「この射撃の精度は凄いな……」
マイラスは、ヴィールニィの艦橋から、エクスプレッセスティ艦隊の射撃を目の当たりにして、呆然とするしかなかった。
マイラスの専門は空軍であるものの、現状のムー海軍と比べて、射撃の精度がどうこうと言うよりは、砲撃に対する考え方が根本から違うように感じている。
──ノンティ少尉の言うとおり、砲
エクスプレッセスティ海軍の駆逐艦の標準となっているModèle 68-
やはり女性の腕力で不利が生じる場所は、機械の力を率先して使う。 …………現存艦の大改装前、特にイギリス製の中古艦に乗ってた古参だと、その時の慣れで砲がぐずった時にさっさとハンマーで殴って尾栓開いて詰まり物排出するのも多いとか深く考えちゃだめだ。
ともあれ。砲そのものの原設計は1950年代に遡るため、ムーの冶金技術でもそれ自体は大して難しいものではない。だが、マイラスが注目しているのはその砲の制御である。
──遠隔自動化砲塔もヒントさえあれば作れなくもない。だが……命中精度だ。必中を期すると言うより、
肉眼では視認困難な遥か彼方で、100mm砲弾が命中する度、パーパルディア艦が燃え上がる。ある艦は艦体が崩壊してバラバラになり、ある艦は魔導砲に使う魔石に誘爆して木っ端微塵になる。
命中した時の威力で言えば、ムーの艦砲と比べても驚くほど強力というわけではないように見える。ただ、その精度と来たら……ほとんどの砲弾が、まるで吸い込まれていくかのようにパーパルディア艦に命中する。
しかも、主砲だけではなく、副砲の57mm砲も射撃している。小口径の砲だが、3発当たれば半壊か大爆発かのどちらかだ。
ミサイル全盛の時代にエクスプレッセスティ海軍がやたら砲熕兵器を積みたがるのは、何度か説明したが、エクスプレッセスティにとって差し迫った脅威が非正規武装集団だからである。多少武装していると言っても軍艦ではない相手にミサイルはコスパが悪すぎるのだ。
「規模が違う砲が別々に動くところまでは解るとして、そのそれぞれが百発百中だというのは、実際に目にしてもなお信じられない気分だ……」
「マイラスは熱心だな……流石技術屋だけはある」
ラッサンの言葉を聞いて、マイラスは双眼鏡を顔から離しつつ、ラッサンを振り返った。
「流石に技術が違いすぎて、戦術の参考にならないか?」
「ああ。せめて空母の使い方でも見せてもらえれば、多少は学び取ることができたかも知れないんだけどな……」
マイラスの言葉に、ラッサンは正直にそう答えた。
エクスプレッセスティ唯一の空母『ヴァルキュリア』は、フェン王国におけるパーパルディア軍撃滅作戦では、ヘリコプター輸送の任務でアマノキに停泊しているものの、フェン水軍の攻撃と空軍による先制攻撃で敵航空戦力の殲滅が確認されたため、搭載機運用による消耗を抑えるために、パーパルディア艦隊との戦闘には直接参加していない。
「今回は実戦よりも、滞在中に提供してもらえる資料の方が重要になりそうだな……」
マイラスは軽く息を吐きながら言う。
ノンティがムーへの訪問時に、「ムーの基礎技術力なら基準3万トン超の戦艦がもう建造できる」「転移前の共通する友好国であるヤムート、日本が過去に基準64,000トンの史上最大の戦艦『大和』を建造したことがある」と言った事に対して、ムー国防軍上層部や政府、政治家も深い関心を示している。より具体的な技術開発が必要になっているが、同時並行で7万トン超級ドックの建設計画が既に進められていた。
艦体構造については、ズバリ『ヴァルキュリア』が第二次世界大戦型の大型艦なのである。21世紀現在の基準だと軽空母に分類されるが、艦の大きさで言えば開戦時の『蒼龍』と同規模である。
エクスプレッセスティ国防省は、建造したわけではないが、整備・修理時に必要だし、機関換装の大工事を行っているため、構造は把握している。ただ、それをムーに提供するかどうかは、現在、条件を設けて交渉が続いている。
「それもだが……なんというか、俺は国に帰っても、女性をどう見たらいいのかわからなくなってきたよ」
ラッサンは、心底困ったという様子でそう言った。
パーパルディア艦に砲弾が命中し、破滅的に破壊される度、
「ざまぁ━━━━━━━━みれ」
「木造帆船で喧嘩なんか売ってくるからだ」
「私らの目の前で侵略なんかしてんじゃねーっての」
「せめて蒸気機関造れるようになってからイキりましょうねー」
「クレムリンにも撃ち込みたかったなぁ」
「何処から撃つ気だ」
などと、あからさまにパーパルディア艦隊を卑下する言葉が聞こえてくる上、中にはパーパルディア艦隊に向かって右手の中指を突き立てる者までいる始末。
フ○ックサインをラッサンが知っているはずもないものの、なんか下品かつ好戦的な仕種である事は、発される言葉からして想像ついた。
軍隊では敵軍を汚く言うのは珍しいことではないし、ムーも軍の末端まで品行方正などと言う気は毛頭ないが、女性しかいない空間でそんな声ばかりが聞こえてくると、女性というものに対する男性が抱く幻想だとかそんなものが破壊される精神状態になる。
まぁ、はっきり言うと軍の中でも海軍、それもエクスプレッセスティでは大きい方に分類されるヴィールニィやヴェネレイト級はかなりマシな方なのだが────
同じ頃、ベルトラン率いるパーパルディア陸上部隊も、ゴトク平野南部に向かって後退しつつあった。
「…………」
「どうなさいましたか、ベルトラン閣下」
馬の上で浮かない顔をしているベルトランに対し、歩兵大隊々長が、声をかける。
「なぜ敵は追撃してこない……」
“鉄の地竜”の移動速度は、明らかに馬より早い。
そして、敵も自分達が味方の艦隊の掩護が及ぶところまで退避しようとしているのは解っているだろう。
この状況で、自分が敵の指揮官だとすれば、敵軍を蹂躙するため素早く追撃しているところだ。
「歩兵が追いつくのを待っているのではないでしょうか?」
「それはあり得るな」
大隊長に言われ、ベルトランは一定の説得力を感じた。
そして、それはあながち間違いでもなかった。
BTR-4SEには、乗員を除くと兵員11名が輸送できる上限だ。 ……原型のBTR-4系に対して、女性の体格を前提に1人余計に押し込んだのはナイショだ。
基本的に1個機械化歩兵小隊に2両配備されているが、歩兵小隊が通常30名が定員としているので、およそ半分が対地雷軽装甲車UMAP.6-1(KrAZ-MVP)『フィオナ』か、兵員輸送車『ローザ』4WDで移動することになるが、ソフトスキンの車両に乗車したまま戦車が撃ち合っているところに出ていくわけにも行かないので、どうしても戦車とその随伴組との間に進軍の差が出る。
とはいえ、ベルトラン達の認識よりは、ずっと速く移動・展開できる。
それではなぜ追いかけないのかと言う話だが、
「なぜ一気に追い詰めないのですか?」
と、逆にエクスプレッセスティ側の指揮官であるマオが、部下に問いかけられていた。
「敵の艦隊が一部、まだゴトク平野南岸に張り付いているでしょう?」
「ええ……ですが、技術研究部の解析によると、敵の艦載砲は最良の状況でも射程は3,000mが限界だと……」
マスケット同様、魔導砲もライバーシーが体当りしたガリオスの残骸から回収されており、だいたいの性能が解っていた。
「でも、ポクトアール……だったかしら、指揮官の証言だと、監察軍に配備されていた武装は、基本的に正規軍からのお下がりだって言うし、正規軍の砲が高性能ではない保証はないでしょう?」
マオは、少しだけ眉を顰めるようにしながら、言う。
「それに、対地用の魔導砲艦ってモノがあるのも気になるわ。とにかく、相手から艦砲射撃を受けるリスクは避ける」
「了解です」
尖兵となるT-54-120を南側の先頭に、海岸線から8km離れたところで、エクスプレッセスティ軍陸上部隊は南進を停止した。
だが、完全に動きを止めたわけではない。
「砲兵隊、ロケ砲隊、射撃準備!!」
戦車が敵に向かって立ちふさがっているその後方で、自走榴弾砲と『グラート』ロケット砲の射撃準備が始められる。
──これは、撤退を考えるべきかもしれん。
ベルトランは、味方の戦列艦の射程内に入り、ほっと息をついたが、そこでその問題と向き合わなければならなかった。
本来、陸上の侵攻拠点とする予定だったニシノミヤコはハリネズミ状態で近付けない。現在の橋頭堡は脆弱過ぎる。フェンだけを相手にしているのであればいいが、このままゴリ押しをして、さらにアマノキ攻城戦を行える兵力が残っているかどうかは疑わしい。
これ以上の戦力が出てくる可能性は大きくはないかも知れないが、可能性としては考える必要がある。アマノキにニシノミヤコか、それ以上の武器が持ち込まれていると考えると、陸上に強い拠点がないため、物資欠乏でジリ貧だ。
ベルトランにとって、フェンごときを攻めあぐねいて撤退するのは、屈辱以外の何者でもなかったが、そのフェンごときで万単位の兵を無駄死にさせるよりはマシだ。
──ニシノミヤコに上陸できなかった時点で、無理な戦争になっていたのだ……
潔くないとは自身で思いつつも、ニシノミヤコを制圧しきれないままアマノキ包囲を強行した、総指揮官のシウスに責任転嫁もしたくなる。
橋頭堡の陣内まで戻ると、兵のテントは畳まれているが、総司令部である旗艦パールと通信するための、強力魔信機が展開された状態で、通信兵が待機していた。
ベルトランは馬を降り、通信機が展開されている天幕に入った。
「パールを呼び出してくれ。シウスと連絡が取りたい」
「それが…………」
ベルトランは、別に威圧したつもりもなかったのだが、なぜか、通信兵はおどおどとした様子で口籠っている。
「何かあったのか?」
「はい……先程からパールと通信ができないのです」
ベルトランが訊ねると、通信兵がおずおずとそう告げた。
「何?」
「それで、少し前に、パールが撃沈された、こっちもだめだ、と、そんな大騒ぎが聞こえていたんですが、しばらくしてパッタリと……」
何を言っている、と、叱責の言葉を出しかけたところで、ベルトランはそれを飲み込んだ。
「わかった。じゃあ、とりあえず護衛艦隊に繋いでくれ」
「あ、はい!」
ベルトランが、とりあえず橋頭堡掩護のための戦列艦部隊と連絡を取ろうとして、通信兵が呼び出そうとした、まさにその時────
ドゴォオォォォン!!
ベルトランはその爆発音に、慌てて外に飛び出す。
「そ、 ────そんなバカな!!」
眼の前で、皇国海軍のマイルストーンたる100門級戦列艦が、大爆発を起こし、燃え上がっていた。
陸兵のベルトランにも、それが絶望的な光景だということはすぐにわかった。艦体が、木製構造物が燃えながら、それ以上の勢いで崩壊していく。
その隣で、もう1隻の100門級戦列艦に、3つの光が連続的に飛び込んだかと思うと、甲板で噴火が発生したかのように、
残りの50門級戦列艦2隻も、同じように突然の破壊が発生し、燃え上がる。
「よーしよし」
ヴィールニィの艦橋で、1人の女性乗員が、燃え上がり分解していくパーパルディア艦を見ながら、爽快そうに言う。
「これで海の上はきれいになったかね♪」
その言葉を聞いて、ラッサンは、彼女から見てマイラスの反対側に、隠れるかのように回り込んだ。
「閣下、ベルトラン閣下!」
歩兵大隊々長が、慌ててベルトランの元に駆け寄ってきた。
「敵が、敵が前進してきています!」
「何!?」
ベルトランが、自部隊の方へと駆け戻ると、あの“鉄の地竜”が、肉眼で見える位置まで迫ってきている。
「閣下!」
大隊長は、藁にも縋るような様子で、ベルトランを見る。
「慌てるな!」
ベルトランは、自分も含めて兵を引き締めるために、声を張り上げた。
「エクスプレッセスティは“女だけの国”であるが故に、砲手の練度を高めた精鋭部隊を作り、肉弾での戦いを避けるようになっているのだ!」
ベルトランの
“女だけの国”と言うのは、この世界の感覚では間違っている。ただ ──── 意外に肉体労働者の比率は
以前説明した通り、エクスプレッセスティ陸軍は「どっから入り込んでくるかわからん非合法武装組織に対抗する、機動性を重視した多数の “一般部隊”」と、「他国の正規軍に対抗するための “精鋭部隊”」とで構成されている。
第2旅団はこの内の “一般部隊” なので、エクスプレッセスティ国防軍内部の人間だと、これを聞くと読み違えているように感じる。
…………が、基準点が日本陸上自衛隊なので、転移前でも他国に言わせると「軍を
「砲を並べろ! どんな精鋭だとしても物量には勝てん! まして相手は所詮女だ。歩兵同士の本気の戦いならこちらが負けるわけがない! 戦列歩兵は横隊陣形を組め!」
ベルトランは、もはや退路がない以上、数で正面突破を図る以外、部隊の生存は考えられないと判断していた。
降伏という単語も脳裏を掠めたが、この時点では “相手が女だけの軍である” “数の上では優勢である” という認識からのバイアスで、まだそれを決断できずにいた。
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)