フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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異世界鬼退治 Part.II

 ────ミナイサ地区、大講堂。

「エレイちゃん、お腹空いたろう?」

 エレイが勤める食堂の、壮年と初老の端境あたりの年格好の店長が、エレイにそう言って、パンやサラミの詰まった紙袋を取り出す。

「店の食料品を持ってきてきた」

「ありがとう、店長」

 エレイは、恐怖からくる緊張が少しだけ緩んだ様子で、店長に礼を言った。

「うちの看板娘に何かあっちゃ商売上がったりだからな」

 店長は、こっそりと窓の外を見て、広場の様子を伺いながら、さらに言う。

「どうにかスキを見て脱出するしかないな……」

 その時。

 ギィィ……

 扉が開き、ゴブリンが入ってくる。ミナイサ地区が魔王軍に制圧されて以来、誰もが竦み上がる時間だ。

 だが、

「エレイちゃん……俺の後ろに」

 と、店長は気丈に、エレイを自身の背後にかくまうようにした。

「出荷の時間だど~」

 そう言って入ってきたゴブリン達は、女性のエルフに顔を近づけ、スンスンとその匂いを嗅ぐ。

「今日の肉は……お前じゃない」

「お前も……まだダメ」

 ゴブリン達は、そうやって品定めをする内に、店長がエレイを庇っているのを見つけた。

「おら! じゃまだど、耳短男!」

 そう言って、リーダー格のホブゴブリンが、店長を払い除ける。

 2匹のゴブリンが、エレイに取りついて、鼻をスンスンと鳴らしながら匂いを嗅いだ。

「お、おお……」

「お前良い肉。食べ頃エルフ出荷するど~」

 耳元でゴブリンに言われたその瞬間、エレイの表情が恐怖で固まった。

 そんなことにも構わず、ゴブリン達はエレイを引きずり出そうとする。

「魔王様喜ぶど」

「今日のメニューは生食だど~」

「踊り食い踊り食い」

 ゴブリン達は、エレイを講堂内の開けたところまで引きずっていくと、そう言ってエレイの着衣を剥ぎ取り始めた。

「いやぁあぁぁぁっ、店長!」

「エレイちゃん!!」

 反射的に、エレイに駆け寄ろうとした店長だったが、

「うるせいど! ぼげぇ!!」

 と、ゴブリンに棍棒で殴られてしまう。

 ──ああ、もうダメだ……

 エレイの心中に、諦観の念が表れる。

 ──ガイ君……モア様……もう一度あいたかったよ……────

 

 

「到着予定時刻。行動を開始する」

 CASIO Baby-G MSG-W610G-1AJFの盤面を見て、ナイアラは小声で、連れている5名の隊員にそう言った。

 無線で確認できればいいのだが、如何せんクロエ達は地下水道を通っているため、ハンディトランシーバではやり取りが難しい。

 ──この世界では不要だと思ったけど、電子戦支援車を連れてくるべきだったかしらね……

 EOP-805T電子戦支援車。量販車『ルーシア』(マツダ3代目WG系『タイタン』のライセンシー・継続生産車)とは別に、チェコのタトラ社がかつて生産していた T805 トラックのヘリテイジラインとしてラインアップしているセダクション『Tatra 805 N(Next)E(Ecstasy)』、エンジンはSUBARU EE20スーパーチャージドディーゼルエンジンを搭載し、雰囲気は出しつつもオンロード前提で後輪に 245/50R14.5 106L とか言う特殊扁平タイヤを履いて荷台高を下げているおもしろ製品を、おもしろ製品故に国防省に目をつけられ電子作戦用車両EOP-805系の車台に採用した。用途別にサブタイプが存在するが、EOP-805Tは味方の各種通信を中継する。

 ────が、そもそもEOP-805系の数がそれほどない。と言うのも、転移前、エクスプレッセスティ軍の最重要な想定敵は非正規武装集団だったため、装輪車両を装備した高速展開できる部隊の整備に予算を吸い取られていたためだ。

 ────閑話休題。ともあれ、ナイアラ達は行動を開始した。

「いた」

 それを発見すると、ナイアラは、胸元の無線のPTTスイッチに手を伸ばす。

「ナイアラ班より各局。大講堂前にレッドオーガ確認。ゴブリンは想定より少ない模様。ブルーオーガ、オークは確認できず。OVER(送話終了)

『歩兵2分隊了解』

 カロリーネからの返答があったことを確認すると、ナイアラは7G21E RGN手榴弾を取り出す。当初はウクライナから導入した攻撃手榴弾で、現在は国産化されている。NATOに揃えがちな弾薬類の中で、少数派の東側型だ。ただし、国産型は炸薬を旧ワルシャワ条約機構標準のA-IX-1からNATO標準のコンポジションBに変更しており、若干スペックが異なる。このためインデックスの末尾にエクスプレッセスティ製であることを示すサブタイプ“E”がついている。

 レバーごとを握りしめ、ピンを抜き、レッドオーガの背中めがけて投擲した。

 世界の標準的な手榴弾は遅動信管で炸裂する。投げる際に投げ返されないよう3カウント後に投げる、というのはこれが理由だが、ソ連時代のアフガニスタン侵攻時に度々この“手榴弾を投げ返される”などの被害が発生したため、RGNと同系統の防御手榴弾7G22 RGO手榴弾には、遅動信管の他に撃発信管が備わっている。

 ドバァアァァン!!

 ナイアラが投擲した手榴弾は、レッドオーガの足元近くに落下し、そこで爆発した。

「なんてやつなの」

 攻撃用手榴弾は、炸裂時の爆風から身を隠す遮蔽物がない状況で使う物であるため、破壊範囲は狭い。それでも、レッドオーガの周辺にいたゴブリンは、むしろ人間より脆く吹き飛ばされたのに対し、レッドオーガはほとんどダメージを負った様子がない。

 ダメージは負った様子がないが、攻撃されたということは気付いたらしく、多少キョロキョロとした後、ナイアラ達が潜んでいた路地に視線を向けた。

「うし、こっち向いた」

 レッドオーガの様子に、ナイアラが腕を掲げるようにしながらそう言った。

 レッドオーガは、ナイアラ達のその様子を見て、震えながら明らかに憤怒の表情を見せる。

「怒ってますかね?」

「怒ってるようね……」

 呟くような部下の言葉に、ナイアラは同意する言葉を発した。

 レッドオーガは、ナイアラ達のいる路地へ向かって、トゲ棍棒を振りかざしながら向かってくる。

「誘い出すよ! 走れ!」

 ナイアラがそう言い、ナイアラ班6人はレッドオーガに背を向けると、予定されていた方向へと走り出した。

「まだ刃向かうかニンゲンッ!! 殺す、殺すッ!!」

 ドスンドスンと、レッドオーガの足音が背後に響いてくるが、ナイアラ達は一目散に走り抜ける。

「こっちっ!」

「急いで! 想定より足が速い!!」

 ナイアラ達は路地の交差点を折れる。

「っ、全員いる!?」

「はいっ!」

 ナイアラと行動を共にしていた5名の隊員が、そう答えた。

 ナイアラは胸元のPTTスイッチを押す。

「BTR、任せたわよ」

『了解!!』

 そのやり取りの一瞬後、ナイアラ達が逃げ込んだ路地に、レッドオーガが姿を見せる。

「ニンゲンっ、殺すッ!! 逃がさ────!?」

 レッドオーガの目前に、BTR-4SEが立ちはだかる。

「ば……バカなッ……────」

 レッドオーガは、BTR-4SEを前にした瞬間、立ち尽くしてしまった。

 ドルルルゥンッ!!

 BTR-4SEは、2基搭載する三菱重工製エンジンの内、燃料節約のために切っていた1基を始動する。

「──“鉄の地竜”ッ!?」

 先程までの怒りの感情、人間に対する攻撃性、それらすべてが嘘であったかのように、涙まで滲ませる。

 だが、BTR-4SEの乗員は、そんなレッドオーガの状況など知る由もない。

「目標正面、撃てっ!!」

 ドガガガガガガガッ!!

 ロウリア戦でスワウロの盾に阻まれた経験から、APDS(強装徹甲弾)が装填されている。それでも効かない場合に備えてRK-3地対地ミサイル(RK-2『STAGUNA-P』の小型版)のランチャーは対戦車用のタンデムHEAT(成形炸薬弾)仕様を装填、オプションマウントにはGLG-40 11.35口径40mm自動グレネード銃が装着されていた。

 だが、20✕102mm APDSを受けたレッドオーガは、穴だらけとなり、四肢の関節は粉砕されてしまった。

 BTR-4SEのRWSオペレート画面を、映像からサーモグラフィに切り替える。

「レッドオーガ、体温の反応ありません。死亡したかと思われます」

 BTRの操縦手が、無線で車外のナイアラにそう伝えた。

「ふぅ」

 それを聞いて、ナイアラは緊張が解け、軽くため息を()いた。

 そして、無線のPTTスイッチを押す。

「ナイアラ班より各局、レッドオーガを排除した。ブルーオーガは確認できず」

『歩兵2分隊了解』

 

「クロエ班了解。これより地上に出る。OUT」

 無線にそう返した後、クロエ達は息を潜ませるようにして、地下貯水池の立坑の、水塔の影から大講堂広場が見える位置まで来た。

 クロエは、胸元のPTTスイッチを押しながら、インカムのマイクに向かって、小さく、しかしはっきりと言う。

「クロエ班よりロケ分隊。大講堂前にはブルーオーガ、オークはいない。引き続き城壁外からの侵入に対する監視をお願い」

『ロケ分隊了解』

 返答を受けると、クロエは右手で握っていたRGN手榴弾のピンを抜き、ゴブリンが少し固まっているところを選んで、投擲した。

 ドォオォォォン!!

 十数匹のゴブリンの群れが吹き飛ばされた。クロエ班の隊員が、驚き戸惑う残りのゴブリンに対し、Fort-206/243の射撃を浴びせていく。

「…………」

 射撃が止む、静寂────

「大講堂前、Clear。Go!」

 クロエの手振りと共に、隊員、それにガイとモアが、バトルライフルや剣、各々の武器を持ち、大講堂の扉に取り付く。

「総員、着剣して」

 扉の左右の壁に背をつけるようにしながら、クロエが言う。

「ガイさん、モアさん、剣を構えてください。私が扉を破ります。中で敵が待ち構えていた場合、銃だと誤射する可能性が高い」

 クロエは、本来戦車兵として使い慣れているUAKB-1/243『マリューク(Malyuk)』の、ブルバップ式で全長が短いその銃身に銃剣を取り付けながら言う

「解ったぜ!」

「了解しました!」

 ガイとモアがそう言い、剣を構える。

 クロエが、マリュークのフォアグリップとメイングリップを握り、ガンッ、と、銃床を扉に叩きつけた。バンッ、と内側に扉が開く。

「王国騎士団です! 皆さんを救出に来ました!! 慌てず、まずはその場から動かないでください!!」

 モアがそう言いながら、ガイと共に先陣を切って突入する。さらに、着剣したバトルライフルを構えたクロエ班の隊員がそれに続く。

 そして、そのガイの視界に、それが目に入った。

「エレイ…………!!」

 それは、全裸にされたエレイが、手足を拘束され、棒に提げられようとしているところだった。

 ガイは。そこからは声も出さずに、電光石火の剣戟で、エレイに取りついているゴブリン3匹を斬り捨てた。

「よぐも仲間(ながま)をぉ!!」

「お(ばえ)、死ねぇっ!!」

 ガイの剣から逃れた、ホブゴブリンと2匹のゴブリンが、ガイの背後から襲いかかろうとする。

 ガイは返す刀で剣先を向けようとするも、

「ちっ! 間に合わねぇ!」

 ドドドッ

 ガイに襲いかかろうとしていたゴブリンの1匹に.243WSSMが叩き込まれる。そのゴブリンが血飛沫上げて倒れかけた瞬間には、クロエが銃剣をホブゴブリンの喉に、下から突き上げるように突き刺す。さらに胸ホルスターからCOP .357ペッパーボックスピストルを抜き、残りのゴブリンに .357Magを撃ち込んだ。

「剣捌きはお見事でしたが、頭に血が上りすぎると危険ですよ」

「あ、あぁ……」

 振り向き顔で不敵に笑うクロエに、一瞬ガイは見とれてしまう。

 ──今まで女ってのは、エレイみたいな淑やかなやつがいいと思ってたが……

「あ、えっと……」

 その声に、ガイは振り向きかけて、その視界内にエレイの裸体が入ってきたため、慌てて視線を外した。

「だ、大丈夫か? 間に合った……んだよな?」

「うん……ありがとうガイ君。助けに来てくれたんだね」

 ガイが背中越しに聞き返すように言うと、エレイは礼を言う。

「おぅ……幼馴染だかんな」

 照れ隠しなのか、ガイは、エレイの方に視線を向けずにそう言った。

「クスクス」

 それを見ていたクロエが、少し苦笑気味に笑う。

「ガイさんは、プライベートももう少し素直になった方がいいですよ?」

「あ……は、はぁ」

 クロエがそう忠告している間にも、ガイの背後で、モアが自分の羽織っていたマントを外し、エレイの背後から、

「ケガはありませんか?」

 と、衣服を剥がれたエレイにそっと羽織らせる。

「モア様!?」

 その顔を見て、エレイがはっと驚いたようにしつつ、顔を微かに赤らめる。

「手を出してください。縄を切りますので」

 モアは、言葉でそう言いつつも、エレイが自然に手首を自分の前に持ってくる体勢にする。それから、副武装として携えていたミゼリ()コルド()でエレイの手の拘束の縄を切った。

 ──ガイもタイミングよくてキュンっと来たけど、何も言わずにマントをかけてくれる気遣いとか、さり気なく耳元で囁く所とか……やっぱりモア様ス・テ・キ……

 ──あーらら……────

 仏頂面で視線を逸したままのガイと、モアに向けるエレイの視線とを見て、クロエは苦笑する。

 ──ガイ君は剣での戦い以外にも、色々と気苦労しそうね……

 そこまでは少し緊張を緩めていたクロエだが、すぐに真摯な表情に戻って、胸元のPTTスイッチを押し、インカムのマイクに向かって言う。

「クロエ班よりナイアラ班、聞こえるか?」

とどのつまりは日本製(極めて感度良好)、どうぞ』

「現在地知らせ」

『予定通り、防衛線の退避路を確保しています』

 その頃ナイアラ班は、防衛線の一部のバリケードを退避路として取り崩したところへ、ヒトが通り抜けられるのに充分な隙間を作って、BTR-4SEを横付けしていた。

「了解。これより住民の退避を行う。OUT」

 クロエは、無線でのやり取りを終えると、

「モアさん、ガイさん。この場の皆さんの退避に隊員を2名つけます。どちらかがその先導にあたって、どちらかは私達と一緒に取り残された住民の確認に当たってください」

 と、2人に話しかけた。

「クロエさんが先導するのではいけないのですか?」

 モアが不思議そうに聞き返すと、クロエは口元だけで笑い、

「いえ! 危険な場にあっては、(げん)(じょう)の指揮官は最後に撤退する。我が軍が範とした(J)本陸(G)(S)自衛(D)(F)……日本国の武士、戦士の不文律です!」

 と、はっきりと言った。

「じゃあ……モア、頼めるか? エレイのことも」

「え? あ、ああ……そうだな、俺が先導した方が、住民も安心するだろう」

 ガイの言葉に、モアはそう答える。そして、

「エレイさん、脚は大丈夫ですか? 歩けますか?」

「はい……大丈夫です」

 と、モアはエレイに声をかけてから、今度は大講堂の奥の方に向かって声を上げる。

「ここにいる緑の服の皆さんは、エクスプレッセスティ共和国軍の援軍部隊です。皆さんを脱出させる経路は確保しています! 急いで、ただし落ち着いて、私についてきてください!!」

 そうして、すぐに立ち上がれる者を連れて、クロエの部下2名とともに退避を始めた。

 一方、ガイは、

おや()さん()、大丈夫か?」

 と、エレイが勤めている店の店長が、殴られて昏倒していたところを、声をかける。

「あ、ああ……まだ、キャットウォークや舞台裏に子供が隠れている……助けてやってくれ」

 店長は、殴られた後頭部を擦りながら、そう言った。

 ──あーれぇ?

 てっきり、ガイがエレイを連れて行く、という状況になると思っていたクロエは、拍子抜けした表情になってしまった。

 

 




第19戦車連隊長、クロエ大佐。
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759221482969039071
チャームポイントはT-54のトランスミッションに鍛えられた筋肉。
高野先生やtoi8先生とは完全に別の方向ですね……

あ、でも戦車乗りは身体小さい方が有利なんだよな……


評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2

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