フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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2023/12/08(JST基準)
『新世界外交の光と闇 PHASE:Expressesti』について、一部改稿しました。


鉄誅(てっちゅう) Part.II

「~♪」

 鼻歌交じりに、ティンティン・マリー・ゲン少尉 ──── 彼女のファーストネームは、エクスプレッセスティでは()()()()()()()()()を受けるものだが、とにかく日常生活で紛らわしいので、周囲にはミドルネームで呼ばせている。 ──── その彼女は、新しい玩具を与えられたかのような様子で、操縦桿を握っていた。

「やー、ターナケイン氏には悪いけど、お陰でサラッピンの新型受領しましたよ、と」

 少しも申し訳無さそうに見えない苦笑でそう呟いた。

「もー……マリーったら……」

 副操縦席のリサ・クリスティナ・ムラタ少尉が、嗜める。

 ちなみに彼女もミドルネームを略したティナと名乗っているが、これは単に気に入っているだけである。日本の某有名RPG(日本国内では後追い2番手とされていたが、世界的にはこちらのタイトルが有名ともいわれる)第6作のヒロインが理由だったりするが。

 マリー達は、北ロデニウス戦争の時はパイアセッキCH-21B系の再生産型であるボーイングAH-21Bに搭乗していたが、戦闘機の運用制限から制空権が確実ではなかったところへ、ロウリア竜騎士団のターナケインに奇襲され、エンジン損傷で不時着した。

 AH-21Bはガソリンエンジンがネックになって、ミル・アントノフMi-17An/D-A『ハインド・ディーゼル』攻撃ヘリに置き換えられ始めていたが、製造工場のアントノフが2022ウクライナ-ロシア戦争で操業停止。ただ、AH-21B・SH-21Bのキャンセル分の補償として一部をボーイング・オーストラリアで製造することになっていた事が塞翁が馬で、アントノフ製造担当分をボーイングに振り替えた。

 そして、転移前最後のオーストラリアからの便で到着した、ミル・ボーイングMi-17Bo/D-A『ハインド・ディーゼル』の未割り当て機が、マリー達に与えられたのである。

 今回も戦闘機がいないというのが多少気になるものの、前回とは異なりエンジンポッド支持用のスタブウィングに自衛用のAAM型『ミストラル』2連装ディスペンサーを装備してきている。

「さて、今回はしっかり獲物を片付けないとね」

 マリーはそう言って、意識を操縦桿へと傾けた。

 

 ベルトラン達は、敵の突撃を迎え撃つ布陣を整えていた。

 しかし────

「敵地竜、停止しました!」

「何!?」

 兵からの報告に、ベルトランは、その意外な事態に、驚くような声を出していた。

 ベルトランが敵の方を見ると、既に敵の歩兵が肉眼で確認できるところまで彼我の距離が詰まってきている。

「だが、なぜ攻撃してこない……? 既に向こうの砲の射程に入っているんじゃないのか……?」

 ベルトランが、訝しそうに見ながら、相手の動きを見ていると────

「!」

 “鉄の地竜”、正面にいるものとは別のそれが、ベルトランたちから見て左側に向かっていくのが見えた。

「不味い! ニシノミヤコ方面へのルートを潰すつもりだ!!」

 ニシノミヤコそのものは防備が堅牢だが、それでもここでの戦闘を突破した後は、アマノキへ向かうか、ニシノミヤコ方面への街道に向かうかしかない。

 敵はそちらへ向かったのだ、と、ベルトランは判断し、そしてそれは正しかった。

「砲兵、撃て! 敵の左翼に向かって撃て!」

「ですが、敵がこちらの方の有効射程より遠いです!」

 ベルトランの指示に対し、砲兵中隊々長が、困惑の声を上げる。

「構わん! 牽制でいい! 街道側に回り込まれたら逃げ場がなくなるぞ!!」

「りょ、了解です……」

 砲兵中隊々長は、ベルトランの声に気圧されたように言ってから、

「魔導砲射撃準備! 西側に展開している敵兵に向かって────」

 …………バタバタバタバタ……

「な、何だこの音は!?」

 近づいてくる、空気を(はた)くような音が、それも複数、聞こえてきた。

 

『敵砲兵、砲撃の準備をしている模様!』

『了解、33H(Helicopter)S(Squadron)、最初の一航過で敵砲兵を潰せ』

「だとさ!」

「了解っと」

 無線で地上部隊と隊長機のやり取りが入ってきたのが聞こえてきた。それを聞いて、マリーが操縦桿を握りながら言うと、隣席のティナがそう言いつつ、FCSモニターを注視し、そのジョイパッドを両手で握る。

「ロケ発射!」

 ティナは、その言葉とともにトリガーボタンを押す。

 Mi-17Bo/D-Aの武装用スタブウィングに吊り下げられた、CRV7ロケット弾の5連装ディスペンサー、左右2基ずつから、合計20発のロケット弾が発射される。

 

「な、何だこれは……“機械竜”とも違う、何なのだ!?」

 ベルトランが戸惑っている間にも、その奇妙な飛行物体から、何かが放たれた。ベルトランにはそれが何かは解らなかったが、それが攻撃手段であることは想像できた。

 ドバッ……バァン!!

 無数に放たれたそれは砲兵隊に向かって飛翔し、砲やその周囲の地面とぶつかると、そこで爆発を起こした。砲が破壊され、砲兵は千切れて飛び散った。

「戻ってくる! こっちを向いたぞ!」

 一旦海側に抜けていったそれを、目で追っていた歩兵が声を上げる。

 

「銃撃を加える! 後部も撃っていいぞ!!」

「了解!」

 マリーの言葉に、前部銃手のウィラワン・アリス・ウドムサック少尉と、後部銃手のマリアム・アビゲイル・ハイダリ・テイラー少尉が答える。

 最初に採用したAH-21Bの流れを受けて、Mi-17An(Bo)/D-Aは操縦席パラレル複座、前部にT75 20mmリボルバーカノンの有人動力銃塔、後部テイルブーム付け根下に着脱可能なM621 20mm機銃の銃座が備わる。

「アリを踏み潰すようで気分が悪いけど……素行の悪さを許されるのはガキのうちだけよ! 地質調査班の無念を思い知れ!!」

 ウィラワンはそう言いながら、照準リングに捉えられたパーパルディアの戦列歩兵に向かってトリガーを押し込む。

 ドガガガガガガガ……

 20mm弾が放たれ、スコープの中でそれを受けたパーパルディア兵が血と肉の塊になって爆ぜる。

「フェンに土足で入り込んだ報いも受けてもらうわよ!!」

 T75と同じ20✕102mm弾を使いつつ、オーソドックスなブローバック銃のM621をほぼ下に向け、マリアムはフルメタルジャケットの剣呑な雨を降らせる。

 

「こっちだ! 逃げろ!!」

「ダメだ、回り込んでくる!!」

 声を上げながら、飛行物体の攻撃から逃げ惑っていたパーパルディア兵だが、砲兵がほぼ全滅し、歩兵の過半が()()されたところまで来ると、生き残りも恐慌状態になり、理性も本能も合理的な思考が失われ、ただ立ち止まり、呆然としたり、泣き叫び始めたりし出した。

 ──ダメだ……数の優位も何の意味も為さない……それすら既に失われた……

 ベルトランは、自棄的になりつつも、もはやそれ以外に兵に責任を取れる手段がないと判断した。

「降伏だ」

「はっ!?」

 ベルトランの、短い言葉を聞いて、歩兵大隊々長が思わず聞き返した。

「降伏しよう。早くしろ」

「しっ、しかし……蛮族国家相手に降伏したとして……報復を受けないという保証は……」

 何処か落ち着いた様子にも見えるベルトランに対し、動揺した様子の大隊長が食い下がったが、

「知るか! ここで嬲り殺しにされるぐらいならギロチンの方がマシだ!!」

 と、ベルトランは声を張り上げる。

「屈強な兵が……無敵を誇った皇軍の兵が、子供のように泣き叫び、敵に殺される時を待っている……この世でもあの世でも今このときより酷い場所などあるものか!」

 ベルトランの言うとおり、損壊の著しい戦死者の亡骸が散らばっている中で、正気を保っているように見える兵を見つけることが難しい状況だった。

「解りました……降伏の準備をさせます」

 大隊長は、震えながらそう言い、部下にそれを指示した。

 

「!」

 ウィラワンは、前方観測用のモニター越しにそれを見た。

「なにか……訳の分からない……儀式みたいな事をしてる!」

 モニターの中で、パーパルディア兵が、複数の旗を掲げて、それを一定のかたちで旋回するように振っているのが見える。

「これは……ヤバいかもしれない」

 マリーはそう呟いてから、

「ティナ! 操縦頼む。コントロールリリース」

 と言いつつ、無線のPTTスイッチに手を伸ばす。

「了解。コントロールオン」

 ティナが言うのを確認するより早く、マリーはヘッドセットのマイクに声を上げる。

「33HSリーダー! 敵の行為は魔法詠唱の可能性がある! ヘリの速度だと当てられるかも知れない!」

『リーダー了解。33HS各局、離脱せよ』

 マリーが伝えると、第33独立飛行中隊の隊長機からその命令が返ってきた。

「祈りを捧げている様子も確認できます。在野で魔法の心得がある者がいたのかも知れません」

 双眼鏡の視界の先で、なんらかの旗を旋回するように振っているパーパルディア軍の部隊を見て、第2旅団本部隊の隊員がそう言った。

「殲滅戦をするのは避けたかったけれど、敵がやる気である以上、致し方なしか……」

 マオ旅団長は、ため息を()きながら言って、表情を引き締める。胸元の無線のPTTスイッチに手を伸ばした。

「砲兵隊、ロケ砲隊、射撃開始。戦車隊、歩兵隊はその後に突撃する! 準備せよ!!」

 マオが下令すると、多少(だる)さを感じているところが見えていた隊員が、一転してキビキビ動き出す。

 ガリュリュン!!

 2S016自走155mm榴弾砲が、射撃体勢に移行しつつ、2基の三菱製エンジンのうちの1基を燃料節約のために切っていたのを、再始動する。

 ドゴォッ!!

 

 ドンッ……!

 ベルトランのすぐ斜め後ろに、敵の砲撃が着弾し、()()()()()を送っていた歩兵が、吹き飛ばされた。

「な、なぜだ!? 降伏の合図を送っているのに、理解できないというのか!?」

「あ、あるいはあえて降伏を無視し、民間人殺害の見せしめにする気かと!」

 隊旗、あるいは国旗を逆さにして掲げ、左に旋回させる ──── これが第3文明圏での基本的な降伏の合図だった。

 ベルトラン達は、エクスプレッセスティ側が伝えてきた「降伏の際は白旗を掲げる」という条件を聞かされてもいなければ、エクスプレッセスティ側に対し自軍の降伏の意図を伝える方法について伝えられていないことも聞かされていなかった。

「あ、あれは!」

 敵陣の後ろの方で、無数の光が白い煙を引いて高く飛び上がる。

 ニシノミヤコ上陸作戦の際、九死に一生を得ていた兵が、恐慌の声を上げる。

 無数の光────9M521Eロケット弾が、極端に山なりの曲線を描いて、ベルトラン達に向かって降り注ぐ。

 ドバッ、ドバッドバッ、ドバッドバッドバッ────

 わずかに残った兵士が、敵の攻撃を受けて、成す術なく引き裂かれ、飛び散り、破壊されていく。

 ──戦場で降伏の意志を示している相手に報復とは、文明圏外の国らしいやり方、だが、そんな国がなぜこんな力を持っている!? 女とその出来損ないしかいないような国に────

 ゴワッ!!

 ベルトランは爆風に吹き飛ばされ、大地に転がった。大隊長が盾になり、弾片をさほど浴びずにすみ、その時点ではまだ意識もあった。

 ヴォゥ!!

「!!」

 起き上がり、振り返ったベルトランの目の前に、“鉄の地竜” ──── T-54-120が迫ってきていた。

 

 戦闘終了────

 パーパルディア皇国軍 損害

  戦列艦195隻中192隻被撃沈、1隻小破。

  飛竜母艦8隻被撃沈(全滅)。

  輸送艦49隻被撃沈(全滅)。

  (揚陸艦は離脱していたため直接の被害なし)

  海兵の生存者268名全員俘虜。

  陸上戦力12万中、3名除き全滅。砲兵2名および指揮官ベルトラン陸将俘虜。

 エクスプレッセスティ共和国国防軍 損害

  主力戦車T-54-120 1両、爆発反応装甲の作動により軽微な損傷。

 

 

 パーパルディア皇国、皇都エストシラント。

 第1外務局、局長室。

 本来の部屋の主であるエルトの他に、出向扱いのレミール、それに皇国軍最高司令官アルデが来ていた。

 レミールは、以前のようにソファを持ち込み場違いなドレス姿で公務に当たるのを止めて、最近はスカートながらオフィスフォーマルな装いをしている事が多くなった。

 それから、エルトと場所を入れ替えて上座側に席を移した。これはレミールが権威を示すため、ではなく、窓のある壁に背中を向けるのを嫌がったためだ。

 コンコン、と、ドアがノックされる。

「誰か?」

「ハンスです。報告書を持ってまいりました」

 エルトが問いかけると、ハンス、という若い局員がドア越しに伝えてきた。

「どうぞ、入って」

「失礼します」

 エルトの返事を待って、ハンスは扉を開け、室内に入ってきた。

「…………?」

 レミールの傍らに、本来外務局とは直接関係ないはずのアルデがこの場にいたため、ハンスは少しだけ怪訝そうな顔をする。

「どうしました?」

「あ、えっと、ムーがエクスプレッセスティに観戦武官を派遣した件についてのレポートができました」

 ハンスは、そう言いながらエルトの前まで歩いてくると、書類の束をエルトに差し出した。

「待て」

 エルトがそれを受け取ったところで、レミールが制止するかのように声を出した。

「要約をこの場で展開してくれ」

 レミールがそう指示すると、エルトが自分の席から立ち上がり、ハンスとともにレミールの前に来た。

「結論から言いますと、『ムーはエクスプレッセスティが勝つ』と判断しています」

 ハンスは、レミールにそう伝えた。

「ムーがそう結論づけた理由については解るか?」

「その事ですが……」

 ハンスが言いにくそうにしていると、エルトが代わりに口を開く。

「昨日、皇国軍のフェン侵攻部隊が()()()()()を受けた件について、その戦闘状況を検証したのですが、特に水上艦が攻撃を受けた事に関し、『フェンはそのような技術を持っていない』事から、『フェンに対してエクスプレッセスティが武器供与を行った』と考えられます」

「仮にそうだとして、エクスプレッセスティは何処からその装備を持ってきたというのだ!? 皇国から自国を守らなければならない現状で、いくらなんでもフェンに供与する程の余裕があるとは考えにくいぞ!」

 レミールは、吠えるような声を上げたが、その目は何処か、なにかに縋るかのような色が見えた。

「その事ですが……────」

 エルトも、その先を告げるのに、一瞬ためらいを見せる。

「詳細を調査しましたところ、ムーとエクスプレッセスティの間で、外交官や技術者が頻繁に行き来している事が判明したのです」

「!」

 そう告げられ、レミールが目を見開いた。

「やはりそう言うことか! ムーが技術供与をしていたのだ! そうでなければ蛮族国家が皇国に対して強気に振る舞える訳がない!」

 レミールは、急に強気が戻ってきたかのように、そう声を張り上げた。

「それなら話が早い! ムー大使を呼び出せ! その真意を問う!」

「そ、それはなりません!」

 レミールの声に、エルトが慌ててそれを制止する。

「なぜだ、エルト!」

 レミールは激昂したような声を上げる。

「まだ、現時点では実際にどれほどの技術供与が為されているかわからないのです」

「資料によっては、エクスプレッセスティ()ムー()技術供与をした、という、極めて信憑性に欠けた、理解しがたいものも混ざっているもので……」

 エルトがレミールをなだめるように言い、ハンスがそれに補足する。

「それに、それほどムーがエクスプレッセスティに肩入れしているのだとしたら、下手にムーを刺激すれば、皇国は、フェン、エクスプレッセスティに加えて、列強国のムーとまで同時に戦争になる可能性は高いです」

「これはまだはっきりとした情報がないのですが、エクスプレッセスティがムーを取り込んだとして、同様の工作がミリシアルに対しても行われている可能性が高いと言えます」

 エルトが説明を続けると、やはりハンスがそれに補足した。

「ならば、どうすればよいというのだ!」

「まぁまぁ……」

 レミールが声を荒げかけたところへ、アルデが割って入ってきた。

「仮にムーがエクスプレッセスティに技術供与や兵器の輸出をしていたとしても、不戦中立が建前である以上、水面下での細々としたものになるでしょう。如何に彼の国の技術力が高くとも、実際の戦場で物を言うのは総合力、そしてその総合力を支えるのは数です。なのでまずは、フェンとエクスプレッセスティを取り除き、後顧の憂いを絶った上でムーの責任を追求すればよいでしょう」

 アルデがそこまで言ったときだった。

「緊急の用事にて失礼します!」

 そう言って、軍務局の人間が飛び込んできた。

「アルデ閣下! フェン侵攻部隊と連絡が途絶しました! エクスプレッセスティ国防省は皇国軍のフェン侵攻部隊の撃滅と、271名の生存者を捕虜とし、その中にベルトラン陸将が含まれている事、証拠となる音声を提示する事を通告してきています!」

 





評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2

レミールの処遇は……

  • 原作通り
  • 総統閣下のわからせ棒
  • 行方知れず(故意)
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