時系列の再整理のため、『魔王復活』(システム上の39話)の一部記述を変更しました。
また、大まかな流れは変わりませんが、『ギム奪還』(システム上の24話)の演出を一部変更しました。
────ロウリア北方沖。
武装商船『タルコス』船内厨房。
「姫様、そのようなこと私達がやります故……」
ジャガイモの皮むきをしているルミエスを見て、慌てて船員がその背後に駆け寄ってきた。
「いいのです、私を逃がすために
ルミエスは、そう言いながら鼻歌混じりに、かなり器用に皮むきをしていたのだが────
「…………」
ルミエスは、1つの芋の皮剥きを終えて、次の芋に手を伸ばそうとした時、あとその山を注視した。
──1食分の食材が減ってきている。
「姫様、せめて刃物と火を使う事はお止めください」
船員が呼んだのか、慌てた様子でリルセイドが入ってくる。
「大丈夫ですよ、
ルミエスは、そう言いつつも手を休めてリルセイドを振り返った。
「そりよりも食料が心許なくなっているように感じます。ロウリア王国に入港するのですか?」
ルミエスに訊ねられると、リルセイドは、やや険しく、難しい顔をした。
「東方へ向かう為、北西ロデニウス暖流に乗ったため、現在ロウリア王国の沿岸に近付いてしまいましたが、ロウリア王国は、以前はパーパルディアに近しい国でしたし、現王はエクスプレッセスティ共和国が立てた傀儡と言われています」
「お父様も言っていましたね……ロウリア現王ハーク・ルセリア・ロウリア35世……年端も行かぬ小娘、と言われていましたが、それは私も似たようなものかと……」
リルセイドの言葉に、ルミエスは、まずリルセイドの言葉を反芻するように言い、自虐するように苦笑する。
「いいえ、ハーク・ルセリア35世は本当に小娘……ロデニウスではどうか解りませんが、我々の感覚では少なくとも成人はしていない子供なのです。果たしてそのような者が王に足ると思えますか?」
リルセイドは、僅かに困惑が混じった険しい表情と口調で、問いかけるように言った。
「成る程……それは確かに。ですが……」
ルミエスは、納得したように口にするも、一旦視線を芋の山に向け、それをリルセイドの両面に戻す。
「そうだとすると、どこへ向かうのですか?」
「このまま東進を続け、クワ・トイネ公国のマイハーク港に寄港します。ただ、クワ・トイネも、エクスプレッセスティに加担していて、ロウリアほどではないにせよエクスプレッセスティの影響下にあると思われます。なので、最終的にはガハラ神国かナハナート王国、あるいはクイラ王国を経由してムー国を最終的な候補として亡命先を探します」
リルセイドは、険しい表情のまま、少し低い声でそう言った。
「クワ・トイネは穏やかな国と聞き及んでいましたが……それでも危険なのですか?」
ルミエスは、怪訝そうに眉を潜めながら、重い口調で問い返した。
「はい……と言うか、ハーク34世がクワ・トイネに侵攻したことがきっかけでロウリアの王位簒奪に繋がりましたし、ハーク・ルセリア35世の擁立にあたっては、抵抗した諸侯の鎮圧にクワ・トイネも飛竜隊を派遣したとの事です」
「そうだったのですね……」
険しい表情で言うリルセイドに対し、ルミエスは、落胆の混じった悲しげな表情で、視線を伏せた。
「なので、我々はこのように商船で移動する旅芸人の一座に扮しているのです。これでマイハーク寄港をやり過ごしつつ、次の寄港先を検討します。万一の為、自衛用の武具も、装飾具のある舞台道具に見えるものを選び運び入れてあります」
リルセイドがそこまで説明した時だった。
「リルセイド殿、こんなところに居ったか!」
そう言いながら、パイプを咥えた、壮年期のいかつい身体つきの男性が入ってきた。
「どうした船長」
若年の女性ながら、アルタラス騎士団で相応の地位にいたリルセイドは、男性と同じように武人が部下に対する口調で問い返した。
「海賊だ! 海賊が出たぞ!!」
甲板では、右舷側から接近してくる帆船に対して、甲板員達が視線を向けていた。
──くっ……安全の為の偽装も、急ぐ為の航路も、裏目に出たか……
リルセイドは、一瞬渋い表情をして、胸中でそう呟いたが、すぐに、
「姫様、このまま船内に身を隠していてください。決して出てきてはなりません!」
と、ルミエスにそう告げると、甲板に上がり、戦闘指揮官のモードに切り替わる。
「総員戦闘準備だ!!」
リルセイドが下令すると、甲板の騎士団の人間は、実戦用とするにはゴテゴテとした装飾の付いた長弓を取り出し、右舷側に応対で並んで、矢を
一方、タルコス船長が海賊と呼んだ帆船の甲板では、
「お頭、見てくれよ! あれは『風神の涙』だ!」
と、海賊の1人が、タルコスの船尾に付いている『風神の涙』を指差し、そう言った。
「軍船でもねぇのになぁ、なんでだろうなぁ?」
その海賊船員は、皮肉ったような
『風神の涙』は、第三文明圏の文明国の軍艦や軍籍船が装備しているが、民間船に着いていることは稀だ。
だが、目の前の独航船は固定の武装を持っているようには見えないし、護衛の軍艦もいない。
「こりゃあ並の商船じゃあない! お宝の匂いがプンプンするぜぇ……!」
船員にそう言われた海賊頭は、セダクションのディーラー員なら思わず『マトリア エクスタシー』をセールスしてしまいそうな表情と口調で言った。
他の船員も、品行方正とは程遠い様子だ。
「げへへ……女もたくさん乗ってるかな?」
この後、本気で敵意を向ける女性の恐ろしさも知らずに、そう言う船員もいた。
「よ~し、野郎ども、
海賊頭は、自身のアイデンティティなのか、それとも何らかの疾患を負っているのか、舌を突き出した表情で、そう言った。
海賊船はタルコスに近づく。タルコスは『風神の涙』を作動させて増速する様子はない。
元々、すぐに持ち出せる魔石が少なかった上、とにかくアルタラス本島から遠ざかろうと後先考えずに使用したため、動かすための魔石が尽きかけていた。万一ロウリア海軍に接触された時の事を考え、使い切らないようにしていた。
海賊船は、タルコスに追いつき、並走して同航戦の体勢に入る。
海賊が矢を番えようとした時、タルコスの方でも、アルタラス騎士団員が弓を構えた。
「
奇しくも、リルセイドと海賊頭はほぼ同時に、そう下令していた。
無数の矢が、お互いの間を飛び交う。
「うわっ!」
海賊船の甲板に無数の矢が降り注ぎ、その1発が海賊頭の両足の間に突き刺さった。
「くそ! なんて練度だ。矢が倍返しじゃねぇか。ますますただの商船じゃねぇ!」
反射的に避けようとして尻もちを突いてしまいながら、海賊頭は驚愕の顔で言う。
「こりゃ大物だぞ、一生遊んで暮らせるかもしれねぇ! 野郎ども火でも毒でも使え!」
一方、タルコス。
「『風神の涙』起動。全速前進」
リルセイドが、その判断をした。
「騎士長! 魔石が底をついてしまいますが……」
騎士団員の1人が、リルセイドに問いかけるも、
「かまわん!」
──まさか海賊にルミエス様を渡すわけにはいかぬ! それこそパーパルディアに売られでもしたら元も子もない!
と、リルセイドは、断固とした様子で指示した。
「!」
ブワッ
その時、甲板を上空からのダウンウォッシュが洗った。
1体のワイバーン────竜騎兵が、タルコスと海賊船の上空をフライパスする。
「ロウリア竜騎隊!」
またしても、リルセイドと海賊頭が、それも忌々しそうな表情まで連動させて、そう言った。
『北ジン・ハーク海軍本部へ。こちら第1王都竜騎士団、沿岸哨戒隊。海賊船が商船と接触中。商船側も武装している模様、現在地は北ジン・ハーク港より磁気方位8時方向120km』
『了解。付近にエクスプレッセスティ海軍警備隊第1班がいる。到着まで接触を続けよ』
『了解』
「くそっ、まずいぞ!」
低速で滞空するために、羽ばたくワイバーンを見て、海賊頭が忌々しそうに言う。
「こいつに見つかると『灰色の悪魔』を呼ぶんだ!」
海賊頭は、視線をタルコスに向ける。
「野郎ども! 呼ばれる前にさっさとお宝を奪うぞ!」
「おう!」
海賊頭の言葉に、海賊船員は応じる声を上げると、ある者は毒液の壺を抱え、ある者は火種の松明を持ち、矢にそれらを纏わせて、弓に番えて引き絞る。
「リルセイド! 一体どうしたというのですか!?」
「姫様!」
ただならぬ様子を察して、ルミエスが甲板に出てきてしまった。リルセイドが慌てて駆け寄る。
「いけません、お戻りください! ロウリアの飛竜に見つかります!」
リルセイドはそう言って、飛竜からルミエスの姿を遮るようにする。
スパッ!
「あっ!」
ルミエスの左の上腕を、海賊が放った矢が掠めた。
「クソッ、火を消せ! 姫様をお守りしろ!」
船長が、火矢の突き刺さった甲板を見て、怒声を飛ばす。
────その時。
グォオォォォォォ……
人が住むことができるほどではない小さな小島の影から、明るい灰色に塗られた2隻の、 ────彼らから見れば異質な、大型船と、サイズではそれよりは一回り小さい船が、姿を表した。
「来たッ、『灰色の悪魔』だぁああ」
「デカい方は城塞みたいじゃねぇか!!」
「帆のないこの姿、まるでムーの鋼鉄船だぞ!?」
『不明船2隻へ。直ちに戦闘行為を中止し停船せよ。繰り返す、直ちに戦闘行為を中止し停船せよ。こちらはエクスプレッセスティ海軍「ミヅハノシールド」。ここはロウリア領海内である。我々はロウリア連合王国との安全保障協定に基づき当海域を警戒している。敵対の意思なくば直ちに停船せよ』
ウミノシルエット級護衛艦(元・日本海上保安庁しれとこ型巡視船)『ミズハノシールド』は、
「近くにいやがったか、ツイてねぇぜ!」
海賊頭は、悔しそうな表情で言い、配下の船員に言う。
「ずらかるぞ! 海賊稼業は命あっての物種だ!」
命が惜しければ最悪の選択をし、海賊船はミヅハノシールドとは逆方向に舵を切った。
『停船せよ、繰り返す、直ちに停船せよ! 然らずんば撃沈する』
ゴッ
ミヅハノシールドと行動を共にしていた、バステット級コルベット(元・ソビエト連邦1241RE型)『バステット』が、
『最後に通告する!! 停船せよ! 逃走は敵対行動と看做す!』
「お頭、止まれって言ってるぜ!!」
「うるせぇ! 捕まりゃ結局同じよ!!」
バステットは全力を出すまでもなく、いとも簡単に海賊船を射程内に捉えた。
「ダメだ逃げ切れねぇ!!」
「俺達が、俺達が何したって言うんだ……畜生ーッ!!」
ドム……ッ
MK110 57mm砲が火を吹く。
「うわぁ━━━━ぁあぁぁッ!!」
ただ1発の57mm砲弾を受けて、海賊船はバラバラになり、船員は海に投げ出された。
「これが……これがエクスプレッセスティ海軍……」
リルセイドはその光景を見て、全身に汗をかきながらゴクリ、と息を呑んだ。
だが、そのリルセイドに体重を預けかけていたルミエスが、苦しそうに荒い息をしながら、そのまま崩れ落ちた。
「姫様! 大丈夫ですか、姫様!!」
リルセイドは、我に返り、ルミエスに声をかけながら屈み、その顔を覗き込もうとする。
「リルセイド、指示通り停船してください」
「ですが、しかし────!!」
ルミエスが指示するも、リルセイドはルミエスの身を案じて声を出す。
「今見た通りです……逃げようとしても逃げ切れません。皆の命には代えられないでしょう────」
「姫様、ルミエス様!!」
リルセイドが呼びかけるが、ルミエスはそれを言ったところで、意識を失って、ルミエスを支えるリルセイドの腕への重みが一気に増した。
その間に、タルコスにミヅハノシールドが横付けする。
「こちらはエクスプレッセスティ海軍です」
ルミエスが意識を失って、リルセイドが取り乱しているところを、ミズハノシールド乗組員はより高い舷側から覗き込んで、声をかけてくる。
「海賊に襲われていたようですが、被害はありませんか?」
「あ、ああ……」
うら若い女性の乗組員に問いかけられて、タルコスの船長は一瞬、言い澱んだ。
「そちらの女性は、負傷なされているのですか!?」
リルセイドに抱えられているルミエスを見て、ミズハノシールド乗組員も慌てたような声をかける。
「くそっ、この症状、毒矢だ! 海賊め、毒矢を使ったに違いない!」
言われて、船長はルミエスの状態を見て、声を荒げた。
「毒は特定できますか!?」
「あ、ああ────このあたりの海賊どもはロウリアのサソリから毒を採る」
「船長!」
船長がミヅハノシールド乗組員の問いかけに答えると、慌てたようにリルセイドが声を上げ、視線を船長に向ける。
「だが、このままでは到着する前に死んでしまうぞ!」
「くっ……」
船長に言われ、リルセイドは苦渋に満ちた表情をする。
そうしている間にも、バステットが、ミヅハノシールドの反対側に接舷しようとしていた。
「反対側の
バステットから簡易タラップがタルコスに渡され、バステット乗組員が担架を持ってタルコスの甲板に降りる。
『北ジン・ハーク
『北ジン・ハークHQ了解。北ジン・ハーク軍医療施設にて受け入れ可。目処がつき次第
『バステット了解』
「私も連れて行ってください! お願いします!!」
ルミエスが乗せられた担架が運ばれている途中、リルセイドが必死の思いで声を出す。
──姫様はこの身に変えてでも守らなければ…………
そのリルセイドの様子を、バステットの乗組員は負傷した女性に対する強い不安からくるものだと受け取った。
「ご家族の方ですね? どうぞこちらにお乗りください」
「あ……有難うございます」
バステットはタラップを回収し、タルコスから離れる。
「全速! 32ノットで北ジン・ハークへ向かう!」
「エンジン壊す気ですか……」
バステット艦長の号令に、呆れた様子のツッコミが入りつつも、ガスタービンとディーゼル双方のエンジンの咆哮を上げ、バステットは北ジン・ハーク港へと急行した。
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)