フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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先制攻撃ところにより欺瞞作戦

 その日、早朝。

「ウェルドック注水!」

「了解!!」

 フェン北側沿岸部、アマノキ西方の見通し距離の位置で、揚陸母艦『セリーヌナ』(元・英フィアレス級『H.M.S.イントレピッド』)が、艦内ドックに格納されているビーチング型揚陸艇LCM-Eを発進させるため、艦体を後ろに傾けてドックを海面より低くし、海水をドック内に入れる。

 LCM-Eは艦内から洋上に出ると、ヤンマー製ディーゼルエンジンを吹かし、浜辺の波打ち際に向かう。

 同時に、『セリーヌナ』のダビッド(艦体側面に装備されているクレーンアーム)と、強襲揚陸艦『クリミテーサ』の後部ランプゲートから、水陸両用機能を持つBTR-4SE装輪式歩兵戦闘車、2K015自走対空砲、それに水陸両用運搬車PTS-Eが発進する。

 ビーチング式強襲揚陸艦のクリミテーサだが、ビーチングをするとその後、離岸の手間と船体の検査・修正が必要になるため、港湾設備がない場所でも敵前上陸ではない場合は、こうして水陸両用車を使う。

 PTS-Eは、2017年に代用補給艦『セドクゥナ』(『クリミテーサ』の2021年度までの艦名)を強襲揚陸艦に復帰する際に調達されたものだ。

 高度経済成長期前にウクライナから有償譲渡されたPTS-2をベースに、エクスプレッセスティの第3セクター軍需企業体、ブリュンヒルデ・ファイアーアームズの100%子会社ブリュンヒルデ・ビーグルエンジニアリングで再設計したものである。エンジンはヤンマーディーゼル製……ではなく、部品点数の削減と、真水の消費を抑えるため、チェコのタトラ製T3系V8空冷ディーゼルにスーパーチャージャーを取り付けて搭載している。また────

 ザザン……キュラキュラキュラキュラ……

「うひゃあぁー! 船じゃと思うたら、陸を進んどるぞ!」

 ────オリジナルのPTS-2とは異なり、用途廃止で部品取り用となっていた未改装の、T-55、T-62から取り外された大径転輪の足回りで砂浜を踏みしめ、上陸して200m程進んだところで、後部スロープゲートを下ろす。

 何台かはスズキ/セダクション『スーパーキャリイ』、セダクション『トレイスティ』(インドのマルチ『ジプシー』のライセンス生産車、つまりスズキ『ジムニーシエラ』の孫)を搭載しており、スロープゲートから降りると、内陸へと向かう。

「ありゃなんだい? どうやって動いとる?」

 まだ自動車が商品としては上陸していない為、当然それを初めて見るフェンの漁民が、丘陵部からそれを見て、そんな声を上げていた。

 すると、白(だすき)を着けたフェン軍の兵が、彼らを見つけて、そこへやってきて、

「ほれほれ、今、ここは立入禁止だぞ。邪魔しちゃダメだ」

「ここで見たことは言いふらすんじゃないぞ~」

 と、漁民の小集団を追い払おうとする。漁民は「なんだべ~」と不満そうな声を上げつつも、その場から立ち去った。

 エクスプレッセスティ国防軍陸軍は、第2旅団から次の部隊を抽出し、フェン・ゴトク平野北部の、王都アマノキ近くの浜辺から上陸させた。

 

 2個機械化歩兵中隊

  6個機械化歩兵小隊:

   BTR-4SE 12両

   兵員輸送車『ローザ』6両

   兵員216名

  2個戦車小隊:T-54-120 8両・乗員24名

  2個迫撃砲小隊:

   2B9E-81 81mm自動迫撃砲8門

   『スーパーキャリイ』ダブルキャブ 8両

   兵員16名

 1個砲兵小隊

  2S016 装甲装輪型自走155mm榴弾砲4両

  JTPS-P12E / JTPS-P9E 野戦レーダーシステム 1セット

  兵員20名

 1個野戦高射砲小隊

  2K015 自走対空砲4両・乗員12名

 連隊付偵察小隊

  BDRM-2DE 装甲偵察車2両

  DS12E/200DE オートバイ4両

  全地形車『トレイスティ』2両

  兵員18名

 本部隊

  全地形車『トレイスティ』2両

  DS12E/200DE オートバイ2両

  兵員14名

 

 野戦レーダーはJTPS-P12Eと発電機を搭載した小型トラック『ルーシア』4WD(3代目WG系『タイタン』のライセンス生産車)と、対空のJTPS-P9Eと追加燃料タンクを搭載したトレーラーで構成されている。

 2B9E-81 自動迫撃砲は、ソ連で開発された、最大4連射可能という西側には存在しない2B9 82mm自動迫撃砲の国産化にあたって、自国でもすでに運用していたイギリスのロイヤル・オードナンスL16 81mm迫撃砲の砲弾に最適化させる設計変更を行ったものだ。

 この他、BM-21『グラート』を装備する2個ロケット砲小隊と、輸送隊、施設隊がアマノキ港湾部に設置された仮設桟橋から上陸、施設隊は野戦ヘリポートの設置に取り掛かった。

 

 それから1時間ほど後。

「はぁ……」

 フェン西方沖の岩礁地帯、パーパルディア艦隊竜母部隊の一時停泊地。

 最新鋭のフィシャヌス級飛竜母艦、そのネームシップである『フィシャヌス』の飛行甲板上で、竜母部隊副司令官のアルモス海将補が、ため息を()いていた。

 フェン侵攻は、竜母飛竜隊が空を制圧して、制空権を奪取することで、圧倒的優勢のままに成功裏に終わる ──── 筈だった。

 ところが、どうも雲行きが怪しい。

 アルタラス侵攻では、竜母部隊は海上の戦い、王都ル・ブリアスやシルウトラス魔石鉱山での掃討戦で大いに貢献した。その一方で、アルタラスも飛竜隊を持っていたため、かすり傷程度の損害は負った。

 それに対して、フェンはアルタラスと比べても寡兵で、軍事装備の水準も低く、飛竜部隊も持っていない。それにも関わらず、フェン侵攻作戦の開始から、竜母隊はやたらと損害を出していた。

 フェン海軍(フェン水軍)を上陸予定地点のニシノミヤコから離すため、アマノキ北方沖に誘引するため、別働隊を差し向けた。

 これ自体がアルモスには謎だった。フェン海軍に皇国海軍に抗する程の戦力はない。

 指揮官シウスの説明によると、エクスプレッセスティ共和国が艦隊を駐留させている可能性がある為、という話だったが、それがどうしたというのだ。同じ文明圏外の蛮族国家が、竜母のような戦力を持っているわけがない。

 ────そのはずだったのだが、実際、戦闘が始まると、エクスプレッセスティの軍部隊はフェンに駐留していなかった、にも関わらず、フェン軍相手に大損害。

 些か旧式とは言え4隻もの竜母を軸にした別働隊は、飛竜隊の攻撃によってフェン海軍にも損害を与えたものの、攻撃隊はそのほぼ半分を失った。

 しかもフェン海軍は執拗に別働隊を攻撃し、最終的に別働隊は文字通りに全滅した。80騎の竜母飛竜隊も1騎残らず全滅である。

 ──制空権を確保しているのは皇国軍の筈だ。それにも関わらず、なぜこう次々と損害ばかりが積み上がる?

 ニシノミヤコ上空に飛ばした飛竜隊は次々と消息を立ち、アルモスの乗艦であるフィシャヌスの飛竜隊長も戻らなかった。本隊の竜母飛竜隊の損害は20%近くに達していた。

 …………ヒィイィィィィィン

「なんだ? この音は」

 アルモスは、潮騒の中に、無粋な甲高い音が混ざり込んできている事に気がついた。

 あたりを見回すが、その音源らしき存在はない。

 だが、音は確かに近付いてきている。

 空から響いてきているようにも聞こえるが、蒼穹の空を見上げても、それらしいものは視界の中に存在していない、 ────アルモスにはそう感じられた。

 

 ミコヤン・グレヴィッチ MiG-29GE 『ファルクラムEx(Ecstasy)』4機と、MiG-23GEN 『コンバット・フロッガー』24機は、フェン西方沖の岩礁地帯より東北東60kmの上空に飛来してきていた。

 パーパルディア竜母部隊の上空、高度9,000mに、偵察ポッドとともに、限界いっぱいのドロ()()()ンク()を搭載した、スホーイ Su-22UGE 『ドレスメイカー』が、偵察・情報収集の為に張り付いていた。

 MiG-23が多いのは、MiG-29の航続距離ではやや不足気味だったためだ。この作戦に参加しているMiG-29は、虎の子の空中給油飛行艇KS-2 2機から離陸・上昇時に使用した分の燃料の補給を受けている。

 28機の戦闘機は、Su-22からの偵察情報と、自機のレーダーで目標をロックオンすると、1機あたり6発、主翼下の『ミーティア』中射程AAM(空対空ミサイル)を発射した。

 

 ボンッ、……ボボンッ

「な、なんだなんだ!?」

 アルモスには、唐突にそれが始まったように感じられた。

 上空警戒のために飛行していたワイバーンロードが、次々に爆ぜ、血と肉の塊になって落下していく。

「飛竜が撃墜されている……だが、どこから!?」

 別働隊やフェン上空での喪失は、地上からフェン兵が魔光誘導弾の()()()()()を発射している、という報告があった。

 それはそれで信じられないが、今起こっていることは本当に()()()()()。周囲には味方艦以外、ただただ大海原が広がっている。わずかに人が乗れる程度の岩礁があるが、遮蔽物もなく、もし本当に敵がいるなら見えるはずだ。

 ──なんだッ、何が起きている!? これは敵の攻撃なのか!?

 アルモスがそれを考えている間にも、状況は危機的になっていた。

 

「機上レーダーにも感」

 レーダー・オペレーター席のルイアが、そう告げる。

 原型のブレゲー Br.1050は、後部座席からはほとんど外部が見えない構造になっていたが、Br-1050では明り取り程度の、左右2分割のガラス部分がある。

 武装の搭載のため、対潜哨戒機だった原型機にあったクソ重い引込式レドームの水上捜索レーダーは廃止され、代わりに主脚格納バルジにアンテナを仕込んだ対地・対水上レーダーを搭載している。このレーダーは主に火器管制用で、捜索レーダーとしての能力は高くない。

『ロック1よりモス、タイガー各局へ。目標上空の敵飛竜の反応Clear』

「こちらモス1了解」

 Su-22からの報告を受け取り、ノリコはそう応答すると、Br-1050の高度を徐々に落とし始めた。

「目標射程内に入りました!」

 FCS(火器管制)モニターに照準リングが出現するのを見て、シャルリーンが言う。

「いつでもいいよ! しっかり当てろ。ただし、竜母だけをキッチリ狙え!」

「了解!」

 ノリコ達のBr-1050Aには、前後互い違いに配置するかたちで、内翼に片側2発、1機あたり計4発のAGM-119A『ペンギン』ASM(空対艦ミサイル)を搭載している。

 今ではそこまでしみったれなくてもいいのだが、高度経済成長期以前の貧乏人根性から、ミサイル類はサス()()ナー()が固体ロケットのものを選びがちである。この時もより長射程のUMAMM-1 (“Ukraine Middle-scale Aircraft-to-Marine Missile”の略だが、実態はソ連Kh-35)は、Br-1050の搭載力の問題もあるものの、それに付け加えて「パーパルディア艦隊にサステナーがターボファンエンジンのミサイルはもったいない」という理由で、ペンギンASMを持ち出していた。

 シャルリーンはFCSモニターを注視しつつ、レーダーがロックオンする度、ペンギンASMを発射する。進行方向に対して右前側、左前側、右後ろ側、左後ろ側、の順に切り離され、その度にサステナーに点火して、数十km先の目標めがけて飛んでいく。

 

 ドグァッアァァッン!!

「な、な!?」

 アルモスがその轟音を聞いて振り返ると、このフィシャヌスと同型の2番艦であり、竜母部隊旗艦の『ミール』が、両舷に添えられた飛行甲板の片方がなくなり、艦体も破壊され、マストは全部崩れかけた状態で、燃えている。

 ──まずい、発艦促進装置の爆発事故だ!!

 アルモスは最初、そう考えた。周囲に敵の姿が見えなかったからだ。

 竜母の飛行甲板には、武装状態のワイバーンの発艦を促進するために、一定間隔で魔石を使った発艦促進装置が埋め込まれている。だがこれは爆発性があり、反応度の調整を誤ると爆発する危険がある。

 ミールの片方の甲板が跡形もなくなっていたため、その爆発事故を起こしたのだ、と、アルモスがその認識で行動を始めようとしたその瞬間、

 ドバァアァァァァンッ!!

 フィシャヌス級より1世代前の竜母である『マサーラ』が、同じように飛行甲板が大爆発を起こし、マストや帆が燃え上がりながら、飛行甲板がなくなった結果でカウンターウェイト側に傾いていく。

『こちらガナム、ミールが燃えているぞ! 何が起きている!?』

『こちらミール、魔石庫に火が入りかけている、艦を放棄する!!』

()()()()、メーデー!!』

 周囲に、パニック状態の通信が溢れかえっていた。

「副司令!」

 フィシャヌスの通信士が、甲板上のアルモスのところへと駆けてくる。

「旗艦ミールとの交信が途絶えました! 副司令、ご指示をお願いします!!」

 ──こんな立て続けに事故が起こることは考えにくい……まさか、攻撃を受けているのか?

 通信士の呼びかけに対し、アルモスは、それを認識しつつも、いま起きている事態がなんなのか、完全には理解できていなかった。

「副司令! ご指示を!」

「聞こえとるわ! 全艦抜錨! 帆を展開、『風神の涙』起動!! 岩礁内泊地を離脱する! 発艦可能なワイバーンロードは全騎発艦せよ! 上空から周囲を警戒し事態を把握するのだ! それから、シウス海将の本隊への回線を確保しろッ!」

 

 1発のペンギンASMが、自身の誘導装置が捕らえた熱源に向かって吸い寄せられるように飛び込んでいく。

 ペンギンASMの誘導装置は赤外線ホーミングだ。だが、エンジンの排熱が極端な対航空機と異なり、対艦ミサイルの赤外線誘導は、ジェットエンジンのような積極的な熱源ではなくとも、日光に照らされて蓄熱した艦船そのものを捉える。

 ────なのだが、その理論なら護衛の戦列艦に向かうミサイルもあっても良さそうだが、実際には竜母にばかり命中している。これには理由があった。

 やはり赤外線シーカーはより強い熱源に引き寄せられる。つまり────

 ドッグワァアァァァン!!

 ペンギンASMの誘導装置は、竜母艦の発艦促進装置の発熱を捉えて、そこへ飛び込んでいった。

 今まさにワイバーンロードが発艦しようとしていた飛行甲板が跡形もなく消し飛び、木造の艦体は燃え上がる。

 

 ──間違いない! これは……攻撃を受けているのだ! だとしても、どこから…………

 アルモスが、再度周辺の状況を確認しようと、周囲を見渡した時。

 キラッ……

 はるか上空の雲の隙間に、光を反射する存在が ──── 先程からこの艦隊を見張っていた、Su-22UGEの機体からの光が見えた。

 ──これは! 間違いない!!

 アルモスは確信した。これは「敵に制空権を奪われた」のだと。

 そして、その次の瞬間、アルモスを主甲板に乗せていたフィシャヌスの飛行甲板に、ペンギンASMが飛び込んだ。

 

「いよぉし、後は仕上げだな!」

 ノリコ機は、高度を2,000m以下にまで落とす。

「ですが、まだワイバーンが残っている可能性が!」

 ルイアが、驚いたような声を出す。

「その時はその時さ! ナマモノが怖くて作戦放棄しましたたぁ、アリゼライダー・ドーラの名が廃るッ!!」

 ────竜母艦を無力化した後、敵艦から見える高度でフライパスせよ。

 これがノリコ達に与えられた任務のひとつだった。

 司令部の意図は解らないが、度胸試しには丁度いい、と、ノリコはこの任務を引き受けた。

 とは言え、リスクが伴うため、4機小隊のうち、ノリコ直率のモス小隊3・4番機、それにタイガー小隊にはこれを行わせず、ノリコ機と2番機のみで実行していた。

 ただし、ワイバーンの残りがいたとしても、まったくの無力ではない。ノリコ機とモス小隊2番機の外翼には、プロペラ固定翼機・回転翼機の自衛用として用意されている『ミストラル』AAM型の2連装ディスペンサーが吊り下げられていた。

「シャルリーン、()()をやるぞ!」

「了解ッ」

 ノリコが指示すると、シャルリーンが装備操作用のパネルを操作する。

 アリゼの爆弾倉扉が開く。この爆弾倉は容積があまり大きくない為、Br-1050Aはほとんどのミッションで、この中はドロップタンクを搭載している。

 特にペンギンASMを4発搭載している状態では、爆弾倉扉を開くこと自体が不可能になっている。

「へへっ、ちょうどいい具合に戦列艦だけ残ってら」

 ノリコがそう言うのと同時に、シャルリーンがジョイパッドのボタンを押した。

 爆弾倉内のドロップタンクがリリースされ、それは3隻生き残り、この場から離脱しようとしていた戦列艦の1隻の甲板を直撃した。

 





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レミールの処遇は……

  • 原作通り
  • 総統閣下のわからせ棒
  • 行方知れず(故意)
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