フェミニン国家召喚   作:神谷萌

44 / 152
異世界鬼退治 Part.III

 ────トーパ王国、トルメスから見て北東部、地峡入口近くの魔王軍キャンプ。

「魔王様の食事が届かないど……?」

「“食料庫”の奴ら、全部食っちまったのかも知れんど」

 ゴブリン達が、夕食の時間が近づいているにも関わらず、トルメス城塞内から“食料”が届かないことに、訝しげに会話をしている。

 その上を、1匹のコウモリが通り抜けて行った。

 キャンプの上座(?)に陣取っている魔王ノスグーラのもとに、そのコウモリは飛んでいく。魔王が手を挙げて指を差し出すと、コウモリはその魔王の指に掴まり、ぶら下がった。

「キィ、キィ~」

 コウモリの発する声は、ヒトの耳には普通のコウモリが少し変わった鳴き方をしているようにしか聞こえなかったが、

「なに…………?」

 と、ノスグーラはそれを聞き取り、訝しげな表情をする。もっとも、魔王の目元は、ショルダーガードと一体になった、左右分割の、金属製のアイマスクで隠されていた。

「レッドオーガが? 人間どもに使役される地竜に倒されただと……?」

 魔王はすぐには信じられないと言った様子で、呟くように言ったが、

「ブルーオーガよ……今の言葉は信じられるか?」

 と、その事について傍らに控えていたブルーオーガに問いかけた。

「ニンゲンが使役できるような(リンド)(ヴルム)に倒されるはずがありませんが、“食料庫”当番が“食料”を運んでこないところを見ると、虚を突かれて逃げられたのかも知れません」

「確かに……では、街の南部まで占領し、狩り尽くすしかないか……」

 ブルーオーガの言葉に、魔王はそう言った。

「しかし、今日はもうすぐ日が暮れるな……先ずはこれ以上人間どもが“食料庫”を荒らさないよう、コブリンを増派しろ……そしてブルーオーガ、貴様はオーガとともに北側の森に潜んで、人間の軍勢を殲滅できるように準備するのだ……」

 魔王が夜襲を選択しなかったのは、ヒトが寝静まっているところに強襲をかけると、知能があまり高くないコブリンやオークは無差別にヒトを殺してしまい、“食料を得る”という目的に対して本末転倒になってしまうからだ。

「わかりました、魔王様」

 

 一方その頃────トルメス市内、城塞内部の防衛線の南側。

「良かった……良かった……」

「先に逃げてすまなかった……本当に生きていて良かった……」

「早く、犠牲になった者達の弔いもしなければ……」

 ミナイサ地区から救出された生存者と、先に自力で脱出した者、元々トルメス南側に住んでいた親類縁者・友人知人とが、まだ手放しで歓喜できる状況でもない、といった雰囲気ではあるものの、再会に喜び、安堵する言葉を交わしていた。

 その一方、騎士団の司令部公室では、魔王軍撃退の為の作戦が練られていた。

「うぉりゃ!!」

 ナイアラがバルコニーに置いた発電機のスターターリコイルロープを引く。組み込まれているライセンス生産していたSUBARU Robinのケロシンエンジンの継続生産型、始動用燃料をガソリンからCB缶カセットガスに変更したもの、それが始動される。

 ガーッとエンジンの爆音をたてて、発電機が電気を送り出すと、司令部公室の天井に吊るされたLED灯が、司令部公室内を照らした。

「スゲぇな!! ロウソクや行灯なんて目じゃねぇ。まるで部屋の中だけ昼間になったみたいだ」

 ガイが、驚きつつも、好奇心旺盛そうな目で、LED灯を見上げている。

 さらに、携行用トランシーバ用の単2型ニッケル水素電池の充電器も、バルコニーから伸ばされてきたテーブルタップに繋がれている。

 クロエと、バルコニーから戻ってきたナイアラ、そしてアジズやモアら、エクスプレッセスティ軍とトーパ騎士団の高官が、日没後の司令部公室でテーブルを囲む。

「ゴブリンの身体能力はさほどは高くないとお聞きしましたが、それはトーパ王国騎士団でも対処可能なレベルと考えて大丈夫ですか?」

 クロエが、アジズに訊ねる。

「はい。侵攻時はオークやオーガと共に進撃してきたのと、その数の多さのために北部防衛隊はトルメスへの侵入を阻みきれませんでしたが、今はこちらも兵力を集結させましたので、ゴブリン程度であれば物の数ではありません」

 アジズが答える。

 すると、クロエは地図上の、トルメス城塞北門を指した。

「それでは、既にトルメスに侵入しているゴブリンに関しては、トーパ騎士団の方々がメインとなる形でお願いして宜しいでしょうか? こちらも支援用に1個分隊を配置します。対戦車ミサイル……オーガのような防御力をもった相手にも対処可能です」

「解りました。こちらとしてもそれで良いと思います」

 クロエの言葉に、アジズは同意の言葉を出す。

 地図の上には、エクスプレッセスティ軍の部隊配置箇所にマークが追加で書き込まれている。

「ただし、トーパ騎士団の方々は、城門の外側まで追わないようにしてください」

「掃討する必要はないと? 魔王の本隊に合流されると厄介ではありませんか?」

 クロエの言葉に、アジズが不思議そうに聞き返す。

「いえ。掃討はします。トルメス市街地から追い出したところで、我々が、多連装ロケットシステムで一掃します」

「! それは確か、ロウリアがクワ・トイネに侵攻した時、2万の軍勢を消したという兵器ですな!?」

 クロエの言葉に、アジズが、ハッとしたようにして問い返すように言った。

「厳密には、あの時使った物より新型ですね。あの時は24台を使い、さらに榴弾砲の攻撃を加えました。今回は1台しか持ってきていませんが、ゴブリンを一掃するのには充分かと」

「なるほど、それは心強い。それでは、城門内の掃討は我々トーパ騎士団が行いましょう」

 クロエとアジズは、確信した笑みを浮かべて、顔を見合わせた。

 

 

 ────翌朝。

 ガタッ、ガタッ、ガラッ、ガラララガララ……

 トルメス市内の防衛線のバリケードが、その防衛側、南側から撤去され始めた。

「何だど? ニンゲン、観念したど?」

「南に攻め込むど、“食料” (かく)()しで、魔王様に褒めて貰うど」

 そう言って、人間から奪った武具や、棍棒を持ったゴブリン達が、わらわらとバリケード付近に集まりだした。

 とは言え、そこまで集合することを待たず、数匹単位でバリケードに向かって駆け出した。

「19T(Tank)R(Regiment)、こちらナイアラ。歩兵1分隊、攻撃を開始する!」

『19TR、クロエ了解。OUT』

 最後のバリケードが撤去される直前、その後ろ側から、それがゴブリンの集団に向かって放り投げられてきた。

「なんだ────」

 ど、と言いかけたところで、7G22E RGO手榴弾が炸裂し、先頭寄りのゴブリンの集団が吹き飛ばされた。

「ふざけんなど、ニンゲンッ!」

 ゴブリン達は怯むどころか、怒りを顕わにして、バリケードの方に向かって駆け出す。

 ────が。

「!?」

 最後のバリケードが崩された、その南側には、トーパ騎士団のパイク兵が、隊列を組んで待ち構えていた。

『歩兵大隊、前進せよ!! ミナイサ地区からゴブリンを掃討するのだ!!』

「おぉおォォォォォッ!!」

 アジズが、エクスプレッセスティ軍から借りたグリップ・ショルダー両用型の()子拡声(ラメ)()で号令すると、パイク兵は声を挙げながら前進する。

 ガガガガッ、ガツッ、ザクッ、ザシュッ!!

 1対多数、あるいは狭い空間では人間を圧倒する事ができるゴブリンだが、訓練され、士気も高い多数のパイク兵に対しては、逆に一方的に圧殺された。

 まるで“人間の盾によるシールドチャージ”とでも言うべき様相で、パイク兵は防衛線跡から北門に向かって、ゴブリンを刺突しながら前進する。

「こっちに4匹、逃げ込んだぞ」

「馬鹿め、袋の鼠だ!!」

 剣を携えたトーパ騎士団遊撃兵が、パイク兵の突進に対して路地に逃げ込んだゴブリンを追う。

 路地の奥に向かってエクスプレッセスティ軍から現場供与されたRGN手榴弾が放り込まれる。爆発の後、バラバラになったゴブリンの亡骸を踏みながら、さらに隠れ潜もうとしたゴブリンを斬り殺した。

 この状況に至って、ついにゴブリン達は恐慌状態となり、算を乱しながら北門へ向かって逃げ出した。

「歩兵1分隊より各局! ゴブリンが退却を始めた!!」

 トーパ騎士団歩兵隊と共に攻め上げていたナイアラが、無線に向かって怒鳴るかのような勢いで言う。

『19TR了解! ロケ分隊、射撃準備!』

 

「ロケ分隊了解! OUT!」

 アヴィーンが無線でそう答えると、胸元のPTTスイッチから手を離す。

「ゴブリン相手に少し勿体ないけど、まぁいいか」

 腰に手を当てて、射撃準備を終えた、セダクション『ディオナトラ』6✕6車上のThunderbolt-2000を見上げる。

「班長! ゴブリンの群れの多数が北門から出ました!」

 UAH-1で上空から様子を伺っていた偵察班員が、そう言った。

「了解、全力射撃、撃てッ!!」

 ────────ドッ

 

『全隊、前進停止! エクスプレッセスティ軍の射撃に巻き込まれるぞ。遊撃兵は引き続き、城塞内の掃討を行え!!』

 アジズが、トーパ騎士団にそう下令した、その次の瞬間────

 ドッバ────

 味方であるトーパ騎士団のパイク兵ですら、その一瞬、時間がやたらゆっくりと流れているかのように感じた。

 ドバッ、バッ、バッ、ババババッ

 Thunderbolt-2000のMk45ロケットが着弾する。高威力榴弾が撒き散らす鉄球が、ゴブリンを容易く引き裂き、破砕していく。

 12発の着弾の爆煙が晴れたあと、そこにゴブリンは────()()()()()()()()()が、わずかに確認できるだけだった。

 ──な、何という破壊力だ……

 アジズは、DPMやM1500の威力は知っていたが、そこからさらに80年後の軍隊が装備している兵器の威力に、慄きさえしていた。

 ──これならば……エクスプレッセスティ軍ならば、魔王をも倒せるかも知れない……

 ズシン……ズシン……

「!?」

 パイク兵が立ち尽くしてしまっていると、眼前の森の方から、地響きのような何かが聞こえてくる。

「こ、これは……まさか、この()()は……────!!」

 パイク兵が、次々呟いた時、その眼前の森から、幾体もの、巨体の異形が姿を表した。

 その殆どが、豚のような頭部を持つオーク。だが、それを率いるかのように、北門の正面から、ひときわ巨大な、体毛に覆われた大男が現れた。

「ぶっ、ブルーオーガだ!!」

 流石に、伝説の魔獣を目の前にして、パイク兵の間に動揺が走る。

「歩兵1分隊より各局、北門前にブルーオーガとオークの集団が出現!」

 ナイアラは無線でそう伝えるが、なまじトーパ騎士団歩兵隊が密集陣形をとっていたために、その集団に遮られて、前に出ることが出来ない。

 しかも、BTR-4SEは、夜間の警戒にあたっていたため、2両とも給油の為にトルメス南側の広場に下がってしまっていた。

「この、ニンゲンどもめ、魔王様にまだ逆らうかっ!!」

 ブルーオーガが、巨大モーニングスターを持ち、オークとともに北門に突進してくる。

「うわっ、うわぁぁぁっ!!」

 パイク兵に動揺が走り、一部は思わず逃げようとしてしまい、騎士団歩兵隊に混乱が生じる。

 だが、次の瞬間。

 タタタタタタタタ……

 横薙ぎのそれによって、オークが血飛沫を上げ、バタバタと倒れていく。

「!?」

 ブルーオーガは、自分達から見て右手の方向、東の方角を向いた。

「この感触……本当に“太陽神の使者”……」

 ブルーオーガは、視線の先に、濃緑色の衣装に身を包んだ、複数の人間の女がいるのを見つけた。

「うっわ……“魔法”っぽいものを使った様子もないし、 .243WSSMが効かないって、どういう()()()()なのよ……」

 “太陽神の使者”が持っていた“魔杖”、それに似たモノを振り回しながら、何か言い合っている。

 そして、自身の中で、ある結論に行き着いた。

「おのれ! “太陽神の使者”! レッドオーガをやったのはおマエらだな!!」

 ブルーオーガは、名前に反してその顔が赤く見える程、怒髪天の勢いで憤る。

「“鉄の地竜”さえなければ、お前らなどーッ!!」

 ブルーオーガが、モーニングスターを振りかぶろうとした瞬間だった。

コルサル(RK-3)、撃てッ!!」

 カロリーネが下令した瞬間、部下の隊員が抱えていた操作端末の発射釦が押される。既に設置されていた、三脚式発射機から、RK-3 107mm対戦車ミサイルが発射される。

「!?」

 ブルーオーガが、三脚型の魔導具のようなものから、何かが飛び出した、と思った次の瞬間────

 ゴワァアァァァッ!!

 ブルーオーガの上腹部にRK-3の弾体が命中した瞬間、その反対側の背部から槍の様に炎が吹き出したかと思うと、その次の瞬間、ブルーオーガの身体が破裂するようにして、火球が発生し、そして霧散した。

「…………」

「…………」

 眼の前で何が起きたのか、トーパ騎士団の兵には理解できないでいる中、カロリーネ分隊の隊員達が、ブルーオーガが最後に立っていた場所まで歩いてくる。

 傍らに、破壊され一部が熱で溶け落ちた、モーニングスターの僅かな残骸がある他は、その場に何もなかったような、ただ円形状に積雪がなくなり、焦げた跡のある地面があった。

 カロリーナは、部下の隊員達とそれを見ながら、胸元の無線のPTTスイッチを押す。

「19TR、こちら歩兵2分隊。ブルーオーガとオークの群れを殲滅した」

『19TR了解。OUT』

 無線でクロエに報告した後、ふぅ、と、カロリーナは小さくため息を()く。

「タンデムHEATで木っ端微塵になる生き物か……まだ信じられないけど、なんにせよ良かったわ……この世界では私達の常識が通用しないから……」

 わずかに緊張感を残した様子で、カロリーナはそう言った。

「カロリーナ」

「ナイアラ」

 トーパ騎士団隊員のパニックがなくなり、ナイアラがカロリーナに声をかけながら、アジズ、それにモアも加わって、ともに北門から出てきた。

「聞いてはいましたが、とんでもない破壊力ですな」

「ええ……50トン級の戦車を破壊するための兵器ですからね……むしろ、こんなものでないと倒せない存在に少し、ゾッとしましたよ」

 アジズの言葉に、カロリーナはそう答え、2人共が、ブルーオーガが()()()()()()()()()()に視線を向けた。

 ──あんな僅かな仕掛けで────

 モアは、RK-3の発射機を見て、声に出さず呟きながら、視線を焦げた地面に向ける。

 ──大地を焦がすほどの威力、やはり、エクスプレッセスティは……────

「レッドオーガ、ブルーオーガは片付きました」

 モアを他所に、カロリーナが言う。

「となると、後は……────」

「ええ────」

 アジズの言葉に、2人は顔を見合わせ、頷いた。

「────魔王がどう出るか」

 




蛇足をば……
ユキとクロエは2人共、単一性の女性です。


原作ではトーパやクワ・トイネのような国って、夜間の照明事情はどうなっているんでしょうかね。


評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2

2人のマコト、どちらかを改名すべき?

  • した方が良い
  • 同名なんてよくあること、そのままで良し
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。