『戦場の翼』
『魂の発火点』
『
『神話の正体に迫れるか……?』
「さて……と」
パーパルディア皇国、皇都エストシラント。
とある大衆旅館。
エクスプレッセスティのパーパルディア派遣外交官のプリヤとその随員である陸軍技術士官リカが、引き上げる為の身支度を始めていた。
「まー、しょーもない国だったけど、レミールとかおちょくり甲斐のある人間ばかりだったのは面白かったわー」
「外交としては外道なんですけどね」
悪びれもせず言うプリヤに、リカも、嗜める言葉を発しつつも、やはり悪びれてもいないかのように苦笑している。
「でもまぁ……────」
プリヤの表情から、急に笑みが消える。
「実際にエク
「…………そうですね」
リカもまた、表情を曇らせた。
2人が部屋を出ようとする、その少し前の時点で、
コンコン
と、2人の部屋の扉がノックされた。
「…………はい、どちら様で?」
プリヤがそう訊ねる。
リカは、スーツの懐に手を入れ、スーツの下で胸ホルスターのM66のハンマーを起こしかける。
「第3外務局のユリアンと申します。失礼は承知の上ですが、どうかお話をさせていただけませんでしょうか」
ドアの向こうから、おそらくは若いだろう青年の声で、そう聞こえてきた。
プリヤは、はぁ、と、面倒くさそうにため息を
「既に外交的努力の余地は失われました。それに、私達は第3外務局を介しての交渉はしない、と通達したはずですが」
と、扉を開くこともなく、そう答えた。
「そこをどうか、最後にカイオス局長との面会の場を設けていただけませんか? このまま戦争状態が継続することは、あなた方にとっても得策ではないはず」
ユリアン、と名乗った男性が、さらにそう言ってきた。
プリヤは、一旦リカを振り返って、顔を見合わせる。そして、2人は頷きあう。
リカがM66を取り出し、扉の脇の壁に身を隠すようにした。
プリヤが、扉を開ける。そこに、声から予想できたとおりの年格好の男性が、1人で立っていた。
「ありがとうございます!」
「お礼を言われるのにはまだ早いです。私達がどうするのかは、あなた方とのお話の内容次第によります」
ユリアンの、事務的な表情での言葉に対し、プリヤも、極力感情の表現を抑えた表情でそう言った。
「それは承知しております。ただ、我々の現状をお国に認識していただけるだけでも構わないのです」
ユリアンは、そう言うと、急に緊張が緩んだ様子を見せた。
「貴国の現状、と言いますと?」
「はい。我々は貴国が、我が国が恐れるに足る、軍事的な何かを持っていることは把握しています。現在、我々はその情報の収集に全力を上げてきました」
プリヤが問いかけると、ユリアンが真摯な表情でそう言った。
「それでも、その上で貴国は、我が国に対する殲滅戦の宣言をなさったわけですよね?」
プリヤが、重ねて問いかけると、そこで急に、ユリアンの表情が曇る。
「それについての詳細は…………すみません、当職から直接説明できる内容ではないのです。カイオス局長から直接話すことになるかと」
ユリアンがそう話す態度が、誠意を感じさせるものだっと感じ、プリヤ達は、口元が微かに笑みをつくる。リカは、M66のハンマーを戻し、胸ホルスターに仕舞った。
「解りました。続きは第3外務局で、ということですね?」
「いえ、カイオス局長の私邸にご案内させていただきます」
「え?」
ユリアンの答えに、プリヤが、リカと共に、軽く当惑した表情になる。
「これも詳細は局長から話す事になると思いますが、我々第3外務局とあなた方が独自に接触を持ったことは、国内にも隠しておきたいことなので……」
「解りました」
ユリアンの答えに、プリヤも真摯な表情でそう言った。
「ただし、この状況ですので、自衛の為の武器を携行させていただき、その回収を拒否させていただきますが、よろしいですか?」
プリヤは、相手はいい顔をしないだろうな、と思いつつも、やや険のある表情と口調で、そう言った。
「構いません」
しかし、ユリアンは、引き締まった表情のままで、そう言った。
その頃、カイオスは、前日に約束を取り付けていた、シオス貿易商の国内オフィスを訪れていた。
エストシラントの中心の商業街から外れた、地価があまり高くない場所だったが、そのオフィスはそれなりの規模を持っていた。
そして、カイオスが通された、その貿易商のパーソナルルームには、エクスプレッセスティで発行されたと思しき様々な書籍が詰められた本棚と、 ────
──これは……古代魔法技術にあると言われたゴーレムを模倣したものか? いずれにせよ、ミニチュアの装飾品のようだが……
棚という棚に、モビルスーツやレイバー、リュー、シルエットナイトなどの模型が並んでいた。
カイオスが室内を見回していると、貿易商の男性は、自ら紅茶を用意し、トレイから先ずカイオスと、自身の席の前に、ティーカップを配した。
「すみません、何分給仕などは雇いにくいものでして」
そう言う貿易商は、円の中からはみ出すかたちで、デフォルメライズされた ──── つまり、地球で言うところのアニメ絵調で描かれた、群青が基調の衣装を着た金髪の女性が、片手を銃に見立てて「BANG!」と言っている柄が描かれたシャツを着ていた。その円には、外周に沿って「Amphibious assault ship
貿易商の男性は、カイオスと向かい合って反対側に座った。
「エクスプレッセスティの、特に軍事に関しての情報を欲して居られるとのことで、こちらでいろいろと用意させていただきました」
そう言って、貿易商は、何冊かの、書籍、ムック本を取り出し、カイオスから見て上下が正しくなるように置いた。
その中には、エクスプレッセスティの外交官であるナディアが、ムーに使節として訪れた時に、マイラスに渡した『エクスプレッセスティ共和国軍ミリタリーガイドブック』が、空軍基本編・空軍上級編・陸軍基本編・陸軍上級編・海軍編とコンプリートしたかたちで、文書の翻訳と共に入っている。
他には、エクスプレッセスティの各地方の観光ガイドブック。これは既に、クワ・トイネやロウリア、トーパ、シオスと言った友好国からの観光客向けに、世界共通文字で書かれたものがあった。
それと、ついでにエミリア等、国の一部高官の、ややセクシャルなものも含めたグラビア写真集が何冊か。
「できればこれを頂いて帰りたい。無論、対価は支払う」
「はい、もちろんそのつもりで用意いたしましたので」
カイオスの言葉に、貿易商は穏やかな笑顔でそう言った。
「有り難い。ところで、あなたはエクスプレッセスティに滞在した経験をお持ちのことだが、どんな国だったか教えていただけないだろうか?」
「そうですね、一言で言えば“御伽噺のような現実の国”と言ったところでしょうか……」
「それは……どういう?」
少し、言葉で表現することに戸惑った様子を見せる貿易商に、カイオスは更に踏み込んで訊ねた。
「我々が“女性だけの国”と言われれば、大抵は酒池肉林の、幻想的な理想郷を思い浮かべるでしょう。ですが、この国にあるのは“現実”なのです。我々の価値観では男性が為すべき労働を、女性が進んでやっている。そう言う国です。もちろん、軍事においても」
貿易商はそこまで言うと、着ているシャツを披露するようにした。
「これはエクスプレッセスティ軍の揚陸艦の記念シャツですが、エクスプレッセスティの敵前上陸部隊の演習ときたら……装備品そのものも我々にとっては空想の産物のような物ですが……未婚でしたら、機会があっても訓練の見学は避けることをおすすめします。男性が女性に抱く幻想を木っ端微塵にされますので……」
「なるほど……それで、国の賑わいなどはどのようなものでしたかな?」
カイオスがそう言うと、貿易商は、カイオスに提供する書籍にも含まれている観光ガイドブックの、少し装丁がくたびれた状態のものを取り出すと、エクスプレッセスティの主要都市の写真が掲載されているページを示す。
「首都エムブラセクスは夜も休まず熱気に溢れ、工業都市エナジポリスは、失礼ながらデュロの数倍……いえ、数十倍の規模で様々な製品を製造しています」
そこまで言うと、貿易商は、別の薄い冊子を取り出した。
「これは、元々無料の品ですので、サービスとしてお付けします」
「これは……」
一瞬、馬車のように見えたが、馬を括る為の
「ムーへの輸出が決定されたという自動車です。自動車そのものはムーにもありますが、ご覧のとおり、遥かに洗練されています」
それは、『東洋から凄いやつがやってくる! セダクション デリカスターワゴン』というコピーが書かれた、カタログだった。エクスプレッセスティ国内ではライセンス継続生産の三菱P系デリカコーチに、ムーへの輸出に際して設定された商標だった。
「このような工業製品が、日夜生産され続けているのです」
「ムーに輸出……“ムーから輸入”ではなく、エクスプレッセスティ
──エクスプレッセスティからムーへの技術供与など、なんの冗談だと思っていたが、それは現実なのか……
カイオスは、世界共通語で書かれたデリカのカタログを食い入るように見ながら、それを実感し、身体が緊張してしまっていた。
「これからも、エクスプレッセスティの状況を知ることができる書籍があったら、私に買い取らせて欲しいのだが……」
「畏まりました。どうやらあなたはよい顧客になってくれそうだ。弊社秘蔵の品もお見せしましょう」
「これは!?」
それを見せられて、カイオスは一瞬、それを凝視した。
エクスプレッセスティのものとは異なるが、それと似たような軍服 ──── 陸上自衛隊の戦闘服を身に着けた、小柄だがグラマラスなボディラインの女性が描かれている。
「これは『ウ=ス異本』と呼ばれる、入手経路が限定的な絵草紙です。いかがですか?」
「……………………済まないが、今回は遠慮しておく」
カイオスが少しだけ迷ってからそう言うと、貿易商は少し残念な様子を見せつつも、笑顔を絶やさなかった。
「次の機会をお待ちしております」
数時間後、第3外務局。
「うひょー……エクスプレッセスティって国家元首がこんないい
エミリアのグラビアを見ながら、局員が鼻の下を伸ばしている。
グラビア誌の中には、肌もあらわな衣装で扇情的なダンスショーをしている写真もあれば、落ち着いた佇まいの年相応の
「アホ! 情報を抜き出せ情報を!」
別の局員がそうツッコむ。
「それにな」
2人とはまた別の局員が言う。
「それほど麗しい女性に見えても、国のトップに居るってことは……な?」
「夢も希望もなくなるような事を言うなよ……」
エルトやらレミールやら想像してしまったその局員は、一気にげんなりした表情になって、ため息を吐きながらそう言った。
この時、カイオスは自身の邸宅にいた。
「お待たせして申し訳ない」
カイオスは、客間で待たされていた2人の前に現れると、まずそう言った。
既に、陽はだいぶ傾いている。
「謝辞は結構です。それより、私達を招いた理由、それに第3外務局ではなく私邸に招かれた理由を知りたいのですが…………」
プリヤは、待ちくたびれたという様子は隠し、事務的にカイオスに問いかけた。
「ダッソー Br-1050A 『アリゼ』……」
「!」
カイオスが、つぶやくような口調で切り出したその言葉に、プリヤ、それにリカも軽く驚いたように、軽く目を広げた。
「貴国の軍隊は、竜母部隊をこれで攻撃したのだろう?」
「なぜその事を……いえ、機種名まで?」
プリヤが、少し緊張した様子を見せながら、聞き返す。
「我々も、貴国について全力で情報を収集している。ここまで行き着くのに時間はかかってしまったが……ようやく確度の高い資料を入手し、現在精査している最中だ」
「ひょっとして、第三国経由で我が国の事を?」
プリヤが訊ね返す。
「秘密にしておきたいところだが、その通りだ。ただ、詳細な経路の説明はご容赦願いただきたい」
カイオスはそう言ってから、
「この攻撃機を使った事、竜母部隊のうち護衛の戦列艦だけが攻撃から逃れた事、その乗組員にこの機体を見せた事…………つまり、これらの行為は、我が国の側を、貴国の能力がムー程度か、ムーが支援していると誤認させる為の行為……間違っているかな?」
カイオスの問いかけるような言葉に、プリヤは、最初わずかに逡巡するが、
「そうですね、その通りです」
と、カイオスに問いかけられた内容を肯定した。
「それで、我が国が貴国に対して致命的な事態を引き起こしてしまってから、実際の力を見せつける……昨日、このエストシラントの軍港施設を爆撃したのは、シルエットから察するに、MiG-29GE戦闘機を使ったのではないか?」
カイオスは、険しい表情でそう言ったが、その視線はプリヤ達を責めているものではないと、プリヤは思った。
「厳密には、艦上型のMiG-29Hi/USですが……そうなります」
プリヤは、何処か観念したような様子で、そう言う。
「ですが、なぜ、その事態になってから、私達と会談を?」
「その事だが、身内の恥を晒す様で申し訳ないのだが、 ────」
プリヤに聞き返され、カイオスは、少し顔色を悪くした。
「────残念ながら、現在、第1外務局は機能不全に陥っている。正直な事を言ってしまうと、ルディアス陛下には私自身も完全に同意しきれない部分があることは事実だが、少なくとも
「あー…………なるほど、それで……ですか……」
カイオスに説明されて、プリヤは、途中出かかった「バカ女」という単語を飲み込みつつ、いろいろと何かを察したようにそう言った。
「本人は優秀なのに、何故か明らかに能力不足の人間を、感情で重用してしまう……異性間のみならず、同性間でもままあることです」
「返す言葉もないが、その典型だろう。しかも、皇帝陛下は現在、内政の大事のために動きをとることができず、第1外務局をレミール様がいいように牛耳っている……というのが、偽らざる現実だ」
少し鎮痛そうな様子を見せて、カイオスはそう言った。
「ですが、その状況で、第3外務局が私達と接点を求める理由をお聞かせ願えませんか? 場合によっては、レミール殿下、それに皇帝陛下の怒りを買うことになるのでは?」
プリヤもまた、深刻そうな表情でカイオスに問いかける。
「それでも、完全に外交交渉の余地を無くしてしまう訳にはいかない……先日の爆撃は限定的で、フェンでの敗北も局地戦という見方がある。貴国を恐れる意見もあるが、それと同じくらい、貴国を憎む意見も湧いてしまっているのが現状だ」
「まぁ……そんなところでしょうね……」
カイオスの言葉を、プリヤは頷きながら肯定する。
「なるほど、意図は解りました。もし、この先事態が悪化し、決定的な事態になった時の為に、我が国とのコネクションを確保しておきたいということですね?」
「そう言う事になる。貴国も皇国の解体までは望んでいないのだろう?」
カイオスにそう言われ、プリヤは一瞬、ドキリとしてしまった。
「だからこそ、貴国の国民に対して、特定の人間、勢力に限定して憎悪が集まるようにし、皇国全体を憎まないように仕向け、自国の矛を収めやすくする。そして、それにレミール様がうまくハマった。そうではないかね?」
「…………こうなったら、私達も
プリヤは、先ずそう言ってから、穏やかな明るさを持つ笑顔をカイオスに向けた。
「解りました。失礼かも知れませんが、カイオス局長の申し出は私達にとっても損にはならないことです。我が国と連絡が取れる手段を用意しましょう」
数日後、本来はシオス経由で帰国するはずだった、プリヤ達を回収する為にエストシラント郊外の海岸線まで訪れた潜水艦により、カイオスの私邸に無線設備と発電設備が運び込まれた。
無線機本体は書斎の隠し部屋に、ディーゼルエンジン発電機は母屋の外にある倉庫に、それぞれ隠して置かれ、アンテナは物干し台に目立たないように設置された。
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)