「ここからは自動車での移動になります」
マイラスが、アイナンク空軍基地の車両出入口まで歩いてきて、そこに止められていた外務省所有の来賓用車に2人を案内する
すると、
「おっ」
と、短く声を上げて、ノンティが近寄って行き、その自動車、ガラッソ クロコダイルの車内を覗き込むようにする。
──あれっ?
マイラスは、ノンティの反応に意外に思った。自動車には驚かないだろう、と思っていたからだ。
しかし、ノンティはある事を確認すると、肩を落とした。
「あちゃー、左ハンドルかー……」
「?」
ノンティの言葉に、マイラスはますます不思議そうな表情になる。
「ああ……我が国の道路では、車両は左側対面通行でして、ハンドルは車体進行方向に対して右側についているんです」
「そう言うことですか……」
ナディアの言葉に、マイラスもつられたように苦笑した。
そして、ナディアとノンティは後部座席に、マイラスは助手席に、それぞれ乗車して、出発した。
「エクスプレッセスティでは自動車がどれくらい普及しているのか、お聞きしてもよろしいですか?」
マイラスがそう訊ねる。
「そうですね……我が国では都市部での自動車増加抑制政策を採っていまして、それほど高くありませんが────」
──抑制!? 自動車の増加を抑制しなければならない事態とは一体……ッ!?
マイラスが声に出さずに驚くが、ナディアはそのまま説明を続ける。
「郊外、特に農村地帯では1世帯に1台以上、それに、個人所有とは別に農園の事業者が小型貨物車を所有していることが多いです」
「まぁ、そう言っても、このクルマほど大きいものじゃなくて、ガソリン660cc、ディーゼル800ccの軽自動車が多いんですが……」
ナディアに続いて、ノンティがそう言うと、マイラスはさらに驚く。
──660cc!? バイク2台分程度の排気量じゃないか……
「軽自動車と言うのは、名前から察すると、簡素な自動車と言うことですか?」
「そうですね、自動車としての機能は一通り揃っていて、大人が4人乗れて、基本的には街乗り用、たまにレジャーに繰り出す程度なら充分、程度の性能になっています」
マイラスの重ねての質問に、ナディアが答えた。
──そんな小さな排気量で、4人乗りで、レジャーに使えるほどの自動車とは……
マイラスとナディア達が話している間に、クルマはオタハイトの市街地に入る。
「あっ、路面電車がありますね!」
ノンティが声を上げた。併用軌道を、どこぞのツボマニアの専用機の頭部みたいな前面デザインの路面電車が、すれ違っていく。
「貴国には路面電車もあるのですか?」
「えっと……我が国では域内交通として、公営のトロリーバスを建設することが多いですね」
マイラスが訊ねると、ナディアが答える。
「トロリーバス……と言うのは?」
「ああ、そうか……架線のみで軌道を敷設せず、バス型のゴムタイヤの車両で走る交通機関です。運転手に技量がないと離線しやすい欠点がありますが、軌道の敷設・整備のコストがかかりません」
マイラスの重ねての問いかけに、やはりナディアが答えた。
「なるほど、そう言う物があるのですね」
他のエクスプレッセスティにある近現代の存在と異なり、これはマイラスにもだいたいの想像がついた。
「これは技術力より発想の問題だから、貴国に無くても仕方がないでしょう」
「そうですね」
ノンティがそう言うと、マイラスはそう言って苦笑した。
「それにしても、ムーの工業製品は、なんとなく1930年代とか1960年代のSFにあった、レトロフューチャーって感じがありますね」
「そうですね」
ノンティが興奮した様子でナディアに言うと、ナディアも微笑ましそうな笑顔で同意した。
──
マイラスは複雑な心境になる。
マイラスの任務は、自国の技術力を見せつけるということと、相手国の技術水準を測るという事だった。しかし実際には、自国の技術については明らかに相手国より劣っているように見え、相手国の技術には驚かされてばかりいる。
──まぁ良い、次は絶対驚くぞ……
マイラスがそう考えている間にも、クルマは再び都心部から離れ、軍港へと向かう。
軍港に差し掛かると、埠頭に停泊している、ムー海軍最新鋭戦艦『ラ・カサミ』の姿が見えた。
「おおっ! 戦艦ですか!」
クルマから降りてそれを見ると、ナディアがまず驚いた顔をした。
──よし!
マイラスは、今度こそと内心で自身を喝采した。
──今度こそいい反応だ! 我が国が誇る最新鋭の戦艦に驚愕しろッ
しかし、ナディアは続けて言う。
「一度だけ見た事があるけど、三笠に似ている感じですかね……」
──え? 似ている?
その言葉を怪訝に思い、マイラスはナディアに問いかけることにした。
「あの……エクスプレッセスティにもこの『ラ・カサミ』のような戦艦があるのですか?」
「あ、えっと……我が国は戦艦を保有したことはないのですが、えーと……申し訳ありません、ちょっと今の段階ではなんとも言えないんです。今の言葉は聞かなかったことにしてください」
マイラスの問いに、ナディアは、困ったような顔で申し訳なさそうに、謝罪するように言った。
──どういう事だ? 戦艦を持っていない、過去に保有したこともないのに、ラ・カサミに
「…………」
一方、車内でどこかはしゃぐようにしていたノンティが、今は少し考え込むような表情で、ラ・カサミを見ていた。
「マイラスさん、少し質問させてもらってよろしいでしょうか?」
難しそうな表情で問いかけるノンティに、マイラスは少し構えてしまいつつ、
「なんでしょう?」
と、訊いた。
「貴国はここ30年から50年ほど、大きな戦争……特に、同じレベルの戦艦同士で撃ち合うような海戦を経験していないのではありませんか?」
──!?
ノンティの問いかけに、マイラスは妙な驚きの感覚を受けた。
「確かにそうですが、なぜ今、そのような事を?」
「いえ、航空機や自動車、市街地の様子から見る基礎技術力の割に、軍艦が20年から30年ばかり遅れているように見えるんですよね……この技術力なら、3万トン超のより進んだ戦艦を建造できる筈ですから」
──な、何を言っているんだ?
ノンティの説明に、マイラスはさらに混乱してしまう。
──あの巨大駆逐艦が主力戦闘艦であることはなんとなく想像がつくが……エクスプレッセスティの科学力、技術力は我々に推し測れない程のものだというのは察したが、ノンティ技術士官の今の説明……我が国であればこのラ・カサミの倍ほどの戦艦がもう造れる!? これはどういう事だろうか……
「そうですね、国交が成立するようでしたら、このあたりの事も説明できると思います」
助け舟を出すかのように、ナディアが苦笑交じりにそう言った。
「そうですか……その時の事を楽しみにするとしましょう」
マイラスは、一先ず行程を次に進めようと、ナディアの言葉に
一行は再び車中の人となると、今度はムー歴史博物館へと向かった。
「ようこそ、ムー歴史博物館へ」
ナディアとノンティが入館すると、レトロフューチャー感を持ちつつ少し透けたワンピース、という制服を着たコンパニオンが出迎えた。
「おおっ」
「このデザイン、先鋭的でいいですねぇ! 撮影したいところですが……」
ナディアが少し驚いたように声を出し、ノンティも興奮したような様子でそう言った。
──こんなところで驚かれてもな……
マイラスはそう思いつつも、微笑ましそうに2人を見てしまった。
「コンパニオンの撮影をご希望でしたら、後ほど時間を設けましょう」
「あ、よろしいのですか?」
マイラスの提案に、ナディアが軽く驚いたようにしつつ、聞き返した。
「ええ、“女性だけの国”に女性の服飾について評価していただけるというのも、我が国にとっては自慢の一つになるでしょう」
マイラスは、少し苦笑したような表情になって、そう答えた。
「では、音声で案内させていただきますので、順路をお進みください」
コンパニオンのその言葉に、ナディアとノンティは示された通路を進み、マイラスがそれについていく。
『はるか古代────』
コンパニオンの声が、放送設備越しに聞こえてくる。自動車や航空機から推し測れる技術水準にしては、かなり高音質に聞こえた。
『──私達の世界にはムーとアトランティスという二大文明がありました……────』
「ムーときてアトランティス!?」
その説明に、ノンティが思わず声を出していた。
『ときは今より約1万2000年前、ムーは大陸転移という大きな災厄に見舞われたのです』
「大陸転移!?」
それを聞き、ナディアも驚きの声を発する。
そして……────
『かつて、私達ムー国のあった惑星は、全周およそ4万km程で……────』
ナディアとノンティは、
「どうかしましたか?」
マイラスが、怪訝そうに2人を見る。
「これは……────」
2人の視線の先にあったのは、ムー国がかつてそこに存在していたとされている惑星を模した惑星儀。
「────これは、地球だわ」
「え?」
マイラスが戸惑ったように声を出すが、ナディアとノンティには聞こえている様子がない。
「間違いない。地軸がだいぶ違うように見えるけど…… え? じゃあ太平洋がここって事?」
ノンティが、
「まさかムー国は……幻のムー大陸!? 本当に存在していたっていう事!?」
ナディアも、驚愕の様子を隠せずにそう言いながら、地球儀に歩み寄る。
「南極大陸が赤道付近にある……?」
ノンティがそう呟くと、
「あ、その赤道の大陸はアトランティスですね」
と、マイラスが説明した。
「アトランティス!?」
ナディアとノンティは、完全にハモりながら、驚愕の声を上げる。
「それと、この島国はヤムートと言いまして、友好国のひとつでした」
マイラスが指差したところに、ナディアやノンティ、エクスプレッセスティ人が知らないはずのない形の列島が存在している。
「この列島……ヤムート……まさか!?」
ナディアがそう言い、息を呑んだ。
「マイラスさん、これこそ一介の軍の士官に言うことかどうかわからないですが……」
ナディアが、声を低くして言う。
「はい?」
マイラスが、続きを促すように問いかけた。
「どうやら、ムー国と我が国は、同じ惑星にルーツを持ち、1つの友好国を共有する存在である可能性が高いです」
「と、言いますと……まさか、エクスプレッセスティ共和国も?」
「はい、国ごと世界から転移してきました。今年の初めの事です」
問い返すマイラスに、ナディアはその内容を肯定するように返事をして、その地球儀の一点、緯度がだいぶ違うアフリカ大陸の一点を指し、
「ここです。我が国は、元々この場所に存在した大陸の国家だったのです。現在は元々の海岸線以外の3方の陸地がなくなり、事実上の島国と化していますが……」
と、そう説明した。
「なるほど、同じ惑星の異なる時間から転移してきた可能性があるということですね」
マイラスはそう言ってから、
「しかし、1つの友好国を共有する、と言うのは?」
と、もうひとつの内容について、訊ねた。
「はい、先程マイラスさんがヤムートと呼んだ島国です。我が国は建国35年程度の若い国ですが、一気に国を成長させるために、この地球儀の世界の3つの国から多大な援助を受けました。私達はその3ヶ国を“はるか彼方の3つの隣人”と呼んでいます」
「“はるか彼方の3つの隣人”」
マイラスがオウム返しに言う。
「はい、まず────」
ナディアは、東ヨーロッパ、黒海沿岸の一点を指す。
「ウクライナ。軍事力の整備に多大な協力を得ました」
続いて、少し地球儀を回し、台湾島を指す。
「中華民国。主に通信インフラ、情報処理機器、医薬品、それに自動車用タイヤの技術支援を受けました」
そして、そこからほど近い、先程マイラスが示した列島を指す。
「そして日本国。この国は転移前の世界で最も先進的な国のひとつとされ、国の根幹を為す有形無形の技術をこの国から習得しました。そして、この国はかつて、“大和”と名乗っていたのです」
「ヤマト……ヤムート、なるほど、1万年程の時間の流れで、発音が訛った可能性が充分ありますね……」
マイラスも知的好奇心を見せながら、ヤムートの位置を見つつ、どこか呟くようにそう言った。
「お恥ずかしながら、我が国の製造業は外国、特に日本を本拠地とする企業の現地法人が多いのです。転移前の領域では一番安定していたので……」
ナディアは、少し苦笑するようにとながら、説明した。
「なるほど……」
マイラスは、まず納得したように言ってから、ふと気付いたように、
「と、すると、もしかしてノンティさんが先程言っていた事も……」
と、訊ねた。
「はい、そうです」
ナディアに代わって、ノンティが答え、地球儀に近づきながら、マイラスに視線を向ける。
「先程ナディアが言った、『三笠』は日本が、元の世界で約120年前に保有していた戦艦です。ただ、この国もまだその当時はそこまで先進的ではなく、他の先進国から買ったものでしたが……しかし、その約15年後には基準39,000トンの戦艦を自国で建造しています。今のムー国の基礎技術力の水準はそれより15年ほど進んでいます。日本はそれより少し後に、基準64,000トンの、史上最大の戦艦『大和』を建造しました」
「ろ、64,000トン……」
想像を絶する巨大艦の存在を伝えられ、マイラスは、反芻するように声に出し、喉をゴクリと鳴らした。
「ただし、その後の海軍のムーブが変化し、我が国が建国された頃に巨大戦艦の時代は完全に終わりました。対装甲誘導弾という新たな長射程の攻撃手段が出現したからです」
「それでは、お二方が乗ってきたという駆逐艦にも……」
「はい」
マイラスが聞き返す言葉に、ノンティは頷く。
「R-360K『ネプチューン』というモノを積んでいます。これは900km/hの速度で飛翔し、280km以内の目標を狙うことができます。これは先程ナディアが挙げた3ヶ国のうちのウクライナで開発されたものです」
「なるほど……それでは戦艦の意味はあまりありませんね……」
ノンティの説明を聞き、マイラスは緊張で汗を滲ませながら、そう言った。
「この事は……ええと、エクスプレッセスティが転移国家で、我が国と同じ惑星にルーツを持っている可能性についてですが、外務省や軍上層部に報告しても?」
マイラスが訊ねると、ナディアが頷く。
「はい、お願いします。おそらくその方が、スムーズに話が進むと思いますので」
数日後、エクスプレッセスティ共和国とムー国の間に国交が樹立された。また、水面下で技術協力についての交渉や検討が始まった。
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)