フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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開戦前夜のひとコマ

 トーパ王国、北部城塞都市トルメス。

「号外ッ! 号外だよ━━━━ッ!!」

 北部市街地、ミナイサ地区の広場で、若い新聞配達員が、そう言って号外を配布している。

「“太陽神の使者の弟子”エクスプレッセスティ共和国と、 “第3文明圏最強の列強国” パーパルディア皇国が戦争だよーッ!」

 日勤を終えた騎士のモアは、そこへ通りかかって、配布されている号外を1部、受け取った。

『パーパルディア皇国のフェン王国侵攻に対するエクスプレッセスティ共和国の抗議をパーパルディアは一切無視! 加えてパーパルディアは在フェンのエクスプレッセスティ国民を虐殺。これに対してエクスプレッセスティはパーパルディアに最後通牒を突きつけた。パーパルディアがこれを受け入れる可能性は極めて低く、戦争回避の可能性は極めて低いと思われる』

 その内容にざっと目を通してから、モアは目的地、エレイが勤める食堂へと向かう。

「いらっしゃいませ……あ、モア様」

 カランカラン、というドアベルの音に、エレイが挨拶しながら出入り口に視線を向けると、そこにモアの姿があった。

「今日も来てくれたんですね」

「ああ、まぁ、独り身で帰っても食事も用意されていないからね」

 エレイの言葉に、モアは苦笑しながら、()いている席に腰掛ける。

「はいモア様、とりあえずビール」

 モアの苦笑に(こた)えつつ、エレイは黄金(こがね)色の発泡性の飲料が注がれた()()()()ジョッキを、モアのところまで持ってきた。

 エムブラセクス・ラガー。サントリー・エクスプレッセスティの独自ラベルで、麦芽以外に米芽と米を併用して醸造し、女性が飲みやすいよう喉越しが軽くなるよう調整しつつ、麦と米以外を由来とする原料を使わずに確りとしたボディを持つ。転移前は日本への逆輸出製品のひとつでもあった。

「あ、モア様もその号外、見られたんですね」

 モアが、片手にざっと折りたたまれた号外を持っているのを見て、エレイはそう言った。

「ああ、どうやらエクスプレッセスティとパーパルディアで戦争になるようだな」

「うーん……ガイ君が少し心配じゃないですか?」

 そうは言うものの、エレイもあまり緊張感がないような苦笑顔だった。

 ガイはトーパ騎士団の傭兵で、モアとエレイとは同郷の幼馴染だった。正式に職業軍人として騎士団に入団したものの、その際の配属先の希望で在エクスプレッセスティ-トーパ大使館付の武官となり、現在はエムブラセクス在住となっていた。

「全然。そう言うエレイだってそんな様子がまったくないじゃないか」

 モアは、そう言って、エレイを嗜めるように苦笑しながら言う。

「いくらパーパルディアでも、エクスプレッセスティ相手じゃ、首都エムブラセクスどころか、港湾都市のエナジポリスに近寄ることすらできないだろうな」

 モアは、苦笑を浮かべつつもインテリ軍人らしい口調でそう言ってから、まずは一口、ビールを煽った。

「ぷは……敢えて心配するとすればクロエさん達エクスプレッセスティの軍人だけど、魔王軍相手に自軍どころか、ト()パ騎()団にすら戦死者を出さなかった軍隊だ、多分杞憂に終わるだろうね」

 

 

 ロウリア連合王国、北ジン・ハーク港。

 酒場『竜の酒』は、北ロデニウス戦争以前から存在したが、現在はその当時の店舗から、都市計画により区画整理された、難燃素材パネル・プレハブ工法で建てられた低層ビルのテナントになっている。

 ガッチャーン!!

 古今東西、船乗りといえば荒くれ男と、エクスプレッセスティ籍船以外では相場が決まっている。それはこの世界でも変わらない。1日の仕事の終わりに、そんな荒くれ者たちが、以前の常温のエールに代わり、サントリー・エクスプレッセスティのビールが注がれた、ガラスのジョッキで乾杯をし、談笑に興じている。

 その中の1人、シオスを本拠地としている船商人の、現地管理職をしている中年の男性が、自社所有船の乗組員達と酒を飲み交わしながら、まだ飲み干されていないジョッキのエムブラセクス・ラガーを示すように顔の高さに掲げて、言う。

「俺は戦争とかよくわからねぇ……だがよ、エクスプレッセスティはクワ・トイネの穀倉地帯から大量の麦を数日で運び出し、それを自国産のこれまた高品質な米と組み合わせて、()()()()()()()()()ビールをあちこちで飲めるようにしちまう────」

 そこまで言って、男は一旦、ジョッキを煽った。

「プハーッ…………長いこと今の商会で働いているが、こんな事ができる国を他に知らない。なにか恐ろしいものの一端を見ている気がするぜ……」

 

 ジン・ハーク王宮、玉間。

「いずれそうなるとは思っておったが、まさかこんな早い内に喧嘩を売るとはな。愚かにも程がある」

 しょっちゅうそうしているわけでもないが、パタジンが報告に来た時、ルセリアはしっとりと湯気が立つようなバスローブ姿で、玉座に座っていた。

 パタジンから、エクスプレッセスティがパーパルディアに最後通牒を突きつけた事を報告されたルセリアは、美少女と言って差し支えないその顔に、どこぞの埋立地の警部補のような苦笑を浮かべて、そう言った。

「最後通牒はエクスプレッセスティ側からとは言え、エクスプレッセスティの民を殺したとあればそうなるのも当然よ」

「まぁ、実際に刃を交えてみなければ、その恐ろしさは解らないでしょう」

 パタジンは、自分達がそうであったために多少居辛そうな空気を出しつつ、それに同意する。

「ランド、どちらが勝つか、賭けてみるか?」

 ルセリアは、自身の傍らに控えていた、近衛隊長ランドに、そう声をかけた。

「お戯れを……それは賭けが成立しませぬ」

「で、あろうな」

 

 

 パーパルディア皇国、皇都エストシラント。

 第1外務局。

 ──相手に飲めない要求を突きつけて、断れば戦争の口実とする…………皇国の今までやり方を、今この時やり返されることになるとは……

 エルトは、ミリシアルやムー、エモールとの外交についての書類の決裁をしつつ、その思考を止めることができずにいた。

 ──陛下の言う戦力を持っていることは確度の高いものとして……それがいったいどれだけの規模、どれだけの力なのか、解らないのであれば対策のしようがない……それを見極めるまで極端な行動は避けるべきだった、カイオスやイノスのその判断は正しかった……

 エルトが思考を巡らせていると、コンコン、と、局長室の扉がノックされた。

「どうぞ、入りなさい」

 エルトがそう応えると、

「失礼します!」

 と、そう言って、局員の1人が入ってきた。

「……と……エクスプレッセスティ共和国に関する報告なのですが、レミール様はご不在ですか?」

 局員は、第1外務局を()()()している、本来の部屋の主であるエルトよりも豪奢な執務机と椅子が、レミールの席として置かれていた。

 しかし、そのレミール本人はいない。

「レミール様は御気分が優れず、今はお休みになられています。私が聞きましょう」

 局員に対して、エルトはそう声をかけた。

「この度のエクスプレッセスティとの戦争に際し、主だった文明圏国に観戦武官派遣先を確認したのですが……ムー国はエクスプレッセスティへ派遣すると回答してきたのです」

「な────」

 エルトは、自身の顔の血の気が失せる音が、サーッ、と自分に聞こえるかのような感触を覚えた。

 ──現段階で我が国よりも先を行く機械文明を持つムーが……パ()()()アが敗北すると考えている!? ムーは何かを知っているというの…………?

 

 エクスプレッセスティ共和国、エナジポリス西方沖、防空識別圏境界をやや東に入ったところ。

 ムーの複葉4発大型旅客機、『ラ・カオス』が、ムー政府に選別された観戦武官2人を乗せて、エムブラセクス空軍基地に向かって飛行しているところだった。

 1機の単発機が、旋回しつつ『ラ・カオス』と並走するかたちで、ニアミス防止レーダーが作動するギリギリまで寄せてきた。

『ムー国航空機、こちらエクスプレッセスティ空軍第25攻撃機隊。ようこそエクスプレッセスティ共和国へ! 間もなくエナジポリス(コント)(ロール)圏内に入ります。ここからは当機が先導致します』

「おいマイラス、やっぱりお前の言ったことはデマカセだったじゃないか。ちゃんとプロペラがあるぞ」

 先導機として飛来したBr-1050Aを見て、以前エクスプレッセスティ外交団の案内をしたマイラスに対し、少しばかり線が太い感じの男性が、笑い飛ばすようにそう言った。

 しかし、マイラスは、

「いや! あの機体はおそらく、その用途のために敢えてプロペラを使っているんだ」

 と、それを更に否定するように言う。

「何度も説明したじゃないか、ラッサン! ヘリコプターという垂直離着陸機も、エンジン自体はV型液冷を使っていたと。無闇矢鱈と新しい技術を使うのではなく、適材適所を考えての選択なんだよ」

「言われてみれば……」

 ラッサン、と呼ばれたムー国防軍戦術研究部付中尉は、改めてBr-1050Aを見る。

「確かにプロペラは使っているが、ムー(我が国)の機体に比べるとかなり洗練されているように見える」

「だろう?」

 ラッサンの言葉に、マイラスは、問いかけるようにして同意の言葉を出した。

 やがて、眼下に大地が見えてくる。農地と常緑広葉樹の森林が広がる土地に、ムーの首都・オタハイトと比べても遜色のない規模の、大都市が存在している。Br-1050の先導で、都心部からは少し離れた、エムブラセクス空軍基地に向かって、ラ・カオスは降下していく。

『こちらエムブラセクスA(AirForce)タワー。ムー国機、聞こえていますか?』

 ラ・カオスのコクピットの無線機に、呼びかける声が聞こえてきた。

『はい、感度良好です』

『了解です。エムブラセクス空軍基地の北第1滑走路へ着陸してください。進入高度は────』

 ラ・カオスは最終着陸態勢(ファイナル・アプローチ)に入る。継ぎ目もなく平滑な滑走路に、車輪がそっと接地し、ラ・カオスはこの世界の航空機として、最初にエムブラセクス空軍基地に着陸した。

 マイラスが扉を開けようとすると、ちょうど陸上着陸時の乗降口高さがおなじになるくらいの、SS-2旅客飛行艇用簡易タラップが、ラ・カオスの客室乗降口に横付けされた。

「ようこそ、エクスプレッセスティへ!」

 マイラスとラッサンの2人がタラップを降り始めると、8人程の、肌の露出はそれほどでもないが、ボディラインが浮き出る航空機搭乗員服や、空軍整備員のピンクパープルの作業着を来た若い女性達が、マイラス達を歓迎する声を上げた。()()()この世界の共通文字で“歓迎! ムー国観戦武官御一行”と書かれた、小さな横断幕まである。

「歓迎してくれるのは嬉しいが、これから戦争しようって雰囲気じゃないな」

「それがこの国の性質らしいからな」

 ラッサンが、若い女性の姿に自身も緊張感を緩めた表情で言う。すると、マイラスも苦笑しながら答えた。

 周囲を観察すると、規模こそアイナンク空軍基地と大差がないが、より洗練された形状の管制塔、格納庫、整備場が設置されている。

「あった、あったぞ、あれだ!」

 マイラスは、駐機場でスクランブル待機しているMiG-29GEを発見し、ラッサンに対して、指差して見せた。

「あれが飛ぶっていうのか……」

 ラッサンが呟く。確かにマイラスの言うとおり、プロペラはない。だが、その姿形は、高速で大気を切り裂いて飛ぶ事を推測させる、シェイプされた流美なものになっている。

「お久しぶりです、マイラス中尉!」

 マイラスが舗装された地面の上に降り立つと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ノンティ少尉! こちらこそご無沙汰しています」

 もう半年弱程前、駐ムー国-エクスプレッセスティ大使のナディアが、外交交渉使節団としてムー国に訪れた時、随員だったノンティ海軍技術少尉が、マイラス達を出迎えに来ていた。

「紹介します。この度、私とともにエクスプレッセスティに派遣されました、戦術研究部付の海軍中尉、ラッサンです」

 マイラスは先ず、ノンティに対してラッサンを紹介した後、ラッサンの方を振り返って、

「ラッサンにも紹介しておこう。こちらは先日の外交使節団として我が国にいらした、ノンティ・ソフィア・セシル海軍技術少尉だ」

 と、ノンティを紹介した。

「ノンティです、よろしくお願いします」

「ラッサンです、お世話になります」

 マイラスの紹介の後、2人はそう言って、がっしりと握手を交わした。

「ところでノンティ少尉、ひとつお聞きしたいのですが、なぜ私達の先導機にはプロペラ機を?」

 マイラスは、気になっていたことを、正直に問いかけた。

「あ、えーと…………」

 問われたノンティは、最初、言い辛そうに苦笑した。

「すみません、聞かされていたこの、『ラ・カオス』の速度ですと、こちらの戦闘機が失速してしまうんですよ」

 航空機、ヘリコプターのような回転翼機や、一部の垂直離着陸機を除く、通常の固定翼機には、翼が必要な揚力を生み出す最低限の速度があり、これを下回ると“失速”と言って、航空機は墜落してしまう。

 そして一般的に、高速を出す航空機ほど、この失速の境界線である“失速速度”が高い。

 ラ・カオスのような複葉機は翼面積あたりの荷重も低く、失速速度は低い。

 それに対して、エクスプレッセスティ軍の戦闘機は、いずれもソ連時代に“前線戦闘機”というカテゴリに入れられた、整備状態が良くない前線の野戦飛行場での運用を前提に設計された機体ではあるものの、流石にエクスプレッセスティにとっては1世紀近く前の水準の複葉低速機の速度域では失速してしまう。

「なので……失礼に当たるかもと思ったのですが、あの攻撃機でのお迎えとなったのです」

「なるほど、失速の件については理解できましたが、その攻撃機はなぜプロペラ機なのですか?」

 ノンティの答えを聞いて、マイラスは重ねて問いかけた。

「あの攻撃機はBr-1050『アリゼ』と言いまして、ジェット機よりも軽快な運動性で低高度から対地攻撃を実施する機体なのです。ジェット機ですとこの任務は制約が大きいことがあるためですね。それに元が艦上機なので、離着陸時の滑走距離も短いですし、失速速度も低いのです」

「なるほど」

 マイラスが納得の声を出した、その直後、

「複葉の機体もあるのですね」

 と、ラッサンが、シャッターが開いた格納庫から顔を覗かせている、その機体を見つけて、そう言った。

「あれはAn-3と言いまして、原型は私達の歴史で70年前に遡るのですが、転移前にはなお新たに生産されていたほどのベストセラー複葉輸送機です。簡素な飛行場でも離発着できる多目的軽飛行機ですね。我が軍では主に訓練や軍部要人の移動時に使っています」

「ううむ、我が軍の『マリン』と似たような機体が、この国では既に訓練用の機材でしかないとは……」

 ノンティの解説を聞いて、ラッサンがため息を()くようにそう言った。

「いえでも、訓練用機材は実戦機と変わらないほど重要ですよ?」

「そうですね」

 ノンティが、腕組みをしながら反論するように言うと、マイラスが同意の声を出す。

「どのような素晴らしい戦闘機を持っていたとしても、乗員がいないのでは存在していないのと同じだ」

「そう言うことです」

 ノンティがそう言い、ラッサンにも見えるようにウィンクしてみせた。

「技術はすべからく適材適所。一方的に新しいものが常に適しているとは限らない。あの機体が70年間生産されているのにはそれ相応の理由があるのです。後ほど時間が取れるようでしたら、他にも原設計が旧いながら現用で運用されている兵器群も紹介しましょう」

 ノンティが言うと、マイラスとラッサンは浅く顔を見合わせるようにして、肩をすくめるポーズをした。

「どうやら、この国から学びとれることは、まだまだ沢山ありそうだ」

 マイラスはそう言った。

 





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レミールの処遇は……

  • 原作通り
  • 総統閣下のわからせ棒
  • 行方知れず(故意)
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