デュロ初空襲から数日後────
パーパルディア皇国、皇都エストシラント。
港湾地区、一般船舶の埠頭。
入出国管理所が、人でごった返している。
パーパルディア国内や、他の列強、ムーやミリシアルでなにかの大きなイベントがあった時など、これほどの人が集まることはありえないことではない。
だが、今、出国窓口に列を成している人々には、明らかに偏りがあった。
全体的に、地球の17~19世紀の様式の衣装がデファクトスタンダードであるパーパルディアにあって、今、出国手続きを待っている人々は、そのほとんどが、地球の1930年代から1970年頃を思わせる出で立ちをしている。
そして、埠頭にはやはり、蒸気動力全盛時代、その後半の地球の様式に似た大型の動力船が泊まっていた。
「ムー国人が出国しようとしているのか……」
パーパルディア人の、2人連れの通行人が、荷物を抱えて埠頭の乗降場へ向かう人々を見て、呟くようにそう言った。
「ああ……ムーの政府が皇国からの退避勧告を出したらしい」
「無理もないな」
そう言って、軍港の方を見る。
遠目に桟橋を ──── 桟橋だったモノが視界に入る。
「奇襲とはいえ、皇都が攻撃を受けて、デュロの工場地帯も半壊だ……情報通のムーが真っ先に反応したんだろうが、近いうちにミリシアルやエモールも退避勧告を出すだろう」
そう言って、軽くため息を
「文明圏外の国、蛮族の国、“女だけの国” ──── そう言いながら、現実には皇国本土が易々と攻撃を受けている……いったい、皇国はどんな相手と戦争しているんだ?」
第3外務局、局長室。
コンコン、と扉をノックすると、室内のカイオス達の返事を待たずに、
「緊急の要件につき、失礼致します!」
と、そう言いながら、ユリアンが入ってきた。
エクスプレッセスティやムーの資料が机やソファ、床に散らばった室内で、カイオスと数名の若い局員が作業をしていた。彼らは一斉にユリアンの方を見る。
「どうした?」
カイオスが、報告を促す。
「ムー大使館が、本日11時で大使館を閉鎖、ムーゲ大使も本国に引き上げると、第1外務局に通告してきました!」
「なんだと!?」
ユリアンの言葉を聞いて、カイオスは驚きの声を上げてしまった。
「自国民の退避勧告ならばともかく……大使の引き上げは……」
戦時下でも在外公館は在留邦人の保護に務める必要がある。2022ウクライナ-ロシア戦争では、一部の国はキーウの大使館を閉鎖したが、その多くは陸戦に巻き込まれる心配がなく、インフラ攻撃もポーランドからの電力供給を完全に止めることが不可能なリヴィヴの領事館で大使館業務を続けた。
現状では、エクスプレッセスティの攻撃を受ける可能性が高いのはエストシラントより東部だ。ならば西部の都市に移動しつつ大使は留まるのが普通の判断だ。
そうではなく、ムーが在パーパルディア公館をすべて閉鎖して、大使自身も引き上げるという事は…… ────
「不味い……な……」
カイオスは苦い顔で言う。
エクスプレッセスティがムーより遥かに進んだ技術力を持っている国だと、パーパルディア国内でそれを認識しているのは自分達しかいない。それですらその全容を掴んでいるとは到底言えない。
エクスプレッセスティとムーはかなり親交がある。なので、ムーは自分達よりずっとエクスプレッセスティを知っているのだろう。在留邦人に避難勧告を出し、大使館も閉鎖するという事は、皇国が致命的な状態に陥りつつあると判断した、 ──── 自分達ならばそう判断する。
だが、“大使の引き上げ”、これを額面通りに受け取るならば ──── それは、自身が相手国と交戦当時国となる、という事を意味する。
──エルトにはざっとした事を話してあるが、まだレミールなどはエクスプレッセスティの “飛行機械” がムー製だと信じて疑わない……余計なことを言って、
そして、カイオスのこの危惧は、現実のものとなりつつあった。
在パーパルディア-ムー大使館。
「よし、もう残っている者はいないな」
船舶における“船長の最終退船の原則”宜しく、ムーゲは自ら、大使館設備閉鎖の最後の確認を終えたところだった。
「我々も出発するとしよう」
ムーゲは、妻、それに2人の言葉に、そう声をかけた。
「クルマを飛ばせば、今日の最後の便に間に合いそうだ」
そう言って、アタッシュケースを持ち、大量の荷物をルーフキャリアに積んだ自動車 ──── ムーの防衛産業最大手・イレール兵器工業の子会社であるイレール自動車製造製のセダン、『シャインライン』に向かう。
大胆な流線型デザインのガラッソ クロコダイルに対して、シャインラインはフロントグリルが目立つフロントマスクに、テールランプにかけて流線的な装飾を持ちつつも、全体的にはオーソドックスな3BOXセダンになっている。
──……子供もいるし、荷物も運ぶとなると少し手狭だな……
エクスプレッセスティのBCセグメント車、セダクション ネクストラのライトバンをヒントに、イレールはこのシャインラインのエステートワゴンを追加ラインアップしたと言う。
ムーゲが、そんな事を考えつつ、運転席のドアに手をかけた時だった。
ザザザザザザ……
「ん?」
唐突に聞こえてきた喧騒に、ムーゲが振り返ると、大使館の正門前に、パーパルディア憲兵隊がそれを防ぐように横列を展開していた。
「何事だね」
ムーゲは、仰々しい有様に、表情を険しくする。
「ここは大使館だぞ」
パーパルディアは割りと他国の大使館にも狼藉を働く者が少なくないのだが、現状、格上とみなされているムー、エモール、ミリシアル、これらの国に対しては、在外公館の治外法権を認めている。
「逃亡の恐れがある為です。どうかご容赦ください」
第1外務局の若い局員が、険しい表情でそう言った。
「ムーゲ大使……出頭要請が出ています。御足労おかけしますが、第1外務局までご同道お願いします」
「あなた!」
いきなり攻撃をしてくる様子ではなかったものの、あまりの物々しさに、夫人がムーゲに不安そうな声をかける。
「おそらく大使の引き上げに対して誤解があったのだろう────」
──まぁそれも仕方がない。本来であれば、大使館の閉鎖、全外交職員の引き上げは、宣戦布告の前段階だからな……
「帰国前のひと仕事だ、いってくる」
ムーゲは、胸中でそう思いつつも、夫人にそう言って、ムーゲの送迎の為に用意された馬車に乗り込んだ。
第1外務局、大会議室。
カッ!
「レミール様、只今ムー国大使がこちらへ向かっているとの事です」
上座に座ったレミールに対し、レミール付きの衛士が、敬礼しながらハキハキとした言葉で報告する。
「解った。下がっていろ」
レミールがそう言う。その様子は、かなり不機嫌そうだった。
「レミール様……現在第3外務局が精査中ですが、エクスプレッセスティの “飛行機械” は、ムーのそれを遥かに凌駕するという情報が出てきています……ムーの今回の大使引き上げを、ムーがエクスプレッセスティに代理戦争を仕掛けさせていると判断するのは些か早計かと」
エルトは、レミールが下手な決めつけをムーゲに突きつけて、ムーとの関係まで悪化させないよう、そう言い含めようとした。
「そんな馬鹿な話があるか。相手は文明圏外の蛮族だぞ。そんな国が局所的にとは言え、皇国を手にかけられる戦力を揃えられるわけがない。エルトはそんなヨタ話を信じているのか?」
「それは…………」
そう言われると、エルトもその先の説明ができず、言葉を濁すしかできなかった。
「考えられる可能性は、ムーの試作兵器ではないかということだ。自国軍でいきなり扱うには危険すぎる新機軸の兵器を供与して、試用させようとしている ──── それ以外に説明のしようがあるか?」
「…………」
エルトは反論できなかった。
その頃、ムーゲが第1外務局に到着していた。
局内に入り、レミール達のいる大会議室へと案内される。
──妻を安心させるために“ひと仕事”とは言ったが、これは厄介だぞ……
ムーゲは、ため息を吐きたいところを、場所柄それを堪える。
──エクスプレッセスティから本土攻撃を受け、危機感を抱いているのだとしたら、皇国とエクスプレッセスティの仲裁を依頼されるかも知れない。
ムーゲは、そう考えつつも、それはそれで、
──あの最後通牒の内容は、拡大主義の皇国から、フェンやトーパ、ロウリアやクワ・トイネと言った、皇国が見下している文明圏外の友好国の安全を保つため、強引に自分達が矢面に立つための無理難題だ …… エクスプレッセスティの力は絶大だが、皇国全土を占領するまでの兵力はない …… 実際にはより、現実的なところを落とし所にしてくるだろう……
事情をある程度知っているムーゲとしては、そう予測するのは自然の流れだった。
──とにかく、
そう考えながら、ムーゲは大会議室の扉をノックした。
「ムー国大使、ムーゲです。出頭のお願いを受けて参りました」
「どうぞ、お入りください」
扉の向こうから、エルトの声が返ってきた。それ自体は不思議でもなんでもない。
しかし、ムーゲが扉を開けたところで、上座に座っているレミールを見て、一瞬身体を硬直させた。一気に緊張が高まる。
「お待ちしておりました。どうぞおかけください」
エルトは自席の傍らに立ち、ムーゲを出迎えるものの、レミールはどっかりと椅子に腰掛けたままだ。
──なぜこの場にレミール殿下が…………?
「早速だが、私がこの場を仕切らせてもらう」
ムーゲが緊張しつつ席に着くと、レミールが謝辞もなく切り出した。
──これはますます刺激しないよう立ち回らなければ……
ムーゲは声に出さずに呟いた。
確かに高慢なのはパーパルディアの官僚全体に言える事だが、それでもエルトなど実務者は名実のどちらをとるかの判断はできる。
だが、皇族となるとパーパルディアのプライドの体現者なので、扱いが難しい。しかも、レミールが癇癪持ちなのは、ムーゲも知ってはいた。
ムーゲの胸中を知ってか知らずか、レミールは話を続ける。
「ムーゲ大使も御存知の通り、我が国は現在エクスプレッセスティ共和国と戦争状態になっている。それに伴う今回の、ムー国の我が国での一連の行動について、御説明いただきたい」
レミールは、高圧的な態度は崩さず、言葉そのものは慇懃に、ムーゲにそう言った。
「承知しました」
そう言って、ムーゲは説明を始める。
「先日のエストラント軍港奇襲、それにデュロ空襲と、貴国本土が攻撃に晒されました。我が国は貴国とエクスプレッセスティ共和国の戦争が継続した場合、最悪貴国本土が戦場になるとの予想を下したため、在留邦人の退去と大使館の一時閉鎖を決定した次第です。これはあくまでも安全面での配慮からですので、我が国がどちらか一方に肩入れしての行動ではありません。戦争が終結すれば大使館業務も速やかに復帰させる予定です」
ムーゲは、事務的な言葉遣いで、ムーとしての判断について説明した。
しかし、レミールは、不快さを隠そうともせず、睨むような視線をムーゲに向ける。
「上辺の話は結構。調べはついているのです」
──!?
ムーゲは、唐突なレミールの言葉に、ぎょっとして目を
「なんのことでしょうか!?」
すると、レミールは手振りを加えながら、ムーゲに皮肉るような口調で言う。
「軍港奇襲もデュロ空襲も、エクスプレッセスティ共和国は“飛行機械”を投入し、多大な戦果を上げた。貴国はさぞ満足なさっているのでは?」
「我が国は平和こそ望めど、戦争など ──── どちらが勝利しようと望みません」
トゲのあるレミールの言い回しに、ムーゲは努めて柔らかい口調でそう言った。
だが、その言葉を聞いて、レミールは、ついに激昂したような表情になり、罵るように声を荒げる。
「はッ! 白々しいにも程がある! ムーお得意の狸芝居など、この私には通じないからな!」
そう言って、ムーゲに対し、憎悪を感じさせるほどの表情を向けた。
「ムー国はエクスプレッセスティ共和国に兵器を供与、乃至は輸出し、我が国に害を及ぼした! そこへ来てのこの度の大使館閉鎖だ! これがムー自身が交戦当時国となる事と同義と取られても致し方ないだろう! なぜエクスプレッセスティに兵器を供与した!? なぜ我が国の邪魔をする!? 真の目的を言ってみろッ!!」
NovelAI DiffusionV3版 ルセリア陛下。
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759228273165533340
V2版で難しそうな表情をしていたのは、登場時のルセリアのイメージは「薄幸そうな寡黙な少女」だったのですが、パーパルディア編に入って再登場してからは、すっかり「飄々と大人をおちょくるロリ女王」に……どうしてこうなった。
ついでに爆撃魔イリーナ嬢。
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759225222203662453
これはV3ですが、「空母の甲板上だ」つってんのに、V2共々マトモに描くことができません。まず無背景でV3にモデルを描かせ、それにV1に出力させた背景を合成したものを元画像としてつかっています。
評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。
https://twitter.com/kaonohito2
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)