フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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ミズポワーベルク旅行奇譚 Part.IV

 ドドドーッ!!

「おおーっ!!」

 ミズポワーベルクでの、モヤンヌとローレリの3日目。

 2人はプーラツォボ第3水力発電所の放水口を見て、声を上げていた。

 ツォボ川本流の大規模水力発電所は最初に建てられたこのプーラツォボ第1水力発電所が最もミズポワーベルクの市街地から近い。昨日訪れたプーラツォボ第2水力発電所はそこより上流側にあり、プーラツォボ第3水力発電所はその下流にある。

 貯水能力のある第2発電所から、維持流量を放出した後圧力管で第1→第3とリレーされ、第3発電所で全量が河川に戻される。

 モヤンヌとローレリは、カメラを手にすると、その放水口から霧のような飛沫を上げて流れる瀑布を撮影する。

 ツォボ川の流れは、上流の湧水域から山麓まで、清水が流れる観光名所となっている。転移前も外国人観光客が多く訪れる場所だった。自転車を積む『ツォボトレイサー』も、ミズポワーベルク市内観光だけではなく、ツォボ川を並走する自転車道をサイサンヴィルまで降りるという観光コースのためでもある。

 と、言うわけなのだが……────

「流石に寒いわね……」

 ローレリがそう言って、手や身体のあちこちを擦るようにする。

 時期は12月。元々はアフリカ大陸と言うイメージとは裏腹に、高緯度地域のため多彩な四季があるエクスプレッセスティにおいて、観光地としてのミズポワーベルクは避暑の意味が強かった。

 なので転移前は、12月は観光都市としてのミズポワーベルクの書き入れ時だった。 …………どういうことなのかと言うと、転移前は南半球だったので、12月は真夏の時期だった。それが、北半球と思われる現在の位置に転移したため、季節が半年ズレたわけである。

 そして冬の時期の今、外国、特に先進国からの観光客が途絶したこともあり、ツォボ川観光コースにはパラパラとしか人が見られない。

「そうですね……そろそろ、駅の方へ戻りましょうか……」

 ローレリの言葉に、モヤンヌが同意して、2人はレンタルサイクルに乗って、市街地の方へ向かって、引き返していった。

 

 

「なんだか、今までのエクスプレッセスティのイメージとは結構違う感じですね」

「そうですね、でも独特と言った感じは強いです」

 ローレリの言葉に、モヤンヌが同意しつつも、自身の意見を言った。

「水力発電所は圧巻でしたけど……市街地はまた、別の国っていう印象ですね」

 頭ン中真っピンクの連中が集まって出来た国だけに、日常生活から軍事に至るまで何かとセクシャル方面に繋がりがちな中、ミズポワーベルクは売春街 ──── ただし、法律による厳格な監督下にある安全で衛生的な ──── こそ、小規模ではあるが存在しているものの、全体のイメージは日本の観光街のそれが増々強い土地柄になっている。

 とは言え、それはそれで、モヤンヌとローレリにとっては()()()()()()()()の様に見えた。

 2人はエクスプレッセスティではありふれたシャープペンシルでレポートを書いている。

「ただ……ちょっと、お土産、買い過ぎちゃいましたかね……」

「…………そうですね」

 2人はそう言って、荷物の山を見た。

 あれも珍しい、これも珍しい、と、色々買っているうちに、2人共手提げの大きな紙袋4つ分の物を買ってしまっていた。

「持って帰るの……結構大変そうですね」

「ですね……」

 2人はそう言って、今から疲れたような苦笑をした。

 

 

 ミズポワーベルク駅、21:18。

 オレンジのDD31形ディーゼル機関車2両を先頭に、群青色の列車が、特急ホームに横たわっている。

 夜行特急『ムーンライト・ヴァレー』(“Moonlight Valley”)。国の玄関口であるエナジポリスと、ミズポワーベルクを直接結んでいる列車である。

 そしてその姿を見れば、特に日本人の鉄道マニアにとっては垂涎モノ、あるいは鉄道マニアではない一定以上の日本人もノスタルジーに思いを馳せるだろう。

 元・日本国鉄14系客車。重厚感のある塗装がホームの照明に照らされている。

 座席車として、日本国鉄12系に属するオハ12形が組み込まれているが、車内は元々あった固定クロスシート (ボックスシート) は撤去され、リクライニングシートに交換されている。

 基本は2等制だが、2等開放寝台は2段式が標準だが、料金を1段低くした3段式のスハネフ14形が連結されている。

「すごいですね。列車の中にベッドがあるなんて……なんだか意外です」

 2人は1等開放寝台車、プルマン式と呼ばれる寝台車で、線路方向に寝るようにベッドが配置されている。

 この他に2人用の1等・2等個室寝台車オロハネ14形が連結されているが、この車両は日本からの譲渡車ではなく新たに製造された車両だ。

「よいしょ……よっ……と……」

 下段のローレリが、一度カーテンを閉じた寝台区画内で寝間着のジャージに着替えていると、

『本日はエクスプレッセスティ国鉄をご利用いただき誠にありがとうございます』

 と、鈴を鳴らすような女性の声で、アナウンスが流れてくる。

『ご乗車の列車はエナジポリス行特急「ムーンライト・ヴァレー」号です。車内は全区間禁煙となっております。また、携帯電話等はマナーモードに設定し、通話は他のお客様の御迷惑とならないよう御配慮をお願いしております。 ──── 当列車は車内販売等ございませんが、3号車にホットスナック、清涼飲料の自動販売機がございます。是非ご利用ください。 ────まもなく発車となります』

 カシャアッ

「今の聞きました!?」

「え、ちょっ、きゃぁっ!!」

「あ、す、すみません!!」

 上段のモヤンヌが、カーテンをいきなり開いてローレリに話しかけようとして、まだ上半身が下着姿のローレリが、慌てて胸元を隠すように、身体をひねる。モヤンヌも焦りながら、慌ててカーテンを閉めた。

「も、申し訳ありません……」

「え、いえ……いいけど……」

 ローレリは、一息つくようにしてから、ジャージの上衣をさっと着込んだ。

 それから、カーテンを開き、靴を直履きしながら、

「おまたせしました、さっきのはなんですか?」

 と、カーテンを開いたままの上段を覗き込み、モヤンヌにそう問いかけた。

「あ」

 モヤンヌは、持たされた資料を読みつつ、レポートに何か追記していたが、ローレリに声をかけられると、それを下ろして、ローレリの方を向いた。

「さっき、軽食の自動販売機があるとかで」

「あー……そうですね」

 どこか好奇心旺盛そうな様子で言うモヤンヌに、ローレリは、少し微妙な表情をしつつも、腹部に手を当てて、

「まともな晩ごはん食べてないですからね……小腹がすいた感じですか」

 と、言った。

 観光がてらさんざん食べ歩きしたもので、本来の夕食時にあまり空腹感がなく、食べそびれていた。

「じゃあ、行ってみますか」

「そうしましょう」

 ローレリがそう言うと、モヤンヌは返事をしながらハシゴを降りてきた。

 3号車、はこの1等開放寝台車。オロネ14形の喫煙室を潰して、自動販売機スペースが設けられていた。

 そこにたどり着きかけた時、モヤンヌが、ふと気付いたような様子で、この車両の反対側に視線を向けた。

「どうしました?」

 ローレリが訊ねる。

「あっちの個室寝台車って言うのも、いずれ実際に体験してみたいかな、と」

「ああ……そうですね。車両の中に個室があるとか、ちょっと想像できないですし」

 モヤンヌの言葉に、ローレリが微笑み混じりにそう答えた。

 プルルルルルルル…………

 発車ベルの後、乗降扉が閉まる。

「おおっ……と」

 ローレリが声を出す。気動車や電車と異なり、密着自動連結器の為にほとんど衝動もなく、静かに走り出す。その慣性の動きに、モヤンヌとローレリは一瞬踏ん張る。

「へぇー、ハンバーガーとか売ってるんですね」

 日本で1980年代に登場した電子調理器付ハンバーガー販売機、デザイン上はそれを再現した自動販売機が、清涼飲料水の小型自販機と一緒に置かれている。

 地球でならレトロ感あふれる品物だが、モヤンヌとローレリには新鮮な物に見えた。

 メニューはハンバーガー、チーズバーガー、それにポテナゲが用意されている。

 あくまでデザインを真似ただけで、機能としては電子マネー支払い、プリペイドSFカード支払いが備わっている。 ……が、2人はそれらを持っていないので、小銭を取り出して投入する。

 エクスプレッセスティの通貨は「イーガズム」(Īgazumu / IGZ)。補助単位「フィーバー」(Fībā / fib)があり、1IGZ=100fibとなる。

 …………で、その紙幣や硬貨には、ペニスを露骨ではない形で抽象化したものが描かれていたりする。女性性を追求する国でなぜ……と思われるかも知れないが、()()()()()「安全で衛生的なフリーセックス社会」を追求するエクスプレッセスティにとって、ペニスはそれ以外の何にも勝るシンボルだからである。

 転移前はこれを持つことを恥ずかしく思う外国人旅行者が多かったが、転移後は、クワ・トイネ、ロウリア、どちらからの訪問者も()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと認識されてしまっている。

 …………まぁ、今回ミズポワーベルクだったからそうでもなかっただけで、他の主要3都市だと、純粋培養に等しいロデニウス大陸の住民がこの国のおピンク脳空間に放り込まれて、簡単に染まってしまう事が常態化していた。

 2人は調理加熱中の自動販売機を、さらにカメラで撮影した。

 モヤンヌは、チーズバーガーとポテナゲが出てきた後、その場で包を開けようとしたが、

「あ……モヤンヌさん、他に待ってる方いますよ」

 と、ローレリに指摘された。

「すみません、お待たせしました」

 ローレリの分を購入後、待っていた人の列にローレリがそう言い、2人は軽くお辞儀をした。

 2人はさらに、清涼飲料水の自動販売機で飲み物を買ってから、その場を離れた。

 自分達の区画に戻ると、それぞれカーテンを開いたベッドに腰掛けながら、包を開けてもまずバーガーにかぶりつく。

「んんー、このチーズバーガー、カフェのものと少し違いますけど、美味しいです」

「ふふ、良かったですね」

 モヤンヌの感想に、ローレリが下段から見上げながら、微笑ましそうにそう言った。

「あ、私はこれ、結構好みかも」

 ポテナゲボックスのナゲットをつまんで口に放り込み、咀嚼して飲み込んでから、ローレリはそういった。

『まもなく、サイサンヴィル、サイサンヴィルに到着いたします』

 そこで、アナウンスが聞こえてきた。

『サイサンヴィルでは機関車交換と増結のため8分間停車いたします』

「機関車交換……」

 モヤンヌは、その言葉を反芻するものの、

「見に行ってみますか?」

 ローレリが、ひょこっ、と顔を出してモヤンヌに訊ねる。

「はい、行ってみましょう!」

 モヤンヌは、そう言って、はしごを降りて靴を履き、ローレリとともにデッキの方へ向かって移動する。

 列車は減速し、サイサンヴィルのシンプルなホームに、静かに滑り込んで、停車した。

 2人はホームに降り、そのエムブラセクス側に向かった。

 連結作業が行われている傍らに、緑と赤の電池式カンテラを持った作業員が立っている。

 既に重連のDD31形が留置線に引き上げており、2等開放寝台車1両と、サイクルカーゴ1両が、ここからの牽引機であるDD51形に推進される形で、ホームに入ってくる。

 2等寝台車は本来集中電源方式 (サービス電源を電源車に集約する方式) のオハネフ25形を14系から受電できるようにしたもので、サイクルカーゴは元・日本国鉄マニ44形だ。

 『ムーンライト・ヴァレー』のサイクルカーゴは、先に説明した『ツォボトレイサー』でミズポワーベルクまで行き、自転車またはバイクでサイサンヴィルまで降りてきた利用者向けに設定されている。なので預かりによる輸送もある。

「これだけ明るければ、写真撮れたかな……」

 ローレリが、増解結の行われる部分を照らす強烈な水銀灯を見上げて、そう言った。

 デジタルカメラなら超高感度にすれば写るのだが、如何せん2人のカメラはISO400の銀塩フィルムが入ったものだ。ISO感度400は登場時は画期的な高感度フィルムだったが、暗闇をフラッシュ無しで撮影できるほどの感度はない。

 ブレーキホース、続いて電源系のジャンパが繋がれると、それまで点いていなかったオハネフ25形の照明が点灯する。その傍らで、連結幌が繋がれていく。

「お2人さん、そろそろ発車するよ?」

「え?」

 プルルルルルルル……

 発車ベルが鳴る。

 作業員に言われて我に返ったローレリが、

「モヤンヌさん、発車します、発車」

 と、モヤンヌを揺する。

「えっ、はっ」

 モヤンヌも我に返ると、2人は連結されたばかりのオハネ25の乗降扉に飛び込んだ。

 作業員は、肩を竦めながら苦笑する。

 その前で、DD51形のエンジンが闇に向かって咆哮し、列車は滑る様にホームから出ていった。

 モヤンヌとローレリは自分の寝台区画の前にまで戻ると、顔を見合わせて苦笑した。

『本日はエクスプレッセスティ国鉄をご利用頂き、誠にありがとうございます。この列車は特急「ムーンライト・ヴァレー」号、エナジポリス行です。この後23:30を持ちまして、寝台車の通路照明の消灯、座席車の照明の減光を行います。また、日付変わりまして4:30までの間、緊急時を除きまして車内放送を休止いたします。途中駅でお降りのお客様はご注意ください。各駅の到着時刻は……────』

 その車内放送を聞いて、モヤンヌとローレリは、

「そろそろ休みますか」

「そうですね、興奮して寝られるか解りませんが……」

 と、そう言い合って、2人は寝台に入ったものの、興奮よりも昼間の疲れが出たのか、すぐに寝付いてしまった。

「くかー……」

 ローレリは、他者が気にしない程度のいびきをかきながら、少し寝相悪くぐっすり寝ていた。

 一方、モヤンヌは……────

「!?」

 深夜の草木も眠る時間に、軽い衝撃を受けて、軽く目を覚ました。

「何……今の……」

 上段用の明かり取りの窓から覗くと、国営エネルギー企業とは思えないディープピンクの『Energasm』の派手な電光看板が目に入る。

「…………」

 しかし、モヤンヌも半覚醒よりも覚醒することはなく、再び眠りに落ちていった。

 

 

「あ、あれ……!?」

 翌朝、エナジポリス駅。

 単端式ホームからコンコースの方へ向かっている途中、ローレリはそれに気がついて、軽く驚いた。

「変わってる……?」

 サイサンヴィルで連結されたオレンジ色のディーゼル機関車ではなく、前後の前面付近はレッドピンク、それに斜めにブルーバイオレットに塗り分けられた四角い箱型の ──── EF81形電気機関車だった。

「ああ、あの時のあれ、そうだったんだ……」

 モヤンヌがそう呟くと、

「なに、何かあったの?」

 と、ローレリがのめり込むようにして問い質そうとする。

「いえ、深夜にちょっと衝撃があって……私もぼんやりとしか覚えてないんですが……でも、あの大きな看板は、多分エムブラセクス停車中だったんじゃないかと思います」

「あああー、なんか楽しそうなの見過ごしたー!!」

 モヤンヌの言葉を聞いて、頭を抱えながら悶絶するような様子でそう言った。

「ああ、でも、多分あれも機関車交換ですよ。ク()・ト()ネ最初の使節団が見せてもらったそうですから」

「うー……」

 モヤンヌが宥めようとするも、ローレリはなんとなく納得できない様子で、それでも、やたら重たくなった手荷物を持ち、改札を出て、エスカレーターに……乗れず、その横の階段を上がり、ペデデッキ(高架歩道)を渡って、飛行艇デッキの出入国カウンターへ向かう。

『マイハーク行21便、 ────────北ジン・ハーク行121便は────』

「それじゃあ、また機会があれば」

「はい!」

 ローレリの言葉に、モヤンヌが(こた)えるかたちで、そう言って、各々の便の出国手続きカウンターへと向かった。

 




なんか本当に鉄分満載の内容になってしまいました……
多少なりとも、国の様子も表現できているといいのですが。


エミリア総統、NAI Diffusion V2版
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759222816459952157
だいぶイメージが異なりますが、こうクシャッとしたショートヘアのイメージ。
でもV3がリリースされるようで……また新バージョンがあるかな?

『ムーンライト・ヴァレー』(含む優等列車)編成図
https://twitter.com/kaonohito2/status/1797728408019128793
(2024/06/04-JST基準 改訂)

評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2

2人のマコト、どちらかを改名すべき?

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