『エナジポリス
『EAF1、277.0ヘディング。エムブラセクス
『了解。Good luck』
総統専用飛行艇・新明和SS-2VがSTOL着陸態勢に入る。前部水密扉と胴体側面の主脚格納バルジが開き、
以前、ヤゴウやハンキらクワ・トイネ使節団を運んだ時は、国防軍感謝祭でのSu-22UGEのデモフライトを見せる目的もあって、
──本来第二文明圏の列強、ムー国にしかない機械文明……ムーでもここまでの物を持っているか……
ルミエスは、北ジン・ハーク港を出発する時の事を思い出していた。
「こ、ここがロウリア、なのですか!? 本当に!?」
まだプレハブ工法の建物が並んでいるだけなのに、ルミエスには自国と同じ文明圏外の国というイメージからかけ離れた、整然とした港の様子に圧倒されてしまっていた。
伝統的なロウリアの建物はと言えば、艦砲射撃で破壊されなかった灯台ぐらいのものだ。
元々エクスプレッセスティ自身が、転移前の水準ではあまり開発が進んでいるとは言えなかった関係で、喫水を浅くする目的で多用されている規格型双胴輸送船が仮設桟橋に横付けしている。
「パーパルディアでもこんな物は持っていない……」
「で、あろうな」
ルミエスの呟くような言葉に、ルセリアが
「我々には信じられぬ事だが、エクスプレッセスティは転移前、その世界では建国されたばかりの “後追い” の国だったと言う。だから先に進んでいた国、特に3つの国、武に係わる技術をウクライナ、あらゆる分野に重要な通信の技術を中華民国、そして国の根幹をなす有形無形の技術を日本国、それぞれから真摯に、しかし貪欲に学び取った。だから、同じように自国から学び取ろうとする国には享受することを惜しまぬ。まぁ、目論見が全くないわけでは無いがな」
キュッ……
SS-2Vの主脚が接地する僅かな衝撃で、ルミエスの意識は現在に引き戻された。
操縦席のエリ・サラ・フクダ空軍中佐は、主脚のブレーキを最大にし、プロペラリバースを併用してSS-2Vを減速させる。
最大着陸重量時(47.7t)だと滑走路をかなりギリギリまで使うのだが、今は燃料の残りも少なく、載せているのもゲスト4人だったため、その半分程度の着陸滑走距離で着陸シークェンスを終了させた。
そのまま、エンジンを少しだけ開けて、駐機位置まで進む。
「到着。主脚パーキングブレーキ確認」
「パーキングブレーキよし」
エリの言葉に、
「エンジン停止」
「エンジン停止よし」
アイドル状態のエンジンが切られ、プロペラの回転速度が徐々に落ちていく。
「ふーっ…………」
そこまでいって、エリは緊張を緩め、「リアルスト◯゚ン」と呼ばれる航空機搭乗員服を纏った姿で、その身を座席に預ける。
「
エリは貴賓室の方に意識を向けながら、息を吐きだしつつそう言った。
国内要人を軽視しているわけではないが、そうは言っても “身内” なので、気が楽なのは正直なところだった。
「よいしょお!!」
空軍隊員が数人がかりで、動力のないタラップをSS-2Vの客室乗降扉に横付けさせる。
「それにしても、意外でしたね」
駐機場近くでそれを見ながら、ハンナ・テイラー外務省長官が、傍らにいたエミリアに訊ねた。
「何が?」
エミリアが聞き返す。
「いえ。『アルタラス本土を失ってからこっち見られても知るか、放り出せ』って言うかと思っていました」
「ああ……」
ハンナに言われて、エミリアは苦笑した。
「そうしようかとも思ったけど、別にパーパルディアの顔色なんか伺う必要もないでしょう?」
「まぁ、それはそうかも知れませんが」
エミリアが言い始めると、今度はハンナの方が、「まーた始まった」という感じで苦笑する。
「それに、パーパルディアとの間の落とし所が必要でしょう? すでにこちらは『ライバーシー』を攻撃されているわけだし、もう交戦状態にあるって判断しても構わないけど、叩き潰した後で群雄割拠になられても困るでしょう?」
「そうですね……私達も経験してきたことですし」
エミリアの言葉に、ハンナも同意するように返す。
以前から何度か言っているが、転移前、エクスプレッセスティにとって最も身近な軍事的脅威は、周辺国の正規軍よりも、テロリスト崩れや武装難民と言った、周辺地域の不安定さから生み出された非正規武装集団だった。
2016年には自国EEZ内でISILシンパの非合法武装船、所謂海賊船を拿捕したところ、その中から
この為、ヘリコプターが危険範囲外からこれらを攻撃できるよう、急遽ノルウェー製AGM-119A『ペンギン』ミサイルが導入された。また、インド空母『ヴィラート』購入(→『ヴァルキュリア』)に際して、フランスのダッソーに空中早期警戒機Br-1050AEW『アリゼ』の開発・製造依頼を出す時、軽攻撃機型としてBr-1050Aをあわせて依頼したのもこれが理由である。
「それに、北のリーム王国もなーんかいけ好かない国っぽいし、できるだけパーパルディアをバラバラにしないで事を収めたいのよね」
「その為に、状況のエスカレートがパーパルディアの不利になると判断させる、カードが必要になる……という事ですね、了解しました」
何処か困ったような表情で言うエミリアに、ハンナはそう言って苦笑気味の笑みを浮かべた。
「さて……お姫様を迎えに行きますか」
一方の機内では、ルミエスの迎えのために、SS-2Vとともに北ジン・ハーク港に派遣された、外務副次官チャウ・アシュリー・ゴックが、扉を開き、そして一旦その出入り口の脇に控える。
「お疲れさまでした。そして、ようこそエムブラセクスへ」
チャウにそう挨拶されながら、ルミエスは客室乗降扉から外へと出る。
少し離れたところに、機内からも見えた摩天楼の町並みがあった。
「足元、お気をつけください」
タラップの下の空軍スタッフが、そう声をかける。
タラップで降りた先には、以前ヤゴウやハンキらの送迎にも使われた、国賓用のガンメタリックのデリカコーチが停まっている。そしてその前に、エミリアとハンナが出てきていた。
「ようこそエクスプレッセスティへ! 私が現在、国家元首総統を務めさせて頂いておりますエミリア・ハートリーです」
エミリアは、フレンドリーに話しかけ、両手でルミエスと握手をした。
「こちらこそ、受け入れていただき感謝いたします。エミリア閣下」
握手を離すと、エミリアは手振りでハンナを示す。
「こちらは、外務省長官のハンナ・テイラー。ルセリア殿下のご滞在中は彼女の部下が対応いたします」
「ご拝謁できて光栄です。ルミエス殿下」
「よろしくお願いします、ハンナ閣下」
そう言って、ルミエスの方から差し出した右手に、ハンナが応じて握手を交わす。
「それではこちらも……私の警護を務めています、騎士長のリルセイドです」
「よろしくお願いします」
ルミエスに紹介されると、リルセイドはアルタラス騎士団式の敬礼をした。
「楽になさってください」
エミリアが言うと、リルセイドは敬礼を解いた。
「ひとまずは今日、御宿泊していただきますホテルまでご案内いたします。ただ、本格的な滞在はもう少し質素なものになるかと思いますが……」
「こちらは受け入れていただく身、贅沢は申しません」
エミリアがそう言うと、ルミエスも穏やかな笑みでそう言った。
エミリアとハンナが先にデリカコーチに乗り込み、サードシートに収まると、ルミエスとリルセイドが乗り込んで、セカンドシートに座った。
チャウ外務副次官がそのスライドドアを閉める。ドライバーがデリカのエンジンを始動し、ギアを入れて出発する。チャウがその後ろに停まっていた純粋国産車・ネクストラの助手席に収まると、そちらのドライバーもネクストラを発進させ、デリカに続行する。空軍基地敷地の出口で、さらにデリカの前方に、一般車を装った特高警察の軽自動車・チャーミがさり気なくデリカの前に立った。
大東洋諸国会議────────
名目上は「東方文明圏外国による協同会議」だが、その実態は「パーパルディア皇国に不平等条約を強要されている国による協同会議」だった。
会場は持ち回り制で、今年はクワ・トイネ公国の番だった。
クワ・トイネ公都、政治部会議場『蓮の庭園』 ──── ではなく、それに隣接している大会議場。
「アルタラス王国はパーパルディアに侵攻されて属州となったそうだ」
「鉱山を狙われたのだろう」
「アルタラス王家は皆殺しにされたよ」
…………最近のトピックに関して、諸国の代表や、その随員が雑談している。
「皆さんご静粛に願います! これより会議を開催致します!!」
進行役のヤゴウが声を張り上げた。
「まずは本題に入る前に、今回より参加を希望されている国の皆さんを紹介致します」
ヤゴウが言うと、その国の代表がすっと立ち上がった。
それを見て、議場内がどよめく。
「ロウリア連合王国を代表して参らせていただきました、筆頭大臣マオスです」
「随員として参加させていただきます、ロウリア王立魔法研究院々長のヤミレイと申します」
2人は軽い会釈の後、そう名乗った。
「…………我々の複雑な心境は置いておいたとしても、ロウリアは元々パーパルディアとの繋がりが強い国だったのではありませんか? このような場に参加して大丈夫なのですか?」
アワン王国の代表、褐色肌の美丈夫が、2人に問いかける。
それに対して、マオスが、
「ロウリアはハー
と、答えた。
「新王様は……エクスプレッセスティ共和国の傀儡という噂も流れておりますが……」
頭は不毛の地となっているが、シルバーグレーのイケ爺の、マオ王国代表が怪訝そうに言う。
「現王様は、諸国にそのような見方をされることは否定出来ないと仰られています。現に現王様の “国の地力を上げて豊かな国を目指す” という命題には、彼女らの国の協力が不可欠です」
やはりマオスが答えた。
「センセーショナルな武の力の噂が先行するのは止むを得ないでしょうが、彼女らの国の真に恐るべきはそれを下支えする生産力と、更にそれを支えるエネルギー源。形態は違えど技術者たる魔導師として、その力はこの世界の国が、独力で一朝一夕にして成せることではないと断言できる」
ヤミレイが追加で説明した。
「それではちょうど話題が出たところで、本日の議題である『エクスプレッセスティ共和国』についての議題に入りたいと思います」
ヤゴウが、そう言って会議を進行させる。
「トーパ王国からよろしいでしょうか?」
エルフの美男子が、挙手しながら言う。
「我が国では先日、魔王復活が発生したのです」
「ま、魔王ですと!?」
「悠長に話している場合ではないのでは!?」
トーパ代表の言葉に、マオとシオス王国の代表が驚き、素っ頓狂な声を出した。
「魔王となれば、パーパルディア皇国に軍の派遣を依頼する案件ですよね?」
表面上は落ち着いた様子で、アワン代表が言った。
「皆さん、続きをお聞きください。魔王はもういません」
「え!?!?」
トーパ代表のその言葉に、今度は、先程は落ち着いた反応をしていた者までもが、驚愕の表情でトーパ代表を凝視した。
「はい。エクスプレッセスティ共和国の派遣部隊が打ち倒したのです」
「倒しただとぉおぉぉッ!? 魔王をか!?」
トーパ代表が更に続けて言うと、シオス代表が、その場で立ち上がりつつ、表情で激しいリアクションを見せた。
「封印ではなく打ち倒したと……」
それとは対象的に、アワン代表は、落ち着いた様子を見せているものの、やはり信じられないという様子で、聞き返すように言う。
「はい。我が国はエクスプレッセスティとすでに国交を持っておりまして……パーパルディアとは異なり、我が国が外敵からの攻撃を受けた時に軍事介入を行う事を “ベルンゲン覚書” として明文化しており、それに基づいて軍部隊を派遣して貰ったのです」
トーパ代表の言葉に、議場内がざわめき始める。
「……確かに神話の魔王を倒したというのは、そう簡単に信じられないのは、我々もそれが本音だが、それでもエクスプレッセスティ軍では不可能ではないと、実際に戦った我々には想像がつきますな」
ヤミレイが、そう発言する。
「トーパ神話にある “空を飛ぶ神の船” 、 “鉄の地竜” 、これに似たようなものをエクスプレッセスティ軍は持っている。 “戦闘機” MiG-29は両手で数えられる程度の数で10倍の数の飛竜を屠り、 “攻撃機” Br-1050A/Sは僅か4機で1個大隊を消し、 “
「そこまでの軍事力を持っているとは……我がシオス王国もすでにエクスプレッセスティと国交を持っていますが、政治にもなんかしらのギャグか性的表現を織り込まないと気がすまない、スチャラカ国家を自認するあの国にそんな一面があったとは……」
ヤミレイの話を聞いて、シオス代表が困惑した表情でそう言った。
「ロウリアの件もある。エクスプレッセスティも軍事大国として、危険視すべき対象なのではありませんか?」
マオ代表が険しい表情で言う。
「エクスプレッセスティがパーパルディアのような覇権国家なら、クワ・トイネも軍事力で占領ないし、服従を迫っているんじゃないですかね?」
アワン代表が言う。
「無闇矢鱈と危険視するより、どう付き合うかを考えた方が建設的では?」
「然り」
それに、マオスが続いた。
「エクスプレッセスティが現王様を擁立したのは、ロウリアをバラバラにしない事が最大の目的。これがパーパルディアなら、諸侯の対立を煽ってロウリアの国力を削ぎ、ロデニウス大陸への足がかりとしていたでしょう」
「クワ・トイネも根本は同じです。エクスプレッセスティと強い関係を築くことで、彼女らの技術を導入し、現在の発展が始まったのです」
ヤゴウは微笑みながら、言う。
「もちろん目論見がないわけではありません。彼女らの国は転移前、資源輸出国だったのです。なので、我々を発展させて新たな需要家として確保しようとしている面があるのは事実です」
「だからこそ奪うつもりなど毛頭ないのです。奪った国が貧すれば自国の資源が売れない……だから与える。与えて国を発展させ、生産効率を上げさせて、より自国の資源を買ってくれるようにする。その結果として、その国の民もより豊かになるのです」
ヤゴウに続けて、マオスも同じように穏やかな笑顔でそう言った。
話題が僅かに途切れたところで、
「これはまだ、本来このような外交の場に出す内容ではないのですが……────」
と、トーパ代表が切り出した。
「我が国の歴史研究の場では、エクスプレッセスティは “太陽神の使者” と同じ世界から来て、尚且つ “太陽神の使者” の国家と強いつながりを持っていたと推測されているのです」
「た、 “太陽神の使者” と同じ世界から来た!?」
シオス代表とマオ代表が、またしても顔芸リアクションを伴いながら言った。
「先程ロウリア代表が仰られていた通り、魔王討伐に当たって我が国に派遣された部隊は神話の “鉄の地竜” と酷似したもの装備していて、しかも魔王軍も彼女らをそう認識していたのです。そして、実際にその120mm砲で魔王にとどめを刺したのです」
「魔王にとどめを刺せる装備!? そ、それをどれほど持っていると言うのですか!?」
トーパ代表の発言に、シオス代表が驚愕して聞き返したが、それに対してはマオスが答える。
「詳細を語ると長くなるのだが、合わせて1000両は軽く越えています」
「そ、それでは……エクスプレッセスティは確実にパーパルディアより強いではないですか!!」
またしても、クワ・トイネ、トーパ、ロウリアの3ヶ国
「そ、そう言えば、先日発生したフェン王国とパーパルディア監察軍の戦闘は……」
「それについては我々にはより仔細な情報が届いています」
流石に言葉を途切れさせながら言うアワン代表の言葉に、ヤゴウが答える。
「停戦を求めたエクスプレッセスティ海軍フリゲート『ライバーシー』に、パーパルディア監察軍艦隊が先制攻撃をしたとの事です」
「愚かな……まだパーパルディアは彼女らを知らぬのでしょうが、後々後悔することになるでしょうな」
ヤミレイがヤゴウの言葉に続いた。
「実際に戦った我々が保証しましょう」
マオスがまとめるように言う。
「パーパルディアでは、エクスプレッセスティには絶対に勝てません。絶対にです」
この会議の結果、次の議決がなされた。
「エクスプレッセスティ共和国に対しては、極力友好的に接する事」
「パーパルディア皇国とは、時間をかけつつ繋がりを薄くする事」
ただ、全会一致とは行かなかった。まだ議決権を持っていないロウリアは除くとして、クワ・トイネ、トーパ、アワンなどが積極的に賛成したのに対し、パーパルディアと地理的に近い貿易国家シオスは棄権、またマオ、クイラは議決案に反対した。
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)