フェン王国────
ゴトク平野は火山灰土壌の農地に適さない土地、と、フェン自身や周辺国では認識されていた。
…………が、火山灰土壌と言えば日本列島がまんまそれだ。日本は土壌の性質としては弱酸性の農地に適している場所がほとんどだ。特に関東平野と九州南部の、所謂黒土の土地がこれに当たる。
日本で農作物の定着が悪いのは、唯一サンゴ礁の隆起で形成されたアルカリ土壌の沖縄である。
エクスプレッセスティでも、プラ連山系は全体の形成は火山性ではないものの、隆起する過程で火山活動が発生しており、プラ連山系の山麓は火山灰土が堆積しており、現代農業の定着の際に真っ先に農地として開発された。
じゃあなんでゴトク平野が農地にならんのかいな、ということでエクスプレッセスティ共和国の産保省営農局が地質調査班を派遣して、 ────……そこでパーパルディア皇国のフェン侵攻に巻き込まれたわけである。
────アマノキ南西部の郊外に設けられた、エクスプレッセスティ国防軍野戦指揮所。
「UAV部隊からの報告が上がってきてます」
「りょーかい」
本部隊の隊員から告げられて、陸軍第2旅団々長マオ・アンナ・オシロ准将は、少し緊張感に欠ける口調でそう言った。
トランク型パソコンのマウスを操作し、UAVによる偵察情報の画面を開く。
「……うーん……上陸の一報があったときより増えてる、か……」
「どうしますか? 航空攻撃を要請して先に叩きますか?」
少し考え込むように、1人で呟いたつもりのマオの言葉に、天幕内の部下が問い返してきた。
「上からは
マオは、反応した部下の
「まぁ、遮蔽物も殆どないし、ガチでぶつかる事自体は構わないんだけど……バイク隊は戻ってきてる?」
エクスプレッセスティ軍制式オートバイDS12E/200Dは市販名をスズキ/セダクション『Vストローム』と言う。クロスユーティリティバイクで、原型(『Vストローム250』)まんまのスズキ製250cc 4ストロークガソリンの他、セダクション製200cc デイ式2ストロークガソリン、セダクション製200cc 対向ピストン式2ストロークディーゼルがラインアップされていて、軍では燃料の統一の観点からこのディーゼルモデルが使われている。
「呼び出しますか」
部下がそう言って、ポータブル無線機を展開している通信班の方向に向かおうとするが、
「バイク班戻りました」
と、ちょうどそこへ、バイク班の班長が報告に来た。
「お疲れ様。予想会敵地点の様子はどうだった?」
マオは、立ち上がって自ら労いの言葉をかけつつ、問いかける。
「前情報通り、無人の平原と言った感じで、見晴らしはよいのですが、ところどころ人の背丈ほどの草むらが存在しています」
「ええと……」
報告に対し、先程からマオと会話していた本部隊の隊員が言う。
「映像も見たけど、これ日本の東富士演習場に似ていませんか?」
「あ、何処かで見た覚えがあるかと思ったらそれか」
マオは思い出したようにそう言った。
転移前の西暦2017年以降、エクスプレッセスティ陸軍は東富士演習場での合同演習を何度か行っている。
その時参加するのは、ウクライナを範とした旧ソ連の流れを汲む“VDV型部隊”である統合機械化旅団群か空中機動旅団群だが、マオは佐官時代に何度か参加していた。
ちなみにエクスプレッセスティ自身の陸軍演習場は、元湿地帯の軟弱地盤の上なので、ほとんど通年水が上がってきて泥になる、と、車両がスタックする程ではないものの、ゴトク平野とは趣が異なる。
「そう言う事なら、こちらの走行車両の運用には問題ないか……後はリ
マオが呟くように言う。
「生き物だと思ってかかるのは危険ですね……アイランド・オブ・エビル作戦の際には、オーガと呼ばれる魔獣は、20mm
「どんなナマモノよ、それ……」
本部隊の隊員が言うと、バイク班の班長が、うんざりしたような表情で、呆れたようにそう言った。
「だとすると、アマノキに塁が及ぶ危険が無いよう、できるだけ南下しておいたほうがいいようね……よし!」
マオが決断する。
「第2旅団南下する! 総員準備、行動を開始せよ!」
同じ頃、ベルトランも部隊を率いて北上を開始していた。
アマノキ包囲の掩護の為、シウスの艦隊がフェン東岸沖を北上している筈である。それに遅れる訳にはいかないと、一抹の不安を抱えつつも、進軍を開始していた。
──第3外務局や国家戦略局は、 エクスプレッセスティがトーパ神話の “鉄の地竜” を持っているという情報を得たそうだが…… “機械竜” の件と言い、そんなに多数は持っていないはずだが、問題はどれほどの能力を持っているかだ……
ベルトランは、騎乗しつつも、地竜や歩兵の進行速度に合わせて、ゆっくりと進みつつ、考える。
──地竜もだいぶやられたが、まだ12頭もいる……本当に “鉄の地竜” がいたとしても、2頭程度なら返り討ちにできるだろう……それよりも……────
ベルトランは、視線だけ動かしてあたりを見回す。
──それより気がかりなのは、この人の背丈ほどの草むらだ……ニシノミヤコではフェン兵が銃を持っていたという……ここに伏兵がいたらと思うと気が気でない……
手綱を握る、ベルトランの手に脂汗が滲む。
──ないものねだりはできないが、飛竜隊の哨戒なしに進むのがこれほど緊張するものだ── ──
ドバァッン!!
突然、轟音とともにベルトランの視界の先で、尖兵として先行させていた地竜が粉砕され、跨乗歩兵が木っ端のように飛び散った。
しかもそれだけではなく、その地竜を前方に立たせて盾としていた歩兵の隊列まで、何かが突き抜けたかのように、縦列の3列程がきれいに、一瞬にして血まみれの肉片と化した。
そのすぐ横にいた歩兵は、薙ぎ払われた歩兵の列の側の耳を押さえながら倒れ込む。
「これは……砲撃だッ!」
「前方からだ! 地竜が1発でやられたッ」
「こっ、これは……」
パニックになる歩兵を尻目に、ベルトランは、潰された地竜の方を見る。
「な、なんだあれは!?」
それを見て、思わず大きな声を出してしまっていた。
ヴォゥ!!
ドンッ! ドゴッ!!
生物が作り出すものにしては無機質な唸り声を上げながら、それが魔導砲のようなものを射撃している。
「前進しながら砲撃しているだと!?」
そう声に出してしまったベルトランだったが、一瞬で我に返る。
「魔導砲射撃用意! 急げッ!!」
アマノキ攻城のために随伴していた砲兵隊に、射撃準備を下令する。
その間にも、敵の砲撃が地竜を狙って射撃してくる。
──アレは人が乗っているのか!? だとしたら、なぜ降りることなく砲が装填できる!?
敵の砲弾が命中し、その
──あれが“鉄の地竜”か!? だとしてもここまでの攻撃力を持つものなのかッ!?
T-54-120、T-64-120のアップデートパッケージで搭載される1K14E照準器は、日本の10式、90式よりは劣るものの……とゆーか、エクスプレッセスティ陸軍が陸自と演習やっては「もっと精度が上げられないの!?」とか言うもんだからハルキウ設計局側もムキになってソフト書き換えたシロモノが詰まっているので、平野部でのたのた歩く地竜なんぞ “止まっているのと同じ” 感覚で当たる。
「敵地竜撃破!」
「次ぃ!」
砲手が照準器モニターを覗き込んだまま、1匹の地竜が木っ端微塵になるのを見て言うと、車長が端的な指示を出す。
ズゴォッ!!
ヘッドセットがないと聴力障害不可避の轟音とともに、120mmAPFSDS弾が発射される。
図体の大きさから、第二次世界大戦時の戦車並みの防御力を持つと想定されたことから、確実に行動不能にする為に、実際の防御力を知れば完全にオーバーキルのAPFSDSを撃ち込む。
せいぜい20mmフルメタルジャケットでは「効かないかな?」程度の防御力しかない地竜は、首から尾部にかけてたやすく貫かれる。その際に砲弾が持っている運動エネルギーが地竜の体内で放出され、その際に地竜の火炎放射器官を破裂させられ、貫通直後に地竜が吹き飛ぶ。
「! 敵
地竜の後ろから姿を表したそれを見て、車長が声を上げる。
転移前、対戦車砲はアメリカ英語のAnti Tank gunの呼称が主流だったが、オタク気質持ちが少なくないエクスプレッセスティ国防軍では、ドイツ軍マニアの一部で今も使われるドイツ語の “PanzerAbwehrKanone” の略である “Pak” が定着している。
そもそも現代では、戦車の装甲が厚くなりすぎて、質量と運動エネルギーで貫通する対戦車砲を人力で運用することは困難甚だしく、成形炸薬弾頭を持つ可搬型対戦車ロケット・ミサイルに取って代わられ、牽引式対戦車砲はほとんど姿を消している。 ────が、皆無ではない。
ソ連ではT-64以降の戦車の標準型主砲である2A46(D-80) 125mm滑腔砲の牽引砲型である2A45対戦車砲『スプルト』を開発・配備していた。
実はこれ、転移直前までエクスプレッセスティ陸軍も保有していた。だが、そもそも砲弾が互換するのがT-64のみで、2010年代の防衛力本格整備の際には、アメリカで7.62×54 mm R弾が生産されていたDPMと異なり、この頃仲が険悪になりつつあったロシア以外からの入手ルートがウクライナぐらいしかない上、国産化するにも対応する砲の数が少ない。
なので、エクスプレッセスティが保有していた2A45は、所謂“NATO寄せ”で廃止が決定し、大部分はウクライナに譲渡、最後に残った少数を日本とイギリスにサンプルとしてタダ当然で売り飛ばした。
────閑話休題。
牽引砲がほぼ平射でこちらに砲口を向けているのを見て、エクスプレッセスティの戦車乗員は、反射的に野戦砲の対戦車射撃と認識した。
『ヤマネコより各局、
「射撃準備よし!」
「撃て!」
砲兵中隊の中隊長が言うと、ベルトランは直ちに射撃を下令した。
「撃て! 近寄らせるな、撃てぇっ!!」
エクスプレッセスティ軍はもちろん、供与品を扱ったことのあるクワ・トイネ軍やフェン軍の将兵でも失笑モノの派手な発射煙を吹き出しながら、野戦魔導砲が火を吹いた。
「あ!」
T-54-120の1台で、操縦手が声を上げた。
トランスミッションを後進に入れようとしたが、シフトレバーが前進2速から抜けなくなった。
「手ぇ離して!!」
ズゴォン!!
「おおっ、やった!」
敵の“鉄の地竜”が後退を始めたが、そのうち1体の動きが止まり、そこへ味方の砲弾が直撃し、爆発したその爆炎を、彼らは確かに見た。
「ざまぁみろ! 蛮族の小国の、それも女が、皇国に逆らうからだ!!」
そんな言葉とともに、砲兵や歩兵から威勢のいい声が上がる。
「ベルトラン閣下! やりました! 敵の地竜1体撃破! 残りも後退していきます!」
砲兵中隊々長が、意気揚々とベルトランに報告する。
確かにその爆炎は、ベルトランも味方の発射煙越しにだが、確かに見た。
だが……────
「……いや、見ろ!」
と、ベルトランは、味方の砲が砲口を向けているその先を指差した。
「味方の地竜の死骸は残っているのに、敵の地竜は何処に消えた?」
「え、……あぁっ!?」
ベルトランに言われ、砲兵中隊々長もそちらを見て、そして驚いたような声を上げた。
「そんなバカな……確かにこちらの砲弾が命中して、爆発していたはず……」
「俺も確かに見た……複数の人間が見ていたのだから、お前の見間違いだとか、幻影だったということはないはずだ! だが、それでも敵の地竜は、被弾した時点の場所から何処かに去ったのだ!!」
「そんな……まさか、瞬間移動でもしたのか……そんな事が可能だとしたら……」
ベルトランの言葉に、砲兵中隊々長は愕然とした様子で、そちらの方を見ながら、呟くように声を出す。 ────だが、そこまで言いかけたところで、
「それは言うな!」
と、ベルトランが咎めた。
「そんなものは御伽噺の存在だ……皇国が……………………いや、現在の皇国がまったく及ばない存在など……────」
もちろん瞬間移動なんてものは、エクスプレッセスティどころかアメリカや日本にもない。
では、一体何が起きたのか。
「あっぶなぁ……」
そう言いながら、ハッチから身を乗り出した車長が、砲塔右前面の焦げ跡を見て、そう言った。
その部分だけ、まるで瓦屋根の瓦が落ちたかのように、きれいに凹んでいる。
「大砲があるって聞いたから『ニージュ』着けてきたけど、まぁ良かったのかな?」
「どーだろ? 車体ならともかく、砲塔は新しいから、あの程度弾き返してたんじゃない?」
車長の背後の乗降ハッチから身を乗り出してきた砲手が、少しすっとぼけた様子で言った。
ベルトラン達が見たのは、爆発反応装甲『
「敵の “機械竜” はどうやらやはり出てこないようだ……不幸中の幸いだな。これで空を取られていたらおしまいだった……」
ベルトランは、意識して声に出しつつ、そう言った。
「“鉄の地竜” の能力がここまでということや、8体も同時に出現したことは計算外だったが……」
「お言葉ですが、ベルトラン閣下!」
歩兵大隊の隊長が、ベルトランに注進する。
「あの地竜の攻撃力は強力ですが、相手は所詮、 “女だけの国”。こちらの戦列歩兵の攻撃が届くところまで突撃すれば、向こうの歩兵に負けるはずがありません!」
「負けるはずがない、だと?」
大隊長の言葉に、ベルトランは苦々しい表情を向ける。
「いとも簡単にすべての地竜を失ったのだぞ! すべてだ!!」
ベルトランは、池ほどの大きさの、血と肉の残骸が残っている場所が点々と残っている平原を指差して、そう声を荒げた。
「向こうは砲の扱いに絶対の自信を持っているはずだ。強引な進軍は
「い、いえ……そんな事は……」
冗談のような言葉を織り交ぜながらも、深刻そうな表情で言うベルトランに対し、大隊長は萎縮したような声を出す。
「ここは一旦退き、敵を味方の戦列艦の射程内に引き込んで、艦砲射撃で撃滅するのだ」
シウス率いる本隊はアマノキ包囲に向かったが、橋頭堡を確保するため、100門級2隻、50門級2隻の護衛艦隊が残っている。
「味方の損害を減らすにはそれしかない」
「ちっ、追っかけてこねーのかよ。インポ野郎どもが……」
戦車を追撃してきた時に、砲撃を撃ち込む準備をしていたエクスプレッセスティの迫撃砲隊の女性隊員が、パーパルディア軍の陸上部隊のいる方を見て、苦い顔をして不満そうにそう言った。
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)