フェン水軍とパーパルディア艦隊別働隊が交戦している頃────
パーパルディア皇国軍ニシミヤコ侵攻部隊本隊は、竜母から偵察の飛竜隊を飛ばしていた。
ここで、アルデ以下パーパルディア軍の認識の甘さが出た。
「フェンは航空戦力を持っていない」 ──── 先日の帝前会議の内容を充分に反映させていれば、「エクスプレッセスティが航空戦力を持っている疑いがある」「フェンに軍事支援を行う可能性はゼロではない」となるはずだが、それに対して認識の共有が指揮官レベルに留まってしまって末端まで行き届いていなかった。
確かにパーパルディアレベルの準近代の軍隊だと、末端に近づくほど将兵の教育が「とにかく自身の判断より上級司令部に従うこと」となり、兵卒に至っては自己で作戦の判断ができるような教育がそもそも為されていない。
この為、各々のレベルの指揮官がその任務のために必要な情報を持っていればそれでいい、のだが、例外がある。それが航空兵だ。
航空兵は、基本的にユニットコストが高く、また、一度飛び出してしまうと常に上級司令部から細かい指示を受けられないし、上級司令部の側も認識していない状況の変化がしばしば発生する。この為、現代で言う“ミッションコマンド” (上級司令部は作戦目標を決定しつつ、細やかな判断はより末端のユニットに委ねるという方式)の性格を、既に第二次世界大戦の頃には求められていたのである。
ところが、パーパルディア皇国では飛竜隊に対して、 “ミッションコマンド” の様に振る舞うことを許していなかった。この面では、ロウリアより酷いと言っていい。
変な話だが、情操教育の段階で“武士道”を叩き込まれるフェン軍の方が、よほどミッションコマンド導入の下地が出来ていて、実際ユキが飲み込みの良さに驚かされた程なのだ。
────なもんで、こうなる。
「今だ!」
ドシュッ
「!?」
パーパルディア飛竜兵は、いつものように肉眼で、フェン軍の動向と地上の状況を偵察しようと、極低空でニシノミヤコ城塞内に近付いたところで、地上から発射された光が迫ってくるのを見て ──── それが彼の意識の最後だった。
「当たった!!」
「喜んでる場合か! いくぞ!」
MANPADS型『ミストラル』の射手となっていたそのフェン兵は、同伴するペアの兵の声とともに、発射地点から走って離れる。別の建物の影に隠れると、そこで、抱えていた2発の『ミストラル』の1発を、発射機に装填する。
相手がMANPADSを持っている可能性が排除できない場合、現代地球の軍隊なら偵察のためにノコノコと低速のヘリなど飛ばさない。エクスプレッセスティ国防軍であればMANPADSに対して安全高度を確保できるBr-1050A、より脅威が高ければMiG-29、MiG-23、Su-22、これらの機体に偵察ポッドを搭載して行う。或いは現在なら落とされても単価が安く人命に関わらないUAVも使える。
だが、そもそもパーパルディア飛竜隊は複座が存在しない為、技術較差を考えても、望遠鏡・拡大鏡の類を使うわけにもいかず、入り組んだ城塞内の、敵兵力の状況を知ろうとすれば、極低空を飛ぶしかない。
それでも“極低空では敵の対空兵器が飛んでくる可能性がある”と、彼らが認識しているだけでも、余計な損害は減らすことが出来たはずだ。だが彼らにはそのような情報が与えられていないのである。
「シウス海将!!」
シウスは、旗艦『パール』共々、アルタラスに続いてフェン侵攻でも総指揮官を務めていた。その彼の元に、通信室から憔悴した様子の兵が報告に入ってくる。
「各竜母から次々に、偵察隊との通信途絶が報告されています!!」
「なに……」
シウスは、内心で驚きつつ、外見では取り乱した様子はなく、ただ呟くように声を出した。
「海将!! 別働隊から、フェン海軍の軍船を飛竜隊での攻撃を行い、8隻程度を撃破したものの、攻撃隊の半数程度が未帰還となったと報告してきています!」
続けざまに、シウスの元に報告が入ってくる。
──何だ、何が起こっているッ!?
アルタラスでも飛竜隊の損害皆無とは行かなかった。だが、それはアルタラスにはそれなりに軍事力があったからだ。
──フェンは飛竜すら持っていない、ただ“武士道”なる精神論を振り回す蛮族国家のはずだ。なのになぜ、飛竜隊にこう次々と損害が出る?
シウスは、飛竜隊の損害に戸惑いつつも、
「上陸部隊に多少損害が出るかも知れないが、やむをえん。艦砲射撃での支援をつけた上で、強襲上陸を行う!」
と、判断を下した。
防御側に大砲がある可能性を排除できないが、パーパルディアの魔導砲の性能を
「まずは戦列艦隊を、砂浜ギリギリまで寄せろ。伏兵が出ないよう艦砲射撃を行い、掃討するのだ!」
シウスのその指示の下、パーパルディア艦隊の戦列艦は、『パール』を始めとした超100門級を中心に、上陸予定のニシノミヤコの砂浜、座礁しないギリギリの位置まで来て、砂浜に向かって激しい艦砲射撃を浴びせる。
ドゥッ、ドゥッ……ドゥッ、ドゥッ……!!
波打ち際から防砂林のあたりまで、満遍なく
ここで彼我の大砲の性能を比べる。パーパルティア皇国軍の標準型魔導砲は射程約2,500~3,000m。これは陸上用の牽引砲も戦列艦の艦載砲も大差ない。
一方エクスプレッセスティが供与したソビエト連邦M-30 122mm榴弾砲の最大射程は11,800m、しかも現用兵器であるため第二次世界大戦中の旧式砲ながら整備が行き届いていて、有効性のマージンを取ったとしても9,500~10,000mは充分狙える。
オマケにパーパルディアの砲は砲弾を前から込める前装式で、M-30は分離装薬式ながら後装式である。
単純なスペック勝負なら、パーパルディア戦列艦が海岸に砲撃が届くところまで接近しているのであれば、より内陸にあるM-30の射程内に収まっている事になる。
実際、防砂林のすぐ内陸側に、フェン軍は野戦砲陣地を築き上げていた。 ──が、戦列艦に対しては応射せず、黙り込んでいる。
「まだ待て」
甲冑姿のフェン軍の砲兵中隊々長が、これまたエクスプレッセスティが供与した軍用ハンディトランシーバで下令する。
「榴弾が当たっても、図体のでかい戦列艦には被害が限定的だと言う。なので敵が上陸を始めたところを狙うのだ」
静かに、しかしはっきりとした口調で、フェン中隊長はそう言った。
一方。
「どうやら杞憂だったようだな……」
シウスは、艦砲射撃に対しフェン軍の反応がないのを見て、少しホッとした様子を見せる。
「よし、上陸を開始せよ。同時に魔導砲艦で城塞内部を砲撃しろ。街に被害が出るだろうが構うな」
シウスが下令する。80門級以下の中型・小型戦列艦に護衛されていた揚陸艦が、上陸のために砂浜へと向かい、その艦首を乗り上げさせる。
艦首のスロープゲートが降ろされ、地竜を含む上陸部隊が、その砂浜を踏みしめた。
「シウス海将も心配が過ぎるようだ……」
上陸部隊の副将ヨウシは、砂浜の様子を見てそう言った。
木製の
「防砂林まではだいぶ距離がある……あそこからでは弓を射掛ける事も出来ないだろう」
「本来、上陸作戦は大変なものなんですがね……」
戦列歩兵の兵士長が、自身もマスケットを抱えつつ、ヨウシに同意の声を返した。
「ははは、武の国が聞いて呆れる。国を守る気があるのか────」
ベシャッ
「!?」
話しかけていたその彼の目の前で、ヨウシの頭が弾けた。
「今だ! 撃て! 撃て!!」
防砂林の反対側で、フェン中隊長が下令する。
ドォン!! ゴォオン!!
彼の中隊も含め、エクスプレッセスティ陸軍の自走砲連隊の標準編成をコピーした1個連隊・32門のM-30が火を吹く。
ヒュルルルルルル……
ドォン!! ……ドゴォン!!
無数の榴弾が、上陸したばかりのパーパルディア軍部隊に降り注ぐ。
機関銃が出現する以前の水準、マスケットで隊列を組んで進軍する戦列歩兵の戦術上、集団を組んでゆっくり前進する慣習が仇になった。122mm榴弾が炸裂する度、数人、下手すると十数人が、手足をもがれ、胴体が引き裂かれ、飛び散らされていく。
「てっ、敵の砲撃だ!!」
「だ、だが何処から撃っている!?」
ヒュルルルルル……と言う曲射砲の砲弾が振ってくる音は聞こえるが、その火点が何処なのかも、彼らには判別することは出来なかった。
「彼奴ら、算を乱しておるぞ!! どこから砲撃されているのか解らぬようだ!」
「まだまだ序の口、これでも喰らえ!!」
双眼鏡で観察していたフェン兵の言葉に、もう1人のフェン兵が、リード線が接続された点火スイッチをひねる。
シュボッ!!
ビュゥウゥゥゥゥゥゥッ……!!
「この音はなん……」
ドバァアン!!
揚陸船から地竜の上陸を行っていた部隊が、その音に気づいた、その次の瞬間、地竜もろともバラバラになっていた。
BM-21『グラート』。40連装の車載ランチャーは無理だが、ストックパーツででっちあげた10連発射管をフェン製の大八車に載せて、即席の牽引ロケット砲としていた。
ロケット弾はパーパルディア軍の上陸用舟艇に降り注ぐ。9M521Eロケット弾が炸裂し、地竜と地竜兵が吹き飛ばされ、揚陸艦が燃え上がる。
「クソッ、引き返そうとするな! 逆にやられるぞ」
「森だ、防砂林に逃げ込むんだ!!」
ロケット弾で揚陸艦が破壊され、燃やされているところを見ると、パーパルディア軍の上陸部隊は、逆に後退すると危険だと判断し、目の前の防砂林に逃げ込もうとする。
この動きはフェン軍の将兵にとっては意外で、しかしそれはフェン軍に都合が良かった。
「敵、
パタタタタタタ……
KM-243軽機関銃1丁が発射音を響かせると、一瞬遅れて無数の.243WSSMの火線が、横方向の雨になってパーパルディア軍に降り注ぐ。
「そんなバカな!! こんな距離から銃撃が届くなど……!!」
そう言っている間にも、パーパルディア兵が薙ぎ払うように倒れていく。
実は、エクスプレッセスティ国防省とフェン兵部は、パーパルディア軍の制式マスケットの、概ねのスペックを把握していた。
これは、フェン事変で『ライバーシー』に体当りされた『ガリオス』から回収したものと、その際の捕虜からの聞き取りによるものだった。
結果、装薬の燃焼性においては現代地球のものに迫り、残薬が残りにくいものの、それ以外は概ね地球の19世紀末、ドングリ型のフルメタルジャケットが登場する前のマスケットの性能と殆ど変わらないか
特に有効射程は150mに届かず、公称値でFort-206/243の1/3しかない。
しかも前装式銃だから連射ができるはずもなく、自動小銃や機関銃の制圧射撃に対抗できるわけがなかった。
「上陸部隊から悲鳴が上がっています!」
旗艦パールの司令部公室で、シウスは泡を食った様子の通信兵から報告を受ける。
「敵から激しい射撃を受けている、このままでは全滅必至と!」
「ええい、まさかフェンにこれほどの装備があるとは!!」
冷静、或いは冷酷とも評されるシウスが、あまりの苛立ちと屈辱から、彼にしては珍しく感情的に声を荒げていた。
「城塞内の砲撃を中止させ、魔導砲艦で敵の推測射程外から防砂林とその後方に援護射撃を実施しろ!」
「え、あ……」
ちょうど、追加で飛び込んできた別の通信兵が、シウスの命令を聞いて、口元に手を当てながら凄まじく気まずそうな表情をする。
「どうした?」
シウスが静かな口調で問い質すと通信兵が報告する。
「その……魔導砲艦部隊、全艦炎上中……誘爆の危険性過大で艦を捨てる、と……」
「な…………」
シウスは絶句してしまった。そして、その間にも状況は悪化していた。
「報告! 戦列艦『ネザースター』より通信、『フェン海軍に多大な損害与えるも別働隊は本艦が最後の1隻、敵は百発百中の誘導魔光弾を使用。これより最後の反撃を試みる。皇国に栄光あれ』……以上です」
──なんだこれは……これはフェン軍ではない……フェンにこれ程のものがあるはずがない!!
「…………エクスプレッセスティか……」
シウスは、口に出して呟く。
それ以外に考えられない。自国軍そのものこそ出していないものの、フェンに武器を供与した、それがどのようなものかまでは想像はつかないが、それ以外に説明ができない。
バァン!!
シウスが思考を巡らせていると、強烈な破裂音でそれを中断させられた。
「な!?」
『パール』のすぐ隣で、僚艦の甲板で火の手が上がっている。
「くそっ、上陸作戦を中断しろ! 一旦沖合に退避するッ!! 急げ!!」
「し、しかしそれでは既に上陸した部隊を見殺しにする事に……」
シウスの命令に、参謀の1人が驚いてそう言った。
「残念だが仕方がない!! このままでは残りも全滅してしまうッ!!」
バァアァァンッ!!
「!?」
シウスが言った次の瞬間、至近距離で破裂音が響いた。
「本艦が、本艦が攻撃されました!! 艦首付近で火災が発生しています!!」
「何だと!?」
甲板上。
「早く火を消せ!」
パール艦長のダルダは、甲板でそう命令する。
「
そう言いかけたところで、ダルダは信じられない光景を見た。
小さい炎が上がっていたのが、その炎が甲板に穴を開け、落下していった。
エタノールだけで、1気圧下での燃焼温度は余裕で1,000℃を超え、さらに混ぜられたアルミ屑の粉末が発火したときには、短時間だが2,000℃を超える。銅の融点1,085℃、鉄の融点1,538℃。パーパルディアの技術レベルでこの温度に耐えられる合金を作る事は不可能だった。
「艦長! シウス海将から、一時後退、海岸線から離脱せよとのことです!!」
「くそっ……メインマストのみ帆を展開せよ! 『風神の涙』起動、面舵一杯! 操舵要員以外は消火に全力を上げろ!!」
ダルダは、忌々しげな顔をしながらも、そう命令するしかなかった。
「艦隊が、味方の艦隊が俺達をおいて逃げていく……」
ヒュルルルルルル……
その音に、砂浜に取り残されたパーパルディア兵が絶望する。
ドォン……ドォッ、ドォオォン!!
122mm榴弾が、9M521Eロケット弾が、 .243WSSM弾が、彼らから絶望する権利すら奪っていく。
「敵艦が逃げていく……今まで我等を蛮族と誹り、散々侮辱してきたパーパルディアの軍隊が逃げていく! ハハハ……ハハハハハハ……!!」
フェン軍・ニシノミヤコ防衛の指揮官であるアインは、ニシノミヤコ城の天守閣から、文字通り尻に帆掛て逃げ出すパーパルディア艦隊を見て、笑い声を上げた。
傍らには、部隊とやり取りするためのポータブル無線機が置かれていて、屋外に置かれたケロシンエンジン発電機から伸ばされた延長コードにその電源装置が接続されている。
「エクスプレッセスティの兵器と我等の士気と練度があれば、パーパルディアとて最早無敵を誇ることは出来ぬ!! はは、ハハハハ…………」
パーパルディア皇国、皇都エストシラント。
「アルデ閣下!」
────軍務局。
「フェン侵攻軍、シウス提督から連絡です! 『ニシノミヤコ付近は天候状況不良につき、作戦を変更しゴトク平野南部沿岸に上陸する』との事です」
「解った」
報告を受けて、アルデはそう短く答えつつも、
──天候状況不良だと?
と、シウスの真意を訝しむ。
──ゴトク平野南部には上陸できる……その程度の距離でそれほどの差が出るか? それに……ニシノミヤコではなく平野部に上陸するとなると……
まぁパーパルディアに限ったことではないのだが、第一次世界大戦より前のレベルの軍隊だと、糧秣などは現地からの略奪込みで計算している。
ニシノミヤコという都市で食料などの生活必需品を略奪することが計算に入っていたため、農地もあまりないゴトク平野に上陸するとなると、それらを本土から補給する必要が出てくるかも知れない。
──それを解っていて、なぜシウスは上陸予定地を変更したのか…………
フェン王国、ゴトク平野南部の沿岸無人地帯────夜。
シウスは場所を変更するだけではなく、念を入れて夜間上陸を選んだ。
無人地帯の夜間であれば、フェン軍もすぐには対応できない、そう考えたのだ。
「なぜここまでの損害を受けたのだ……」
上陸部隊の、陸上部隊指揮官のベルトラン陸将は、少なからぬ怯えと疑問に苛まれながら、ようやくにしてフェンの大地に立った。
彼の副官のヨウシも戦死した。しかもその死に様すら明快に説明されていない。
「まぁ、橋頭堡を固めればなんとでもなるだろう」
そう言って、地竜が進む後を、乗馬してゆっくりとついていく。
フェン軍への供与は基本的に防衛の為の兵器である。とにかく自動車がないため、フェン軍の移動を助ける手段は限られていた。
この為、とりあえず人口密集地帯であるニシノミヤコの防御を固める一方、フェン軍の人員数とそれを支える兵站の限界もあって、無人地帯のゴトク平野まで完全に守りを固めることは出来なかった。
…………が、当然はいそうですかと上陸させる訳がない。
……………………ドバァアァァァァン!!
突然大爆発が起こり、眼前で地竜が吹き飛び、ベルトラン自身も落馬した。
JGMA-63対戦車地雷(国内設計の国産と言い張っているが、突然番号が“63”であることでお察し)により、夜間に上陸した地竜の大半が、その御者共々爆殺された。
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)