フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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最後通牒

 パーパルディア皇国、皇都エストシラント。

 パラディス城、ルディアスの居住区画。

 その容積だけでちょっとした邸宅になるその中の、エクスプレッセスティで最高級のエムブラセクス・プリンスホテルのスイート・ルームよりも贅沢にできている ──── ただし、技術の格差により総合的な居住性はまた別の話 ──── そのルディアスの私室で、特に急ぎの公務もないルディアスと、同様に今日、本来は常勤日ではないレミールは、ボードゲームを愉しんでいた。

 2人にとって、休日としてはありふれたひとコマなのだが……────

「レミールよ、どうかしたか?」

 ルディアスが、レミールの様子がいつもと異なることに気がつき、訊ねた。

 このような時間、レミールが熱のこもった視線をルディアスに向けている事はいつもの事だったのだが、今日は同じように自身を凝視しているが、その表情がいつもと異なった。

 じーっとルディアスの顔を見ているかと思えば、時折心ここにあらずという様子になり、そうかと思えば、何が起きたわけでもないのに、突然驚いたような表情になったりする。

「え、あ、ええ……いえ、特に何があったわけでもないのですが……」

「ふむ……」

 レミールはそう答えたが、いつもははきはきと返事をするレミールとは明らかに挙動が違う事を、ルディアスは気づいていた。

「体調が優れないのであれば、()に構わず休んでいてもよいのだぞ?」

「い、いえ、そう言うわけではないのですが……」

 ルディアスが気遣いの言葉をかけるが、やはりレミールの様子がおかしい。いつもなら、

「わざわざ私に気遣いをしてくれるなど……レミール、感激致しました!」

 と、目をキラキラとさせて、うっとりとした様子でルディアスを見てくるはずだ。

「……そう言えば、エクスプレッセスティ共和国とはどうなっている?」

 ルディアスが訊ねると、レミールがビクッ、と跳ねるようにしながら全身を緊張させた。

 ──これが理由か…………

 ルディアスはそれを理解した。

「は、はい。フェン王国に上陸した皇国軍の部隊が、少数のエクスプレッセスティ人を捕らえたのですが、非協力的であった為に()()()()()殺害しました。その時の所持品を、竜母飛竜隊を使って皇都に移送させ、エクスプレッセスティ大使に見せつけ、皇国に逆らえばどうなるかを示しました」

「ふむ」

 レミールの手法である“生け捕りにして殺害する”という手法が採れなかったのは解る。だが、この手法でも小国を“教育”するのには、有効ではあっても、レミールがこのような反応を示す理由にはならない。

「それで、その大使は“教育”を理解したのか?」

「それが、そのーぅ……」

 そこまで言って、レミールの言葉の歯切れが突然悪くなる。

「暴れました」

「怒り狂い、皇国を批難してきたというのか」

 それはよくある事だ。想定できる範囲であり、レミールの反応がおかしい理由にはならない、と、ルディアスは感じていたのだが……────

「いいえ……()()()()()()()のです」

「は?」

 レミールの言葉に、ルディアスの元々大きくはない目が、一瞬完全に点になった。

「“教育”するも何も……私が“戦利品”を見せつける前、入室直後から、私の態度が気に入らないと私を蹴り飛ばし、調度品を破壊し、ソファを窓から投げ捨て ──── しょ、正直、相手は最初から言葉で話し合うつもりが無かったようにしか……」

「そ……それは……あぁ……」

 レミールから語られるエクスプレッセスティ大使の振る舞いは、ルディアスには意外過ぎた。

 皇国が恐れるに足る何らかの戦力を持っている、という前提があり、その開発・維持をしているとなれば、技術の研鑽を行っているはずだ。 ────そのイメージとどう考えても一致しないのである。

 ──一部で囁かれているとおり、奸計を使ってムーやミリシアルから兵器を入手していると言うことか?

 ルディアスはそうとも推測したが、それはそれで“女性だけの国”というイメージを崩すような、暴力的な振る舞いをする事と結びつかなくなる。

「そして最後には激昂し、もはや戦争しかない、皇国が望んでいるのであれば戦争しよう、と」

「成る程、先程から様子がおかしかったのはそう言うことか」

 レミールの話をそこまで聞いて、レミールの様子がおかしいことについては、ルディアスは納得がいった。 ────それ以外はまったく合理的な説明がつかなかったが。

「その後、エルトから聞かされたのです。陛下が、エクスプレッセスティは何らかの恐れるに足る戦力を持っていると言ったと」

「それは確かだ」

 ルディアスは、まずはそう答えながらも、

「だがレミールよ、深く案ずることもない。エルトらに私がそう伝えたのは事実だ。エクスプレッセスティに侵攻するとなればそれなりの損害をこちらも覚悟しなければならないだろう ──── だが、小国が大国たる皇国を討ち滅ぼせる訳がない」

 このルディアスの値踏みはそれほど外れていない。

 確かにエクスプレッセスティは、転移前は大陸国だったために陸軍大国だが、スタンドオフ攻撃の手段こそ持っているものの、基本的に専守防衛で外征軍としての能力はかなり限定されている。

 特に人員面については人口が日本の半分弱しかないこともあって、広大なパーパルディア全土を占領する為のそれを確保することは、少なくとも今すぐにはできない。

「そうですね────先日から、常識で推し測れない事態の連続で、弱気になっていたのかも知れません。確かに、皇帝陛下が今言われたとおりです。蛮族の小国が皇国を討ち滅ぼせる訳がない」

 レミールの(かお)に、多少、精彩が戻ってきた。

 そのタイミングで、

 ピピッ、ピピピッ

 と、レミールが左手首に着けているブレスレット状のものから、電子音に似たような無機質な音が発される。

「失礼しました、遠隔呼び鈴が……」

 そう言って、レミールはブレスレットに反対側の手を伸ばし、装飾の一部にも見える、クリスタル色のボタンを押し、呼出音を止めた。

「公務の呼び出しだろう」

 ルディアスはそう言うと、視線で、部屋の片隅にある、日本の2号、ではなく1号電話機によく似たそれを指した。

「そこの魔話機を使うが良い」

「ありがとうございます」

 皇族として(ちか)しい間ながら、レミールはそう言って軽く一礼した後、魔導通話機に向かった。受話器をフックから上げて、呼び出し用の魔石励起器のハンドルを回す。

 ルディアスは、レミールが通話している間、ティーカップの(ぬる)くなったお茶を口にはこぶ。

「な゙ッ!?」

 レミールの短い声を聞いて、ルディアスがレミールに視線を向けた。

 すると、レミールは、怯え7割、悔しさ3割、と言った様子の泣き出しそうな表情で、ルディアスに視線を向けている。

 ──レミールにここまでの表情をさせるとは……いやホントに何がどうしてこうなった?

「そ、その、エクスプレッセスティ共和国の大使が、急遽、会談をしたいと申して参りました…………」

「うむ……多少過ぎた力を持っているとしても、所詮蛮族の小国、本当にこのまま戦争になれば国の存亡にかかると思い直したのかも知れぬな……アポなしの非礼は許してやれ。こちらの寛大さを見せつけるのだ」

 「だとよいのですが」、と、出かかった言葉を、咄嗟に飲み込んで、

「解りました。行ってまいります」

 と、レミールはそう言って、ボードゲームの盤面はそのままに、ルディアスの居室から退室していった。

 

 

 1時間と数十分後、第1外務局、面談室。

 ──なんだろう、この前とはだいぶ雰囲気が違ってるわね。

 室内に通され、席を勧められ腰を下ろしてレミールを待つプリヤは、その室内を見回してそう思った。

 なんというか、かなり質素だった。第3外務局でももう少し調度されていたが、現在のこの室内は、調度品は自分達への椅子と、レミールが座るのだろう椅子と机、と、最低限のものしか置かれていない。ご丁寧にカーテンまで外され、窓には内側から、ラワン材か何かの木板が貼り付けられている。

 常に体面を気にするパーパルディアにしては、自国を誇示しようとする意図が見て取れない。

「それにしてもレミール殿下、遅いですね」

 隣で椅子に腰掛けているリカが、プリヤに向かってそう言った。

「もう、ここに通されて1時間以上経っていますよ」

「いつものように、相手にストレスを与えて自分達が有利になるように進めようって魂胆でしょ。もう何もかも手遅れなのに……」

 プリヤはそう言ったが、しかし、その読みは実は外れていた。

「待たせたな」

 そう言って室内に現れたレミールを見て、プリヤとリカは、軽く驚いた。

 レミールは鎧を纏っていた。全身を覆う騎士甲冑ではないものの、軽量鎧にアームガード、ガントレッド、レッグガードと、頭以外はほぼ完全防備である。

 つまり、2人を待たせていたのは、この鎧を用意させて装着するのに時間がかかった、というのがより大きな理由だった。

 ──ちょっと、薬が効きすぎたかな。

 プリヤも流石に、筋肉(フィジカル)言語(ランゲージ)による()()の度が過ぎたかと、レミールの姿を見て、そう思った。

「本日は、貴国のこれまでの我が国、及び我が国民への行いに対する、平和的な解決に際しての、我が国としての条件を提示しに参りました」

 プリヤは、そう言いながら一度立ち上がり、対面に座ったレミールに、机越しに文書を手渡す。

 エクスプレッセスティ外務省、ではなく総統府発行の文書を示す透かしが入った用紙に、次の事が書かれていた。

 

1.フェン王国本土に侵攻中の貴国軍について、この文書の提示から5時間以内に完全撤収を完了すること

2.殺害されたエクスプレッセスティ非武装員24名の賠償として、1人あたり200kgの(ゴールド)での提供

 2-1.前項に関して、フェン王国より別途、同種の請求があった場合に無条件で受け入れること

3.非武装員の殺害に関わった者、実行者並びにその管理者、及びレミールの即時受け渡し

4.第2項とは別に、昨年9月に発生したフェン近海での武力衝突の際の、フリゲート艦『ライバーシー』及びその乗組員に与えた損害についての補償として、3トンの金の提供

5.航空戦力の恒久的な放棄

6.80門級戦列艦を超える海軍戦力の恒久的な放棄

 6-1.前項にはムー国からの近代艦の導入も、その規模に関わらずこれの対象とする

7.第5項、第6項の代替として、パーパルディア皇国の安全保障の為に、エストシラント及びデュロの港湾施設に、エクスプレッセスティ海軍艦隊駐留の為の設備の設置、及びその維持・管理のための軍の人員配置を行う

 7-1.前項に関する設備維持費・人件費の全額をパーパルディア皇国が負担すること

 7-2.常駐人員に危害が発生した場合、それについて全責任をパーパルディア皇国が負うこと

 

 ──な……何だこれは!? 到底飲めない要求……これをすべて飲めば、皇国の方がエクスプレッセスティの属領となるのと同義ではないか……!!

「ま、まさかこれは、本気ではないな? この内容はいくらなんでも、気が触れているようにしか思えないぞ?」

 レミールは、いつものように相手を威圧するのではなく、むしろ縋りかけようとするのを必死で抑えながら、問いかけた。

「いたって正気です。そしてこの文書は最後通告であり、我が国が条件を譲歩することはありません」

 プリヤは、感情の起伏を極力抑えた表情をレミールに向けて、そう言った。

 そのプリヤの表情を見て、レミールが一瞬、ビクッとする。

 先日、レミールをソファから引きずり下ろし、ソファを窓から投げ捨てかけた時、その暴力行為の実行直後とは思えないプリヤの爽やかな笑顔が、レミールの脳裏でフラッシュバックしていた。

「ど、どれほどの実力を持っていたとしても、所詮蛮族の小国が、我が皇国にこんなだいそれた要求を出せる立場だと思っているのか? ここまでの要求をされて皇国が受け入れると思っているのか?」

「ふざけるな♪」

 ゾワワワッ

 レミールの言葉に対して、ニッコリと笑いながら言うプリヤの顔を見て、レミールは全身に鳥肌が立つような寒気を覚えた。

「アルタラスやフェン、それにトーパ、ハーク34世時代のロウリア、このあたりの国に、貴国はこのような条件をつけ、飲めないとなると軍事侵攻で強引に飲ませてきたはずだ。それを、同じことをやり返されて飲めないとは、おふざけになられるのも御大概にしてくださいませね?」

「ふ、ふざけているのはそっちだろう! 確かに皇国に対しこの要求を突きつける後ろ盾となる何らかの戦力を持っているようだが、いくらなんでも列強であり大国たる皇国と、小国が戦えば結果は見えている!!」

 平然とした表情で言うプリヤの言葉に対し、レミールが声を荒げてそう言った。

 すると、プリヤは一瞬、隣に座るリカを見て、

「文書の提示時刻は?」

 と、問いかけた。

E(Expressesti)R(Republic)S(Standard)T(Time)基準で14時11分です。現地時間-(マイナス)1h」

 リカが、時計を見ながら答える。

「では、今リカが申し上げた時刻より5時間後、フェンより貴国軍の撤収が確認されない場合、これを実力行使で排除します。その後に再度、その他の条件に対して再確認いたしましょう」

 そう言って、プリヤが立ち上がる。リカもそれに続いた。

「上等だ。このような要求をしたことを、後悔しても遅いのだと思い知るが良い」

 レミールは、会議室の扉の方に向かっていくプリヤ達の背後に向かって、そう言った。

 すると、2人が振り返る。

「あぁ、忘れるところでした」

 そう言って、つかつかと、レミールの前の机の向かい側に接近する。

 レミールが、何をされるのかと身構えた。

 ドゴォッ!!

「グフッ!?」

 プリヤとリカが、同時に机を蹴飛ばす。机の縁が、反対側のレミールの腹部あたりに食い込みかけた。

「パーパルディア皇国軍部隊が降伏する際は、白旗を掲げてください。それ以外の手法での降伏の提示は一切認めません。確かに通告しましたので、後から言ってない聞いてないは通用しませんから」

 プライドも肉体もグロッキー状態で、机にもたれかかるレミールに、プリヤはこれ以上ない程爽やかな笑顔でそう言った。

 

 

 プリヤ達とレミールの会談と、ほぼ同じ頃────

 フェン王国、王都アマノキ、王城表御殿、拝謁の間。

「────……というわけでして、予定時間通りなら今頃、パーパルディア皇国に我が方の外交使節が最後通牒を通告しているところとなっております。こちらのウォー・プランとしましては、先ず貴国に侵入しているパーパルディア皇国の戦力を排除致します。その後もパーパルディアが()()()()戦争行為の全面停止を承諾しない場合、我が国はパーパルディア皇国の全軍事力の排除を行います。ただ、地理的な位置関係から、その最中も貴国に対し塁が及ぶ可能性が否定できません」

 スンヨン・エイミー・ユン、駐フェン-エクスプレッセスティ大使が、剣王シハンと会談していた。

「あ、あぁ……」

 スンヨンの言葉に、珍しくシハンの歯切れが悪い。

「…………問題があれば仰ってください。我が国としてはフェンを巻き込むことは本意ではありません」

「いや、それに関しては問題ない。既に我が国はパーパルディアより侵略を受けておる。それに貴国が我が国にしてくれた装備品供与にはこれ以上ない感謝と恩義を感じている。今後火の粉が降りかかる事態になっても、我が国自身で払い除けてみせよう」

 スンヨンが怪訝そうにしながら問いかけると、シハンはそう答えた。

「では、他に何か問題が?」

「いや、国としては何の問題もない、ただ、(それがし)の個人的な感想に過ぎませぬ」

 シハンは、そう答えつつも、スンヨンが提示した詳細な内容の資料に目を通しながら、内心で戦慄さえしていた。

 ──これだけの武の力を持ちながら、我等のような小国に対してはそれを以って支配することを由としない反面、パーパルディアのような常に吠える国に対しては容赦しない……まさに“弱きを助け強きを挫く”、“女だけの国”でありながら国全体が武士道の究極を体現する国であるとは! 戦う前から既に勝敗は決しておる……────

 





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レミールの処遇は……

  • 原作通り
  • 総統閣下のわからせ棒
  • 行方知れず(故意)
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