「失せろ毛唐が!!」
ドガガガガガガッ!!
「ベルトラン閣下! 第7斥候隊、4名戦死……です」
フェン王国、ゴトク平野南部、パーパルディア皇国軍橋頭堡。
フェン侵攻軍・上陸軍陸将ベルトランの天幕で、部下がそう報告してくる。
「そうか、解った。下がっていろ」
情報収集ついでに、食料などを徴発と称して略奪する為、5・6人の斥候班を組んで周辺の集落に向かわせるのだが、数人の集落でも、会話する程度までならどうにかなっても、徴発しようとすると
1ヶ所だけ、いきなり問答無用で射殺し、食料の回収に成功したが、それが別の村落に伝わってしまって、パーパルディアの軍服を着ているだけで、逆に問答無用で射殺される事態まで発生する状況にまでなっていた。
もはや斥候班に選ばれること自体が、命がけの罰ゲームになりつつあった。
──一体何が起きているというのだ……本国がフェンに滞在しているエクスプレッセスティ人がいれば捕らえろと言ってきたが、これではそれもままならん……
ベルトランはため息を
──いや、それでもアマノキへ向けて進撃しなければ……
ベルトランは思い直す。
ゴトク平野は、長年、フェン政府自身が、“農業に向かない火山灰土の土地”と認識していたことから、拓かれた農地がほとんどない。だからこそ強行上陸できたのだが、このままでは物資、特に糧秣が底をつく。ずっとこの橋頭堡だけを確保しておくことはできない。
だが、部隊の士気は酷いものだ。ニシノミヤコでの戦闘、ゴトク平野南岸への上陸に際しての爆発騒ぎと、これだけで本来の上陸部隊の半分が喪失してしまった。
本来なら一旦仕切り直すのが正しいのだろうとは、ベルトランも思ってはいるのだが、しかしシウスはフェン
──午後には後続の上陸部隊が到着する……それを待って、明日までには進軍を始めねば……
幸い王都アマノキも沿岸部であり、海軍は手痛い損害を受けたものの、フェン海軍(フェン水軍)にもかなりの損害を強い、侵攻部隊本隊を退ける力は残っていないと判断されている。
これだけは事実である。流石にエクスプレッセスティ共和国も、元々陸軍国であるために、フェンに艦艇までは供与できない。空母こそ
──兵の様子を見ておくか…………
顔立ち自体は整っていると言って差し支えないのだが、
本来であればこうした点は、副官のヨウシの役回りなのだが、ニシノミヤコで地竜の上陸準備のために先行部隊とともに上陸し、そしてそれが永遠の別れとなった。ベルトランにシウスを責めるつもりはなかったが、上陸した部隊を見捨てて逃げることになったため、ヨウシが戦死した時の状況すらわからない。
天幕の外に出る。キャンプの陣内全体が陰惨とした空気に包まれていた。憂鬱そうに座り込んでるなんてのはまだまだいい方で、
「俺は帰るんだ帰るんだ帰るんだ……」
と、虚ろな目でブツブツ言ってるやつもいるし、
「さ、さっさと出てきやがれフェン野郎、へへ、うへへへへへへ……」
と、ストレスが限界突破した結果、常に装弾状態の銃を手放さずに声を出しているやつもいる。
それを見ただけで、ベルトランは深くため息を吐き出すしかなかった。
ベルトランが歩いていると、
「これはなんだろうか? 光る……板か?」
「なんか、文字みたいなのが写ってるな。読めねぇが」
と、この暗鬱とした中で、なんだか盛り上がっているグループがいた。
「何をしているんだ? 何かあったか?」
「いやぁ……」
ベルトランが声をかけると、背後からその声を聞いたその兵は、妙にニタニタした表情で振り返り、その声の主がベルトランだと解ると、慌てて立ち上がって直立不動になり、敬礼する。
「あ、はっ、失礼しました、閣下!」
「いや、しゃちこばらんでいい」
ベルトランは、そう言って相手の緊張を解いてから、
「妙に楽しそうにしてたんでな、何があったのかと気になっただけだ」
と、説明するように言った。
「ああ、俺達、さっき斥候に出た時に、フェン兵がうろついてたのを見つけて、撃ち殺してやったんですけど」
──ああ、斥候に出して無事で返ってきたというのは、こいつらの事か……
「その時、フェン兵と一緒にいた、変な服を着た女の集団がいまして、まぁ、
そう言って、それらをベルトランに見せた。
「あーでも、あの野郎は気持ち悪かったなぁ……」
ベルトランと話している者とは別の、このグループの兵が、戯け混じりに吐き気を催しているようなポーズをとって、言う。
「ああ、あの見た目がどう見ても女だっつうのに、
そんな事を話している兵を他所に、ベルトランはこの兵が “戦利品” として持ってきた “奇妙な品” を見た。
「!」
ベルトランに見覚えのある物があり、それをつまみ上げた。
「これは、腕時計……────」
────と、ベルトランは文字盤を見ようとしたのだが、彼が見たことのあるムーの商人が着けているそれとは異なり、妙にカクカクした数字が表示されている。
「ではない……────」
ベルトランはそう思いかけたが、よく観察すると、末尾にある数字が、一定の間隔で加算されているのがのが確認できた。
「────いや、これは時計だ!!」
ムーで売られているものとは違うが、明らかに時を刻み、時間を表示している。
「ど、どうしたんですか?」
ベルトランが声を上げたことに驚いて、兵士が聞き返してくる。
「ほ、他にどのようなものがある!?」
「え、あ、ああ……はい」
そこには────ベルトランが理解できるものとしては、だいぶ形が異なるが、これも以前ムーの観光客が持っているのを見たことがあるカメラ、それに方位磁針。また、よくわからないが、側面のボタンを押すと光ったり消えたりする薄い板。
──ムーにあるものと似てはいるが、ムーにはこんなものは造れない! これを造ったのがミリシアルではないのだとしたら……
「もしかして、これを着けていた者は、エクスプレッセスティ共和国から来た、と言っていなかったか?」
「あ────ええ、はい。そんな事を言っていました。なんでも農業の為の地質調査員だとか……それに、『自分達はフェンとは直接関係のない外国の民間人だから、暴行は国家間の問題になる』、とか言ってましたが。そんなの知ったこっちゃねぇって話なんですがね」
「ほ、他にもあるか? その者達が着けていた衣服などないか?」
ベルトランは一気に興奮し、そう問い質した。
「あ、ええ……記念品として貰ってきましたよ」
その兵が言うと、先程彼と話し合っていた別の兵が、濃いめのピンクパープルの、上下一体の服を広げてみせた。
「でかした!」
ベルトランは思わず、声を上げていた。
生け捕りにできなかったのは残念だが、第1外務局に示すものとしては充分だろう。
「済まないがこれらの品は、至急本国へ送らせてもらう」
「え────」
ベルトランに言われて、兵は残念そうな顔をするものの、
「その代わり、お前達には後で軍務局から特別報酬が出るだろう」
「本当ですか!?」
「ああ、俺からも一筆したためておく」
ベルトランがそう言うと、彼らのグループは皆、声を上げてはしゃぎまわった。
────パーパルディア皇国、皇都エストシラント。
第1外務局前。
「さて……」
プリヤとリカ、エクスプレッセスティのパーパルディア派遣外交員は、その門の正面に辿り着き、一旦立ち止まった。
「第1外務局と言うことは、我が国の扱いが変わったのは間違いないようですが……」
「どちらに傾いたか、ね」
リカの言葉に、プリヤがそう言って、2人が顔を見合わせてからそう言うと、2人は役所には見えない豪華なつくりの館内に入っていく。
「エクスプレッセスティ共和国の外交官、プリヤ・キャサリン・モーパディ他1名です」
とりあえず自分達から無礼を働こともなかろうと、多少威圧的ではあるが格式張った様子の衛兵に、身分証を見せながらそう告げた。
「ご案内します。こちらへ」
そう言って、2人を局長多目的室へと案内した。
2人が室内に入ると、入り口から見て正面、役所と言うにはあまりに場違いな、でも実を言うとエクスプレッセスティでも有り得そうな、絨毯敷にした窓際に時代がかったソファが置かれていた。そしてそこに、シルバーブロンドの縦巻きヘアの、童顔の若い女性が、脚を組んで座っていた。しかも裸足だった。
「ごきげんよう、レミ……ってちょっ!?」
グボッ
「グフッ!!」
レミールが挨拶をしている間にも、プリヤはつかつかとそちらへ向かって行って、いきなりローヒールのつま先をレミールの腹部にめり込ませた。
「ぐっほ、ゲホッ……」
「ふざけるなガキが! それが公務を行う態度か!!」
プリヤが、初っ端荒々しい声を張り上げる。
レミールはソファから転げ落ち、腹を抱えて悶絶している。
「────ハッ、き、きさまら、レミール様に何をグッ!?」
巨漢の衛兵は、あまりにも唐突すぎて眼の前で何が行われたのか理解できるまでしばらく立ち尽くした後、我に返って、声で威嚇しながらプリヤの背中に迫ろうとする。だが、その脇からリカが近寄って、その腕を締め上げ、立った姿勢のまま
「……失礼、こう見えても私、技官とは言え陸軍士官なもので。これ、マスケットがあるのですから、あなた方にはこれが何か想像つきますよね?」
そう言って、衛兵の顎の下に、
「この方のプライドと自分の命、どちらがたーいせつですかー?」
突きつけたM66のバレルをぐりぐりとしながら、リカは衛兵に問いかけるように囁く。
「なっ……ゲホッ、私はパーパルディアの皇族だぞ!?」
レミールはなんとか息を整えつつ、プリヤを睨むように見上げてそう言った。
「つまり国の恥の代表選手ということですか」
「なっ!?」
「国の顔役がこれとか国民総出で恥知らずか!?
「きっ」
コキッ……
「次動いたら、あなたの頭から脳漿がこの室内にブチまけられまーすよー?」
衛兵が反射的に動こうとすると、リカがM66の
「応援を呼んでもいーいですがー、あなただけではなくこの方の命と引換えだと思ってくーださいねー?」
「はっ、はっ、成る程……」
ソファに座り直しながら、レミールが言う。
「第3外務局相手に随分無礼な真似をしてく……なっ、ちょっ、ちょっまっ!?」
今度は、プリヤはレミールが乗ったままのソファを持ち上げて、ひっくり返し、
ガシャァアァァァァンッ
と、ガラス窓をブチ破って、ソファを半分外に突き出した。
「私は、軍務経験はありませんが、一応合気道四段ですので。不必要に怒らせないでいただけますか? 常識で相手してはいけない相手だと承知しておりますので」
「ふ、ふ、ふ……」
ひと仕事終えたという感じの爽やかな笑顔で言うプリヤに、レミールは一瞬、追い詰められた野良猫の様に萎縮したが、
「そ、それならこちらも、これを見てもらおうか」
と言って、用意されていたテーブルを示した。
「これは…………」
そこには、CASIO エムブラセクス工場で生産されている型のデジタル表示式時計、土汚れの付いた富士X-Pro3デジタルスチルカメラ、小型のタブレット端末、それに、血痕と、それとは別の体液らしき染みの残る、
「…………」
プリヤは、それを訝しげに見た後、レミールの方を向く。
「これをどこで?」
「フェンのゴトク平野で捕らえた、エクスプレッセスティ共和国の者から奪った物とのことだ。その様子だと、それで正しいようだな?」
プリヤの問いかけに、レミールは、極端に顔を上向かせてまでプリヤに見下ろすかたちの視線を向けながら、問いかけるようにそう言った。
「それで、これを着けていた者達は今、何処に?」
至極落ち着いた、そして、怜悧な口調で、プリヤはレミールに問い質す。
「生きたまま捕らえられればよかったのだが、残念ながら殺してしまったようだな。まぁ、それが後になるか先になるかの違いでしかないが」
「ふむ」
プリヤは顎に手を当てて、少し考え込むようなポーズを採る。
それを、思い悩んでいると思い込んだレミールは、相手を見下しきった口調で、更に続ける。
「聞くところによると“女性だけの国”と言いながら、実際には男もいるらしいな? そうは言っても女のような顔に胸の膨れた女の出来損ないだとき……なっ……!?」
レミールがそこまで言った時、プリヤはレミールにつかつかと歩み寄ると、その顔面から頭を鷲掴みにして、
ドゴォッ!!
と、近くの壁に後頭部から叩きつけた。
「がっ……はっ……」
「たった今、きさまらパーパルディア皇国は我が国にとって越えてはならない一線を踏み越えた! ジェンダーマイノリティへの侮蔑はエ
レミールが後頭部を抱えるようにしてのたうち回るところへ、プリヤが声を荒げてそう言った。
「失礼。後ほど本国からの正式な文書をお持ちしますので」
プリヤがそう言うと、リカも衛兵を放し、撤収にかかる。
「きっ、きさまらここまでしてただで……」
パンッ! ガシャンッ!!
衛兵が2人を取り押さえようと動きかけた時、リカが振り向きざまにM66を発砲した。
衛兵のすぐ背後で、イノスがエルトに社交辞令の一環として贈った、白い陶器の壺が砕け散った。
どうしてこうなった!?
いやもう、マジでどっちが狂犬だよ。
そしてどっちが悪役だよ!?
あ、でもこの行きがかりだと、わからせ棒ルートの道が残るな……(何
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うる星ネタ解った人は負け
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)