──ああ、嫌だ嫌だ。
パーパルディア皇国、皇都エストシラント。第1外務局。
オフィスとは別に確保されている、局長用の多目的室。
本来の部屋の主であるエルトは、現在その部屋を占領したかのように振る舞うその存在に対して、頭を悩ませながら、軽くため息をつく。
──外務局始まって以来の才女と持て囃されて、数多の競争相手を蹴落として栄えある第1外務局の局長に上りつめたはいいものの、現実には皇族のわがままに振り回されるわ、ムー以外の列強の外交官は基本的に態度悪いわ、ついでに婚期は逃すし今でも男性の視線を感じる事はあっても名声が轟き過ぎてアプローチは皆無だわ……
エルトがそうぼやいていると、コンコン、と、外から扉がノックされた。
「誰か?」
エルトが訊ねると、扉の向こうから、
「第3外務局、カイオスだ」
と、返ってきた。
「失礼。どうぞ入って」
エルトが語気を緩めてそう言うと、扉が開き、カイオスが入ってきて────
バタッ
「カイオス!?」
それを見るなり、カイオスはその場に卒倒し、そのまま意識を失ってしまった。
エクスプレッセスティ共和国の転移よりわずかに以前。
「国を強く大きくしてゆくには恐怖による支配が有効だが、ひとつだけ弱点がある」
ある日の夜、公務を終えたルディアスが、縁戚で皇妃候補の女性と語り合っていた。
「それは……なんでしょうか?」
女性が、ルディアスに問い返す。
「舐められたら終わり、という事だ」
ルディアスはそう言った。
格下の相手に対し、恐怖を利用して、下手な自決を得るよりもパーパルディア皇国に則する方が、安定が得られると認識させる ──── これがルディアスの持論だった。
残念ながらこれは現代地球でも同じである。ただ、アメリカ合衆国などの西側自由主義陣営では
「だからこそ我が国は、宥和政策を採るムー国や、中央世界のミリシアル帝国よりも “下” に見られる現状を許容してはいけないのだ」
ルディアスはそう言い、シャンパングラスを手に持ち、満点の星空を見上げる。近代工業が存在していない第3文明圏の夜空は、星がキラキラと美しく煌めいている。
「余は蛮族をまとめ上げ、第3文明圏を統一し、いずれは中央世界をも征服する。そして……世界から戦争はなくなり、真の平和が訪れる……」
ルディアスのこの持論は、傲慢と誇大妄想の気は見られるものの、
エミリアがこれを聞いたとして、
相手の女性は、顔を少し紅潮させながら、ルディアスに見とれている。
固まったかのようにしていた女性は、自身のシャンパングラスに、ルディアスが持つそれが、チン、と、乾杯の要領で打たれた音で、我に返る。ただ、それでもルディアスに対する熱っぽい視線は止まらない。
「陛下はパーパルディアだけではなく、世界の行く末までを想っておられたとは……」
女性は、尊敬と情愛の眼差しでルディアスに見とれたまま、言う。
「私は……感動しております……」
女性のその声を聞いて、ルディアスは自身の理想が彼女に伝わったと確信した。パーパルディアの人間は優秀であり、増して今この相手は自身の縁戚につながる者なのだから ──── と。
────そして、それこそが彼の不幸だった。
──私が陛下の一番の理解者……私が陛下を支えるの……そして、その実現の暁には……
ルディアスにとって、理想世界の実現の
それに、
だが残念ながら、パーパルディアの重職者達は必ずしもこの事を理解していなかった。
しかも、選りに依って────
「ふん、この私の姿を見ただけで卒倒するとは。本当に第3外務局がこのド三流に務まっているのか?」
現在。
第1外務局のその部屋の中で、自身の姿を見るなり卒倒したカイオスに、気遣いの様子を見せるでもなく、その存在は見下すような傲慢さを以ってそう言った。
「まぁ良い、目を覚ましたら言っておけ。皇国を侮辱するような国家を、これ以上放縦にさせる訳にはいかない。今後、エクスプレッセスティ共和国との交渉は第1外務局の担当とし、この私が外務監査室から出向してエクスプレッセスティとの交渉全権を持つ」
────「舐められたら終わり」とは、「舐められないだけの実力を身につける努力をする」という事であり、「支配する」とは「被支配者に責任を持つ」という事 ──────── このルディアスの理想論から最も遠いところにいる者、それが外務監査室を構成するパーパルディア皇族の1人であり、ルディアスのお気に入りとして、パーパルディアの外交をいいように引っ掻き回す、レミールという女だった。
────────
────
──
そして、物語はこの章の冒頭に戻る。
────バァアァァァンッ!!
フェン近海、アマノキ北方沖。
パーパルディア皇国海軍、フェン侵攻部隊別働隊。
飛竜母艦4隻、100門級戦列艦2隻、80門級戦列艦4隻、50門級戦列艦2隻からなるこの艦隊だったが、ヴァーン……という音が響いた後、飛竜母艦4隻の甲板上で爆発音があったかと思うと、火の手が上がり、みるみる内に甲板上が炎に包まれていく。
「い、一体何の攻撃を受けているって言うんだ!?」
100門級戦列艦『ムーライト』の甲板上で、彼はその光景を見ながら、ただただ呆然とするしかなかった。
ヴァーン…………
──この音だ!! さっきもこの音がした!!
彼は、艦の後方から近付いてくる、この不快感を伴う音が、この爆発の寸前にも起こっていた事を認識した。
バァーァァン……ッ!!
既に炎上中で、マストが崩れかけ、『風神の涙』は既に甲板側に倒された竜母『ミスリアス』の甲板上で、さらなる爆発が起きる。火災の消火に当たっていた乗員が、自身が炎に包まれるのが見えた。
ヴァーン…………
「!」
その音の“発生源”が、海面に落下するのが見えた。
その寸前に見えたものは、ワイバーンを模したような何かだった。
海に落下したのならば害はないだろう、と、彼が思いかけたが、その落下した場所の海面で、 ────海面が燃え始めた。
──…………油だ!!
それについてはすぐに理解できた。何らかの軽質油が詰まっており、落下の衝撃で発火するようになっているのだ。
ヴァーン……
「!!」
その音が、ムーライトの艦尾に近付いてくる。さっき見えた小さなワイバーンのような何かが、稼働中の『風神の涙』に吸い込まれる。翼が簡単にもげ落ちると、胴体が帆に当たった。するとその胴体が炸裂し、炎の雨となって甲板に降り注いた。
「消火だ! 火を消せ!!」
艦長の命令を受け、他の乗員は水で消火を試みる。
──それじゃダメだ!!
油による火災なのだとしたら、バケツ消火など意味がない。
地球現代の消火用放水銃でトン単位の水を投射すれば、冷却効果と発生した水蒸気による酸素遮断で火勢の弱まりが期待できるが、人が運べる程度の水ではそれは期待薄だ。
しかも、 ────攻撃、そうおそらく敵の攻撃はまだ続いているのだ。
ヴァーン……
バァアァーンッ!!
言っている傍から、炎上している甲板にそれが飛び込み、飛び散った炎を浴びて、乗員が火に包まれる。
────────その時。
ドグワァアァァァァンッ!!
大爆発が発生し、衝撃波で彼は吹き飛ばされた。
この爆発は、敵の、直接的な攻撃によるものではなかった。
ワイバーン発進推進用の魔石が埋め込まれている竜母の飛行甲板が、炎によって誘爆したのだ。
彼────ハーゲルトは、ムーライトの甲板から大きく弾き飛ばされ、海面に落下した。そしてそのまま、意識を失った。
「敵竜母艦、大型戦列艦、全て炎上しておりまする!!」
単眼式望遠鏡でそれを見ながら、興奮したような声を上げる。
「カッカッカ、陽動などという小賢しい真似をするからよ」
クシラは、フェン水軍旗艦『剣神』の戦闘艦橋で、腕組みをしながら、炎上するパーパルディア艦隊から上がる煙を見、豪快に笑い声を上げる。
────SYPAQ CORVO PPDS。
パーパルディア艦隊別働隊を炎と大混乱に包ませたモノの正体が、これだった。
オーストラリア製のUAVで、その機体構造の大半が、なんと紙のダンボールで構成されている。
転移前にCORVOの正式なライセンスは取得していなかったが、北ロデニウス戦争が終結する頃、国内に取り残されたオーストラリア大使に、今後地球に戻る、或いは戻らなくとも連絡ができるようになった際に、知的財産権侵害の補償をする事を約束し、リバースエンジニアリングで構造を把握し、コピー生産を開始していた。
そして、その際に設計を一部変更していた。原型のCORVO PPDSはバッテリーを積んだ電動だったが、これを模型用のグローエンジンに変更した。CORVO PPDSの長所だった静粛性と引き換えに、倍の航続距離を得た。
しかし、その搭載量はわずか3kg。通常の爆薬では、木造としては大型の竜母や戦列艦に深刻なダメージを追わせるのは難しい。
そこで、ゲル化したエタノール燃料に少量のガソリンとアルミ屑を混ぜ込んだ焼夷弾とした。木造品の完璧な不燃加工など日本にしかできない。ましてパーパルディアの技術力では到底不可能だ。それに木材の構造物を不燃化したところで、炎の塊と化したゲル状燃料が着火させる目標は、パーパルディア艦にはいくらでもある。帆、魔石、そしてワイバーン、さらに ──── 人間。
この時点で、フェン水軍側もかなりのダメージを受けていた。パーパルディア竜母飛竜隊の攻撃により、数字上なら深刻な被害を被っている。だが、その代わり攻撃してきた40騎の竜母飛竜隊は、エクスプレッセスティ供与の『ミストラル』と、20mm機銃で18騎を撃墜した。 ────もっとも、生還した飛竜隊も、その母艦とともに只今絶賛炎上中である。
パーパルディアのこの別働隊は、フェン水軍、またエクスプレッセスティ艦がいることも考慮して、王都アマノキを攻撃すると見せかけて、これを北に誘引する任務を負っていた。実際の上陸はフェン西端の主要都市、ニシノミヤコを目標としていた。
しかし────
「やや!」
望遠鏡でパーパルディア艦隊を見張っていた見張員が、それに気づく。
「敵中型戦列艦、変針! こちらに向かって来ようとしています!」
「面白い!」
見張りの報告に、クシラは、ニヤリと歯を見せて笑う。
「合戦準備! 敵陽動隊を殲滅する!!」
フェン水軍の目標は、最初から防衛ではなかった。
────パーパルディア艦を、1隻でも多く撃沈せよ。
エクスプレッセスティは、現在やっと20,000トン級の補給艦を自力で建造できるようになったばかりであり、船舶建造能力はかなり小さい。
技術供与の代わりに、軍艦を含む船舶の一部の建造を請け負ってくれないか、と、ムーに交渉している程なのである。
エクスプレッセスティ政府は当初、中立外交を行っているムーはこれに難色を示すと考えていたのだが、ムー政府はエクスプレッセスティに、いくつかの軍事技術の供与を条件に、前向きに検討すると回答してきた。
これらのことから、先ず矢面に立つフェンに課せられたのは、パーパルディアの数的優位を少しでも削る事だったのである。
その意図も知らず、パーパルディア海軍は陽動隊をアマノキに差し向けたことで、少数艦隊の各個撃破の機会を与えてしまったのだった。
「『
クシラが下令する。
残念ながら、木造で安宅船型のフェン水軍の戦船に、エクスプレッセスティの軍艦の装備は載せられない。平常時の重量は受け止められたとしても、射撃時の反動で破壊してしまう。
なので、陸戦兵器であるRK-3対戦車ミサイルと、T-54のアップデート用に使われた軽量RWS『Sarmat20』を搭載していた。
RK-3は複合装甲で鎧われた50トン超の戦車の正面装甲をブチ抜く為のミサイルである。ガタイが多少デカくとも、所詮木造戦列艦にはオーバーキルですらあった。
ただ、ひとつだけ問題がある。
「『翠蓮』、轟沈!」
フェン水軍の軍船が、パーパルディア戦列艦の魔導砲の命中を受けてバラバラになり、乗員が海に放り出される。
「構うなぁ! 敵への攻撃を続けよ!!」
だが、指揮を執るクシラ以下、フェン水軍の勢いは止まらない。
以前も説明したが、セミアクティブレーザー誘導のRK-3は、命中まで照準用レーザーを照射し続ける必要がある。
最大射程が2,500mなので、パーパルディア戦列艦が手数で勝負しようとしてくれば、当たらない距離ではないのだ。
だが、その代償は大きすぎた。
ゴワァアァァァンッ!!
数発のRK-3が命中した戦列艦は、砲座を高温のメタルジェットに射抜かれて誘爆し、大爆発を起こして木っ端微塵になった。
あの中にはいたくない、フェン水軍の兵がそう思ったほどの凄惨な最期である。
「カカカカカ、
クシラが
後に『アマノキ北沖海戦』と呼ばれるこの戦いで、フェン水軍は半壊の損害を被った。
だがその代償に、貴重な竜母4隻を含む、パーパルディア海軍別働隊は、その搭載飛竜隊を含め、文字通りの全滅となったのである。
揚陸母艦『セリーヌナ』(元フィアレス級『H.M.S.イントレピッド』)のウェルドック内に、誰かが勝手に描いてそのままになっているというイラストの再現(2枚目)。
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759223998569914400
NAI Diffusion V3、サンプリングしてあるキャラの再現はV2までとは段違いの精度なんですが、逆にメジャータイトルのマイナーキャラやオリジナルのキャラを構成するのは苦手な模様……旧バージョン削除されるといろいろ困るなぁ……
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https://twitter.com/kaonohito2
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)