フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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神話の正体に迫れるか……?

「なんということだ……────」

 ゴーレムの周辺を走り回るエクスプレッセスティ軍の装甲車両を見て、魔王が呟くように言う。

「──この時代にも太陽神の使者が……既に!」

 魔王は忌々しげにそう言うと、

「ええい、ゴーレムよ、あの地竜を踏み潰せ!」

 と、ゴーレムに、T-64-120を踏み潰すように指示した。

「モアに言ってくれ! あいつならゴーレムの弱点も解るはずだ!」

 T-64-120の車内で、ガイが言う。

「もう、今調べてもらってるところ!」

 車長がそう言った。

 そのモアは、デリカのセカンドシートで、古代魔法の史料書を調べていた。しかし、オープントップではないとは言え、ビスカス式フルタイム4WDで荒れ地を走る車内は揺れ、モアの視線を邪魔する。

「早く……早くゴーレムを倒してくれ!」

 北門の近くで、自ら剣を振るっていたアジズは、そう呟いて焦りつつも、

「我が騎士団よ、持ちこたえろッ!! 魔獣を1匹たりとも市内に入れるな!!」

 と、騎士団歩兵隊に檄を飛ばす。

 幸い、オークのほとんどは魔導師隊によって潰されている。ゴブリンだけなら、トーパ騎士団の敵ではなかった。

 その時、ゴーレムが、トルメスに至る直線から向きを変えた。

「隊長ッ、ゴーレムが向きを変えました!!」

 アジズの傍らで剣を振るっていた遊撃兵長が、それを見てそう言った。

「なんだとッ!?」

 アジズは驚きの声を挙げつつも、身体は反射的にゴブリンを斬り捨てていた。

「あった! これだ!!」

 デリカのセカンドシートで、モアが声を上げる。

「エンシェントゴーレム……動力コア……これで正しいはずだ! アーヴィンさん、胸です、胸部に魔導コアが存在しています!」

 モアが言うと、隣に乗っていたアーヴィンがPTTスイッチを入れる。

「アーヴィンより各局、胸部に動力源があるとのこと! OVER」

『クロエ了解!』

 クロエは無線に答えると、

「停止! 弾種HEAT! 確実に狙え!!」

「了解!」

 照準器のディスプレイパネル内で、照準リングがゴーレムの胸部を捉えた瞬間、トリガーボタンを押した。

 ドゥ……ン!!

 クロエの乗るT-64-120の、KBM-2 120mm滑腔砲が火を吹いた。

 着弾からほんの一瞬だけおいて、ゴーレムの胴体が膨張するように見えたかと思うと、メタルジェットに射抜かれたコアが破裂し、その内包するエネルギーが熱と衝撃波となり、閃光を伴ってゴーレムの胴が砕け散った。

 残された腕や下半身も、保持するエネルギーを失って崩れていく。

「気をつけてくれ、まだ魔王が近くにいるはずだ!」

 2号車の車内で、ガイが車内インカムで声を上げる。

「いた!」

 身を乗り出した2号車々長が、魔王の姿を発見する。

「AAV!!」

 車長が無線でそう怒鳴ると、2K015の1両が20mmリボルバーカノンを射撃しつつ、『ミストラル』対空ミサイルを発射する。

「ぬぅっ!?」

 魔王は、光の板のようなシールドで20mmAPDS弾を弾き返すが、そこへ『ミストラル』に追加で襲いかかられ、爆風で、トーパの早い雪の積もる大地に叩きつけられた。

「おのれ……」

 だが、それを受けて尚、魔王は立ち上がる。

「おのれおのれおのれおのれ!! 我を本気で怒らせたな!?」

 魔王は、先程魔導師隊を攻撃したときのように、エクスプレッセスティ軍部隊に光を帯びた指を向ける。

「全車、射撃自由! 可能な限り叩き込め!!」

 クロエが、無線で怒鳴るような声を出す。

 ドガガガガガガ……

 ゴブリンやオークがあらかた片付いた城門前を離れ、合流してきたBTR-4SE、2K015が、20mmリボルバーカノンを魔王に向かって射撃する。

 魔王は攻撃を中断して、防御シールドを展開しなければならなかった。

「ぬぉぉぉッ!? この我が魔力を防御にしか使えんだと!?」

 BTR-4SEが発射したRK-3対戦車ミサイルと40mmグレネードが命中し、光のシールドが霧散する。

「“太陽神の使者” ……此奴等は必ず魔帝様に刃を向けるだろう……」

「停止! 弾種APFSDS!!」

 T-64-120の2号車が、停止し、120mm滑腔砲を魔王に向ける。

「そのような不敬、決してさせぬぞ! 我が命燃え尽きようとも…………!!」

「撃てッ」

 ドンッ!!

 2号車の120mm砲が火を吹いた。

「はぁあぁぁぁぁっ!!」

 魔王は光のシールドを展開し、120mm砲弾を受け止める。

「な!?」

 アーヴィンが驚愕のあまり、短く声を出した。モアもそれが驚くようなものだと悟り、唖然とそれを見る。彼女たちは、着弾したAPFSDS弾の装弾筒と被帽が外れるところが、視覚できるという常識外れの光景を目撃する。

 だが、 ────

 ピシッ、ビシッ!!

 ────銛状のAPFSDS弾体が、己の前進する力で膨らむように変形しかけたかと思うと、魔王のシールドにヒビが入り、それはついに────

 ガッシャァアァァァン!!

 光の盾は粉砕され、魔王の肉体をAPFSDS弾が貫いた。魔王の胸が粉砕されて消失する。

「よし……ッ」

 クロエもハッチから身を乗り出しながら、落下した魔王の首を見て、口元で笑みをつくった。

 ────ところが。

 フワ……ユラ~リ

「!!!?」

 その光景に、クロエは僅かな絶望感が混じった驚愕の表情になる。

 胴体と泣き別れになったはずの魔王の首が、空中に浮かび上がった。

「太陽神の使者よ……────」

 魔王は、クロエの1号車の正面に浮かびながら、語りかける。

「我を(めっ)しようとも未来は変わらぬ。“(ラヴァ)(ーナル)帝国”はこの世界に戻ってくる。 ……貴様らが下等種の守護者を気取り、魔帝様に仇なすならば、必ずや後悔する結末となるぞ……ふはははは…………」

 そこまで言うと、魔王の首は、崩壊し塵となっていく。

「わはははッ……は━━━━はははッ、はははは…………」

 その最後が消え去るまで、魔王の哄笑は続いていた。

「…………倒した……魔王を倒した……のか……」

 ガイは、乗降ハッチから身を乗り出し、その光景を半ば唖然として見ながら、ようやく絞り出したような声で呟いた。

「……“太陽神の使者”だの“魔法帝国”だの、よく解らないけど、もしそんな国が復活するのだとしたら……桃太郎の鬼退治でめでたしめでたしとは行かないようね……」

 クロエはそう言いつつも、とりあえずは一段落、と、軽く安堵のため息を()いた。

『クロエ取れてる? こちらカロリーナ』

 無線から、カロリーナの声が聞こえてきた。

「ええ、全員無事?」

『歩兵2分隊は。それより、報告書どうします?』

 クロエが聞き返すと、カロリーナはそう言いつつ、さらに問いかけてきた。

「あ━━━━……どうしよう。いくらエクスプ()レッセス()ティのスチャラカ政府と言ってもこんな御伽話みたいなこと、軽々に信じないわよね…………」

 クロエはそう言って、カクン、と首を横に傾けた。

 

 

「悪いけど、ある程度の知性を持ちながら人間を狩って食べるような害獣となると解っている以上、はいそうですかと帰すわけに行かないのよね」

 魔王の念動波による制御から解け、ゴブリンやオークなどの魔獣が、帰巣本能でグラメウス大陸に戻ろうとする、その地峡の沿岸。

「ロケ砲発射!!」

 強襲揚陸艦アムビリーナが、上陸前の制圧射撃に使うThunderbolt-2000を、ゴブリンやオークの群れが通過する地峡に撃ち込んだ。

 ドン、ドン、ドン、ドンッ……!!

 フリゲートのエンパワメントが、57mm砲を叩き込み、地峡の“世界の扉”を通過してグラメウス大陸側に入った魔獣の群れを、殲滅していった。

 

 

 ────その夜。

「…………」

 ガイが、騎士団の小会議室の前で、やきもきとした様子で立ち尽くしている。

 その室内では、モアとクロエが話し合っていた。

「わざわざお時間をとらせて申し訳ありません。実は、“太陽神の使者”について、お伺いしたいのです」

 真剣な表情で、モアがそう切り出した。

「それは構いませんが……エク()スプレッ()セスティ()としてもそう言われるばかりで、正直、私達がそう呼ばれるのか、解らないんですよ」

 クロエは、困ったような表情で、そう答える。

「私達の装備品が、“太陽神の使者”が使っていたものと酷似している、というところまでは解るのですが、そもそもトーパ神話の起源って数万年単位の過去だと訊いています。その頃、地球────私達のいた世界には、まだ今の私達に繋がる文明自体が生まれていないんですよ」

「その事なんですが────」

 クロエの言葉に、モアが言う。

「──太陽神による召喚は、時間の概念を超越していると、四勇者の1人、魔女ルーサの記述という形で残っているのです」

「!」

 それを訊いて、クロエが少しだけ驚いたように、一瞬軽く目を見開いた。

「つまり、この世界と、地球での時間の経過は、必ずしも一致していないということですか?」

「そう言うことになります」

 クロエが聞き返すと、モアがはっきりとそう答えた。

「う━━━━ん、それでも我が国に関係する事ではないと思います。我が国は建国して35年ほどの若い国、過去にそのような事があれば、いくらなんでも隠しておけるワケがないんですよね……ひょっとしたら、我が国が地球に戻り、その未来から召喚された、という可能性だけは考えられますが……」

「そうですか……実は私は大学では古文書研究を専攻していまして、ひょっとしたら手がかりがつかめると思ったのですが……」

 クロエの答えに、モアは、少しだけがっかりした様子でそう言った。

「お力になれず────」

 クロエはそう言いかけたところで、()()()に思い至り、言葉を途切れさせてから、一瞬おいて、モアを見据えるようにして、言う。

「──その、太陽神の使者は、()()()()()()()()()()()()、解りますか?」

「それは、太陽神が召喚したから、という理由のはずですが」

 クロエの逆質問に、モアは、軽く面食らったような表情をしながら、そう答えた。

「ではこう言いましょう。“太陽神の使者”は、“白地に紅い太陽”か“青地に白い太陽”の紋章を持っていませんでしたか?」

「!!」

 クロエの再度の質問に、モアが声を出さずに驚愕の表情になる。

「そ、その通りです! 太陽神の使者の紋章は、“()()()()()()()”です!!」

「成る程……」

「な、何か解るのですか!?」

 興奮するモアに対して、クロエは、まずモアに、

「落ち着いてください。少し説明が長くなってしまいますが────」

 と、切り出した。

「先程も言いましたが、我がエクスプレッセスティ共和国は、建国35年程度の新しい国。その為に、短期間で今の国力を形成するため、元の世界の先進国から多大な援助を受けました。特に、私達が苦しかった時期に多大な援助をしてくれた“()()()()()3()()()()()”と呼ばれる3ヶ国があります……────日本国、中華民国、ウクライナ。そのうち、“白地に紅い太陽”の紋章は、日本国のものなのです」

「! 日本国────」

 モアは、その言葉を聞き、反芻するように呟いてから、言葉を失ったかのようにクロエの顔を見る。

「我々の元の世界でもっとも先進的な国のひとつです。もし、“太陽神の使者”が、地球の過去、あるいは未来から召喚されたのだとすれば、それは日本で間違いないでしょう」

 

 

 ────数週間後、エクスプレッセスティ、首都エムブラセクス。

「あー……また今日も国防省から聞き取り……めんどくさいなー」

「ま、思う存分暴れてきたんだからいいじゃない。私なんか直接参加していないのに呼ばれるんだよ?」

 怠そうにぼやきながら歩くクロエに、その隣を歩くユキ・マデリーン・サイトウ陸軍中佐が、片眉が少しつり上がった苦笑を向けながら言う。

 クロエとユキは、エクスプレッセスティ国防大学の先輩後輩の頃からの友人関係で、ユキの方が歳も階級も下だが、今では普段は敬語も使わない仲だった。

「それはアンタもロウリアで暴れまくったからでしょーが。トーパでも有名だったわよアンタ。 “四勇者の1人キージの生まれ変わり”ってね」

「うへぇ……なんかこれからはどこ行っても同じこと言われそ」

「覚悟しときなね」

 今度は逆にうんざりしたような表情になるユキに、クロエが意地悪そうな苦笑を浮かべてそう言った。

 そうして、国防省への道を歩いていく。エクスプレッセスティは今日も平和────と、手放しで言える状況ではなかったが、真ん前の首都圏近郊鉄道線の踏切を、元京急700形・800形を組み込んだ303系(元・相模鉄道新6000系。増結車に旧6000系含む)が駆けていき、それなりの自家用車と、小型トラックが道路を走っていて、トロリーバスのバス停で人が次のバスを待っている、という、とりあえずいつもの見慣れたエムブラセクスの風景だ。

「ご苦労さまです、クロエ大佐」

「ああ、ご苦労様……」

 “国防省前”トロリーバス停を行き過ぎたあたりで、男性に声をかけられた。

 クロエが適当に返しながら、通り過ぎようとしたが、ユキが立ち止まった。

「あれ? どっかの国の外交官?」

「いいえ、外交官というわけではないのですが、在エクスプレッセスティ・トーパ王国大使館付きの武官として赴任しました!」

 そこまで聞いて、ようやくクロエもそちらを向く。

「が、ガイさん!?」

 クロエが目を白黒させる。

「知り合い?」

「う、うん、トーパ王国の傭兵で……で、でも正式に騎士団に入るって言ってなかった?」

 ユキの問いかけに、クロエは、ガイを指差してしまいながら、唖然としたような表情で訊ねる。

「はい、なので、在エクスプレッセスティ大使館付武官に志願しました」

 ガイは、丁寧語で話す自分に、まだどこか照れくさそうな様子を見せながら、そう言った。

「この国で女性につい……あっ、じゃなくて、俺も見聞を広めようかと思いまして!」

 答えるガイと、唖然としているクロエとを交互に見て、ユキが何かを悟ったように、ニヤッと笑った。

 それに気付いているのかいないのか、笑顔のガイが言う。

「職業軍人の先輩として、機会があればご指導ご鞭撻ってやつをお願いしますよ、クロエ大佐」

 





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