「レッドオーガに、ブルーオーガをも屠るとは……」
地峡近くの、トルメスを見下ろせる丘。
魔王は苛立ちを隠さない様子だったが、忠実な部下2人を失ったという嘆きの様子は感じられない。もっとも、目を覆い隠しているため、表情は完全には読み取れなかったが。
「────トーパの民どもめ……侮れば過去の轍を踏むか」
魔王は、そう言って少しの間、逡巡するかの様子を見せた。
背後には手勢のオークが集まってきている。
「オークよ、人間狩りの準備をせよ」
魔王がそう言うと、
「ふごふご」
「ぴぎー」
と、オーク自身は、言葉を発することはなかったが、魔王の発言を認識したかのように、棍棒やトーパ騎士団から奪った武具を持ち、進撃の準備を整えた。
すると、魔王は、祈りを捧げるようなポーズを取る。
生と死の傍らで誓いの言葉を示す
胎動せよ
黙すなかれ 狂気に笑え
万物の
「
魔王の詠唱に
その最中に、キャンプしていたゴブリンが巻き込まれていたが、魔王がそれを意に介した様子はなかった。
「? なんか変な音が聞こえない?」
トーパの騎士団や住民とともに、エクスプレッセスティ軍の部隊が、ミナイサ地区を含む奪還したトルメス北部地区の片付けを手伝っていると、クロエがそう言って、北門の方を向いた。
「え? エンジンの音じゃないですか?」
傍らにいたカロリーナが、不思議そうな表情をして、クロエに聞き返した。
だが────
「な────」
魔王軍の再襲来に備えて、北門付近の城壁の上に立っていたトーパ騎士団の兵が、エクスプレッセスティ製の双眼鏡でそれを見て、一瞬絶句する。
「何だあれは!!!?」
ズーン……ズーン……ズーン……
双眼鏡の中で、トルメスに近づいてくるそれは、やがて肉眼でも見ることができる位置まで接近してきた。
「いや、やっぱ揺れてるよこれ! 地震!?」
クロエがそう言った時、息せき切って、モアとガイがクロエ達のところに駆けてきた。
「クロエさん!!」
ガイが声を上げる。
「巨大なゴーレムがこっちへ向かってきているんだ!!」
「ゴーレム!? ゴーレムって人造のシロモノですか?」
ガイの言葉に、クロエは、驚いて目を見開きながら、そう問い返した。
「そうです!」
モアが言う。
「おそらく魔王が、古代魔法帝国の術で作り上げたものだと思います!!」
「古代魔法帝国────」
クロエは、ロウリア戦の記録に度々出てきたその単語を聞いて、一瞬、逡巡しかけるが、
「──と、今はそれどころじゃない!!」
そう言って、自身の胸元に手を伸ばし、無線のPTTスイッチを押す。
「クロエより各局。敵巨大兵器がこちらへ向かってきている。総員北門の外側に集結せよ。輸送隊以外の車両は門の外に出ろ! OVER」
『ナイアラ了解』
無線に、ナイアラを始めとして、各兵科の指揮者からの返答がくる。
クロエは、一通りの返答を受けた後、再度PTTスイッチを押す。
「これからモア氏、ガイ氏が北門に向かう。アヴィーンはモア氏と合流してゴーレムを確認せよ!!」
『アヴィーン了解、OVER』
「以上、OUT」
無線での通話を終えてから、クロエは、モアとガイに視線を向ける。
「今言った通りです。モアさん、ガイさん、アヴィーンを北門に向かわせたので、合流して観測してください!」
「了解です!」
モアはそう言ったのだが、
「クロエさん、俺もアンタと一緒に連れて行ってくれないか!? アンタ達の戦いを間近で見ておきたいんだ!?」
と、戦車に乗り込むために踵を返しかけたクロエに、ガイがそう言った。
クロエは、一旦動きを止めて、ガイを振り返った。その真摯な表情を見て、僅かに逡巡してから、
「1号車は定員いっぱいです。2号車でもよろしければ」
と、ガイに問い返すように言う。
「あ、ああ、それでも構わない」
ガイの返答に対し、クロエはさらに、
「他国の人間を自国の戦車に載せたとか、他言無用に願いますよ、モアさんも」
と、そう言った。
「解りました!」
「恩に着るぜ!」
クロエの口止めの言葉に、モアが了解の言葉を発し、ガイの表情が綻んだ。
「19TR、総員乗車!」
「連隊長以外はもう乗ってます!」
「悪い! あと、2号車にゲストを乗せる。操縦助手席に押し込んどいて」
そう言って、クロエはT-64-120の1号車に飛び乗った。
以前にも説明したが、エクスプレッセスティ軍の戦車の“操縦助手”は、ウクライナの技術者が分解整備してもトランスミッションの固渋が一定の確率で発生するT-54-120の乗車チームで、それが発生した時にハンマーでギアを抜く役だが、T-64-120は三菱製V6エンジンを搭載する関係でT-62の廃車発生品の、シフトリンケージに空気倍力装置が装着されたトランスミッションに換装しているのだが、“操縦助手席”は設けられている。
だが、ベースの車格がT-64の方が大きいにも関わらず、最初から自動装填装置付のT-64は元々装填手席がなかったところへ、自動装填装置が砲塔後部に移ったスペースを活用したもので、扱う人間が女性である事を前提にして追加しているため、ガイのような長身の男性には少々きつい。
1号車では、本来の車長が操縦助手席に座っていた。
「気をつけて」
「大丈夫だ、この程度なら、鍛えているからな」
2号車の車長がガイに声をかけると、ガイは、そう言いながら、身軽に2号車に飛び乗った。
「ちょっと狭いですが、我慢してください」
ガイがハッチから乗り込む際、隣の操縦手がそう言った。
『戦車分隊、北門へ向けて前進!』
「了解」
クロエの無線越しの言葉に、2号車も、クロエの乗り込んだ1号車に続いて発進する。
一方────
半壊した北門の、監視塔の階段の前で、アヴィーンとモアが合流する。
「こちらです、アヴィーンさん!」
そう言って、モアの先導で城壁の上に
「アレです!」
モアが指差した時、既にゴーレムは肉眼でも充分に確認できるところまで迫ってきていた。
「まさにゴーレムだわ……白◯のナーガのそれみたい」
「白蛇の◯ーガ? エクスプレッセスティにもゴーレムを作る秘術が!?」
呆れたような様子で言うアヴィーンに対し、モアが驚いたように聞き返す。
「あ、それは創作の人物よ。でも確か、日本やアメリカには、もう造る技術があったのよね。兵器として実戦投入できる程の能力はなかったけど」
そんな無駄口を叩いている間にも、ゴーレムは確実に接近してくる。
「Thunderbolt-2000は使えないのですか!?」
「あれは、ソフトスキン目標を面制圧するものなのよ、直撃させれば多少はダメージは入るかも知れないけど……」
モアの問いに、アヴィーンは、ゴーレムを険しい顔で見ながら、そう言った。
「ならば、我々の出番のようだな」
そう言う声が、アヴィーンやモアから見て、破壊された北門を挟んで反対側から聞こえてきた。
そこには、5人の、フード付きローブと装飾の付いた
「王宮魔導師団・戦闘魔導師隊!!」
モアが、その集団を見てそう言った。
「驚くほどの実力者なんですか?」
アヴィーンがモアに訊ねると、モアが答える。
「はい。血縁によるものではないですが、代々、四勇者の1人、魔女ルーサの技術を受け継ぐと言われている人達です」
…………いや、そんな集団いるならとっとと出てこいよ、と思われるかも知れないが、それはエクスプレッセスティ軍がThunderbolt-2000をミナイサ地区に直接ブチ込む訳にはいかなかったのと同じだ。かと言って、接近戦は彼らの本業ではない。これも、自走砲が少数の敵相手なら自衛できても、本格的な戦車部隊の射程内に入られたら勝てないのと同じである。
「詠唱を始めよ!」
団長が言い、5人が一斉に杖を掲げ、詠唱を始めた。
「! 魔導師隊が大魔法を使います、接近されると巻き込むかと!!」
「あ、そうか」
モアに言われて、アヴィーンは慌てて無線のPTTスイッチに手を伸ばす。
「アヴィーンより各局、トーパの魔導師隊が大魔法を使う、前進待て!」
『19TRクロエ了解。各分隊、現在地点で停止せよ! OVER』
アヴィーンの無線にクロエ達が答えている間にも、魔導師団は詠唱を始めていた。
大海より
単一の存在にして 大地を覆う者
声なき声が 大地を穿つ
貪食の偉大なる者に供物を捧げよ
「ライトニングテンペスト!!」
ゴォオォォォッ
雷光といくつもの竜巻のような渦を伴う嵐が、一瞬、ゴーレムを包み込んだ。
「凄いわね……まるで台風だわ……」
T-64-120の車長ハッチから身を乗り出しながら、クロエが息を呑む。
エクスプレッセスティ軍人も、トーパの民も、一時、その光景に見とれた。
「魔王め、我らの魔力、思い知れ!」
魔導師隊長が、ゴーレムの方を睨みながら、そう言った。
────だが。
「あ、これダメだ」
クロエがそう言った。
果たして、ゴーレムはその嵐を物ともせず、なおも接近してくる。
「ば、ばかな……」
「わ、私達の最高奥義が……」
自失した魔導師隊は、その杖を取り落としてしまう。
「当然よ、これ、うちらの
モアの傍らで、アヴィーンが言う。
「魔力で
ゴーレムの左肩に乗っていた魔王は、そう言うと、指を差し出す。すると、その指先に、渦巻くような濁った火球が出現する。
詩を紡ぎ 静寂を迎えよ
汝、福音をもたらす時 灰燼は土に舞う
極彩喰いて影落とすべし
照らせ我が使者 空の彼方はま────
「対空!!」
ドバァアァァァッン!!
魔王の詠唱とともに、膨らみながら魔導師隊に近づいてきていた火球が、突然大爆発を起こした。それは爆風と熱波を放ったが、ヒトの行動を阻む程のものではなかった。
「なん……だと……」
魔王が一瞬、呆然とする。
「我が魔導を破壊するとは……そんな事、人間にできるはずが……────」
北門の外側前に陣取っていた、2両の2K015自走高射機関砲が、連装のT75 20mmリボルバーカノンを上空に向けている。そして、そのガン・ミサイルコンプレックス砲塔に装備された連装2基の『ミストラル』近SAMのうち、2両とも2発ずつ発射していた。
「こちらクロエ、2号車、車長の判断で戦闘行動を開始せよ」
クロエは、まず無線でそう言ってから、自車に下令する。
「前進! ゴーレムを破壊する!!」
ディーゼルエンジンの咆哮とともに、2両の戦車が前進を始める。
『城門を死守しろ! 魔王軍を市内に入れるな!!』
トラメガで、アジズが騎士団に下令する。
「ですが隊長、あのゴーレムに来られたら、持ちこたえられません!!」
遊撃兵長が、アジズにそう訊ねる。
「泣き言は聞かんぞ! ゴブリン如きの群れぐらい、俺たちだけで退けずにどうする!!」
アジズは、そう言いながら、トラメガを一旦下ろすと、自らも抜剣した。
『アジズ隊長、ゴーレムは私達に任せてください。その代わり、その間ゴブリンやらオークやらは、騎士団の方で凌いで頂きたい』
アヴィーンは先程、クロエから無線で伝えられたその内容を、アジズに伝えていた。
「伝説の魔獣を一撃で屠った彼女らが言ってのけたのだ!! その言葉になら命を賭けるに値するッ」
アジズは言い、陣頭で指揮をとるために、パイク兵より前に出る。
「ふ、“女だけの軍隊”に守られてそれだけでは、トーパ戦闘魔導師隊の名が廃るわ!!」
魔導師隊長は、そう言って、杖を掲げる。
「大地を穿て、サンダーストーム!!」
「邪なるものを滅却せよ、フレイムレイン!!」
「敵を引き裂け、ウィンドカッター!!」
戦闘魔導師隊が放つ攻撃魔法が、特にオークが目立つ場所に撃ち込まれ、魔王軍を屠っていく。
一方────
「なんて大きさよ、まるでモビルスーツね」
「車長、私はレイバー派です」
T-64-120の2号車で、そんな会話が交わされていた。
「なんだよそれ?」
ガイが、不思議そうに、車内インカムのマイクで訊ねた。
「いや、アニメに出てくる創作の存在よ」
2号車々長は、苦笑しながらそう言った。
「でも、基本構成だけならもう造る技術がある国もあったわ。まだ軍用としては投入できる段階ではなかったけど」
「本当か!? スゲぇな……」
車長が表情を引き締めながらそう言うと、ガイは目を
1号車────
「
「
「じゃあ、弾種
「了解!」
パネル型の照準器ディスプレイを覗きながら、そこに“Lock”の表示が出た瞬間、トリガーボタンを押した。
ドゥッ!!
グワァッ!!
クロエ車の放った120mmAPFSDS弾が、ゴーレムの頭のやや右下に命中し、打ち砕いた。
「さーすがクロエさん達、スラロームショットでも一撃必中ね!」
ゴーレムの動きを観察する為、モアを乗せて前線に出てきたデリカの車内で、助手席のアヴィーンが感心したように言う。
だが────
頭部がなくなったゴーレムは、しかし、歩行速度を減じることもなく、前進していく。
「うーん、アタマ吹っ飛んだだけじゃ止まらない……か」
クロエがハッチから身を乗り出しつつ、戯けの混じった苦い顔でそう言った。
「こちらクロエ、アヴィーン、とれてる?」
無線のPTTスイッチを押しながら、クロエが訊ねる。
『
「モア氏にゴーレムの致命的な部分を教えて貰って」
『今やってます! モア氏が文献を調べているところ!』
「了解、できるだけ急いで! OUT!!」
一方で、魔王は着弾の寸前にゴーレムから離れ、直立して腕を組んだ状態で空中に浮かんでいた。
「少々肝を冷やしたぞ……何と言うエネルギー量だ。人間如きが扱えるはずが……────」
そこまで言った時、魔王の視界に、ゴーレムを妨害するように走る2両のT-64-120が見えた。
「鋼鉄の地竜!?」
魔王の脳裏に、彼にとってはこれ以上ない忌まわしい過去が蘇る。
「知っているぞッ! ────貴様ッ、知っているぞ!!」
大地を走り、強力な
──忘れるわけが────
一撃で、ゴブリンやオークの群れを薙ぎ払う、筒型の
──忘れるわけがないッ!!
大地を焼き、上位竜の群れを破壊する空飛ぶ船────
──あの時の恐怖、人間如きに与えられた屈辱ッ!!
海棲魔獣を絶滅寸前に追い込んだ、海を行く巨大な鉄鋼の船────
──忘れるわけがあるものかッ!!
「太陽神の使者ッ!!」
2人のマコト、どちらかを改名すべき?
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した方が良い
-
同名なんてよくあること、そのままで良し