フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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亡国の処遇 Part.I

 パーパルディア皇国、皇都エストシラント。

 皇宮パラディス城、略式拝謁の間。

 臨時で行われる皇帝と政府高官とのやり取りの場として使われるそこに、もちろんルディアスと、レミール、エルト、アルデ、それに、カイオス、イノスが集っていた。

「フェンでの大敗……本来であればアルデ、お前を解任し責任の追求をしなければならないところだが……」

 じろり、と、あからさまに睨んでいる訳ではないものの、鋭い眼力で自身を見据えるルディアスの視線に、アルデは恐縮し、軍人らしいガタイの良い身体を竦み上がらせていた。

「────だが、ムーの介在が事実であれば、それを軍の司令官のみの責任に問うべきではないかも知れぬな」

 ルディアスがそう言ったところで、アルデははぁっ、と、安心したように息を吐き出した。

「ムーが介在している可能性は、第3外務局、国家戦略局でも把握していたか?」

 ルディアスがそう訊ねると、イノスがそっと挙手をした。

「発言を認める。イノスよ、説明せよ」

 ルディアスに促され、イノスが説明を始める。

「はい。これは、ロウリアの現地調査員が、ロウリア兵から聴取した内容で、相手に技術的の造詣がないという事が前提の話なのですが、エクスプレッセスティ軍は、北ジン・ハーク港の攻撃に2種類の“鉄竜”が使われている事が推測できます。そのうちの1種類は、とても想像の付かない大仰な存在なのですが、もう1種類は、その特徴がムーの飛行機械に酷似しています」

「ほう。それは無視できぬ情報だな。 ────続けよ」

 ルディアスが、興味深そうな視線をイノスに向ける。

「はッ、国家戦略局では、最初の荒唐無稽な種の“鉄竜”は、ロウリアが敗北を糊塗する目的のものと判断し、実際には2番目の種の“鉄竜”が実態に近いものだと判断しました」

 イノスは、そこまで説明したものの、

「なるほど。それならば確かにムーの介在が疑われるな。それで、国家戦略局はその確証を得ているか?」

「そ、それは……」

 と、ルディアスに問われ、言葉を詰まらせてしまう。

「そこまでのものは無いということでよいな? 咎める意図はない」

「は、はい……現時点では」

 ルディアスが再度促すと、それでもイノスは恐縮した様子でそう答えた。

「そこで……だ。カイオスよ。フェンで監察軍を退けたと言うエクスプレッセスティの軍艦は、ムーのものと共通性がないか?」

「!」

 ルディアスがそう訊ねると、カイオスは、ハッとしたような顔をルディアスに向けた。

「今までその検討はしていませんでしたが、言われてみれば確かに! ムーの鋼鉄艦と共通性があるように思えます」

「なるほどな。カイオスよ、その線で情報を再度精査してみよ」

 カイオスの答えに、ルディアスはそう指示した。

「畏まりました」

 カイオスはそう答える。

「さて……ムーの介在の確度は高いとは言え、現時点で確証がない以上、ムーを刺激しないというエルトの判断は正しいと言えよう」

 ルディアスの言葉に、エルトが深く傅くように頭を下げた。

「ですが陛下!」

 レミールが声を上げる。

「蛮族が過ぎた力を持ち、皇国に仇為すとなれば、これを放置するわけには行きません!」

「レミールの言うことには一理はあるな」

 ──あっ、不味い。

 レミールの言葉に対するルディアスの答えを聞いて、カイオス、イノス、エルトが同時に、声に出していないにも関わらずハモるように胸中で言葉にした。

「ですので、ここは全力でエクスプレッセスティを排除する事が命題になると思われます。陛下、エクスプレッセスティに対し、殲滅戦の宣言を!」

「…………」

 レミールが張り上げた声に、ルディアスは少しの間、逡巡する。

「アルデよ、皇国の守りは鉄壁であるか?」

「はッ! 此度の戦いではフェンという局地戦故に敗北を喫しましたが、数の有利を絶対のものとできる皇国本土において、遅れをとる事はないと断言できます」

 ルディアスがアルデに問いかけると、アルデは、緊張しつつそう答えた。

「ふむ。その上で、エクスプレッセスティ本土に侵攻する戦力は抽出できるか?」

「相応の損害は覚悟しなければなりませんが、ムーが背後にいるということであれば、エクスプレッセスティの交易拠点であるエナジポリスを占領した上で、周辺海域を封鎖すれば……勝機は充分あると言えます」

「なるほどな……」

 ルディアスは、アルデの答えを聞いてから、レミールに視線を移す。

「レミールよ。たった今、ムーが介在している可能性が高いという結論を得たわけだが、もし、ムーの介在が事実だとした場合、第2文明圏が()()()に第3文明圏に影響を伸ばそうとしていることを、ミリシアルが由とするとは考えにくい……もし、外交的に極めて困難な問題が発生した場合、外務観察室要員として、その責任をとることができるか?」

「もちろんです、陛下」

 ルディアスの言葉に、レミールは即答した。

「陛下も常日頃から仰られていたではありませんか。『舐められたら終わり』だと。皇国に害を及ぼす存在を作り上げていたのだとすれば、たとえ相手がムーやミリシアルだとしても、その責任を追求しなければなりません!」

「…………、相分かった」

 レミールの答えを聞いて、ルディアスはわずかに逡巡した後、そう言い、そして高らかに宣言する。

「余は、パーパルディア皇国皇帝として、ここにエクスプレッセスティ共和国への殲滅戦を宣言する!!」

 

 

 旧アルタラス王国、()王都ル・ブリアスの沐浴場。

 1人の見目麗しい、若い────美女との端境期の美少女、そのような見た目をしている女性が、沐浴着を着けて、水浴びをしていた。

 すると、

「我々は統治機構警備隊だ! そこの青黒髪の娘、上がってこい」

 と、無粋な言い回しの、男の声が聞こえてきた。声の主は、パーパルディア皇国臣民統治機構の、武装隊の制服を身に着けている。

「従わない場合は、射殺も辞さないと思え」

 男がそう言うと、少女は、やむを得ないと言った様子で、沐浴場への昇降口に向かっていく。

 周囲の、アルタラス人がざわつく。

 パーパルディア警備隊員は、2人で少女を取り囲む。

「珍しい髪色だな」

 片方の警備隊員がそう言って、少女の長い髪を手に取る。

 2人とも、公務にしては、やたら好色そうなだらしのない表情をしている。

「ルミエス王女のそれに似ている。お前、市民になりすましている王族か?」

「そんな……違います、やめてください」

 少女は、不快そうにしつつ、嫌悪感から反射的に身を捩った。

 すると、突然、警備隊員の表情が険しくなる。

「お前は反政府組織の構成員であるとの嫌疑がかけられているため、これより連行する」

 そう言って、少女の腕を掴んだ。

「そんな……何かの間違いです!」

「詳しい話は取調室で聞かせてもらおう」

 もう1人の警備隊員も、少女の頭を押さえ、反対側の腕を掴んだ。

「いやぁ! 止めてくださいッ!!」

 少女は、その視線を、ル・ブリアスの市民に向ける。

「助けて!」

 だが、市民は苦々しい表情はしているものの、行動を起こそうとはしない。

「なに見てやがる! お前らも連行されたいか?」

「自分達の身の安全が惜しかったら、黙っているんだな、ははははは!!」

 ────その一部始終を見ていた、2人の人間がいた。

 そのうちの1人である女性は一度、沐浴場まで行くと、その水路に身を隠した。

 そこに隠してあった、アルタラスでは珍しい形のカバンを開けると、その中から、ハンディ型の短波トランシーバーを取り出す。電源を入れた後、接続されたままになっていたUSBケーブルを、豊かな胸元に潜ませていた、小型カメラ付の端末に接続した。

 

 一方、もう1人の、初老の男性は、裏路地に入ると、少し入り込んだところで、木製の扉をノックしながら、

「砂漠の砂熱い、夜は寒い」

 と、大きくはないが、扉の内側に伝わるように言った。 ………… それは確かに扉だったが、ドアノブがない。

 ガタッ、と、室内で(かんぬき)を外す音がした。

 内側から扉が開かれ、初老の老人はその屋内に入っていった。

 ここは、元アルタラス軍の生き残りが組織しているレジス(抵抗)タンス(組織)のアジトのひとつだった。

「おかえりなさい、どうでしたか?」

 若い1人の構成員に訊ねられて、初老の老人 ──── 元アルタラス第1騎士団々長のライアルは、憤りの様相を見せた。

「どうもこうもあるものか。王族の生き残りがいれば、その情報を集めたかったが、それどころではない。皇国兵の好き勝手は目に余る。この際1人でも戦うぞ!」

 ────パーパルディア皇国臣民統治機構、それは皇国の腐敗の象徴のような部署となっていた。

 属領の警備隊、武装隊を配置し、物が欲しければ奪い、金が欲しければ恫喝し、女が欲しければ人目を憚らず連れ去った。

 これがアルタラスの────パーパルディアの軍門に(くだ)った属領の、屈辱的な日常だった。

「堪えてください隊長。今蜂起しても勝ち目はありません。誰も彼もその意志を挫かれているのです」

「クッ……せめて、ルミエス様の居場所さえ解れば……」

 構成員の1人に窘められて、ライアルは拳を握り、震わせた。

「隊長ッ! こ、こちらへ来てください! 早く!」

 アジトの奥の方から、ライアルを呼ぶ興奮した声が聞こえてくる。

「どうした!?」

 ライアルがそう言いながら、もう1人と共にその部屋に入っていく。

 その部屋には、魔導通信装置の広帯域受信機が置かれていた。

「正体不明の放送を受信したのです。どうやらロウリアから送信されているようなのですが……」

『アルタラスの民よ、聞こえているか? 余はロウリア連合王国国主、ハーク・ルセリア・ロウリア35世である』

 受信機のホーン型スピーカーからその少女の声が聞こえてくる。

「どうやら、この声はロウリア王のようだな……」

『貴公らが身を案じておるであろう、ターラ14世が娘、ルミエス王女は息災である。現在はエクスプレッセスティ共和国に保護されておる』

「ルっ……ルミエス様がエクスプレッセスティに居られると!?」

 ガバッ、ガタガタッ

 ライアルは、反射的に身を乗り出して、両手で左右から受信機に掴みかかった。

「隊長、受信機を壊す気ですか!?」

 ライアルの腕で頭を押し下げられる格好になった構成員の男性が、ライアルを制止するようにそう言った。

「あ、ああ、すまん…………」

『これから流すのは、エクスプレッセスティ首都・エムブラセクスで録音された、ルミエス王女からのメッセージである』

『アルタラスの民よ……聞こえていますか? 私は王女ルミエス。現在、エクスプレッセスティ共和国に亡命し、同国首都エムブラセクスにおります』

 放送に流れてくる声が、同じ少女の声ながら、明らかに別人に変わった。

「ひ、姫様!!」

 その声を着いて、ライアルは反射的に声を出していた。

「ルミエス様……エクスプレッセスティで生きて居られたのか……」

「隊長……」

 咽び泣くライアルに、男性も感動したようにしつつ、声をかける。

『パーパルディア皇国はその軍事力を背景に、周辺諸国の領土と民を奪いました。皇国の力はあまりに強大で、その暴虐を止めることは敵わないと考えられていました。ところが先日、フェン王国とエクスプレッセスティ共和国の同盟軍が、フェンに侵攻したパーパルディア皇国軍に部隊に壊滅的な損害を与えて撃退し、勝利したのです』

「エクスプレッセスティとパーパルディアが戦ったのか……だが?」

 ライアルは、そこまで聞いて、怪訝そうな表情をする。

 そもそも、国王ターラ14世は、パーパルディアと同様にエクスプレッセスティを脅威視していた。そして、その最大の理由が、()()()()()()の実質的な属国化だったはずだ。

 その事は、ルミエスお付きの騎士として送り出したリルセイドも知っていたはず。だから、ルミエスの亡命先は、パーパルディアでも手が出せないガハラ神国、交易の拠点として特定の陣営に属さないナハナート王国、列強ながら宥和政策をとり周辺に野心を持たないムー国、このあたりが候補だったはずだ。

 だが、ライアルにとってこの声を聞き違える事はない。つまり、エクスプレッセスティにルミエスがいることは間違いない事実だ。

 そして、この放送の中継点がロウリアだと言うことも。

 ──姫様の意図が何処にあるにせよ、臣として言葉を違えるわけにはいかぬ、いかぬが……

 ルミエスが脅され、この放送をしているという可能性は否定できない。

 ──だが、フェンと協同で皇国軍を打ち払った、という。()()()()がエクスプレッセスティの言いなりになったとも考えにくい……か……

『パーパルディア皇国はフェンの属領化に失敗しました。パーパルディアの不敗神話は幕を閉じたのです。 ……アルタラスの民よ、今しばらく、どうか力強く耐えてください。そして準備をしてください。私達の番はまもなく訪れます。フェンに続くのは私達アルタラスです。 ……──』

 

 





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レミールの処遇は……

  • 原作通り
  • 総統閣下のわからせ棒
  • 行方知れず(故意)
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