────トーパ王国、東北部城塞都市トルメス。
この都市は万一の際、魔王軍からの防衛のために建設されたが、現在ではその由来を懐疑的に思う者も少なくなかった────のだが。
「報告します!」
トーパ王国騎士団、トルメス騎士団北部守護隊本部で、モアは北部守護隊々長に告げる。
「グラメウス大陸側から魔獣の軍勢が“世界の扉”に向けて進軍中、その数、確認できただけで2万以上!! 多数をゴブリンが占めていますが、ホブゴブリンやオークの存在も確認できました!」
「2万!? ば、バカな、魔獣がそんな数で群れて、統率のとれた行動をできるわけがない!」
同室していた、エルフの騎士の1人がそう言った。
隊長は険しい表情で、モア達を見ている。
「魔王ノスグーラと、配下の魔獣、レッドオーガとブルーオーガが統率しているのです!!」
「魔王!? 魔王が復活したというのか!?」
隊長は、モアの言葉を否定するような意図は見せないが、あまりにも大仰な事態に、思わず聞き返していた。
「間違いはありません! 四勇者の1人、魔女ルーサの“記憶の石板”に記された姿そのものでした!」
「王立大学の書庫にあるあの石板か……」
隊長が唸る。
「お……お前の見間違いという可能性は……?」
同室にいた騎士は、モアを疑うと言うより、現実逃避の様子で問い返す。
「俺も見ました」
すると、ガイが発言する。
「あれは間違いなく言い伝えの魔王の姿です。それに
「ガイ、今はそんなことを言ってる場合じゃないぞ」
そんなやり取りをしていると、別の兵が報告に入ってきた。
「“世界の扉”が突破されました! 魔獣が
「何だと……防衛隊はどうなった!?」
北部守護隊々長はその報告を受けて、更に問い質すように言う。
「魔信が通じません……安否不明ですが、観察できる状況では……」
「隊長…………」
モアは、防衛隊長を思い、俯いて涙を隠しながら、拳を震わせていた。
「モア…………」
そんなモアを案じて、ガイは名前を呼ぶが、その後の言葉を告ぐことが出来ない。ガイにとっても、防衛隊の面々は、身分の差こそあれ、同僚だったのだから。
「疑うような態度をとってしまってすまなかった」
守護隊々長が、モア達に言う。
「我ら北部守護隊は全兵力でトルメスの守りを固める……通信士、急ぎ王都に“魔王復活”を告げろ」
「ハッ!!」
守護隊々長の支持で、通信兵は魔導通信室に駆けていく。
「では我々は、これより王都ベルゲンに赴き、援軍の受け入れの準備をします」
「うむ……この事態であれば、パーパルディア皇国が動いてくれればいいが……エクスプレッセスティ共和国の武器では、防ぎきれなかったのだろう? しかも軍隊までもが“女性だけの国”だとあっては……」
モアの言葉に、隊長は唸るようにそう言った。
────その夜、“世界の扉”。
その扉の破壊された城塞の西側、つまりトーパ領側で、魔王軍は野営していた。
「魔王様!」
レッドオーガが、何かが煮込まれた鉄鍋を持ち、魔王ノスグーラのもとにやってきた。
「魔王様、食事をお持ちしました」
そう言って、相方のブルーオーガと、魔王が食卓を広げようとしているところまで来る。
それだけ見れば、和気藹々としたキャンプ食のようにも見えたが────
「ここは食料が豊富ですね。エルフの骨を煮込んだ魔力回復のスープ作りました」
他の霊長種が聞けばおぞましいような言葉を、レッドオーガは朗らかに言った。
「いい物を食べれば魔王様も本来の力が戻りましょう」
ブルーオーガも、ゴルフなどの場で親しい上司に話しかけるような口調で、そう言った。
「……
魔王は、忌々しげにそう言うが、しかしそれは目の前の部下2人に向けたものではなかった。
「大地を自分達の物と勘違いしている下等種共を駆逐し、解らせてやらねばならん」
魔王は、グラメウスから持ってきたものなのか、それとも、先程作られたものなのか、髑髏を逆さにした盃を傾ける。
「この世界は魔法帝国……魔帝様の物なのだと」
「…………」
相槌を打つところで、レッドオーガは曇った表情をした。
「どうした?」
魔王が聞くと、レッドオーガはそれを取り出した。
「これは……!!」
それを見たブルーオーガが、驚愕と同時に困惑した表情になる。
「これは……太陽神の使者が使っていた魔導の光弾の礫!!」
レッドオーガが2人に見せたのは、多少ひしゃげた、7mm Remington Magnumの弾頭だった。
「この城塞を突破する時、額にこれを受けたのです」
「むぅ……」
レッドオーガの言葉に、魔王もくぐもった声を漏らす。
「まさか……既にこの時代にも太陽神の使者が!?」
「いや……それはないと思う」
ブルーオーガの、どこか怯えたような声に、レッドオーガはそう答えた。
「太陽神の使者なら、これだけではない……大地を焼き尽くす魔導を発動させる空の船、鉄の地竜、鋼鉄の巨大船……そう言うものは出てこなかった」
「むぅ……それならば、太陽神の使者が、魔導の一部を遺していった……と、考えるのが自然ではあるが……」
魔王は、冷静な様子でそう言ったが、言葉の歯切れが少し悪い。
「あれは恐ろしかった……手も足も出なかった……皆死んでいった……神を怒らせてまた呼ばれたらと思うと……」
ブルーオーガは、弱ったような、悲しそうな表情でそう言った。
「カッカッカッカッ……案ずるなレッドオーガ、ブルーオーガ」
魔王は高らかに笑いながら言う。
「忌々しい太陽神の使者など、魔帝様の足元にも及ばぬわ」
「おお!」
「
強気な魔王の発言に、レッドオーガとブルーオーガの表情も晴れる。
「『世界に我ら復活せし
そう言って、魔王は髑髏の盃を掲げた。
「
────パーパルディア皇国、皇都エストシラント。
第3外務局。
面談室のひとつで、局長カイオスと、在パーパルディア トーパ大使が向き合っていた。
「トーパの大使殿、今日は如何様で?」
カイオスは、テーブルを挟んで向き合っているトーパ大使にそう訊ねる。 ────が。
「スケジュールが圧していてね。食事を摂りながらで失礼するよ」
カイオスはそう言うものの、その前の卓上に置かれているメニューは、サンドイッチのような簡素に食べられるものではなく、ステーキをメインディッシュとした、レストランのメニューのような食事が用意されていた。
「気にせず話してくれたまえ」
「それでは……“魔王”が復活し“世界の扉”が突破されたと……
カイオスが不躾に食事を続けながら促すと、トーパ大使は幾らかの緊張感を見せながら、そう言った。
「はて魔王? ────ああ……貴国の建国神話にある“アレ”か。近年の研究では古代魔法帝国の合成魔獣ではないかと言われているようだな」
「“アレ”ですか……しかし実際に、我が国へ魔王の率いる大群が侵入してきているのは事実です。そこで貴国に討伐部隊の派遣をお願いしに参ったというわけです」
「大使殿も早急に答えが欲しいと見受けるがゆえ、はっきりと言おう」
そう言うカイオスの態度は、どこか突き放すようなものだった。
「無理だな」
「それはパーパルディア皇国の意志ということで宜しいですね?」
トーパ大使は、どこかあっさりとした様子で聞き返した。
「…………どういう意味かね?」
カイオスは、トーパ大使の言い様に、引っかかるものを感じて、食事をする手を止めて、静かに訊ねた。
「今日、このことについて貴殿にお伺いしたのは、パーパルディア皇国のメンツを立てるために過ぎません────」
────カイオスと在パーパルディア トーパ大使の面談と、ほぼ同じ頃。
エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。
在エクスプレッセスティ トーパ王国大使館。
トーパ外務局との間の狭帯域短波デジタルデータ通信により、届けられた電報を、リベレックシス製シリアルプリンタが吐き出す。
駐エクスプレッセスティ トーパ大使は、その文書を見て、驚愕のあまり目を見開いた。
──なんだと、魔王復活!? エクスプレッセスティへ魔王討伐協力要請!?
彼は慌てて、執務机のビジネスホンの受話器を取り、内線で事務局を呼び出した。
「エクスプレッセスティ外務省にアポを取ってくれ、すぐにだ!!」
────30分後、エクスプレッセスティ共和国外務省。
第1面談室。
トーパ大使は、ただの面談・小会議用の部屋にしては、豪華────というのともまた違う、ピンクのフリルの飾りが目立つファンシーな装いのそこに通されていた。
「すみません、お待たせしました」
ソファに座って待っていたトーパ大使だが、エクスプレッセスティ側の人間が現れると、一度立ち上がって、事務員を引き連れて入ってきたハンナ外務省長官に対して、挨拶をする。
「緊急の用事につき、突然の面談の申し入れに答えていただき、ありがとうございます」
「いえ、
ハンナは、最初、笑顔でそう言ったが、そこで一気に表情を真摯な者にする。
そして、全員が席に着く。ハンナの隣で、事務局のタイピストが、ノートパソコンを開いた。
別の事務局員が、各々の席に、栓を抜いた250mlリターナルボトルの『ドクターペッパー』を置く。
「早速お伺いします。貴国は我が国に対して、何を求めていますか?」
ハンナが、緊張した様子のトーパ大使に訊ねる。
「実は、魔王が復活したのです」
「魔王!?」
トーパ大使に、自分達にとってはあまりに突拍子もない言葉を聞かされて、ハンナはタイピストと顔を見合わせてしまった。
「はい。我々の国でも、既に神話の一文に過ぎないという主張も多かったのですが────」
トーパ大使はそう言い、魔王ノスグーラと“太陽神の使者”の伝承について説明した。
「────確認しますが、貴国の要望で締結した“ベルンゲン覚書”は……」
「はい」
ハンナが問いかけると、トーパ大使は軽く頭を下げた。
「“魔王復活”の事態が現実になった際、我が国への武力支援をお願いしたかったからです。通例であればパーパルディア皇国に要請するところですが、明文化された協定はありません」
「解りました」
トーパ大使の言葉に、ハンナがそう言う。
すると、タイピストがノートパソコンを操作し、2つのウィンドウを開いてから、ハンナに画面を向けた。
『何かありましたか、ハンナ』
『何があったの? ハンナ』
2つのウィンドウに、それぞれエミリア総統と、マコト・ハンナ・イノウエ国防省長官が映し出される。
「現在、トーパ大使と緊急の用件で面談しています。“魔王”なる存在による武力行使事態が発生しているとのことです」
『魔王、ですか』
エミリアが言う。
「現状の説明をお願いします、大使」
「あ、は、はいっ……」
映像付き通信に驚いていたトーパ大使だが、そう言って自身の方に、PCに内蔵されたカメラを向けられ、一瞬上ずった声を出してしまう。
トーパ大使は、再度、魔王について説明しようとしたが、
『言葉を遮って申し訳ありません。この内容は既にハンナ外務長官に話しましたか?』
と、それが始まったばかりのところで、エミリアがそう言った。
「あ、ええ……はい」
『武力行使事態という事は、既に犠牲が発生しているのでは?』
マコトがトーパ大使に訊ねる。
「はい、現在騎士団が応戦していますが、抑えきれません。防衛拠点都市トルメスの陥落は時間の問題かと……」
「お話にありましたが、“魔王”とは会話が可能なのですね? 私達には人権というものがありまして、意思疎通可能な相手であれば、軍がこれに対処する方針に影響するのですが……」
ハンナが、険しい表情でトーパ大使に問いかける。
「ちょ、ちょっと待ってください。貴女方の言われる“人権”というものは解りかねますが、魔王とその配下の上位魔獣はヒトを食料とするのですよ? このままだと我々人類は“魔王の家畜”にされてしまう!!」
トーパ大使は、必死にハンナ達に訴えるように言う。
『ご安心ください。今の質問はあくまで軍の方針を決めるためのものです』
エミリアが、トーパ大使を安心させるかのような優しげな笑顔でそう言った。
『“ベルンゲン覚書”の発動条件は既に満たしています。この事態にあっては即決即断、エクスプレッセスティは軍を派遣し、この事態への
『了解しました。ですが、トーパ大使にもうひとつだけ質問させてください』
「なっ、何でしょう?」
トーパ大使は、救われた……という思いに至った次の瞬間、マコトから声をかけられて、ドキリ、とする。
『その魔獣達は、俊敏に動くことが出来ますか?』
「ハッ? そうですね、その巨躯に似合わず、身のこなしは人間並とされていますが……」
トーパ大使は、鼻を狐に摘まれたような表情で、そう答えた。
『うーん、じゃあT-54じゃダメだな。T-64の部隊を抽出しないと』
『そう言うことは通話を閉じてからやって頂戴』
────パーパルディア皇国、第3外務局。
「────というわけでして。
「なっ……なっ……」
駐パーパルディア トーパ大使の言葉に、カイオスは最初、何を言われたのか理解できなかった。
「奴隷の献上の廃止もそう言うことです。エクスプレッセスティは
──そんなバカな話があってたまるか!? その程度で、有事の際には軍を出すことを約束するだと……
「カイオス殿は、パーパルディアでは割合話の通じる御仁です。そのよしみでこれだけお伝えします。彼女らの国を決して侮らないように。それがパーパルディアの為になるでしょう」
そう言いながら、トーパ大使は立ち上がりかけた。
「ああそれと」
退室しようとして、トーパ大使はカイオスを振り返った。
「食事を摂る暇もないほど忙しいのでしたら、エクスプレッセスティでポピュラーな“ハンバーガー”をおすすめしますよ。特にニッポンハム・エクスプレッセスティの“クアトロチーズバーガー”、あれはいいものだ。それでは失礼」
ゲゲーッ!? 一般人(クイックチップ社員)と国防省長官のファーストネームが被ってる!?
今まで短期間に2人が登場することがなかったから気が付かなかった……
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2人のマコト、どちらかを改名すべき?
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した方が良い
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同名なんてよくあること、そのままで良し