「お、おい……これは……」
「こんな事が起きるなんて……」
その光景を見た、市民の困惑の声でざわついている。
────元アルタラス王国、ル・ブリアス。
広場に絞首台が置かれ、3人の男が吊るされている。
今までであれば、些細な事で連行されたアルタラス市民が、見せしめとして処刑され、晒される光景だった。
だが、この日吊るされていたのは、アルタラス統治機構のパーパルディア人職員だった。
立て札には、こう書かれている。
『この3名は、自己の極めて短慮的な私利私欲の為に、無辜の若い女を複数名
────この2人は過日、ル・ブリアスの沐浴場から青髪の少女を連れ去った2人組だった。
もう1人は、2人の直上の管理職である。
『皇国の権威を著しく毀損した罪』と、あくまでパーパルディアに害を成したという
だが、先日来、何かが変わり始めている。 ──── アルタラス市民はそれを感じ取っていた。
パーパルディア皇国の官憲が横柄・横暴なのは相変わらずだったが、その理不尽さが鳴りを潜めつつある。
「…………」
晒されたパーパルディア官憲の姿を見た、その女性 ──── エクスプレッセスティの諜報員は、臨時レポートを送信するため、広場を離れ、自身のアジトへと戻っていった。
パーパルディア皇国、東部の工業都市デュロ。その上空。
「敵は“飛行機械”を使っている。基地の警戒設備に捉えられない可能性が高い。各員、割り当てられた方位に対し、常に視界に注意を払い、警戒を怠るな!」
飛行隊1個中隊を預かるマグネは、警戒飛行に飛び立った配下の竜騎士にそう激を飛ばしていた。
デュロには防衛のため、パーパルディア皇国軍の大規模な基地が存在している。先日来、その基地に所属する飛竜隊に、厳戒態勢が命じられていた。
皇都エストシラントが、エクスプレッセスティによって奇襲攻撃を受けた。
それは彼らにとって驚愕の出来事だった。皇都として、平時から警戒を怠っていないはずのエストシラントが、あっさりと敵の侵入を許したのである。
しかし、その奇襲攻撃には “飛行機械” が使われたと聞いたところで、合点がいった。
パーパルディアを始めとして、列強や一部の文明圏国には対空警戒装備が配置されているが、これらの多くは、導力火炎弾の為に魔素を含んだ飛竜や、魔導反応による推進器の魔力反応を拾うことで飛翔体の接近を探知している。
だが、化学反応によるエンジンを推進装置としている “飛行機械” は、この警戒装置は感知できない。
ただ、ムーは多種族間の融和が進んでいる為、搭乗員に純血の人間以外が混ざっている事が多く、特に魔力貯留量の多いエルフの血を引いている者が入り込んでいると、感度は落ちるが反応しないわけでもない。
だが、エクスプレッセスティは基本的に人間のみの国と判明している。こうなると、この些細な反応もなく、探知する事はまず不可能だ。
エストシラントはその虚を突かれて奇襲された ──── これがパーパルディア皇国側の認識であり、それは必ずしも間違ってはいない。
ただ────今のところ、同時に確認されたエクスプレッセスティの“飛行機械”は最大で2騎。おそらくムーが供与、もしくは輸出した物だろう、と、パーパルディア側ではそう思われていた。
ムーの側がエクスプレッセスティから技術供与を受けている、という事を認識しているのは、第3外務局、それもカイオス周辺の一部の人間のみ。しかも、それでも推測の域を出ていなかった。
ともかく、魔導反応の警戒装置に引っかからないのは事実なので、エクスプレッセスティ騎に対する警戒は、人の視力に頼る以外なかった。
『それにしても、エストシラントの防空隊はいくらなんでも弛みすぎていますよね』
若手竜騎士のサルクルが、魔信越しにそう言ってきた。
『いくらなんでも、白昼堂々、皇都を奇襲されるとは。いくら蛮族の国が相手とはいえ、油断が過ぎますよ』
「そうだなぁ……」
サルクルの声に、マグネもそれについては同意せざるを得なかった。
その事自体は、仮に彼らがそれを知る事ができたとして、エクスプレッセスティ側もそう認識している。
マグネは、よりエクスプレッセスティ本土に近いデュロへの、ワイバーン・オーバーロードの配備が後回しになっている事に
『それにしても、なぜムーは東洋の蛮族国家に武器供与などしたんですかね』
「あまり会話に夢中になるなよ。警戒が疎かになるぞ」
サルクルの雑談じみた言葉に、まず、マグネはそう言って窘めた。
『大丈夫ですよ。これだけの竜騎士が飛んでいるんです。ムーの “飛行機械” だって早々突破できやしません。それに操っているのは蛮族の、しかも女だけの国なんでしょう? 返り討ちにあうのがオチですよ』
「まぁ、確かにそうだが」
サルクルの減らず口に、しかしマグネもより強くは否定しなかった。
「そうだな…… “女だけの国” だと言うし、ひょっとしたら奸計を使って、ムーの高官に取り入ったのかもしれん」
『なるほど! 確かに、それは有り得そうですね』
マグネの推測を聞いて、サルクルは、どこか興奮した様子で納得の言葉を発した。
デュロから見て、エクスプレッセスティ本土との間の中間点。
上空5,500m。
『目標上空、多数の感あり』
小型のロートドームを背負い、その干渉を避ける為小型の双尾翼とされた、エクスプレッセスティ空軍の早期警戒機 ダッソー Br-1050AEW『アリゼ』が飛行している。主翼内翼には250l
艦上空中早期警戒機として導入されたBr-1050AEWだが、コスト抑制から空軍でも導入された。US-2飛行艇ベースのAWACSがコスト増でバーストしたため、現在も空の守りの要だ。
それでも周辺国のスホーイSu-30導入で、とりあえずの間に合わせとして、アントノフAn-3にレーダーと、ガスタービン発電機と胴体内追加燃料タンクを設置し、バランスバー型アンテナを背負った前代未聞の複葉空中早期警戒機An-3/AEWなんつうものを運用していたので、それから比べれば遥かに“現代的”ではある。 ……もっとも、Br-1050AEWの導入後、An-3/AEWは空中早期警戒機としての装備を撤去して他のAn-3と共に運用されていたが、2022ウクライナ-ロシア戦争で多用された、低空をちょこまか飛ぶUAVを警戒するために、低空を低速で飛行可能な警戒機として、空中早期警戒機として復帰していたりするが。
────閑話休題。本来のコクピットの後方背面に追加された、バブルキャノピーのオペレーター席で、オペレーターがデータリンク装置の作動を確認しつつ、音声の無線でも報告する。すると、洋上で警戒・支援任務を行っているヴェネレイト級駆逐艦『アートミス』(“Artemis”)経由で、返信が入ってくる。
『了解。現在表示されているUnknownをすべてEnemyに設定』
『了解』
デュロ沖合。
サルクルは、口を噤んでいたが、
──どうムーの高官を誑かしたのか知らないが、ちょっとばかり “過ぎた力” を手に入れたからって、蛮族、それも “女だけの国” が列強国に楯突くとは、思い上がりやがって……
と、そこまで思考を巡らせたときだった。
視界の先に、光が飛翔している事に気がついた。
「隊長!」
サルクルは、自分達めがけて飛んでくるその光に、本能的に危険を感じ、インカムに向かって声を出していた。
サルクルの視界の中で、マグネに向かっていたその光に対し、マグネが自身のワイバーンロードを操って、その進行方向から逃れようとする。
だが、それに合わせるかのように、光も向きを変えた。
「あ……ああ……!?」
光────ミーティア中射程
ほぼ同時に、他にも警戒飛行中の飛竜隊のあちこちで爆発が起こり、その度に編隊にポッカリと穴が開く。
「ちくしょう!」
サルクルは毒つきながらも、この場に滞空している事が危険だと感じ、一度捻りこむような急機動でその場を離れる。
ヒィイィィィィィン……
「!」
その視界の片隅に、サルクルはそれを見た。
「あ……ああ……そんな! 2騎だけじゃなかったのか……」
“飛行機械” ──── MiG-29GEとMiG-23GENが、高度を下げながら、デュロ防空に当たっていた飛竜隊に、超音速で迫ってくる。
サルクルはそのすべてを見ることができなかったが、MiG-29GE・8機と、MiG-23GEN・16機が、制空役として投入されていた。
──これが……こんなモノがムーに造れるのか!?
すれ違いざまの1航過で、発射されたASRAAMが生き残りのワイバーンロードに襲いかかる。赤外線画像誘導装置が、魔素を飲み込み赤熱しているワイバーンロードを捉え、そこへ飛び込んでいく。
「クソッ、せめて1騎だけでも道連れにしてやる!!」
反転してくるMiG-29に、サルクルは正対しようとした。 ──── T75 リボルバーカノンの20×102mm弾が、サルクルをその愛竜ごと、物言わぬ血濡れの肉塊に変えた。
MiG-29とMiG-23が飛竜隊の編隊を食い破ったところを、Su-22UGEが突破する。
「目標ロック、シュート!」
先頭の4機が、内翼と胴体下から、1機あたり12発の250kg滑空爆弾を発射する。
BFA BGE-1『
BFAやエクスプレッセスティ国防軍は“滑空爆弾”と位置づけているが、Br-1050Aやヘリコプターなど低速の母機からの発射を考慮して、加速用の小型ロケットモーターを搭載している為、ミサイルとみなされることもある。
外部依存しないアクティブレーダーホーミングであるため、GPS誘導のJDAM-ERに精度で劣るものの、INS誘導時のJDAM-ERよりは精度が高い。
転移前、日本ベッタリだったためにNATO寄りのスタンスではあるものの、アメリカとは必ずしも良好な関係とは言えなかったが故に、GPSに依存しないスマート爆弾キットとして開発された。
イギリス・MBDA社原設計のBANGシリーズ航空爆弾、125kg用のBGE-1/125と250kg用のBGE-1/250が用意されている。仕様上はアメリカのMk.81 250lb爆弾、Mk.82 500lb爆弾、また旧ソ連のFAB-250 M-64にも対応している。
そして輸出していた。当たり前のように日本と台湾にもセールスし、中華民国軍には採用されたが、日本では不採用に終わった。2022ウクライナ-ロシア戦争時はBFAで約半年のデスマーチを高らかに響かせた後、クラシック・MiG-29と、スホーイSu-25用のソフトを作ってウクライナに供与し、それなりの戦果を上げた。
──あれは!
マグネ麾下の竜騎士、アスタルは、MiG-29・MiG-23との戦闘空域から辛くも離脱していた。
アスタルは戦闘空域に戻る事を躊躇ってしまった。彼は先月、長男が生まれたばかりだった。戦闘空域に戻ろうとした時、家族の姿が脳裏を過ぎった。 ──── アスタル自身はそれを、竜騎士にあるまじき怯懦だと自身を恥じたが、実際にはより本能的なものが働いていた。
彼の目の前で、味方の飛竜隊を突破してきた、飛竜隊に挑んでくるものとは明らかに異種の“飛行機械”から投下されたペン状のモノが、一瞬尾部から火を吹いて、デュロの上空へ向かっていくのが見えた。
──あれを追わなくては!
彼はそれを悟った。それが攻撃手段だと、理解していた。
緩降下で増速しながら、それを追う。
BGE-1の最終飛行速度は、降下による増速を伴ったワイバーンロードに追いつけない速度ではない。
「撃て! 相棒!!」
アスタルは、1発の滑空爆弾が視界の中でほぼ停止して見えた瞬間、愛竜に導力火炎弾を吹かせた。炎の塊が滑空爆弾を包み込み、空中で爆発した。爆風はアスタルを舐めたが、致命的な怪我を負うほどのものではなかった。
「ああ……」
アスタルは、減速しつつ周囲を見渡した。地上には絶望的な光景が広がっていた。
アスタルは自身の責務を果たしたが、それ以外の滑空爆弾はデュロの工場群に飛び込んでいく。あちこちから煙が上がっていた。
「やーっと出番が来た。あーこれでイリーナにドヤ顔されなくて済む」
エクスプレッセスティ空軍少佐、第2戦闘攻撃隊々長のロクサーナ・テッツィー・モラディ・キングは、Su-22UGEの主操縦席で、亜音速で迫るデュロの工場街を見ながら、そんな事を呟いた。
北ロデニウス戦争では、Su-22UGEの空軍戦闘攻撃隊にはほとんど出番がなく、知己の仲である海軍の爆撃魔・イリーナに散々自慢話を聞かされるハメになった。
「まーだ気にしてたんですね……」
副操縦・支援席のリリー・ヒロミ・ウィルソン中尉が、ヘッドマウントディスプレイの下で少しひきつり組の苦笑をしながら、言う。
「当たり前じゃない。ここ半年ちょいずーっと酒がまずかったのなんの」
ロクサーナはそう言って、わざとらしくため息を
「爆撃体勢に入る! コントロールリリース!」
「了解、コントロールオン」
ロクサーナは、操縦をリリーに渡すと、FCSパッドを握り、ヘッドマウントディスプレイに映し出される別視点の視界の中で目算をつける。
キャノピー外の操縦席左側下部に、尾翼の所属番号とは別に「680」と書かれているSu-22UGEが、緩降下の爆撃体制に入る。
「
ロクサーナはひとつの工場に目算をつけると、トリガーボタンを押し込んだ。
主翼下、1機あたり合計12発の250kg爆弾が切り離され、工場施設へと吸い込まれていき、一瞬後に爆煙が吹き上がる。
「離脱、コントロールを……」
ビーッ
ロクサーナがリリーから操縦を受け取ろうとした瞬間、ミサイル接近警報が作動する。
リリーは反射的に操縦桿を倒し、スロットルをアフターバーナー非使用時の最大に上げて、回避機動をとる。その必要はないのだが、身体が反射的にフレア・ディスペンサーを作動させていた。
意識してではないが、インメルマン・ターンに近い機動で反転した時、FCSレーダーが1つのEnemyマークを捉えた。
「ダメだリリー!」
「はいっ!」
ロクサーナが声を張り上げる。リリーはそれを聞くと、Enemyを追わずに、アフターバーナーに点火して力技の上昇に入った。
Su-22UGEも旧世代とはいえ元々戦闘機である。自衛戦闘が行えるよう、MiG-29GE・MiG-23GENと同様にT75・20mmリボルバーカノンを搭載している。リリーは反射的にEnemyを捉えようとしたが、ロクサーナが声を上げた時、そのさらに先に、攻撃対象にならない民間施設が見えていた。
「だめだ……とても追いつけない」
アスタルは、目の前で工場に対して攻撃を行った“飛行機械” ──── ロクサーナ機を追おうとしたが、速度差もさることながら上昇力が全然及ばない。
──ワイバーン・オーバーロードがいたからって、どうにかなるレベルじゃないぞ……これは……
アスタルはそう思いつつ、追撃を断念して地上の様子を確認する。
「ああ……デュロの工場が……」
パーパルディア最大の工場都市は、その機能の大部分が破壊されていた。あちこちから火の手も上がっている。
Su-22UGEは既に離脱にかかっていたが、戦闘空域より外側から、Br-1050Aが投射したBGE-1/125が、散発的に突入しては炸裂していた。
──これは……本当にムーの供与によるものなのか? ムーがここまでの力を持っているのか!?
アスタルは、工場の惨状に心を痛めつつも、彼の頭の中でその疑問が何度も浮かんでは消えた。
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)