「あ、あれはもしかして、神話の“鉄の地竜”じゃないのか!?」
「“太陽神の使者”の伝説の装備を、エクスプレッセスティ軍は持っているのか!?」
トーパ王国、トルメス南部地区。
クロエを乗せたデリカを先頭に、入城するエクスプレッセスティ軍の車列に対し、期待半分野次馬心半分の住民達がそれを見ている。
機関部の一部を含む銃身を大きく突き出した大型RWS『Desna20』を装備したBTR-4SEを見た住民が、それを指差して言う。
「なんだか私達、随分注目されているみたいですね……」
セカンドシートに座っていたクロエに、隣のアヴィーンが声をかける。
「まぁ、この世界で私達の軍隊を初めて見る人達が、興味本位に見てくるだろうとは思ってたけど……」
クロエも、車窓の外のトルメス住民を見ながら、少々の当惑を感じつつ、言う。
「なんか、
「…………おそらく、あなた方の乗り物が理由でしょう」
先導のために、助手席に同乗していたモアが、どこか呟くような口調でそう言った。
「乗り物?」
「はい、あの“ソウリンシキホヘイセントウシャ”です」
クロエが聞き返すと、モアはそう答えた。
「あの乗り物は伝説の“鉄の地竜”に似ている」
「“鉄の地竜”って、トーパ神話に出てくるアレですか……」
クロエが、少し驚いたように聞き返す。
「はい。魔王も“太陽神の使者”も、既に神話に添えられた創作ではないか、そう見るものも少なからずいたのですが、現実に魔王は復活し、そして“太陽神の使者”によく似た装備を持つあなた方が来ている……」
「そう言えば────」
モアの説明を聞いて、クロエは、顎を摘むようにしながら、思い出すように言う。
「ギム周辺民間人の疎開の時、疎開民を襲撃しようとしたロウリアの騎兵隊を空母搭載機が攻撃したのを見て、特別任務部隊を“太陽神の使者”と呼んだと報告書にあったわね……」
「!」
それを聞いたモアが、軽く驚いたような表情をする。
「クロエ指揮官、そのあたりの話、後で聞かせてもらえますか?」
「ええ、余裕があったらね……」
そんな会話をしている間にも、車列は騎士団の指揮所になっている城塞の塔に到着した。トルメスは城塞都市として区画化されていてその塔の下にも門が設けられていた。
「戦車がこの門を通るのは無理そうね……迂回路はあるかしら?」
「東門は開けられません……魔獣も回り込んできてますので。西門なら短時間であれば」
「なら、そこから迂回するしかないわね。モアさん、お願いできますか?」
「了解しました」
モアは、クロエにそう言ってから、同行していた1人の兵士に指示をする。
「エクスプレッセスティ軍の車両の一部が西門を迂回します。その間だけ西門を開けてください。ただし、油断はしないように」
「ハッ!」
一方、クロエもハンディ無線機とインカムが繋がっているケーブルの、胸元にピン留できるPTTスイッチを押し込み、指示を出す。
「戦車、ここで降ろせ。戦車分隊と歩兵2分隊はトーパ騎士団に従って西門から北に回り込め」
『了解』
「各分隊指揮官は私と一緒に、魔王軍対策本部へ」
『了解しました』
低床タイヤを合計16輪履いているトレーラーの左右にエクスプレッセスティ軍隊員が取り付き、戦車のロックパーツを解除する。
ガリュリュリュ……グォン!!
三菱製V6スーパーチャージドディーゼルエンジンは冬のトーパでも、僅かなグロー時間の後に一発で始動した。
──アレも動くのか!?
その轟音に、それだけで圧倒されているトルメス住民や騎士団を他所に、T-64-120は下ろされたスロープゲートから、トルメスの地に降り立った。
一方、クロエは、ナイアラ、カロリーネを含む各分隊の指揮官を伴って、トーパ騎士団の指揮所に向かっていた。
「!」
建物内部の通路を進んでいると、窓が近くにあるそこで、ナイアラがはっとして、立ち止まりかけながら窓の方に視線を向けた。
「今、街の方から女性の悲鳴が……」
「耳が良いなナイアラさん。ゴブリンどもがヒトを攫いに来てるんだよ」
ナイアラの言葉に、ガイが忌々しそうな表情で言う。
「軍勢の南進は食い止めているのですが……時折防衛線の南側にすり抜けてくるのがいまして……騎士団でも巡回し対応しているのですが、埒が明かない状況です」
モアも、やりきれないといった表情でそう言った。
そうやり取りしながら、魔王軍対策本部となっているトーパ騎士団トルメス司令部公室に辿り着いた。
「失礼します! エクスプレッセスティ共和国軍の方々をお連れしました」
モアが申告し、クロエ達が横列に並ぶ。その
「私は魔王軍対策本部々長を拝命しております、トーパ王国騎士団騎士長のアジズです。此度はエクスプレッセスティ共和国よりの援軍、大変感謝いたしております」
「自分はエクスプレッセスティ共和国国防軍、トーパ王国派遣部隊先遣隊の指揮を任されました、フォン・クロエ・ミン・ピーチュアン陸軍大佐です。差し支えなければクロエとお呼びください」
「解りました。クロエ指揮官」
お互いに自己紹介を交わすと、その後は時間が惜しいとばかりに、立席でテーブルを囲んで状況の確認と作戦の検討に入る。
アジズは、テーブルにトルメスの地図を広げる。ミナイサ地区とそこから防衛線までのあたりに、何度も走り書きがなされた跡が残っている。
「我々の斥候と脱出した住民の話によりますと、取り残された住民は、この大講堂に収容されています。その前の広場を中心にレッドオーガが数百程度のゴブリンの群団とともに市街地内に陣取っています」
アジズは、地図上のミナイサ地区の大講堂と、その前の広場を指しながら、そう言った。
「そうすると、大半は市街に侵入していないわけですね?」
「はい。そのとおりですが、城塞の外の森にブルーオーガとオークの群団が潜んでいるようでして……そのために思い切ったミナイサ地区への反撃が出来ない状況です」
クロエが訊ねると、アジズが苦い顔をしてそう言った。
「取り残された住民は何人ほどで?」
「約600人……ほとんどが生け捕りにされたと思いますが、今は何人残っているかどうか……」
「…………」
アジズの答えを聞いて、クロエは、顎に親指を当てて、地図に視線を落とした状態で険しい表情をする。
「大佐、これはもはや無駄な時間を費やしている場合ではないのでは?」
ナイアラが言う。
「そうね……」
クロエは、そう言ってアジズに視線を向けた。
「今トルメスにいる騎士団の
クロエがそう訊ねると、アジズが答えるより以前に、
「それなら俺達がいるぜ」
と、別の方向から声が聞こえてきた。
「お、おい……」
「俺とモアはこの地区の生まれでね……裏路地の1本1本まで熟知してるんだ」
ガイは、自身を嗜めるモアの言葉を聞きつつ、モアの肩にもたれかかる
「よし……それならば、ミナイサ地区への対処は2段階に分け、まずこれより直ちに住民救助を開始しましょう。地区の奪還はその後、準備を整えてから行います」
「だ、大丈夫なのですか?」
クロエの決断に、アジズが軽く驚いた。
「本来であれば慎重に、段階をおって作戦を実行すべきですが……住民が“人質”ではなく“消耗品”とされている以上、交渉での時間稼ぎが出来ません。なので、ここは一気にとりかかるべきです」
「成る程……ですが、城塞外部にいる魔王軍が襲撃してきたらどうしますか?」
アジズは、クロエのロジックに納得の言葉を出しつつ、懸念点を訊ね返した。
すると、クロエは苦笑して言う。
「むしろ、そうしてくれたら楽なんですけどね」
Thunderbolt-2000/Mk45『雷霆』多連装ロケットシステム。
それまでのBM-21『グラート』に代わり、西側型のシステムに対応できるMRLSとして中華民国(台湾)から導入した。
発射機と弾体は台湾からの輸入、及びライセンス生産だが、搭載する車両については別途調達となり、自国製『ディオナトラ』6✕6が使われている。
ミナイサ地区から見て西南西の位置に停車。戦車分隊と歩兵分隊が警戒に当たる中、ロックを外して油圧アクチュエータが作動し、直接は見えないトルメス北門の方角に向けて仰角をとる。
「Thunderbolt射撃準備完了。北門地区を監視しつつ、射撃待機します」
『了解。OUT』
アヴィーンがPTTスイッチを押しながらインカムのマイクに向かってそう言うと、クロエの答えが返ってきた。
「班長、ドローン発進させます」
「OK, 交代で張り付かせて」
ロケット砲分隊の観測班が、UAH-1多目的ドローンを発進させる。
UAH-1は固定翼・回転翼併用型の多目的ドローンで、UAVとして小型、ドローンとして大型の部類に入る。2ストロークグローエンジン双発。エンジンの原型は日本製に求めているが、自国がエタンガス産出国であるためエタノール系燃料用に調整されている。
今回はヘリコプターそのものを持ってきていないが、これを空中発進させるためのKa-26用UAV母機モジュールというのも存在している。
────トルメス地下水道。
「この地下水道はミナイサ地区の大講堂の裏手に繋がっています。そこからなら目立たずに大講堂まで近づけます」
「先導は俺に任せてくれ。このあたりは“勝手知ったる”ってところだ」
モアが説明し、ガイが付け加えた。
「頼りにしていますよ、ガイさん」
クロエがそう言った。
本来は戦車分隊の指揮官のクロエだが、特に危険のある任務ということで、歩兵小隊の2個分隊のうち1分隊15名を6名と9名に分け、6名がクロエの指揮で大講堂突入班、9名がナイアラの指揮で地上からの陽動班とし、2分隊は戦車分隊とともにロケット砲分隊の護衛に回した。
「…………少し急ぐぜ、クロエさん! 遅れるなよエクスプレッセスティ軍の皆!」
ガイが小走りにかけ始めると、モア、それにクロエらも、それに離されることなく駆けていく。
「────……おいモア、幼馴染のエレイを覚えてるか?」
ガイが、クロエ達には聞こえない程度の声で、モアに話しかける。
「ああ……ミナイサの食堂に勤めていたな。 “世界の扉”の常駐配置になる前は、お前ともよく一緒に通っていた……」
モアは、最初、なぜこんな時にそんな話を持ち出したのかと思ったが、自分でそこまで言って、眉間に皺をつくった。
「ミナイサ地区から自力で逃げてきた連中から情報を集めたんだが、逃げ遅れて捕らわれているようだ」
「なんだって!?」
ガイの、彼らしくない深刻そうな口調での言葉に、モアも、一気に表情を強張らせながら、少し大きめの声を出してしまう。
「現場に着いたら俺に時間をくれ。探し出して救出する」
ガイがそう言う。
すると、モアは最初、
「俺達はエクスプレッセスティ軍と共同行動中だ。単独行動はダメだ、ガイ」
と、険しい表情でそう言った。
「モア!?」
ガイは、反射的に声を出していた。
しかし、モアはすぐに、クロエを振り返った。
「クロエ指揮官。大講堂にこいつの大切なヒトが捕らわれているかも知れないのです。その安否確認の時間が欲しい」
「おい待て! そんな関係じゃねぇ!」
モアがクロエに言った言葉を聞いて、ガイは、思春期前半の少年のような反応をして、素っ頓狂な声を出してしまっていた。
「いいから、この方が話が早いだろう?」
モアは、ガイを抑えるようにそう言った。
「地上班次第になるけど……我々は取り残されている住民を速やかに脱出させる必要がありますが、その為に
クロエは、任務に対する真摯な表情のまま、2人にそう言った。
「クロエさん! あんた、なんてイイヤツなんだ! 全部片付いたら飯奢るぜ!」
ガイはそう言って、クロエの肩を抱いた。
「いいんですか? 私も女性ですよ?」
「え、あ!」
苦笑交じりの笑みと共に言うクロエに、ガイがうろたえる。モアや他の隊員達は、不謹慎と思いつつも失笑してしまった。
2人のマコト、どちらかを改名すべき?
-
した方が良い
-
同名なんてよくあること、そのままで良し