フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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おいでませエクスプレッセスティ Part.II

 

 ヤゴウとハンキは、他の使節団メンバー2人とともに、マリア本人に案内される班として行動していた。

 都市部の自家用車増加対策として、エクスプレッセスティは中堅以上の都市に、公営トロリーバスを敷設している。

 交通インフラの支援元をだった日本は、トロリーバスは近年の国内導入例が無く、あまり造詣が深くなかったが、技術そのものは持っている。

 日本政府からも、

「ヨーロッパに頼ってはどうか」

 と、いうところを逆に押し切って、

「それでも日本製がいい」

 と、日本の技術で導入された。

 なもんで、標準的に採用されているトロリーバス車両も、三菱ふそうの、普通のディーゼルエンジンのバスの動力源を載せ替えて、トロリーポールを設置したシロモノである。ダイムラーのOEMのBEVバスでもなく、ローザ、エアロスターの車台を使ったものだ。

「なるほど……これが都市にあれば、市民の移動が楽になりますね……」

 試乗を希望したヤゴウは、通勤時間帯から外れているため、さほど混んでいない車内で、座席に座ってハンキとともに車内を見回しながら、そう言った。

「馬車のように、馬糞の問題もないしのう……」

 ハンキも、同意するようにその言葉を続けた。

 車内でヤゴウ達の衣装は明らかに浮いていたが、「衛生的で安全なフリーセックス社会」が理念のエクスプレッセスティでは、流石にウィークディの日中には公序良俗を乱さない範囲でだが、扇情的なアウターで行動する者も多く、オタ女子(腐とは限らない)も多いので、何らかのコスプレ程度に思われていた。

 郊外のバス停で降りる。パーク&ライドの為の大規模な立体駐車場とほぼ直結していた。

「荷車、客車も馬を必要とせん……」

 行き交う自家用車や小型トラックを見て、ハンキが言う。

 エクスプレッセスティでは、安全性と電力網の維持の観点から、BEV・FCVを禁止している。

 エクスプレッセスティが高度経済成長期に突入した時、エネルギー資源産出国だからといって、ガンガン火力発電を使う時代ではなくなっていた。エクスプレッセスティのベースロード電源は水力発電だ。

 自動車に話を戻すと、乗用車・小型商用車は未だに「エンジン最高!!」状態だ。ただ経済的な小排気量車に税制の優遇を与えている。

 PHEV、HVは認められているし、一定の条件を満たすとさらに優遇を受けることができる。他国ではEVに位置づけられるレンジエクステンダーは、HVのカテゴリになっている。

 現在エクスプレッセスティでもっとも優遇を受けられる乗用車は、ディーゼルハイブリッド、エンジン排気量1,400cc未満、車両重量1.5トン未満、乗車定員4人以上であること、マニュアルトランスミッション、だ。

 この条件なので、日本車ではトヨタ プリウスが売れずスズキ スイフトがバカ売れする国として知られていた。もちろん、すでに国産メーカーも存在する。中・大型のトラック・バスはライセンス生産車が多いが、乗用車は独自の設計のものを商品化できている。

 付け加えると、端っから日本からの技術支援ありき、日本企業の進出ありきなので、当然右ハンドル・車両左側通行を採用している。

 ────閑話休題。

 

 駐車場から少し歩き、鉄道、ここエナジポリスと首都エムブラセクスを結ぶ西中央本線の駅に辿り着く。鉄道は基本、地域間公共交通で国有鉄道制だが、エナジポリスやエムブラセクスの近郊区間は駅間が詰まり、通勤・通学輸送を担っている。

 トロリーバス同様、鉄道も自動車輸送の割合を抑えるために、新幹線のような旅客専用前提の高速鉄道ではなく、旅客と貨物両方に貢献できる在来線タイプである。しかも、日本から車両貰ってくる気満々だったので、軌間は1,067mmだ。電化区間はこの西中央本線の郊外区間が交流20kV/60Hzで電化されている以外は、主要都市圏近郊区間が直流1,500V、それ以外は非電化である。ただ、前述の通り自動車輸送抑制政策の為、輸送量増加と頻発ダイヤに対応可能なよう、国有鉄道の大半の軌道は最初から複線か、複線化の為の軌道用地が準備された状態で敷設された。

 保安装置やCTCシステムなど、日本の、最新鋭のものではないが、枯れたシステムの技術を導入した。この為、転移前の段階では新興国でありながら「世界で2番目に鉄道が正確に動く国」とまで言われていた。

 日本のコピーなので当然のように高床式のホームで待っていると、ステンレス車体の4両編成の電車が滑り込んでくる。皮肉な話だが、内陸のエムブラセクスでは日本の中古車天国になっているのに対し、沿岸のエナジポリスでは防錆の為にステンレス車体が必要な関係で、国内製造の新型車が導入されている。ただ、設計は日本車輌製造だ。

 全半導体のVVVFインバータだと制御器の故障が発生した際の復旧のコストがかかるため、界磁添加励磁制御の新製車を未だに造っている。

 入ってきた電車は、客室扉は片側3ヶ所だが、ホームに停車しても、扉が開くことはない。

「扉が開かないようじゃが、故障なのか? それとも“でんしゃ”とやらの扉は、自動では開かないのかの?」

「ええ、はい。そうなんです」

 ハンキの問いに、マリアは、答えてから、扉の脇に設置された開閉ボタンを押した。

 扉開閉時のチャイムが鳴り、リニアドアエンジンの扉が、スムースに開く。

「この電車は、混雑時間帯以外は、空調────つまり、冷房や暖房ですね。それに必要な電力────ええと、……」

「言い換えは考えなくても大丈夫ですよ」

 ヤゴウが、手振りを加えつつ、苦笑交じりの笑みを浮かべながらそう言った。

「“でんき”というのは、我々が動力源としてしばしば使う魔導装置に必要な、“魔石”が発するエネルギーと似た役目をするもの、と理解すれば良いと思いますが、どうですか?」

「そうですね、その様に思っていただいて大丈夫かと思います」

 そう言いながら、マリアが先導するヤゴウ達の一行は、乗車した。

「マリアさんの言いたいことも大体分かりました。エネルギーの消費を節約するため、乗客が多くない時間帯は、自動で扉を全開にしないようになっているわけですね?」

「あ、はい。そう言うことになります」

 ヤゴウの自身の推論を聞いて、マリアは少し決まり悪そうな苦笑でそう言った。

 その間にも、扉が閉まり、電車はカム軸制御器特有の進段ショックを伴いながら加速する。誰が扱っても無衝動で発車できる日本のVVVFインバータ制御車と比較すると粗く感じるが、ヤゴウやハンキにはそれこそ滑るように走っているように感じた。

 

 

 マリアとヤゴウら一行は、電車でエナジポリス駅に戻ってくる。一大ターミナルとしてズラッとホームが並び、頻繁に通勤電車が出入りする中、エムブラセクス行きの特急列車専用ホームが、その中央辺りにあった。

「乗り込んだ時の駅は小ぢんまりとしていたが、この駅はまた、壮観じゃな……」

「ええ、海外からの主要アクセスを中継する駅ですから」

 ハンキが呟いた換装に、マリアが答えた。

 改札を抜け、

「えっと」

 と、マリアが、ホテルまで戻る方法をどれにするか訊ねようとした。トロリーバス、タクシー、あるいは街を見たいなら徒歩でもそれほどかからない。

 ────その時だった。

 キキィィーッ!! ガシャン!!

 激しいスキール音と、続いて衝撃音が聞こえてきた。

「事故よ!」

「誰か、跳ねられたわ!」

 周囲から声が上がる

「これは不味いですね……」

「けが人がおるようじゃな……」

 マリアとハンキが、そう言った、次の瞬間。

「私が治療しましょう!」

 そう言って、ヤゴウが事故現場に向かう。

「お待ち下さい、今、救急車を手配します!!」

 マリアが、ヤゴウの後ろ姿に向かってそう声を張り上げたときには、彼女はすでにスマートフォンを手に持っていた。

「すみません、失礼します。私が治療いたしますので」

 ヤゴウは、野次馬の人だかりをそう言いながらかき分け、倒れている人物の元に駆け寄る。

 そして、女性の様子を確認した。外傷があるのか、鮮血が路面に滴っている。ヤゴウはその場に屈んで、女性に両手をかざした。

 そして、何か小さな声で唱え始める。

「安心してくだされ、彼の腕は確かじゃよ」

「すみません、様子を見てきます」

 ハンキがそう言うが、マリアは専門外とは言え公僕として、倒れている人物の方へ近寄った。

 頭部と顔面に裂傷があるようだ。頭を打っている様子もある。

 だが、ヤゴウのかざした手から、柔らかい光がその人物に降り注いだかと思うと、

 ──傷が消えていく!?

 と、マリアが声には出さずに、胸中で驚愕の言葉を発した。

 人物は意識を回復し、ゆっくりと身を起こした。

「良かった、気づかれましたか……まだ、無理に立ち上がらない方がいいですよ」

 ヤゴウは、起き上がった相手に、気遣うように優しげな表情でそう言った。

「あの……今の治療術は、一体どんなものでしょうか?」

「え? 魔法ですが」

 背後からのマリアの問いかけに、ヤゴウは振り返り、あっさりとそう答えた。

 その時、救急車が到着する。ベース車は三菱P系デリカバン4WDロングボディ。オリジナルの日本ではかなり過去のタイプだが、エクスプレッセスティでは自国の自動車メーカー、「セダクション モーターヴィーグル エンジニアリング」(“Seduction MotorVehicle Engineering”)がライセンス生産を継続している。理由は、後進国にとって悪路走破能力の高い貨物車や緊急自動車ベース車が必要なためだ。

「えっ、エクスプレッセスティには魔法がないんですか!?」

「は、はい!」

 ヤゴウが驚いて訊くと、マリアも驚いたような声で言った。

「私達の元の世界でも、過去には魔法というものを研究していたことはあるのですが、現在の科学技術がより高度に進んだこともあって、幻想の領域の存在になってしまったのです」

「なるほど……確かに、お見受けしたところ、エクスプレッセスティ人の方々は、多少の差こそあれ純血のヒト種ばかり……失礼かもしれませんが、ヒト種にはあまり魔法素質が無い者がほとんどとされていますから、技術として開発するのは難しかったのかも知れません」

 マリアの説明を受けて、ヤゴウも自身の推論を交えた考察を口にした。

「失礼」

 そこへ、ハンキが割って入ってくる。

「そろそろ夕食に間に合うように、ホテルに戻る時間かと思うのじゃが……」

 自身の腕に着けた時計を指差して、そう言った。

「そうですね、後は救急隊にまかせて……話の続きはホテルで致しましょう」

 マリアはハンキやヤゴウにそう言ってから、救急隊に向かう。

「私は外務省のマリア・ロドリゲスです。たまたま治療可能な者が居られましたので、命に関わる外傷は治療しましたが、全身を打っていますし、交通事故なので、念のために病院へ搬送をお願いします」

「了解しました」

 当然“女性”の救急隊員は、マリアにそう(こた)えてから、事故で倒れた人物を乗せたタンカを救急車に乗せる。リアゲートを閉じると、サイレンを鳴らしながら、救急車は走り去っていった。

 




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