────帝前会議は続く。
「結論を出す。エクスプレッセスティ共和国は、我々と異質な能力を持ち、それによって文明圏外国への影響力を持ち始めている新興国家と言う事だ」
ルディアスはそう結論づけると、その視線をアルデに向けた。
「皇軍最高司令官アルデ! フェンへの懲罰出動について彼我の兵力分析を報告せよ」
「はっ! 総力をあげ蛮族国家から情報を集めましたが、既にエクスプレッセスティの情報操作の影響が────」
「誰がエクスプレッセスティについて訊ねた!!!?」
アルデの言葉を遮り、ルディアスは激昂したような怒声を上げた。
「今、情報操作と言ったが、貴公らは国家戦略局や第3外務局が調査中の “飛行機械” や “鉄の地竜” について、より正確な情報を掴んでいたか?」
「はい。第1外務局と軍務局で精査したところ、それらの情報は誇張されたものと判断し、『侮ってはいけないが恐れるほどの国ではない』との認識で一致しました」
アルデが少々萎縮しつつ、ルディアスに言う。
第1外務局の名前を出されたエルトは、アルデに対して、横目で「今巻き込まなくてもいいでしょう」という視線を送っていた。
「イノスよ、ロウリアに供与した中に飛竜は含まれていたか?」
ルディアスは、イノスに向かって問いかける。
「そ、それは……」
「咎める意図はない、正直に申せ」
声を震わせているイノスに対し、ルディアスはいくらか語気を弱めて促した。
「在来種のワイバーンですが……200騎程を供与しました」
「ふむ、そうすると、開戦時にロウリアが保有していた飛竜はどれほどになる?」
「ロウリアが開戦前に保有していた分を合わせると、400から500になります」
「それらは壊滅したと考えてよいのだな?」
「は、はい……」
ルディアスはイノスを責める意図はなかったのだが、損害について聞かれた際の答えは、また少し萎縮したものになった。
そして、ルディアスはカイオスにも問いかける。
「カイオスよ、開戦前のクワ・トイネ公国に、これほどの戦力を撃退できる軍事力は存在したか?」
「いいえ。あの国は平和不戦主義。自国を防衛するのに最低限の軍備しか持っておりません。仮に自国領内への侵入を撃退したにせよ、とてもその数の飛竜隊を壊滅させる程の戦力はありません」
「成る程。ではもうひとつ」
カイオスの言葉に納得してから、更に質問を続ける。
「エクスプレッセスティはトーパへ援軍を出したとあるが、これはトーパの地に部隊を駐留させているというわけではない、という考えで間違いではないか?」
「はい。トーパの要請を受けてから送られた援軍です」
「相解った。両名ご苦労であるが、引き続き情報収集とその精査にあたれ」
ルディアスは、多少語気は強いものの、穏やかな口調で、2人にそう言った。
「アルデ、それにエルト、貴公らはこの情報を掴んでいたか? あるいは掴んでいたとして、重視すべきものとしていたか?」
「そ、それは……」
「…………じょ、情報操作の結果かと……」
ルディアスに言葉で迫られ、アルデとエルトは竦みかけつつ、言葉を途切れさせながらそう言う。
だが、それが余計にルディアスの癪に障った。
「愚か者が!! 仮にそうであったとして、なぜ余に知らせぬ!? 巨大な築堤も蟻の穴ひとつで崩壊することもあるのだぞ!!」
ルディアスの怒声に、アルデとエルトは竦み上がった。
「ロウリアとトーパに関する報告、この情報を基に、余なりの結論を出そう。『エクスプレッセスティ共和国は質の面において
ルディアスはそう言ったが、特に異論を唱える者はいなかった。別に誰もが萎縮して、ルディアスに反論しなかったわけではない。純粋に、現状ではルディアスの結論を覆す程の材料がなかったのだ。
「その上で、だ」
ルディアスは、発言がないことを確認してから、再びアルデに視線を向ける。
「アルデよ、フェンとの戦いの目算はどうだ?」
「はっ……フェン軍への対応は作戦に盛り込んであります。また、今回は監察軍の数倍の兵力を動員しますので、エクスプレッセスティがしゃしゃり出てきたとしても、その尖兵を破砕し、後が続かぬようにするのには充分かと」
アルデは、ルディアスに対しては多少萎縮しつつも、自らが率いる皇国軍への自信はまったく揺るぐことなくそう言った。
「よろしい。ではフェンを滅せよ。ただしゆめゆめ油断はするな」
「はっ!」
ルディアスの下令に対し、アルデは威勢よく返事をした。
「カイオスよ、観察軍敗北の責任は貴公だけには問わん。エクスプレッセスティとの接触を持ち、情報収集しつつ、皇国の圧倒的優位を教育するのだ」
「承知致しました」
そして、ルディアスは最後にエルトの方を向く。
「エルトよ。余に注進するのは大いに結構だが、その時にはその情報の全体像を伝えよ。それが出来ないのならばするな。目も耳も封じられては余とて正確な判断はできん」
「は……はい……」
エルトは、意気消沈した様子で、震える声を出した。
「もし外務局のみで対応しかねる問題であると判断した場合は、然るべき人物にその任務を
──それはまずい……な……
ルディアスのその言葉に、カイオスは苦々しく目を細めた。
エクスプレッセスティ共和国。エナジポリス軍基地、演習フィールド。
「てやーっ!」
パパパパパーッ!!
掛け声の後に、RPC Fort-206/243の銃口から、 .243
その弾丸は、標的に突き刺さり、それを破壊した……のだが、
「こーらっ!!」
パシーン!!
と、射撃手の背後から、その後頭部をハリセンで叩いた。
ハリセンの主は、ユキ・マデリーン・サイトウ陸軍中佐。泣く子も黙り男の情操を木っ端微塵にするエクスプレッセスティ陸軍
「射撃前に、常に声を出すクセをつけるな。状況によっては射点がバレる。通常時は射撃位置をしっかり固めるまで声を出すな。私の声は武器のひとつだ。無闇矢鱈と振り回せば味方を危うくする」
「も、申し訳ありません、教官殿……」
睨むようにしながら叱りつけるユキに対し、申し訳無さそうにそう言ったのは、エクスプレッセスティ軍にはいるはずのない“マジョリティ男性”だった。
「でも、まぁ────」
ユキはほぼ上下に割れて吹っ飛んだ標的を見る。
「────精度はかなりいいし、君に直してほしいのはそれぐらいかな」
はっちゃけアラサーの“
Fort-206/243は反動が弱い銃ではない。バトルライフル・アサルトライフルの安定射撃は、力で抑えるだけでは、男性でも限界がある。コツを掴むのが必要だ
ユキの言葉を聞いて、男性は直立不動の体勢になって声を上げる。
「有難うございます!」
────クワ・トイネ、トーパ、と、中途半端な装備品供与を行って、かえって損害を出した教訓から、フェンにはついに現用装備品の供与を決定した。
装甲車両や、ましてや航空機の供与は、自動車を見たこともないフェン兵に対しては、かなりの期間を必要として即戦力にならない。
なので、銃砲を中心とした供与になるのだが、まず、これまでのDPMや豊和M1500 7mm Remington Magnum モデルなどの常備リストから外れているモスボール組から、現用のFort-206/243とM1500 .243WSSMモデルに変更。
牽引式の榴弾砲はNATO規格のものがないため、またしてもM-30 122mm榴弾砲だが、そもそもこれは国内でも現用扱いなので、砲弾は常にストックがある。
さらには、対空火器もMANPADSの『ミストラル』、また地竜なる陸上機動戦力があるということからRK-3対戦車ミサイルも供与リストに入った。
その上、日本の安宅船に似たフェン水軍の帆船に、ストック品の『Sarmat20』RWSを取り付けることとした
そして、それらの装備品をフェン軍が使えるよう、現在エクスプレッセスティ国内でフェン軍将兵に対する訓練が行われていた。
「しかし、これほどの物を供与していただいて、御国の守りに問題はないのですかな?」
「少し前だと不安だったのですが、現在はかなりの分が内製化出来ているので、問題はないですよ」
来訪していたマグレブに対し、マコト・ハンナ・イノウエ国防省長官は、苦笑しながらそう言った。
今回供与される装備品の中で、内製化に着手していなかったのは『ミストラル』とM1500くらいである。それはなぜかと言うと、それ以外の装備品は2022ウクライナ-ロシア戦争でウクライナからの供給が止まってしまったため、急ピッチで内製化が進められたからだ。
「それに────」
それまで、マグレブに無用の緊張を与えないように苦笑気味の笑顔をつくっていたマコトだが、そこで表情が引き締まる。
「────クワ・トイネやトーパの時と異なり、既に
「成る程……それでこれほどの供与をしても、民に説明がつく、というわけですな?」
「そう言うことです」
マグレブの言葉に、マコトははっきりと答えた。
──それにしても……────
マグレブはそれを見て、ゴクリと喉を鳴らしながら、胸中で呟く。
2人がいるのはエクスプレッセスティの防衛産業の中枢、第3セクター軍需企業体『ブリュンヒルデ・ファイアーアームズ』エムブラセクス第1工場。登記上、ウクロボロンプロム・サービス・エクスプレッセスティが同居している。
通路とはガラスで仕切られた眼下に、 .243WSSMから155mm砲弾まで、オートメーション化された各種弾薬の製造ラインがずらりと並び、“整然とした騒音”の中で組み上げられている。
──自分達が敵に回そうとしているのが、これほどの相手だと、パーパルディアは理解しているのだろうか……
────数日後。パーパルディア皇国、皇都エストシラント。
外務局別館。
迎賓用のこの建物に、フォーマルな装いの第3外務局職員が、パーパルディアのそれとは明らかに異質な、しかし質素な中にも質感のあるズボン服姿の、2人の
表向きは外国からの国賓はここで迎えるのが通例だが、実際には第1外務局専用となっている。
──損な役回りだなぁ……周りは外1の局員ばかりじゃないか……
2人の案内役とされた第3外務局々員は、苦々しい顔をしている。
実際、
「おい、なんで第3外務局員がいるんだ?」
「さー? 見学にも来たんじゃなくて?」
と、彼に対して失笑し、見下すような囁きがあちこちから聞こえる。
その一方で、別の話題でざわついてもいた。
「エクスプレッセスティ共和国だって? 噂のか?」
「外3のカイオス局長が招いたらしい」
「ここには文明圏国家しか招かない、という不文律があったのではないか?」
驕り混じりの囁きあう言葉をよそに、先導する第3外務局員の先導で、面談室までやってきた。
その扉が開く。
「失礼します。エクスプレッセスティ共和国外交官をお連れしました」
案内役の彼が、そう言うが早いか、プリヤ・キャサリン・モーパディ外交官は、随員のリカ・マルセラ・イシカワを伴って、挨拶もなしにズカズカと室内に入ると、
「では自己しょ────」
ドカァッ!!
と、自分達の為に用意された、明らかに質素すぎる椅子をいきなり蹴飛ばした。
「な、な!?」
「帰るわよリカ」
「解りました」
カイオスと部下2人が、何が起こったのか理解できないでいる間に、プリヤはカイオスに背を向けて退室しようとする。
「きさまら! 蛮族国家の分際でこのような真似をして、タダで済むと思うな!」
「それはこっちのセリフだ!!」
第3外務局々員の東部担当部長であるタールが怒鳴りつけると、振り返ったプリヤが即座に怒鳴り返した。
「そもそも呼び出したのはそちらから、先日我が方の軍艦が貴国軍隊から先制攻撃を受け、艦艇の損傷と、重傷者を含む35名の負傷者を出した件、こちらではそう認識している事態について、会談を持ちたいと言ってきたからここに来たのだろう!! そもそも、我々は第3外務局を窓口とした交渉は行わないと通告したはずだ!! それを初っ端いきなり無碍にするのも
『喧嘩売ってこい』
カイオスの呼び出しに対して、プリヤが受けているエクスプレッセスティ本国からの指示はこれであった。
『フェンだのアルタラスだの、
「ま、待ってくれ、通告というのはどういう事だ。我々は何も……」
カイオスが慌てた声で言うと、プリヤはボイスレコーダーを取り出し、準備してあった音声を再生する。
『あなた方の国はここ! 文明圏外! 「東方の蛮族」ということです』
最大音量で、それが流れる。
『あなた方のような者を簡単に通すと、私の評価が下がるんですよね……』
「受付事務員のライタの声です」
タールの更に部下であるバルコが、カイオスに囁く。
「なんてことをしてくれた……」
カイオスは、小声で呟きつつ、顔を手で覆う。
ボイスレコーダーの再生が終わると、続けてプリヤが言う。
「
「な……」
カイオスとタールが驚き、一瞬硬直した。
「きさま、言わせておけば!!」
「ぁあ゙ん?」
タールが激昂の声を出しかけるが、プリヤはそれに対して、最早外交員と言うよりジ
「ま、待ってくれ」
カイオスが、縋るようにプリヤ達に声をかける。
「……そ、それでは、まるで皇国と戦争になっても構わないと言っているようではないか!?」
「もちろん戦争など、こちらの本意ではありません。
「ただ、言ってわからん駄犬には身体に躾けるしかないですねぇ?」
カイオスの言葉に、まずプリヤが口調を整えてから淡々と言い、それにリカが付け加えた。
「きさま、皇国を駄犬呼ばわりしたな!?」
「言われたくなかったら学生レベルの基本的な作法ぐらい身につけてから言え!!」
激昂したタールの言葉に、プリヤがやはり怒声で返す。
「いいから下がっていろ! バルコ、お前もだ!!」
カイオスは、そう言い、実際に腕でも2人を押し戻した。
──まずい……これは、相手は完全に“やる気”だ…………
「こ、今回のこの会談について、欠礼があったことを詫びよう。す、済まないが今回はこれで我慢していただけないだろうか? 次からはこのような処遇をしないと約束しよう」
「何を言ってるのか解りませんねぇ────
カイオスはなんとかプリヤ達を宥めようとするものの、プリヤは大上段から突き放すように言う。
「きさま! きさまの国を皇国の74番目の属領にしてやってもいいのだぞ!!」
「だからそんなにやりたいなら相手になってやると言っている!! 若年性認知症かきさま!!」
タールの怒声に、プリヤが怒声で応じる。
「確かに
プリヤは、一気にそう言うと、手元に持っていた、レーザープリンタで印刷して纏めた資料集を、投げつけるようにしてカイオスの前に置いた。
「その資料を理解できるなら解るはずです。我が国が属領など必要としていない事、逆に周辺国を属領などにしても我が国の利益にならないという事を。ああ、それも我が国の国民の税金の一部ですが、まぁそれぐらいはくれてやっても文句は言わないでしょう」
プリヤは、ゴミを見るような目をカイオス達に向けながらそう言った。
「そ、それでは
「不要、ほぼ把握しております」
カイオスが、最後に縋ろうとそう言うものの、プリヤの返しは素っ気ないものだった。
「それでは、これにて失礼させていただきます」
プリヤはそう言って、リカとともに、今度こそ出て行ってしまった。
「局長……これは……」
「2人とも、今ここであったことは完全に秘密にしろ!! 間違っても外務監察室に知られるな!!」
カイオスは、怒鳴りつけるようにしてタールとバルコに厳命した。
──粗暴なように見えるが、あれは完全に確信犯だ。「これ以上邪魔をするな、さもなければ排除する」と言ったのだ!! 言葉を額面通りしか受け取らないあの女に知られたら……
一方。
「これ……どうすりゃいいんだよ……」
エルトに第3外務局内の情報を流していたあの男は、やはり会談内容を盗み聞きしていたが、少なくとも彼が公職について以来、神聖ミリシアル帝国以外から ──── 否、ミリシアルが
やりすぎたかな……
この面談でエクスプレッセスティ側が席を立とうとするというのはだいぶ前から決めていたのですが、実際書いたらカイオスくん達が可哀想なほどの大上段からの対応に……
なんででしょねー。
ただし、カイオスくんがこの屈辱に耐えた努力は残念ですがあのバ……キャラが全部台無しにします。
評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。
https://twitter.com/kaonohito2
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)