーン・ノウの森まで追い詰められた。
絶望的な状況を前に、人々はリーン・ノウの森に住まうという緑の神に祈った。
緑の神はその状況を前に、太陽神に助けを求めた。
話を聞いた太陽神は、魔王に対して大いに怒り、“太陽神の使者”を召喚した。
太陽神の使者は空を飛ぶ船、大地を焼く強大な魔導、魔獣を一撃で屠る鉄の地竜を駆使し、ロデニウス大陸とフィルアデス大陸の魔王軍を壊滅させた。
そして、太陽神の使者は、フィルアデス大陸とグラメウス大陸を結ぶトーパの地に、不壊の石で巨大な城塞、“世界の扉”を築くと、召喚された時と同じように鋼鉄の船で、光の先へと帰っていった。
その後、グラメウス大陸に逃げ込んだ魔王ノスグーラを完全に討伐するため、エルフ、獣人、ドワーフ、人間、各種族からなる連合軍を組織し、魔王を追ってグラメウス大陸へと進撃した。
太陽神の使者との戦いで力を失っていた魔王だが、連合軍に対して激しく抵抗し、魔王の元まで辿り着けたのは4人の“勇者”のみだった。
ドワーフの重戦士キージ。
人狼族の剣士ケンシーバ。
エルフの魔導士ルーサ。
そして、彼らを束ねる人間のタ・ロウ。
タ・ロウ、キージ、ケンシーバが魔王を追い詰め、ルーサが大魔法で魔王を封印した。
しかし、その代償として、タ・ロウ、キージ、ケンシーバは命を落とした。
後を託されたルーサも、トーパの地まで戻ると、いつの日か魔王が復活することを告げ、そこで力尽きた。
人間とエルフは魔王復活の日に備え、太陽神の使者が作り上げた城壁を守るべく、トーパ王国を建国した。
「ユキ隊長って、実は世界を超えたキージの転生者だったりして」
「殴るよ?」
物語はこの伝説の発祥の地、フィルアデス北限の国トーパで幕を開ける。
「ああ……重要な役割と解ってはいるが、退屈だな……」
────トーパ王国、“世界の扉”、監視塔。
傭兵のガイは、そうブツブツとぼやいていた。
「そう言うなガイ。もしものことが起きた時の為の役割だ」
騎士爵持ちの剣士、モアが、嗜めるように言うものの、
「そうは言っても、ここ10年でここから観察できた魔獣は、せいぜい10匹だぞ……」
と、ガイはボヤキ節の言葉を続ける。
「100匹来ようとも、この城門は落ちないよ」
「ゴブリンだけならな。オークだと厄介だぞ。100年前の文献で────」
文官肌の雰囲気も纏うモアが、更にガイを窘めようとした時、
「いや……待て、何だあれは……」
ガイが、城門東側の大地の地平線のあたりから、徐々に何かが城門へと向かっている事に気がついた。
「見ろよ……地面に黒いシミが広がっていく────」
ガイが言うと、モアはエクスプレッセスティのF&C Chemical Ltd製の双眼鏡で、ガイが指差した方を見た。
ちなみにF&C Chemical Ltdはアナログレガシーメディア生産を目的として、富士フイルム、キヤノン、それに国営のエタンガス採掘・加工企業エネルガズムの共同出資で設立された企業である。主な事業は35mm及び110銀塩写真フィルム、Single-8フィルム、VHS・β・Video8用テープ、カセットテープの生産。110カメラ『EOSMATIC』とSingle-8カメラ『FUJICA Sound-2100』シリーズの生産。社是は「アナログにはアナログの良さがある。だが、それをデジタルに劣る言い訳にしてはならない」。
設立時はKodakも参加しており、社名はKCF Chemical Co. で、Super-8フィルムとカメラの生産もしていたが、2012年にKodakはChapter-11申請(連邦倒産法第11章。日本の会社更生法に相当)により撤退、現在の社名への変更とともにSuper-8フィルム事業をクローズした。
カメラの生産を行っている関係で、その他の光学製品の生産で採算を確保していて、望遠鏡もそのひとつである。
その双眼鏡のレンズを通して、モアの視界に、ガイが発見した“黒いシミ”の正体が映る。
「……ゴブリン……オークもいる……そんなバカな! 魔獣がこれほどの大群を成すなどあり得ないッ! 数百どころじゃ……桁が違うぞ……」
モアが戦慄した表情でそう言った時には、裸眼のガイにもそれが“大勢の何かが蠢いている”ことが視認できていた。
「どこかに統率できる上位の魔獣がいるはずだ……探せッ!!」
「おいおいおいおい……これほどの群れを統率できる魔獣なんて……」
ガイも、言葉では呆れたようにいいつつも、険しい表情で群れを見渡す。
「いたぞ、あ、あれは……」
「何がいたんだ、俺にも見せてくれ!」
モアの言葉に、ガイがそう反応すると、モアはガイに双眼鏡を手渡した。
ガイは、ゴブリンとオークの入り混じった群れの中で、頭抜けた巨体を持つそれに双眼鏡を向けた。
「こっ、これは……おい……!!」
ガイは、それを見て絶句しかける。
「あの風体を見ろ! あれは神話に記されているレッドオーガとブルーオーガ、それに見えないか!?」
「じゃ、じゃあ、中央の赤い地竜に乗ったあれは…………」
「魔王ノスグーラ!!」
トーパ王国軍“世界の扉”防衛隊が、迎撃の用意を整える。
東側外壁の内側から、
「引きつけろ……確実に捉え……」
城塞の上から、それを構えたトーパ兵達が、魔王軍が近づいて来るのを待ち構えていた。
「今だッ、撃て!!」
ドガガガガガガガ……!
指揮官の号令とともに、トーパ兵が手にしたDPM機関銃を射撃した。クワ・トイネ供与の為に準備されていたが、ロウリアの侵攻に間に合わなかったものの一部だ。
エクスプレッセスティがトーパとの国交樹立交渉の際、トーパが異常に“外敵からの攻撃”を気にかけていたため、トーパの安全保障合意“ベルンゲン覚書”の一部として、供与したものである。
7.62mm弾はゴブリンを薙ぎ払い、オークが血飛沫を上げて倒れた。
──この攻撃は、もしや……
レッドオーガが、先頭を進んでいたゴブリンやオークが、一瞬しか見えない光の
バシュッ
レッドオーガの眉間に、チクッとした痛みが感じられた。
──これは、太陽神の使者が使っていた魔法……
レッドオーガは、“世界の扉”に至るまでの周囲を見渡した。
──だが、“鉄の地竜”や“空を飛ぶ船”はいない……魔法だけを残して行ったのか……
一方────
「くそっ、オーガには7mm Remington Magnumでも通用しないのか!!」
トーパ兵が毒つく。
豊和M1500ライフル。日本製猟銃で、その精度の高さから狙撃銃としてもしばしば使われる。
エクスプレッセスティ軍には2種が混在していて、1種は2014年以前に猟銃の名目で購入した7mm Remington Magnumモデルと、2015年以降に正式に狙撃銃として発注された、 .243WSSMモデルである。この内7mm Remington Magnumモデルをトーパに供与した。
試射の時は、トーパ軍で鎧に使われている鋼材を厚く切った鋼板を易々と貫いた7mm弾が、レッドオーガには効かない。
DPM機関銃はゴブリンとオークの群れを薙ぎ払い続けたが、魔王軍は数に者を言わせて、肉壁戦術で押し寄せてくる。
トーパ軍側は、DPMでオークを潰し、ゴブリンのみとなったところへトレビュシェットで投石するという戦術で魔王軍側を漸減していたが、多勢に無勢で押されていた。それに──── ────
その状況の中、防衛隊の隊長を務める上級騎士が、モアとガイを呼び出していた。
「供与された弾丸は残りわずか……このままでは全滅は必至! そこでだ、モア、お前は一度後方へ
隊長の指示に、しかしモアは、愕然と悲観の入り混じった表情をする。
「嫌です隊長! トーパ騎士として皆を置いてはいけません!! 自分も戦います!」
感情の昂ぶった様子で言うモアに対し、隊長は言い聞かせるように始めた。
「よく聞け、事ここに至ってはエクスプレッセスティ軍の直接介入以外、魔王軍を押し戻す方法はない……だが、彼ら────
「しかし……自分も騎士団の1人、ここで退くわけには……」
「ガイ!」
なおも指示を受け付けようとしないモアを見て、隊長は、その視線をモアの傍らに立っていたガイに向けた。
「傭兵のお前に新しい仕事だ。モアを連れてトルメスへ迎え!」
「了解しました」
ガイは、そう言うと、モアの胴に腕を回し、隊長室から出て行こうとする。
「だめだガイ! 貴様やめろ、たいちょぉぉぉ!!」
「行くぞモア! 聞き分けろ!!」
ガイは、モアを引きずるようにして、西側の城壁へと向かっていく。
隊長は、ふぅ、と軽いため息をついた。
「隊長!」
駆け寄ってきた、1人のトーパ兵が報告する。
「エクスプレッセスティからの供与弾薬が尽きました!」
「そうか…………」
あまりにネガティブな報告にもかかわらず、隊長はどこか肚の座った様子で言う。
「防衛隊各員に告げる! 我々の残された全力を以って魔王軍を迎撃する。ここで僅かなりとも時間を稼ぐのだ!!」
その直後、ブルーオーガの振るう巨大モーニングスターが、堅牢な“世界の扉”を破壊した。
トーパ兵は城壁内部に魔王軍を誘い込み、邀撃する。だが、高威力の武器はもうない。
魔王軍は一切の容赦なく、トーパ兵の命を刈り取っていく。
ガイは半ば無理やり、馬にタンデムでモアを載せ、西への街道を走っていた。堅牢無比と言われた、“太陽神の使者”が作り上げた扉が破壊された音がここまで響いてくる。
「隊長ぉおぉぉぉっ!!」
モアが、悲痛な声を挙げ、涙を流す。
ガイは、モアの心中を思いつつも、トーパの早い雪に覆われた街道を、西に向かって馬を走らせた。
────エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。
「さっさっさ、サンマ、サンマ」
半導体製品製造請負企業、クイックチップの社員であるマコト・マリー・フクシマは、休日の自宅で、リンナイ・エクスプレッセスティ製卓上型ガステーブルの、両面焼グリルを引き出した。
ちなみにエクスプレッセスティは、熱源を問わずビルトイン型の加熱調理器を工業規格として認めていない。これは高度経済成長以前に交換コストがかかるからと認めなかったのが、特に不便もないものだから未だにほっぽっとかれている。
網の上にグリルトレーが乗っており、その上にアルミホイルが被せられている。それをマコトが外すと、調味料に漬けられたサンマの切り身が姿を表す。香ばしい匂いが辺りに漂っている。
マコトはトレーから皿に切り身を移すと、片手にその皿、反対側の手にガス炊飯器で炊いた白飯をよそった茶碗を持って、ダイニングテーブルへと向かう。
「いやー、異世界でもサンマが食べられるとは思わなかったなぁ」
元々エクスプレッセスティ国民の民族構成は日系がもっとも多い。その上、転移前はハシナガサンマの漁場だったため、サンマはポピュラーな食用魚だった。
転移後は周辺海域から、パーパルディア皇国の影響圏を避けて水産資源を調査し、フィルアデス大陸北東部の沿岸に、サンマの棲息圏があることが判明した。
男の仕事と見做されるような作業も女性が行うことで成り立っているエクスプレッセスティだが、“板子一枚下は地獄”と呼ばれる漁業だけはなり手が少なく────皆無ではないのだが。ユキみたいな無体なのいるし……そのため事業別だと外国人労働者がもっとも多いジャンルだった。
トーパでの漁業は、少数の女性漁師、転移時に虜になった出稼ぎ漁師に加え、トーパで漁業労働者を募った。これにより、トーパは外貨、特にこの世界の他の国が“東方文明圏外国”と呼ぶエリアで、ハードカレンシーの地位を占めつつあるエクスプレッセスティ通貨“イーガズム”(Īgazumu / IGZ。 補助単位“フィーバー”Fībā / fib 1IGZ=100fib)を得る事ができた。
「さーてー、いただきます、と」
そう言った後、マコトは箸を持ち上げる。トーパ産のサンマの切り身が、マコトの口の中へと消えていく。
────そのサンマの産地に、今、危機が迫っていることを、エクスプレッセスティは────世界はまだ知らない。
>ぴょんすけうさぎ氏
>高町司氏
パーパルディアの反応が期待されていたところですが、章タイトルの通り、まずはトーパ編になります。ご容赦くださいませ。
評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。
https://twitter.com/kaonohito2
2人のマコト、どちらかを改名すべき?
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した方が良い
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同名なんてよくあること、そのままで良し