特に“鉄”分薄めの方にはちょっと面白くない内容かも知れません(汗
ミズポワーベルク旅行奇譚 Part.I
『当機はまもなく着陸態勢に入ります。お客様は一旦席にお戻り頂き、シートベルトの着用をお願い致します』
エクスプレッセスティのフラッグキャリアでもある、国営エクスタクス・エア(“Ecstasex Air”)のアントノフAn-12/2100が、エムブラセクス空軍基地の軍民共用滑走路への着陸体制に入る。
以前にも何度か触れたが、エクスプレッセスティは元アフリカ大陸というイメージに反して、大部分が降水の多い湿地帯が干上がって形成された土壌である為、大規模な空軍基地や国際空港に適した土地があまりない。例外的にガス田地帯は確りした地盤があるが、下手なところボーリングするとウェットガス(一般的に空気より軽いメタンが主成分の天然ガスに対し、エクスプレッセスティのガス田はエタンを主成分にプロパン、ブタン、イソブタンがほとんどを占める空気より重いガスであるため、通常の天然ガスが「ドライガス」と呼ばれるのに対し、「ウェットガス」と呼ばれる)が湧出して愉快なことになるため、地質調査の上で高層ビルは建てられても、滑走路となるとガス湧出の可能性のある部分を避けて基礎杭を打ち込めずやはり建設できない。
この為、エクスプレッセスティの玄関口は、船便と、US-2飛行艇の旅客型である新明和SS-2飛行艇で
ただ、一応、首都エムブラセクスも、空軍基地の滑走路の1本を共有するかたちで、僅かだが航空便が設定されている。ただしそれでも、MiG-23、Su-22前提で建設された滑走路にボーイングやエアバスの機体が発着するのは無理があり、ExAの運用機材はYS-11とAn-12BKで始まり、2016年からAn-12BKの本格旅客型・TCAS対応バージョンであるAn-12/2100が導入され、2017年度いっぱいでYS-11は全機の定期運用が消滅し、今に至る。
転移後は当然、しばらく航空便は存在していなかったが、クワ・トイネ公都とジン・ハークに軍民共用滑走路が建設され、1日にそれぞれ出発1便・到着1便が設定されている。
「おおっ?」
車輪接地の僅かなショックの後、主車輪のブレーキとともに
「すごいな……エクスプレッセスティは……こんな巨大な機体を簡単に飛ばして、安全に着陸できるんだ……」
彼女の名はローレリ。ロウリアの調査員だった。
────調査員、と言っても、いわゆる間諜の類ではない。エクスプレッセスティの一般文化についての情報を収集する事が目的だった。
「物見遊山のつもりで行ってくれば良いぞ」
ローレリは、宰相改め筆頭大臣・首相となったマオスに、出発前にそう言われていた。
そんな感じだからして、
「あ、ローレリさんですね?」
と、同じ任務を与えられたクワ・トイネのモヤンヌと、行動をともにすることになっていた。
簡素な空港ターミナルから出ると、今到着したジン・ハーク出発便の乗客を乗せるために待機している、連接バスに乗る。エムブラセクスの航空便需要が少ないため、架線設置の必要なトロリーバスではない。
国内最大手自動車メーカー、セダクションは三菱ふそうの大型車のライセンス生産を手掛けているが、その中で例外中の例外、ベルギーのヴァンホール NewAG300のライセンス生産・右ハンドル左側乗降仕様車の連接バスだった。ただし、セダクションは商標名を三菱型の路線バス『エアロスター』に揃えて『エアロスターデュオ』としている。
空港輸送用に使われているのは、ケts……最後部にチェコ・タトラ製を原型とする空冷V8ディーゼルエンジンをブチ込んだレンジエンステンダー電気バス仕様となっている。
耳障りと言うほど煩いわけでもないが、空冷特有のやや高めの爆音が偶に車内に入り込んでくる。
「ジン・ハークでもエクスプレッセスティのトラックが珍しくなくなってきたけど、これなんか面白いね。普通、エンジンの音って加速と一緒に大きくなるものだと思ってたけど」
「ええと……」
ローレリがそう言うと、モヤンヌが、出発前に渡された、プリンタで印刷して纏めた資料をめくる。
「ああ、あった。レンジエクステンダーって言うみたいですね。基本的にはバッテリーからの電気で動いて、バッテリー残量が減るとエンジンで充電するようになってるんだそうです」
「うーん……」
モヤンヌの説明を聞いて、しかしローレリは、すこし眉を寄せるような感じで苦笑した。
「どうかしましたか?」
ローレリの態度を見て、モヤンヌは、僅かに訝しげな様子を見せながら問いかける。
「いえ、やっぱりそう言うところ、エクスプレッセスティはクワ・トイネを厚遇してるなーと……」
ローレリがそう言うと、モヤンヌも苦笑気味の笑みになる。
「でも、ロウリアにも耕作拡大用に、紫じゃがいもの種芋や、イチゴ、改良種の小麦を渡したっていうじゃないですか」
「ええ、日本国という国で開発された品種で、ロウリアの土地でも充分以上に育つ強靭さを持っているとか……」
「日本国……ですね」
2人は顔を見合わせる。
バスの車窓は、既に首都のビル群に入り始めている。
「これ程のものがつくれるエクスプレッセスティが、“転移前の世界の最先進国”って言う国って、どんな未来的な国なんでしょうね……」
「そう……ですね……」
ローレリの言葉に、モヤンヌが少し逡巡するように言う。
2人の頭に浮かんだのは、『鉄腕ア◯ム』(1980版)のような、レトロフューチャー感あふれる世界だった。
「あ、あと、エクスプレッセスティがロウリアに供与したものって、アレがあるじゃないですか」
モヤンヌが、思い出したように手を叩きながら言う。
「えっと、何かあったかな……」
ローレリが、口元に手を当てて少し考え込むようにした。すると、モヤンヌが悪戯っぽく笑って言う。
「王宮のボイラー」
「ああ!」
「ふぅ……やはり風呂は良いな……」
ジン・ハーク王宮の大浴場で、ハーク・ルセリア・ロウリア35世は、2人ほどの使用人にマッサージしてもらいながら、入浴を愉しんでいた。
ルセリアは最初、この浴室を廃止しようと考えていた。しかし、
「国王陛下にうちの製品を使っていただけると、営業がやりやすいです」
と、リンナイ・エクスプレッセスティの営業が売り込みに来たので、常時張り付いていた何人もの釜焚き夫に代わり、業務用LPGボイラーがジン・ハーク王宮に設置されたわけである。
「エクスプレッセスティの企業の益となると言うなら、そうした方がよいの」
ルセリアもそう言って、提案を受け入れた。
今のところ、東方文明圏外国────大東洋諸国エリアはエクスプレッセスティの工業製品が寡占しているが、どうも
もっとも、ジン・ハーク王宮のボイラーに関しては、
「出遅れた、くやし━━━━ッ!!」
と、国内トップシェアのリンナイ・エクスプレッセスティを輸出で出し抜こうとしていたパーパス・エクスプレッセスティやCHOFU エクスプレッセスティの営業が
そんなわけで、その主がルセリアになっても、その大浴室は残っていた。ただ、ハーク34世が大王専用としていたのが、ルセリアになってからは、王宮内の女性(単一性の女性に限る)が入浴できる時間を設けた。その為に、シャワー水栓なども多数設置されたが、こっちはこっちで、SANEI・エクスプレッセスティが一括受注したものだから、カクダイ・エクスプレッセスティの営業が、
「出遅れた、キ━━━━ッ!!」
と、こうなった。
他にルセリアになって変わったことと言えば、
「腕をマッサージいたしますね」
「うむ」
そう言って、ルセリアの腕をマッサージし始めた使用人は、全裸で入浴をともにするようになった。
「しかし……聞いていても、ホントすごいわね……」
バスをエムブラセクス南口側バスステーションで降りたローレリは、そう言って周囲を見渡す。
「そうですね……建物が大きいのは他でも見られないわけではないですが、この人の多さはそう見られませんよ。しかもそれが、連日ですからね……」
モヤンヌも言う。
クワ・トイネ公都やジン・ハークでも、収穫祭や軍祭の時には人が集まる事は多い。だが、人口270万人の商業都市エムブラセクスは、毎日がそれぐらいの人出なのだ。もっとも、それが先程彼女達の話題に浮かんでいた日本、その第3位の都市・名古屋市と同規模だと知れば、2人はどういう反応をするだろうか。
エクスプレッセスティの鉄道はICカード『ExR-touch』とプリペイド式SFカード『ExR-Card』を採用していて、紙の
「これだけでちょっとしたお城ですよね……」
「そうですね……」
ホームを跨ぐコンコースから、高架7面13線、地上5面10線の線路がズラッと並ぶのを見下ろして、ローレリが思わずそう言うと、モヤンヌも同意するように言い、2人揃ってため息を
「あ、ここですね」
モヤンヌが言う。通勤電車がひっきりなしに発着しているホームとは別に、鮮やかな赤いタイルが敷かれたホームがある。長距離特急列車の発着ホームだ。
「階段が……動いてる!?」
エスカレーターを見て、ローレリが驚愕の声を出した。
「え、エスカレーターですね……私も実物を見るのは初めてです……」
モヤンヌも、息を呑んだ様子でそう言う。
2人は、なんとかエスカレーターに乗ろうと、おっかなびっくり足を伸ばそうとしたものの、 ────とうとう、2人はエスカレーターに乗れず。
「こ、こっちの普通の階段で降りましょう」
と、モヤンヌがそう言って、2人は、周囲の人からの視線を気まずく感じながら、エスカレーターレーンの隣の階段を降りていった。
階段を降りたところには、2人の位置からは逆さまになるように、2人には読めない言葉──── “Welcome to Embracex”と書かれている。
「んー……ちょっと、煙たいですね」
「そうですね……」
ローレリが、スマートなエクスプレッセスティの都市、というイメージに反して、煙の匂いが漂っている事に、意外そうに言う。モヤンヌもそれに同意した。
そして、その煙の原因はこれから2人が乗る列車だった。
流線型の681系・671系のエナジポリス行特急『ラヴィサンセクス』、ホームを挟んで反対側に停車している、元・日本国鉄キハ181系の『ツォボトレイサー』3号だ。
都市間路線で全線電化されているのはエムブラセクスとエナジポリス間の西中央本線だけで、ミズポワーベルクとの間の東中央本線、プロパラダイセスとの間の南東本線は、郊外区間は電化されていない。
『ツォボトレイサー』はエムブラセクスとミズポワーベルクを結ぶ特急である。列車名は東のプラ連山系を水源とするツォボ川(“Tsobo River”)に由来する。この区間の特急の愛称は『ツォボフロウ』と2種類あり、『ツォボトレイサー』には6両基本編成に加えて、自転車・オートバイ輸送用のキニ2000形“サイクルカーゴ”2両が連結される。
この車両はエクスプレッセスティ国鉄開業極初期に台湾から譲渡されたDR2000形気動車で、キハ2000形として日本から譲られた他の気動車とともに使われていたが、元々762mmナローゲージだった台湾国鉄花東線用の車両を同線の改軌に際して1,067mmに変更した車両ということもあって、旅客用としては使い勝手が悪く、最初から自国向けに新製されたキハ2200形(関東鉄道キハ2200形の準同型車)、このステンレス車体版で国内組立となったキハ3200形が投入されると、3速化(直結1段・変速2段)改造済のキハ181系に追従できるように改造し、二輪車運搬用として現在の姿となった。
…………そこまでの魔改造を執行してでも使い続けようとするのは、日本製か、自国製でも日本に由来がある鉄道車両がほとんどの中、台湾から(完全な無償ではないものの)贈られた車両として台湾との関係を象徴するものだからである。
「あ、でも車内は随分快適な感じですよ」
モヤンヌが車内に入ってそう言った。
「あ、ホントだ。しっかり暖房が効いてる」
ローレリも車内に入ると、そう言った。
「ロウリアは冬もそんな寒くないですから、ローレリさんには有り難いでしょうね」
「そうなんですよ、もー……」
生まれた地の日本ではもはやレトロに分類されるキハ181系の車内設備も、スタッフによる手入れが行き届いていることもあって、2人には衛生的で先進的な設備に思えた。
「おおっ……」
国庫負担ということもあって、2人は1等車の指定席特急券が与えられていたが、2人は座席に腰掛けて、再び声を上げてしまった。
「なにこの、 ……ふわふわし過ぎてもいない、絶妙な座り心地の椅子!」
「王侯貴族でもこんな椅子、持っていないでしょうねぇ……」
ローレリとモヤンヌは、そう言いながら、自分達の座っている座席をキョロキョロと見回す。
実はこれも、新幹線200系のR31シートを廃車発生品として、車両とともに運ばれたものを、整備して2+1配置にしたものだ。もっとも、R31シートは国鉄グリーン車用座席の最高傑作と言われることもあるが。
プルルルルルル……
長い電子音の発車ベルが鳴った後、扉が閉まる。
ズゥ……ォオオオオ……
「おおっ、ぉっ……」
ディーゼルエンジンの音が響き、車両が走り出す。
その加速とエンジンの爆音を聞いて、思わずローレリは声に出してしまっていた。
クワ・トイネでは既に国内に鉄道網が発達しつつある為、モヤンヌはローレリ程には驚かなかったが、普段乗っているキハ20系と比べるとだいぶ力強いように感じた。
2人の新世界人を乗せて、『ツォボトレイサー』3号は、エムブラセクス中央駅を東に向けて出発した─────
エクスプレッセスティ国鉄 特急乗務員&アテンダント
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759222476155068801
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759222192833986957
まぁ、アテンダントさんは本来乗車しているのは『ラヴィサンセクス』の方なんですが。
『ツォボフロウ』・『ツォボトレイサー』(含む優等列車)編成図
https://twitter.com/kaonohito2/status/1797728408019128793
(2024/06/04-JST基準 改訂)
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2人のマコト、どちらかを改名すべき?
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した方が良い
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同名なんてよくあること、そのままで良し