パンッ! ガシャンッ!!
エルトは、その乾いた音を聞いて、慌てて局長多目的室に向かった。そして、その光景を見て、意識が薄れかけ、カイオスの後を追いかけた。
…………いや、カイオスくん生きてます。生きてますから!!
エルトが室内に飛び込むと、その室内はまぁ…………何処の世紀末無法地帯ですかという状況だった。真正面で衛兵がこちらに向かって飛びかかろうとしているかの姿勢で硬直しているわ、窓にソファは突き刺さってるわ、レミールはへたり込んだ状態でやはり呆然自失の状態だわ、ついでに義理とは言えエルトにとって貴重な、
──やってしまった…………!!
エルトは、自身の介在を避けたレミールの指示に従ったことを、後悔した。
────数日前、レミールがカイオスを第1外務局に呼びつけた時の事。
第1外務局、仮眠室。
「エルト、こうなった以上、お前がレミールの行動を抑制しろ。そうしなければ皇国は、危機的な状況に陥るだろう」
意識を回復したカイオスは、彼を介抱していたエルトにそう言った。
「知っているだろうが、私はレミールの事を今まで“狂犬”と呼んでいた……だが、その認識は既に改めざるを得ない状況になっている。エクスプレッセスティ共和国の外交員2人…………あの2人に比べれば、今までの皇国の外交など極めてちゃちなものだ」
「議事録は私も見たけど……いったい何があったの?」
まだ体調が優れないような顔色と表情で言うカイオスに、エルトは怪訝そうに聞き返す。
「いいか、エクスプレッセスティの2人の外交員は、我が皇国に対してこう言ったのだ────」
「何ヶ月も待たせるわ態度は無礼だわフェンやムーとの外交の邪魔だわ、もう我慢の限界だ、デカい口を叩いてるんだから戦争しかけてこい。そして一度始めたら黙って殴られろ。皇国人が何人死のうが知ったこっちゃねぇ、ここまで貯めるに溜めたヘイトとフラストレーションを込めて全力で殴るから大人しくサンドバッグになりやがれ」
「まさか、皇国相手に、蛮族国家が、そんな……」
エルトは、一笑に付しつつも、自身も引っかかるものがあるような口調で言った。
「いや……あれは虚勢ではない。お前も一度話せば解る。絶対的な自信とその確証があるからこその振る舞いだ。とにかく
「だからといって────」
エルトが否定的な言葉を言いかけるが、カイオスはそれを遮るようにして、更に続けた。
「陛下も言っていただろう、『恐れるに足る戦力を持っている』と。それを皇国に対して使うつもりなのだ。確かに数の上では少数だろうが、皇国に破滅的な被害をもたらすだけのものを持っている可能性は否定できない。詳細はまだ、調査中だが……」
カイオスが、脂汗が滲むほどの憔悴した表情で言う。その様子を見て、エルトもそれがただの妄想・妄執の類ではないと、雰囲気だけだが感じた。
「そ、それじゃあ、今回の、レミール様がエクスプレッセスティの担当になると言うのは……」
「向こうには願ったり叶ったりだ!」
エルトの問いかけに、カイオスは断言する。
「喧嘩をふっかけてくる人間を望んでいたのだからな……全力でレミールを怒らせに来るだろう。言って聞くレミールではないし、もはや戦争自体は避けられないかも知れないが……まだ話をする余地があると相手に思わせなければダメだ。レミールの好きにさせていてはそれすら無くなる」
「でも、皇国に牙を剥いたとして、それだけのメリットを見出すものかしら……?」
エルトは問いかけるように返した。
監察軍の統帥権を持っている第3外務局とは異なり、第1外務局の人間には軍事知識があまり要求されない。その点において自身が、カイオスほど知見がないのは理解している。
だが、その乏しい自身の知識で考えても ──── いくら戦力に自信があったとしても、パーパルディア皇国と全面戦争を行えば向こうも消耗する。そこまでする価値が見いだせない。戦争は自国の利益の為にやるものだ。相手にしても引き際を考えて始めるはずだ。
「…………これは外3の落ち度なのだが、エクスプレッセスティは半年以上前に接触を持とうとしていた。それを外3の事務員が独断で堰き止めてしまっていてな……それが原因で、皇国を “まともな話し合いができない国” であり、 “痛い目に遭う以外に認識を変えることができない国” と判断している ──── お前もそのカテゴリに入るなら解るだろう、優秀な女は感情で目標を決め、その上で論理建てて行動する。もはや理屈ではないのだ」
カイオスにそこまで聞かされても、エルトにはまだ半信半疑にしか受け取れていなかったのだが……────
現在。
──カイオスの言う通り、向こうは端っから “話し合い” で解決するつもりがない!
エルトがその事実を痛感していると、
「な…………」
と、レミールが再起動した。
「何なのだあれは! 私は皇国の貴族だぞ! 列強の! パーパルディアの!! それに対してこの乱暴狼藉をして許されるはずがない! しかも蛮族の新興国家がだ!!」
「レミール様、申し上げにくいのですが、最初に私はお伝えしておいたはずです。エクスプレッセスティは最初から戦争をしたがっている、慎重な対応が必要、と」
エルトの注進に対し、しかしレミールは、憤怒の表情を更に憎悪に歪ませる。
「蛮族国家と戦争になったからと言って何が問題だと言うのだ! これまで同様、皇国が圧倒的な力で滅ぼしてやればよい!」
「エクスプレッセスティは未知の戦力を持っている、少なくともそれが何なのか解るまでは過激なことは避けるべきだったのです」
レミールの短絡的な言葉に、エルトは、辛抱強く、努めて柔らかい口調で、しかしはっきりとそう言った。
「そんなものは、第3外務局や国家戦略局の弱腰連中の戯言に過ぎぬであろうが!」
「皇帝陛下がです!!」
「な!?」
レミールの乱暴な言い種に、流石に身勝手さを感じたエルトは、ついに自身も語気を荒らげて言ってしまった。そのエルトの短い言葉を聞いて、レミールの表情が驚愕の状態で、一瞬、凍りついた。
「先日の帝前会議でルディアス陛下御自身が仰られたのです! エクスプレッセスティ共和国は、少数だが恐れるに足る戦力を持っている、と。この国と戦争をすれば、負けないにしても無傷では済みません!」
「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ━━━━ッ!!」
その事実を伝えられて尚、レミールは、自身こそが理不尽な目にあっている、と言いたげに、癇癪を起こした。
エルトがこのようなレミールを見るのは初めてではない。ただ、今までは皇国の方が一方的に有利だったから、レミールの行動が皇国に許容を越える損害を与えることがなかっただけだ。
「陛下は私に、私自らエクスプレッセスティを
レミールの金切り声を聞いて、エルトは、偏頭痛のような感覚を感じながら、頭を抱えかけた。
──陛下ご自身は聡明な
恋は盲目、とはよく言ったもので、公正で聡明なルディアスが、レミール絡みになると、途端にレミールの能力を測り違えて重用してしまう。
──今回の事はいずれ起こっていたのかも知れない。ムーはともかく、ミリシアルは自国を侮辱されれば黙っていない。それに────
カイオスとエルトの危惧は、翌日には現実のものとなっていた。
エクスプレッセスティ共和国。
政府映像ストリーミング・国営ラジオAM局・FM局サイマル放送で、エミリアが演説 ………… …………演説?を始める。
「やっほ~、みんなの
やたら明るい、この国と縁が浅い者なら、10人中8人は実年齢の方が虚偽だと感じるような、少女のような声と口調で呼びかける。ラジオではわからないが、まるでアイドルグループのような、肌も顕わな衣装を身に着けた姿を披露している。
その舞台も、国家要職の会見会場と言うよりは、完全にダンスステージの様相だった。
「今年のお正月は季節も冬になっちゃって、混乱もあってあまりお祭りみたいな事もできなかったけど、みんな元気してるかな~? 来年のお正月は、寒いなりに楽しいものにするよう、エミリア頑張るからね~!!」
自身の身体つき、その瑞々しさと、それに裏付けられた自信を持って、ビシッ、とポーズを決めた。
そして、そこで急にエミリアの様子が変わる。
「────……と、始めたかったんだけど、ねー……まずはこの音声を聞いてくれるかなー?」
エミリアがそう言うと、続けて録音が再生される。
『それで、これを着けていた者達は今、何処に?』
『生きたまま捕らえられればよかったのだが、残念ながら殺してしまったようだな。まぁ、それが後になるか先になるかの違いでしかないが』
プリヤと、レミールの声が放送に乗る。
「……今聞いていただいたのは、外務省がパーパルディア皇国に派遣したプリヤ外交官と、パーパルディアの皇族で、外交担当者であるレミール殿下との会話です。レミール殿下の言葉は残念ながら事実です。産保省営農局がフェンに派遣した24名の調査員と、現在連絡が取れておりません。これは我々の政府の浅慮もあり、御遺族には平身低頭謝罪する以外、我々も為すすべがありません」
そう言いながら、ドレス姿のまま、エミリアは祈りを捧げるようなポーズをとり、しばしの間、黙祷を捧げる。ステージのスポットライトの光も落ち着いた様子になる。
そしてエミリアは、ゆっくりとしたトーンで、しかしはっきりとした言葉で言う。
「我々は、昨年9月の『フェン事変』での『ライバーシー』損傷と人的被害について、パーパルディア皇国に対し誠意ある対応を求め、辛抱強く交渉を持とうと最大限努力してきました。しかし、パーパルディアは我が国とまともな交渉すら持とうとせず、交渉を呼びかけて来たかと思いあちらの都合に答えたところがこの結果です。のみならず────」
エミリアがそこまで言って、手でさり気なく合図をすると、録音の続きが再生される。
『聞くところによると“女性だけの国”と言いながら、実際には男もいるらしいな? そうは言っても女のような顔に胸の膨れた女の出来損ないだと ────ガサガサ、ザザッ
レミールの言葉が途中で雑音に遮られ、そこで録音が途切れた。
「皆様、お聞きいただけましたでしょうか?」
エミリアの表情が、にわかに険しくなる。
「国家の主権を侵害する行為を行い、侵略した第三国の国内で我が国の国民を承知の上で殺害し、あまつさえその後に侮辱しその精神まで辱めた! これは数の大小ではない!!」
エミリアの口調が、ヒートアップしていく。
「既に各種報道でご存じの方が多いかと思いますが、現在の我が国に近いフェン王国に対して、我が国の独立承認があるにも関わらず、我が国の再三の抗議を無視してパーパルディア軍は侵略を実行に移しました。これに対し、我が国が防衛装備品の供与を行い、フェン軍が都市部へのパーパルディア軍の侵入を阻んでいる、その最中今回の凶行は行われました! このような侵略者に対し、 “理性的な” 対応をした結果、どのような事態が導かれたのか、転移前、我々は目の当たりにしたばかりだった! そのような対応が平和を継続させる事はないと! なにより! 『従来の価値観に囚われない、新たな理想社会の建設』の為に、不毛と言われたこの大地に根を下ろし現在の我が国の繁栄を築くに至った、その理念まで否定されたのでは我が国としてはこれを許容することはできない!! 私はエクスプレッセスティ共和国の責任者として、我が国と我が国民の安全の確保、周辺国に対する “力による現状変更” の否定、そして地域の安全の為、国防省、情報総局、その他各部署に対し、総力を上げてパーパルディア皇国の軍事的無力化と同国に対する徹底した責任の追求を行うよう、指示を出しました!」
「よっしゃあ! 作戦待機命令来たぞ!」
エクスプレッセスティ空軍少佐、ノリコ・ドロテア・ヤマモトは、国防軍エナジポリス基地で自らの部隊への作戦参加の一報を聞くなり、そう言って威勢よく声を上げる。
「ドーラ一家、久々の出撃だぞ!」
ドーラ(“Dora”)は、ノリコのミドルネーム“ドロテア”(“Dorothea”)の短縮形である。
そして、3座のダッソー Br-1050A 『アリゼ』軽攻撃機の、自身のチームのことを、“ドーラ一家”と呼称していた。
「でも、妙ですね……」
ノリコ機のレーダーオペレーター兼下部機銃射手のルイア・ブランシャール中尉が、怪訝そうに言う。
「何が?」
「本来相手が正規軍であれば、より高い脅威度を前提としてSu-22を使うべき場面じゃないかと……実際、パーパルディア皇国は竜母という、洋上航空戦力を持っているわけでしょう?」
ノリコが聞き返すと、ルイアがわずかに眉を潜めたまま、そう言った。
「そうは言っても、飛竜の最高速は、パーパルディアのワ
ウェポン・アシスタントのシャルリーン・ロシュフォール少尉が、ルイアに対して言う。
「それにSu-22だと、可変翼のパーツ交換が必要になるし、そう言うところも考えて、ってところなんじゃないの?」
「あー……まぁ、確かに」
シャルリーンの言葉に、ルイアは、自分の左手で支えるようにして右腕で頬杖をするようなポーズになって、納得したような言葉を出した。
「ま、無茶振りするようなうちの司令部じゃないさね!」
ノリコはそう言って、実に嬉しそうな表情をする。
「それに、女は度胸だ!」
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)