フェミニン国家召喚   作:神谷萌

54 / 152
蛮勇の果てに

 ────フェン王国 アマノキ王城、表御殿。

「剣王様、報告がありまする」

 シハンとマグレブが話し込んでいたところへ、1人の部下がそう言って入室してきた。

「聞こう」

「ハッ!」

 シハンが促すと、報告者はまず返事をする。

「パーパルディアとアルタラスに(はな)っております間諜からの報告によりますと、すでにパーパルディア皇国軍は出立準備を終え、数日中にもアルタラス本土への上陸作戦が始まる模様」

「ふむ」

 シハンはそれを聞くと、マグレブに視線を移した。

「エクスプレッセスティからは何か、報告はあるか?」

「いえ……我が国の防衛についての交渉は続いておりまするが、それ以上の情報は有りませぬ」

 シハンの問いに、マグレブはそう答えた。

「……我等の言葉は届かなんだか…………」

 どこか無念そうに、シハンは、呟くような言葉でそう言った。

 

「皇国の圧力が烈しいのであれば、エクスプレッセスティ共和国と関わりを持つべきぞ。皇国の監察軍を打ち払った、その実際の光景を我等は見ておる」

「エクスプレッセスティ共和国は他国に対して隷属は求めません。攻守同盟を結ぶにしても、万一、一度パーパルディア皇国の占領を受けてからの国の立て直しを考えるにしても、益はあっても損はない筈です」

 

 フェンに加え、クワ・トイネが説得しても、アルタラスはエクスプレッセスティを受け入れようとしはなかった。

「彼の国は武の力において、文明圏の中小国並の物を持っておりまする。故に他国の力を借りるのは由としなかったのでありましょう」

「うむ……それに、ロウリアのハーク・ルセリア35世がエクスプレッセスティの傀儡という疑念も払えなかったようじゃな……あの気の強さと歳に似合わぬ聡明さを知れば、簡単に傀儡とされるような()()ではないと解かろうに……」

 どこかの総統と同じように、シハンもまた、ため息を()くしかなかった。

 

 

 ────パーパルディア皇国のアルタラス侵攻より1週間前。

「間もなくパーパルディア皇国が我が国に攻め込んでくる。ルミエスよ、お前は国を出るのだ」

 アルタラス王都、ル・ブリアス。王宮アテノール城。

 国王ターラ14世は、娘である王女ルミエスを呼び、そう告げる。

「お前は民からの人望も厚く政治にも聡い。いつの日かこの地に、再び我々の民の国が()つ時が来る。その時、お前の存在がその力となろう」

「そんな……お父様。私に民を捨て逃げろと仰るのですか?」

 どこか淡々とした、自身の感情を押し殺した様子で言うターラ14世に、ルミエスは縋るような視線でその顔を見上げ、訊ねるように言う。

「アルタラス王国は私の代で最期を遂げるが、王家の血を絶やしてはならぬ」

「お父様!」

 ルミエスは、今度は本当に父であるターラ14世にしがみついた。

「お父様、なりませぬ! 降伏すればよいのです。降伏して、今からでもパーパルディアの要求を受け入れれば、皇国もそこまで悪いようには……」

「それはできぬ────できぬのだ」

 ターラ14世は、極力感情を押し殺そうとするが、声が微かに震えている。

「以前は皇国も“話ができた”。鼻もちならん態度は変わらぬが、こちらが面子を立てれば譲歩を見せた。 ────しかし、今の若き皇帝は野心を隠さぬ。もう選択肢はないのだ。王家の務めは私がここで果たす。愛しい娘よ、父の最後の望みを聞いておくれ」

「お父様…………」

 最後は、2人共感情を抑えきれず、抱き合って泣いた。

 

 そして、ルミエスはアテノール城を離れた。

 前日の夜、人目を憚りながら出発したルミエスの一行だったが、海岸線の、パーパルディア皇国側に面しているル・ブリアスの港を避け、南側の洞窟の隠し船着き場に辿り着いた時は、すっかり()が高くなっていた。

「ルミエス様、こちらです。こちらに船を用意してあります」

 元は海賊が隠し砦として使っていただけあって、洞窟と言いながら、海側の開口部はかなり大きく、そこにかなり大きな商船が隠されていた。

「爺や……」

 船の準備をしていた者の中には、ルミエスの世話役だった初老の男性もいた。

「私は必ずアルタラスに戻ります。それまでどうか達者で……」

「姫様のお帰り、この地でお待ちしております」

 爺や、とルミエスに呼ばれた男性はそう言うと、ルミエスをここまで連れてきた女性に視線を向ける。

「忠義の騎士、リルセイドよ、姫様を頼みましたよ」

「はい、この身に変えても必ず……」

 リルセイド、と呼ばれた女性は、引き締まった表情でそう言った。

「皆どうか……どうか無事で……」

 ルミエスは最後まで別れを惜しみ、涙を零しながら、船に乗り、アルタラスの地を離れた。

 

「陛下、ルミエス殿下は無事出国いたしました」

 数時間後、ターラ14世はその報告を受け取った。

「うむ……大儀であった……」

 ターラ14世は、視線を上げた状態のまま、報告した側近にそう言った。

「今は時代が悪い……────パーパルディア皇国はもはや、暴虐なる怪物と化した。外交と称し、呑めぬ条件を突きつけ、あちこちで戦争を作り出す…………一方で、突然現れたエクスプレッセスティ共和国……こちらはクワ・トイネに侵攻したロウリア軍数十万を簡単に押し返すや、ハーク34世から王位を簒奪し、年端も行かぬ娘を王に立て傀儡としている……いずれにせよ、民は勝利に酔い、支配階級はその犠牲で巨万の富を築く。 ────その先に、何を見ているのか……」

 

 

 パーパルディア皇国、皇都エストシラント。

「エクスプレッセスティ共和国に関する情報は、また何か新しいものはないのか?」

 第三外務局々長のカイオスは、焦りを覚えていた。

 エクスプレッセスティの影は、フェンだけの問題ではない。

 少し前の事だが、クワ・トイネ公国に侵攻したロウリア王国はこれに失敗した。ロウリアなどパーパルディアにとっては遥かに格下とは言え、ロデニウス大陸では強国……それが、軍事的には圧倒的に劣るはずのクワ・トイネ公国に追い返され、あろうことかハーク・ロウリア34世は王位を簒奪される事になった。

 そして、新たに王位に()いたハーク・ルセリア・ロウリア35世は、

『最早ロウリアはパーパルディアの助力を必要としておらぬ。ロウリアと付き合いたいのなら相応の扱いをするか、エクスプレッセスティの許しを受けてからにするが良い』

 と、そう言って、第3外務局経由での国交を一方的に閉じたのである。

 そこでも“エクスプレッセスティ”だ。

 だが、どうにも正体がつかめない。そもそも東方文明圏外国は、パーパルディアに頼らなければ国を維持できないような国か、パーパルディアが取るに足らない小国ばかりだったはずだ。

 新たに国が興ったとして、それが一朝一夕でロウリアの王を倒し、フェンで監察軍に壊滅的なダメージを与える程の国力を持つなど、到底ありえない。

 挙句の果てに出てきたのが、“女性だけの国”だという情報だ。バカバカしいにも程がある。女しかいない国がこのような力を持つはずがない。

 数少ない可能性は、

「────……他の文明圏の列強が、裏で糸を引いている可能性も考慮しろ」

 と、言うものだった。

 とは言え、皇国を打ち払える程の力となると、第2文明圏のムー国、それに中央世界のエモール王国と神聖ミリシアル帝国ぐらいしかない。だがムーは中立不戦主義を貫いているし、エモールは態度こそ尊大だが宗教国家の体を成していてあまり野心を持たない。ミリシアルも中央世界で列強1位の座を守ることを重視していて、第3文明圏や第2文明圏の周囲にその野心を向けたことはなかった。

 もっとも、国の体面と実際の行動が、必ずしも一致しているとも限らない。

 ──ハッ!?

 そこまで思考を巡らせた時、カイオスはひとつの可能性に行き着いた。

 ──“女性だけの国”ならば……もしや、奸計を用いてムーやミリシアルの重職に取り入った……確かにそれは有りうるな……

 エモールに関しては、これは無視していい。竜人族以外は被差別の対象で、人間やエルフの女性が奸計を仕掛けても、上手くは行かないだろう。

「ムーとミリシアルの動向は調査した方が良さそうだが……」

 カイオスは、声に出して呟いていた。

 問題はこれらの国が第3外務局の管轄外だと言うことだ。それもエリート揃いの第1外務局の担当で、皇族からも目につく。

「…………皇族に睨まれないためにも、アルタラスは失敗できないな……」

 カイオスがそう、呟くように言うと、

「お言葉ですが局長」

 と、カイオスが呼びつけた局員が言う。

 先日、フェンでの戦闘の結果について話した時の局員とは異なり、軽薄そうな表情をしている。

「失敗はあり得ません。アルタラスへの懲罰出動は監察軍だけではなく、皇国軍本隊も参加しているのです。この第3文明圏で公国軍が敗北するなど、ありえないでしょう」

 

 

 カイオスが部下とそのようなやり取りをしていた頃、パーパルディア皇国軍アルタラス侵攻部隊は、陸上機動戦力たる地竜を敵前上陸させるため、ル・ブリアスを少し東に避け、ルパイル平原北部の浜辺に上陸しようとしていた。

 地竜揚陸艦は、その構成こそ木造帆船だが、船体の構造はエクスプレッセスティの強襲揚陸艦『クリミテーサ』(元ソ連1171号計画型・ウクライナ海軍『リヴネ』)のような、艦首にビーチング用のゲートを持つ。

 アルタラス海軍はこれを阻止するため、海軍長ボルド直率で邀撃にあたった。

 アルタラス海軍は魔導砲を装備していなかったが、その代わり、爆裂魔法を封入した矢を風魔法で打ち出す『風神の矢』という装備を持っていた。

 この運用には魔石を大量に必要とし、魔石鉱山を持つアルタラスだからこそ使える代物だった。

 アルタラス海軍の艦隊は、これを退けるために前面に出てきたパーパルディア海軍の戦列艦隊と互角に撃ち合い、パーパルディア側の旗艦・120門級戦列艦『パール』に10発以上、他の戦列艦にも多数の命中を出し、パーパルディア艦隊に損害を与えた。 ────はずだった。

 だが、見た目に木造帆船のパーパルディアの戦列艦は、対魔導兵器用のインナーアーマーを備えていた。この為、アルタラス艦隊の攻撃は、命中しても矢による多少の穴が空くだけで、爆裂魔法はほとんど無効化されてしまっていたのである。

「こんな物が通用するものか。パーパルディアの戦列艦を舐めるな。我が軍の対魔弾鉄鋼式装甲の前には、ミリシアルでもそう簡単に攻撃を通すことはできん!!」

 『パール』艦長のダルダは、笑い飛ばすように言う。

 つい先日発生した、監察軍のフェンにおける戦いで、エクスプレッセスティ海軍の57mm砲と、2,500トンのフリゲートによる体当たりという純粋な質量の暴力の前には、紙っぺらと言ったら紙に失礼なレベルで簡単に破れ、20mm機銃にすら容易くハチの巣にされた事は、まだ彼には正確な情報として伝えられていない。

 ただ、自信過剰なほどの様子を見せるダルダ艦長に対して、アルタラス侵攻総指揮官であるシウスは、アルタラスの攻撃を軽視してはいなかった。

 ──敵の攻撃手段がはっきりしない時に、横腹を見せるのは得策とは言えないかもしれんな……

 ダルダ艦長の得意気な様子に水を指さないよう、シウスは、声に出さずに呟いてから、

「上陸部隊が到着する前に残存する敵海上戦力を一掃、敵飛竜兵もワイバーンロードで一掃するのだ!!」

 と、下令した。

 すでに半壊していたアルタラス艦隊に抗うすべはなく、また貴重な竜騎士隊も壊滅させられ、アルタラス海軍は全滅した。

 その後、上陸したパーパルディア陸軍は、マスケット兵を乗せた櫓を背負った地竜を尖兵とし、戦列歩兵が隊列を組み、二手に分かれてル・ブリアスとシルウトラス鉱山へ向けて進軍を始めた。

「間もなくアルタラス陸軍の主力部隊と接敵します。その数約2万」

「ほぅ、2万か。逃げずによく集まったな、感心したぞ」

 副官からの報告を聞き、ル・ブリアス侵攻部隊の指揮官は、皮肉たっぷりの口調でそう言った。

 実際、この時点で、数ではアルタラス側が優位であり、加えて竜母艦のワイバーンロード隊もアルタラス海軍と竜騎士隊の僅かな残存……兵力、とはすでに言えないそれを掃討する為の出撃とその攻撃隊の収容の為、パーパルディア軍の地上部隊にも航空支援は無かった。

「好機だ、海軍や飛竜隊の支援がない内にパーパルディア陸上軍に損害を強い、侵攻を頓挫させる! 全軍前進ッ!!」

 王弟ハルーンの指揮下、アルタラス騎馬隊が、パーパルディア軍の正面に突撃する。

「魔導砲用意!」

 対するパーパルディア軍は、小隊指揮官がそう下令すると、歩兵部隊の一部がその射撃に取り掛かった。それは地球の迫撃砲に類似しており、歩兵が発射筒内にグレネードを入れると、その底部で魔素が反応し、「ヒュポッ」と乾いた音を立てて撃ち出される。

 グレネードはアルタラス騎馬隊の隊列に落下し、炸裂して、騎兵や騎乗弓兵を薙ぎ払う。

「くそッ、携帯式魔導砲だと!? そんな物が存在していたのか!」

 だが、それでもアルタラス騎馬隊の士気は挫かれることなく、パーパルディア軍に向かって突撃を続ける。

「構うな、数で圧せ、()て、射てぇッ!!」

 騎乗弓兵が弓で地竜を狙う。

 だが、弓の曲射では、命中する時のその矢のエネルギーは、だいぶ失われている。人体のような柔らかい目標であれば、質量だけで突き刺さってくれるのだが、地竜の硬い皮膚には通用しなかった。

「皮膚が硬すぎる! 矢が効かない!!」

「クソッ、陸上にも『風神の矢』を配備しておくべきだったんだ!!」

 確かにその通りだが、最早後の祭りでしかない。

 しかも、ハルーンが次に下した命令も、適切ではなかった。

「地竜は動きが遅い! 槍騎兵で駆け抜け、本隊を叩け!!」

 ────戦車にとって、接近されると実に厄介なのが歩兵だったりする。その視界は極めて限定的であるため、早期発見が困難で、接近されて爆発物を取り付けられたり、硬い物を起動輪に食い込ませてキャタピラを外されたりする。

 かと言って視界確保のために、戦闘中に車長や指揮官がハッチから身を乗り出していたら、どうぞ狙撃してくださいと言っているようなものだ。

 主兵装に加えてR(Remote)W(Weapon)S(Station)を装備し、近接防御力を持たせる試みも行われたが、それでも完全ではない。

 第3世代(90式、M1エイブラムス、チャレンジャーII(2)、レオパルト2)以降、装甲と攻撃力の向上による飛躍的な性能刷新が不可能と言われた地球の主力戦車において、日本の10式戦車が“第4世代”の候補となっているのは、高度なC4Iシステムにより他車、さらには他の情報源から自車の周囲の情報を共有し、この点を最大限補った点にある。

 ────が、しかしそれでも完全ではなく、2022ウクライナ-ロシア戦争でキーウに対するロシア軍の電撃戦が失敗する結果となった理由のひとつとして、ロシア軍のBTG(大隊戦術群)の編成が、戦車に対してそれを掩護する歩兵が極端に少ないものだった事であると、その10式を装備する陸上自衛隊関係者が指摘している。

 閑話休題。地竜は背負う亀のような甲羅こそ硬いものの、それ以外の部分は曲射の矢だと通らないが、逆に言えばその程度である。

 対して、鍛えられた兵士が扱う槍などは充分な質量と運動エネルギーを持ってぶつけられるため、意外とその破壊力は強かったりする。

 加えて、櫓の上のマスケット兵も、この時は矢によって算を乱していた。

 つまり、この戦闘でアルタラス側に勝機があるとしたら、地竜の手足を攻撃して進行不能にする事だったのである。

 だが、ハルーンの命令に、部隊全体が追い詰められていたこともあって、遮二無二突撃し、地竜の間を通り抜けて、柔らかいだろう戦列歩兵に攻撃しようとしてしまっていた。

 ゴワァァッ

 地竜が吐く炎で犠牲を出しながらも、少なくない数のアルタラス騎兵が、その脇をすり抜け、地竜隊の後方へと躍り出た。

「止まるんじゃねぇ、突き抜けろ!! パーパルディアめ、アルタラスの意地思い知れ!!」

 ハルーンはそう叫び、自軍を鼓舞する。

「槍構えぇ!! 突撃ィ!!」

 ────だが、そこまでだった。

「構えぇぇっ、射てっ!!」

 もう、ほんの目と鼻の先までアルタラス騎兵が迫ったところで、パーパルディアの戦列歩兵の銃撃が迸った。

 残った勇敢な、だが愚かな戦士達が、容赦なく命を刈り取られていく。

 

 こうして、孤立無援のアルタラス王国の組織的な軍事活動は、その能力をすべて喪った。

 3日後、パーパルディア皇国軍はル・ブリアス占領を宣言、捕らえられた王族は処刑され、その首は中央広場に晒された。

 




正直な話、個人的にはアルタラスへの感情はあまり良くないです。
ルミエスとリルセイドは好みのキャラクターなのですが、他がダメすぎて……
原作では日本は見て見ぬふりをしていますが、エクスプレッセスティ共和国は相手国の“力による現状変更”と“その際の占領地における非人道的行為”を戦争の大義名分として国民に説明しているため、リンチやらかされると国民に説明がつかなくなってしまいます。
なので、ちょっとアルタラスについては扱いが悪くなると思います。


評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2

レミールの処遇は……

  • 原作通り
  • 総統閣下のわからせ棒
  • 行方知れず(故意)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。