パーパルディア皇国、皇都エストシラント。
在パーパルディア-ムー大使館
過密のエストシラント首都圏内にありながら、緑地帯を確保した贅沢な作りだが、ムーの近代様式を取り入れたその建物は、豪奢ながらくどさのない佇まいとなっている。
ムーの合理性からすれば、土地の無駄遣いにも見える。だが、ムー自身は中立不戦主義であるとは言え、パーパルディアに対して同じ列強でもより上位であるということを誇示する必要があり、この様になっている。
そのムー大使館を、パーパルディア皇国第1外務局職員のニソールが訪れていた。
在パーパルディア-ムー国大使のムーゲは、先ず挨拶を交わした後、ニソールを面談室に通した。
面談室は外国の外交員に欠礼が無いよう、絨毯敷にやや豪華なクッションのついた背ズリのあるスツールが、机越しに向かい合うかたちで置かれている。
「まずは、急な面談に対応いただき、感謝します」
ニソールは、文明圏外国に対するそれとはまったく対象的に、丁寧に挨拶をする。
「いえ、外交は突然何が起きるかわかりませんからね……とりあえずおかけください」
緩く癖のある髪を男性にしてはそれなりに長く伸ばした、ムー男性に多く見られる長身に太ってはいないがガタイのいい“細マッチョ”体型のムーゲは、そう言って、ニソールに着座を進めると、給仕にコーヒーを淹れるように指示してから、自身もニソールの対面に座った。
「それで……本日はどうなさいましたか?」
ムーゲが、本題について切り出すように促した。
「我が国がフェン王国と戦争を開始した事はご存知かと思います……」
「ええ、存じております」
ニソールの、何処か困惑したような表情を読み取りつつ、ムーゲは
「エクスプレッセスティ共和国から即時全面撤退の要求を含む最後通牒を突きつけられ、皇国はこれを退けたとのことで……我が国も関心を持って注視しています」
「流石ムー国ですね。情報収集が早い……」
ムーゲの言葉に、ニソールが感心したように言う。
ムーが、自国の安全を確保し中立不戦主義を保つため、広範な情報収集を行っていることは、他の列強国やそれに準じる文明圏国家の間でも有名だった。
それを踏まえて、ニソールは続ける。
「先日、観戦武官について質問させていただきましたが、その際エクスプレッセスティ共和国側へ派遣するとの回答を受けております。その真意を知りたく参りました」
「なるほど、我が国がエクスプレッセスティに観戦武官を派遣したことは間違いありません」
ニソールの言葉に、ムーゲは柔和な様子で答える。
「それで……その真意ということですが、どのような説明を求めておられるのでしょうか?」
「それが……貴国は勝つ側にしか観戦武官を派遣しないというのが通例と存じ上げますが、エクスプレッセスティ共和国が、我が国と対等に戦い
──この段階でもこの程度の認識しかしていないのか……まぁ無理もないな。我が国もエクスプレッセスティの力は完全に測れているとは言い難い……
ニソールの言葉を聞いて、ムーゲはそう思いつつも、それを顔に出さないように努める。
「それについては、当職がお答えできる範疇を越えております。どうかご容赦を」
ムーゲは、当たり障りのないように、そう答えた。
「そうですか……」
エクスプレッセスティが何を持っているのか、そのヒントだけでも得られないかと思っていたニソールは、落胆した様子を隠さずに、弱々しくそう言った。
「ただ、
ムーゲがフォローするようにそう言うと、
「解りました。ひとまず大使の口からその言葉を聞けて安心致しました」
ニソールは、明らかに緊張が緩んだ表情でそう言った。
「本日は急な申し出を快諾いただきありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ大した力になれず、申し訳ありません」
ニソールが立ち上がりかける。
「よろしければコーヒーだけでもお飲みになって行かれてはどうでしょうか?」
ムーゲはそう言ったが、
「ご厚意を無駄にして申し訳ないのですが、現在
と、ニソールが申し訳無さそうに言う。
──だろうな……
ムーゲはそう思いつつも、ニソールを見送るために立ち上がった。ニソールと挨拶の握手を交わす。
ニソールが退出しようとした時────
「お待ち下さい」
と、ムーゲがその背中に声をかけた。
「私は、ムー外務省員として依頼、パーパルディア皇国に駐在して長い。妻はパーパルディア人で外務局にも友人がいる ──── これから話すことは
そう言って、周囲を気にしたように声を潜め、ニソールに囁く。
「エクスプレッセスティはムーでも無視できない力を有しています。これ以上は言えません────」
ムーゲの言葉を聞き、一度血色の戻ったニソールの顔が、一気に憔悴したものに変わる。
「────此度の戦争は、皇国にとってとても厳しいものになるでしょう。
そう言って、ムーゲは、脂汗を滲ませるニソールの肩を軽く叩いた。
その頃、パーパルディア皇国軍・フェン侵攻部隊、ゴトク平野南岸部の橋頭堡。
パーパルディア皇国軍は、ここで、後続の侵攻部隊本隊を迎え入れていたが、ニシノミヤコの港湾設備の使用を予定していたため、艀を使ってえっちらおっちらとやるしか無く、その上────
ドバァアァァァンッ!!
地竜を陸上げしようとすると、地面に仕掛けられた
原型の63式対戦車地雷は、旧軍が物資欠乏を理由に陶器製・木製の三式地雷を開発した流れを受けて、戦後初っ端開発されたこれからして樹脂製の非金属製地雷だった。
近年の対戦車地雷が発見しにくいのは、金属使用量が少ないためである。磁気式の地雷探知機に反応しないのだ。
転移前は、その初期において東側兵器に頼ったエクスプレッセスティにしては珍しく、地雷を自国生産に移行することに当たって、そのモデルを戦車大国ソ連の流れを汲む東側型対戦車地雷ではなく西側、それも日本に求めたのは意外と言われることもあった。まぁ日本製なら間違いないと思い込む性質だから仕方がない。
もっともJGMA-63対戦車地雷は、エクスプレッセスティにとって脅威だった非合法武装組織が入り込むことを防ぐことを目的に安価で大量生産することを目的としたもので、現用では92式対戦車地雷を原設計とするJGMA-92も持ってはいる。
だが、パーパルディア軍相手にはもったいないし、ゴトク平野南岸部は普段人気がない場所ということで安いJGMA-63を大量に埋め込んだ。
そんなわけで、どうにか上陸を完了させたときには、輸送艦が到着してから丸一日半が経過していた。
ベルトランは、それ以前からとにかく爆発物が地面に埋められているらしいということで、輸送艦隊の到着以前から人海戦術で掘り返してできるだけ撤去する作業を指揮していた。
この時点で、重傷者に加え、敵前上陸部隊の疲弊が蓄積しすぎている兵や、精神錯乱を起こしてしまっている兵は、その輸送艦隊の復路で送り返した。
「やっと進撃できる目処が立ったようだな……早くアマノキを落とさねば、こんな戦いの連続ではこちらも擦り切れてしまう」
ベルトランはそう判断する一方、飛竜による支援が無いことに少しの懸念を抱いていた。
──竜母部隊が作戦離脱したと言うが、全数が離脱する程の損害とは何だ?
ベルトランは訝しむ。
竜母部隊の撤退は、ベルトランが“機械竜”と呼ぶ、ムーの兵器により攻撃された事で、損害を受けたために、本国へ撤退していると言う。
だが、その数は2機しか目撃されていない。
これはエクスプレッセスティの攻撃だと思われるが、文明圏外国家にそのようなものを造る力があるはずがない。
考えられるのは、“女だけの国”だけに、奸計を用いてムーから導入したという可能性だ。だが、いくらそうだとしても多数が提供されたとは考えにくい。なので、2機というのはおそらく、その少なくとも過半以上だろう。
だが、疑問も残る。
陸兵のベルトランにとっては専門外だが、たった2機の攻撃で、竜母艦隊が全数離脱せざるを得ない程の損害を受けるものだろうか?
これらについて不思議に思いつつも、同時に、ベルトランは己に課せられた現状打破についての思案も行わなければならなかった。
──ゴトク平野は、障害物らしい障害物はないし、大軍が行軍するのに問題はないが……それに、この場に留まっていてもジリ貧だ。
エクスプレッセスティ国防軍は、安心安全信頼の日本製の浮き桟橋を持っているが、パーパルディアにそんなものは存在しない。そもそも大軍が乗降する規模のそれを運んでくる船舶がない。浮いた状態で牽引してくるにしてもエクスプレッセスティやムーのように熱機関で航走することが前提の船舶が前提で、『風神の涙』程度では無理だ。
また、ビーチング型の揚陸艦・揚陸艇は、上陸させる際には有効だが、逆に撤退するとなると、ビーチング後に重くなった艦体を離岸させるのに手間がかかるわ、その際に艦体が損傷していて浸水するリスクは有るわで、多少のリスクを甘受するにしてもこれまた動力船がないとまず不可能である。
よって、彼らがパーパルディアに引き上げるにはアマノキかニシノミヤコの港湾施設を使うしかなく、その際の選択肢はどちらかの都市を制圧するか、フェン軍に降伏するかだ。
ベルトランは、必ずしも短慮的な行動をする人物ではなかったが、それでもその固定観念に凝り固まったパーパルディア人の枠を逸脱するには至っていない。
つまり、格下であるはずのフェン軍への降伏など、この時点では想定すらしていなかった。
──ニシノミヤコの防備を固めていたようだが、王都アマノキを包囲してしまえば、地方都市をいくら万全に固めていても、フェンには降伏と服従以外の選択肢はない……
そう考えたベルトランは、上陸した部隊に、小休憩の後にアマノキへ向けて進軍する事を決め、総指揮官のシウスに通告した。
────ベルトランは、彼らの上を飛んでいた、ゲイラカイトのような飛行物体に気がついていなかった。
同じ頃、エクスプレッセスティ海軍・フェン方面派遣
「フェン軍からの回答は?」
ヴェスタCIC。
准将から少将に昇進した、サルナイ・エミリー・オチル艦隊指揮官は、指揮官席から通信オペレーターに問いかけた。
「今来ました。当該海域にフェン水軍の艦艇は存在していないとのことです」
通信オペレーターが回答する。
「じゃあ、まぁ、一応最初は警告を出しておきましょうか」
「わざわざ、ですか?」
ヴェスタ艦長、ココモ・キャサリン・ウィリアムズ中佐が、サルナイに聞き返す。
既にエクスプレッセスティ政府は、パーパルディアは敵対する交戦当時国として認識され、その事をパーパルディア側にも通達しているはずで、いきなり攻撃しても問題はないはずだった。
「まー、較差がありすぎてカワイソーだから。それに、フェン事変の時に暴れた負い目もあるし」
サルナイは、そう言って苦笑しながら、自身の頬を掻く仕種をした。
「了解です」
ココモも、なんとも言えない苦笑を浮かべた。
一方、パーパルディア艦隊フェン侵攻部隊本隊。
旗艦パール、司令部公室。
「シウス海将! 何やら不明の飛行物体が、我々に対し呼びかける声を発しています!!」
「何ッ!?」
パール副長から報告を受け、シウスが甲板上に出ると、
バタバタバタバタ……
と、けたたましく空気を
ワイバーンには見えないし、フェンの友好国ガハラ神国の風竜にも見えない。ムーの、機械竜、もしくは飛行機械と呼ばれるものとも異質に見えた。
『こちらはエクスプレッセスティ海軍。パーパルディア艦隊に告ぐ。戦闘の意思なくば帆をたたんで停船し、艦首に白旗を掲げよ。我々は貴艦隊に対し、現状から一方的な攻撃が可能である。繰り返す、戦闘の意思なくば帆を畳んで停船し、艦首に白旗を掲げよ! 然らずんば攻撃に移る! エクスプレッセスティ海軍少将サルナイ・エミリー・オチル』
謎の飛行物体────ヴィールニィ搭載ミル・アントノフMi-17An/D-Sヘリコプターが、
「降伏しろだと!? ふざけたことを! こちらにはまだ90隻を超える戦列艦があるのだぞ!! ムーの飛行機械があったとしても、追い返せるものではない!」
シウスは、激昂したように強い語気でそう言った。
シウスもまた、竜母艦隊の損害について、目撃された“
「このまま北上だ! 敵艦隊と接触した場合はこれを撃滅する! 全艦、戦闘に備えよ!」
シウスは己の判断に基づき、艦隊にその指示を出した。
ヴェスタCIC。
「ヴィールニィ1号機より報告、敵艦隊、増速、北上しているとの事です」
通信オペレーターがそう言った。
「うーん……まぁ、そうなるかー。仕方ないわね」
サルナイは、苦笑しながらそう言った後、表情を引き締め、下令する。
「全艦砲撃戦用意! ダニーポワーは敵艦隊を
ヴィールニィ艦橋。
「お二方」
ヴィールニィ乗り込みのフリーダ・シュルツ少尉が、乗せていた2人のゲストに声をかける。
性能はともかく、VLSを搭載する現代西側型のヴェネレイト級が全体的にのっぺりした外見をしているのに対し、東側型らしい威容を持つファネシー級は、度々外交使節団を乗せることがある。
付け加えると、ヘリを2機載せられることも、そうした任務に就くことに適していた。
そして、ムーへナディアとノンティを乗せていったのも、このヴィールニィだった。
今回は、初歩的とは言え艦載砲を持つ相手との戦闘になる事を考慮し、新鋭ヴェネレイト級の中でも三菱製のエクリプスへの乗艦を勧めたのだが、ムー観戦武官、マイラスとラッサンは、特にヴィールニィへの乗艦を希望していた。
「艦隊が敵艦隊に対する攻撃を実施します」
「了解です。この目に焼き付けさせていただきますよ」
マイラスは双眼鏡を手に、フリーダの言葉に応えた。
ラッサンは、エムブラセクスで購入したF&C X-chrome22スチルカメラを手にしていた。富士Xシステム互換35mmフィルムカメラだ。
ムーにはまったく同一ではないものの、地球の35mmフィルムと近似サイズになる銀塩フィルムカメラがある。フィルムの現像処理さえエクスプレッセスティ国内で終わらせれば、ムー国内でも印画紙への焼付ができる。
マイラス達へのサービスなのか、増速したコルベット・ダニーポワーが、ヴィールニィの艦橋から視界に入る位置に来た。
そして、そこで“ウクライナの意地”を象徴するR-360K『ネプチューン』ミサイルが連装2基のキャニスター内でサステナーに点火し、艦の前方へ向けて発射された。新たに目の前に現れた侵略者めがけて、海面スレスレをミサイルが飛翔していく。
ネプチューンミサイルの1発は、慣性誘導で発射時に設定された目標の近くに来ると、終端誘導のアクティブレーダーホーミングに移行し、目標へと向かっていく。
ミサイルは狙い過たず、パーパルディア戦列艦 ──── 旗艦パールに飛び込み、舷側を破り、そこで信管を作動させて、150kgの高性能爆薬が爆発した。
イシュタール級駆逐艦
主要武装
Modèle 68 100mm砲 ×1 (前部)
Mk110 57mm砲×1 (前部)
アスター30Block1NT SAM・R-360K『ネプチューン』 SSM兼用4連装キャニスター×2
艦載化された2K12『クーブ』SAM3連装発射機×2
CIWS『ガーディアンスフィア』×2
装備銃:台湾製T75 20mmリボルバーカノン 設計:三菱電機・三菱重工
ガン・ミサイルコンプレックス砲塔『SIGMA20』 ×2
『ミストラル』対空ミサイル4連装ランチャー
GSh-23/20L 20mm 2銃身機銃
設計:MSI Defence Systems
RBU-1200 5連装対潜迫撃砲×4
RPK-2対潜ミサイル発射機能を持つ533mm魚雷発射管 2連装×2
艦載機:
ヘリコプター1機
機関:スチームターボ・ガスタービン併用COSAG方式
(COmbined Steam-turbo And Gas-turbine)
全開時出力60,000hp 設計:三菱重工
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レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)