────パーパルディア皇国、皇都エストシラント。
第1外務局。
コンコン、と、局長室の扉がノックされる。
「入れ」
室内からの答えを待って、その男は局長室内に入った。
「またお前か……」
入室してきた男の顔を見ると、やや年嵩だが美女と言って過言ではないエルトは、少し疲れた様子を見せながら、軽くため息を
「そう言わないでください。今日も特ダネを持ってきたんですから。多分この前の続報になります」
「エクスプレッセスティ共和国絡みか」
そう言いながら、男が差し出した書簡の封筒を、エルトが受け取る。
「自分を第1に配置換えしていただければもっとお役にたてますよ」
「そうだな……考えておく」
自らを売り込んできた、ニタニタと顔にしまりのない男に対し、エルトは、言葉では当たり障りなく言ったものの、
──情報を管轄内からホイホイ漏出させるような人間を、自分の部下に付けるわけがないだろう。
と、内心で呆れ返っていた。
男が退室した後、エルトは、書簡の封筒のマルタックを開けて、その中の文書に目を通した。
そこには、第3外務局の調査報告書が収まっていた。
──国家戦略局?
その文字を見て、エルトは少し怪訝そうにした。
国家戦略局がロウリアで極秘裏に活動していた、その内容が記されている。
しかしエルトは、その記述がされていること自体に違和感を覚えた。
──なぜ第3外務局がこの事を……
そう疑問に思いつつ、エルトは文書の内容を更に読み進める。
──なんだ、これは…………
ロウリア軍ギム敗残兵からの聞き取り。数万の軍勢を一瞬で消す強力な攻撃、4,400隻の艦隊がたった
──いくらなんでも荒唐無稽すぎる。
エルトは、一瞬訝しんだが、ふとある事に思い当たった。
──そうか……エクスプレッセスティ共和国が“フェン沖海戦”の相手なのだな?
『フェン沖海戦』────エクスプレッセスティ側では戦時外の戦闘行為として『フェン事変』と呼んでいる、その事象に、エルトの思考が辿り着いた。
如何に監察軍の旧式艦とは言え、22隻の艦隊がほとんど一方的に攻撃され、14隻を
勝敗の点でフェンに負けたのだとしても、ここまでの大損害は考えられない。
そうなると、フェン沖海戦での大損害はエクスプレッセスティとの交戦の結果である、という可能性も出てくる。
とは言え────
──……第3外務局が把握している海戦の内容も、国家戦略局の調査内容も、信じろと言われて信じられる内容ではない……皇帝陛下はフェン侵攻をほぼ決定しておられる、このような不確定要素は取り除かなければならない……か。
エルトはそこまで考えると、その書簡を含めたいくつかの書類をカバンに入れ、執務席の椅子から立ち上がった。
バタン……
「エルト局長、お出かけですか?」
エルトが局長室を出ると、そこは第1外務局のオフィスになっていて、局員達が外交書簡の整理に勤しんでいる。
…………第1外務局の相手は、パーパルディアが“格上”だと
なぜそれでも是正しないのかと言えば、パーパルディア自身があまりに強いプライドの為、相手国を上か下かでしか見ることが出来ないためだ。
列強に数えられているパーパルディアにとって、そこに分類されない文明国は格下なのである。
閑話休題。
手を休めてエルトを振り返った局員に対し、
「とある件で皇帝陛下に注進を申し上げる」
と、伝える。
「お前達は次の帝前会議までにエクスプレッセスティ共和国についての情報を集めよ」
「は、はい!」
エルトにそう言われた、その若い局員は、何処か上ずったような声で返事をしてしまっていた。
エルトがオフィスを出ていった、その後で、
「おいおいお前、顔が紅いぜ?」
と、エルトに問いかけと返事をした局員に対し、その正面に座っていた局員が、茶化すようにそう言った。
「でも局長っていい女だと思わんか? 多少年増とは言え、まだ独身なんだろ?」
「まぁ、あれで今まで男と縁がないって言う方が不思議な気はするがなぁ……」
「こうして直接言葉を交わせるから、距離感が狂っているんだ、お前ら……生き馬の目を抜くような外務局で、
「そうだな、さ、仕事だ仕事」
「で、エクスプレッセスティ共和国……って、なんだ?」
「何だお前、知らないのか……まぁ無理もないな。極東の新興国だよ。なんでも“女しかいない国”だとか。本来なら第3外務局の担当だからな」
「“女しかいない国”……あ、なんか俺、外3に行きたくなったかも……」
「アホ! 仕事しろ、仕事!!」
一方その頃────第3外務局。
面談室。
「突然の呼出……一体何がありましたかな?」
カイオスは、在パーパルディア トーパ大使を呼び出していた。
今までなら、東方文明圏外国の大使・公使は、パーパルディアの外交担当者に呼び出されれば緊張で張り詰めている事が普通だったが、今のトーパ大使は余裕綽々と言った感じでカイオスを見ている。
「急に呼び立てしてすまない」
──おやっ?
カイオスの言葉に、トーパ大使は意外そうに思った。
カイオスはまだ
「他でもない、貴国に侵攻したという魔王についてだ」
「そのことですか……はい、魔王は
カイオスが聞くと、トーパ大使は口元でほくそ笑む。
「つまり……エクスプレッセスティ軍が援軍を出したと言うことか……」
「ええ、もちろん二つ返事で部隊を派遣していただき……ものの2日で魔王軍を壊滅させたのです」
カイオスの、反芻するような言葉に、トーパ大使は手振りを加えながら説明した。
「魔王がどのようなものかはともかく、トーパに攻め入った軍勢は2万を超えていたと聞く。相当の大軍を送り込んできた……ということかね?」
「大軍……そうですね……兵員数で言えば57名、だったかと伝えられています」
「ごっ……」
トーパ大使の答えを聞いて、カイオスは絶句しかけた。トーパ神話の伝説に出てくる魔王などパーパルディアにとっても鎧袖一触の存在とは思っていたが、それは銃砲を取り扱う充分な人員を用意できる事が前提だ。
「ただし、占領を考えるのではなく、単に敵軍を軍事的に無力化することが目的であれば、装備品の運用コストを考えた場合、決して寡兵とは言えないと言うことです。何より! 彼女達はトーパ神話にある“太陽神の使者”と同じ世界から来た、“太陽神の使者”の国から技術的指導を受けて、短期間に現在の国力を得た国家だというのです」
「“太陽神の使者”……それこそ御伽話の存在ではないのか……」
カイオスは、何故か苦渋に満ちた表情をしながら、呟くような言葉で問い返す。
「我が国でもそう思う者は少なくありませんでした。しかし、彼女らは伝説にある“鉄の地竜”、
「戦車……」
「それに……カイオス殿はまだロウリアでの戦いをご存知ありませんか? 伝え聞くところによると、小柄な人間の女性でありながら、ジン・ハークでは獅子奮迅の戦いぶりでロウリア近衛隊を半壊させた騎士がいるそうで、トーパでは“四勇者の1人キージの生まれ変わり”と呼ばれています」
「へっぶしっ!!」
「あれ……? 隊長風邪ですか?」
「ううん……なんだろね……急に来た……」
「まぁ、風邪はありえないですか。インフルエンザウィルスが向こうから逃げていきますもんね」
「殴るよ?」
カイオスはトーパ大使との面談を終えた後、1人になった局長室で思考を巡らせる。
──流石に四勇者の生まれ変わりというのは胡散臭いが、それはそれだけ高度に訓練された軍人が存在しているということだ……
パーパルディアの兵士は、ほとんどが戦列歩兵……徴兵で集めた、ただ号令通りにマスケットに弾を込め、射撃する、その程度にだけ訓練された兵がほとんどだ。
それに対し────近衛との戦闘と言うことは、装備の格差が出にくい屋内戦、それにおいてリアルタイムで自ら判断を下し、戦闘目標を達成する ──── そのような将兵が当然のようにいる軍だと言うことだ。
──目に見える装備ではない、このような面こそが恐ろしい存在なのだ。だが、それをどのように理解してもらう? そもそも、エクスプレッセスティがそのような事を可能にする国だとどう説明すれば良い?
これまでに得ている“鉄竜”や“機械竜”、“鉄の地竜”と言った情報をただ出しても、まだその詳細までは情報を得ていない為、自軍の地竜やワイバーンロードで対応可能、と見なしてしまえば、脅威視しない可能性もある。
──もっと情報が欲しい……核心的な情報を得なければ、逆に誤った決断がなされてしまう可能性がある。できれば帝前会議までに得られればいいが…………
カイオスの願い虚しく、その時はやってきてしまった。
皇宮パラディス城。
天守閣を高く突き出す戦城ではなく、神殿のような屋敷のような構造、ただしその
帝前会議に使われる謁見の広間に、各部門の長が集まり、成立している。
そして、その上座に、皇帝ルディアスがいた。
どっかのDPMを整備していた連中なら「ギ◯ン! リアルギレ◯がいるぅ~!!」とか言いそうな、眉毛が極端に目立たない面長の青年が立っている。ただ、妻子持ちの弟がいるギレン・◯゙ビに比べると、多少若く、また少し瞳は大きい。
帝前会議が始まると、まず、ルディアスはその視線をカイオスに向けた。
「カイオスよ。アルタラス王国に対する外交、上々であった」
「お言葉痛み入ります」
次に、ルディアスはその隣にいた偉丈夫、 ……の割に妙に瞳が少年のように煌めいている壮年の男性に視線を向けた。
「アルデよ、皇軍はどうなっている?」
「はっ、フェン王国への
そう言って、アルデはカイオスに視線を向けた。
「後は第3外務局からの報告待ちなのですが……」
──ここで話題をこちらに向けるか!
カイオスは、「くっ」と詰まった声を出しつつ、アルデに対して口には出さずに毒吐いていた。
「カイオスよ。フェン王国はどうした? なぜ報告しない?」
「…………フェン王国への監察軍の派遣を報告せず申し訳ありませ……」
「たわけが!!」
カイオスが途中まで言いかけたところで、ルディアスが激昂した口調でそれを遮った。
「派遣の報告など要らぬわ! 監察軍の統帥は余が認めた第3外務局の権限だからだ。余が問うているのは監察軍の敗北についてだ!」
ルディアスの叱責に、カイオスはじっとりと脂汗をかく。
「……敵の正体が判明しないため報告を差し控えておりました…………」
カイオスがようやく絞り出すように言うと、
「と、申しているぞ、エルト」
と、ルディアスは話をエルトに
「はい、第1外務局が調べ上げた結果、『フェン沖海戦』において第3外務局監察軍の敗北の要因は、エクスプレッセスティ共和国の介入と結論づけました」
すると、ルディアスの眼光が鋭くなる。
「エクスプレッセスティ共和国……この名に覚えのある者がいるのではないか?」
言いながら、トン、トン、と、ワザと響くように、指で机を叩く。
「正直に名乗り出ろ」
僅かな沈黙の後、国家戦略局々長のイノスが、おずおずと挙手した。
「イノスよ……余はすべてを知っているぞ。内密にロウリア王国を支援し、多大な損害を出した事、それにまつわる報告を隠蔽した事」
年齢では明らかにずっと下だろうルディアスの眼力の前に、イノスは萎縮しつつも、
「お……恐れながら……」
と、声を絞り出した。
「!?」
エルトが、意外そうな表情をイノスに向ける。
「ど……独断専行が過ぎた事に関して、処分は甘んじて受け入れる次第であります……ですが!! 報告が遅れていたのは、そのロウリアの戦いで看過できない情報があったからです。それについて精査が終わるまでは……と」
「ほほう」
イノスの発言に、ルディアスは興味深そうな表情をイノスに向ける。
「よい。現時点で判明している内容を説明してみせよ」
「はい、有難うございます……ロウリア敗戦後の現地での情報収集によりますと、エクスプレッセスティ共和国の軍は、我々が“機械竜”もしくは“飛行機械”と呼ぶ、ムーのそれに酷似したものを保有しているということと、トーパ建国神話において“鉄の地竜”と呼ばれたそれに酷似したものを保有している、というものです」
「この事について、第3外務局からもよろしいでしょうか?」
カイオスはすかさず挙手し、そう言った。
「よい、聞いてやる」
「はっ! 先日トーパ大使より“魔王復活”の一報が入り、援軍の要請を受けました。すでに皇軍はアルタラスからフェンへの連戦に向けて準備中、監察軍のみでは有効な戦力を送り込めない為却下したところ、トーパ王国は既にエクスプレッセスティにも援軍を要請しているとのことでした。そしてつい先日、その結果について再度トーパ大使を呼び出して質問したところ、エクスプレッセスティ軍の精鋭部隊が魔王の軍勢を壊滅させ、魔王そのものも打ち倒したというのです」
「ふむ…………」
まくしたてるように言ったカイオスの言葉に、ルディアスは興味深そうに言った。
「どうやら、その情報は軽視しない方が良さそうだ……重く見すぎても危うそうではあるが……」
ルディアスは呟くようにそう言った後、
「ではカイオス、イノスについて沙汰してみせよ」
と、カイオスに求めた。
「確かに独断専行ではありましたが、多少計画に杜撰な部分はあるものの、私利私欲で行ったものではない事は充分に理解できます。また得られた情報を皇国の行く末の為に精査していた点は評価すべきです。となりますと、1年間の給与2割減の処分が現実的なところと考えられます」
「国家戦略局々長の解任は必要ないと?」
カイオスの言葉に、ルディアスが聞き返す。
「はっ! 本来であればそれが妥当なところとなりますが、エクスプレッセスティについて継続調査が必要である事を考えれば、今イノス殿を解任するのは得策ではないと考えます」
「よいだろう」
ルディアスは満足したように言った。
「余は貴公らの貪欲さを否定はせぬ。競い合い出し抜き大いに結構。それなくしては国は発展しないというもの。イノスよ、これからも皇国の為に尽くすがよい」
「はいッ、全身全霊皇国の為に!!」
──カイオス殿、ありがとう。この恩忘れぬぞ────!
今回ユキたいちょがカットインしたので、クロエたいちょ共々NAI Diffusion V3版。
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759223165346328676
そうそうクロエたいちょってこんな感じ。合法ロリながら年相応な雰囲気を漂わせているところ。
逆にクロエたいちょの登場でユキたいちょは、すっかりはっちゃけアラサーに。
実はこの2人、クロエたいちょが登場して先輩後輩の設定が入るまでは、ユキたいちょの方が年上でした。
ユキたいちょ変更前32歳→変更後28歳
クロエたいちょ31歳
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レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)