「おはようございます、皆さん」
エナジポリス コーストホテルのロビー。
朝、クワ・トイネ エクセプレッセスティ視察団がロビーに集合したところで、エクセプレッセスティのマリア外交官が、挨拶から切り出した。
「本日、ちょうどエナジポリスでの国防軍感謝祭が開催されています。本日はそこで空軍のデモフライトを見学していただいた後、午後から首都のエムブラセクスに移動致します」
「空軍ということは、機械竜のパフォーマンスを見せていただけるということですかの?」
マリアの説明に、視察団メンバーであるクワ・トイネ軍務次官、ハンキが訊ね返した。
「そうなります。陸軍や海軍の部隊も参加していますが、今回の実演は空軍だけになりますので、それを重点的にということですね」
マリアはそう説明した。フレンドリーにニコニコ笑っているが、空軍のデモフライトを見せるのが、所謂“砲艦外交”であることは、マリア達にも知らされていた。
「では、出発致します」
そう言ったマリアが先導し、他に2人のエクセプレッセスティ外務省職員を伴って、視察団は移動を開始する。
「ご利用ありがとうございました。もし次にエナジポリスにお越しの際は、当ホテルをご利用くださいませ」
そう言って頭を下げた、2人のホテリエが、視察団の最後尾を見送った。
一行はマイクロバスに乗り込み、エナジポリス軍基地へ向かう。
昨日、視察団がSS-2V飛行艇で上陸した水陸両用機陸上駐機場、軍港設備に隣接して、陸軍水陸両用部隊演習場、そして首都エムブラセクスの空軍基地と国内2ヶ所しかない、CTOL超音速ジェット戦闘機対応の軍用滑走路が存在している。
国防軍感謝祭は年2回開かれる。それぞれエムブラセクスとエナジポリスで1回ずつだ。
「軍のお祭りというよりは、別のお祭りのようにも見えますのう」
水陸両用部隊演習場と、軍用滑走路の間に挟まれた格納庫軍前の広場が、一般人が入場可能な会場になっていた。
一般参加者でごった返す中、日本風の露店まで並び、軍の威容を誇示するというよりは、市井の一般的なお祭りのように見えた。
「国防軍として納税者に対する感謝祭だからでもありますが、まぁ、我が国は日本の影響でお祭りとジョークが好きな国民性なもので……」
マリアは、深刻でもなさそうに
「ただ、例年であれば外国からの見学者も大勢来られるのですが……今年は少し、下火ですね」
マリアは、表情はそのまま、そう言った。
「あの緑色の服の
ヤゴウが訊ねる。その指す先に、緑色の明細模様の前開きシャツに、臙脂のマイクロミニスカート、明細模様の厚手のタイツという格好の女性が、軍関係者の子弟か一般人のそれか、子どもたちに笑顔を向けながら、じゃれついてくる子供を構っている。
「あれは陸軍の方ですね」
マリアが答えると、
「ふーむ……軍が全体的に、扇情的な軍装を好むようですのぅ」
「それは否定致しません……」
ハンキの言葉に、マリアは2015年に起こった、公式上の記録では『軍装問題エナジポリス軍ストライキ事件』、だが一般には『マイクロミニスカート事変』だの『リアルガル◯゚ン支持派叛乱事件』だのと言われているストライキ事件を思い出して、渋い顔をした。
「あれは、一体?」
「あー……」
ヤゴウが次に問いかけたモノを見て、マリアはどう説明したものかと悩む。
そこには、「彩度の高くないブロンドヘアの、豊満な体型の女性が、群青をベースに、赤と白のストライプが放射状に描かれたビキニ水着を着て、扇情的なポーズをとっている」という、ジャパニーズアニメライクな1/1イラストのポップを立て、同じキャラが描かれたクリアファイルを配っている将兵がいた。海軍と陸軍の軍装の者が混在している。
エクスプレッセスティ国防軍は、水陸両用部隊の輸送・強行上陸艦として、強襲揚陸艦『クリミテーサ』と『アムビリーナ』、揚陸母艦『セリーヌナ』を保有している。強襲揚陸艦は、ウクライナから譲渡されたソビエト連邦1171号計画型『リヴネ』と、アメリカから購入したニューポート級『タスカルーサ』。揚陸母艦は英フィアレス級『イントレピッド』……ちなみに、2017年に軍の体裁として水陸両用部隊を整備するとなった時、補給艦代用になっていた2隻の内、新造の補給艦トモエ級の到着と入れ替えに、『セドクゥナ』(『クリミテーサ』の2017年当時の艦名。2022年4月1日に現艦名に変更された)を復帰させたものの、老朽化の著しいセリーヌナは2017年度いっぱい(2018年3月31日)で除籍し廃艦になる予定だったが、その3月末直前になってスクラップ入札中止、揚陸母艦復帰となったという……
ちなみに、この時点で多目的輸送艦とされていたアムビリーナは、それより後の2019年に揚陸艦に復帰した。
──あれはなんだろうか……
ハンキは、それに対しては敢えて声に出してマリアらエクスプレッセスティ外交官に訊ねなかった。本能的にそうしない方が良いと感じ取ったからだ。
そのハンキが見ていたのは、展示されているT-64-120主力戦車と、BTR-4SE装輪歩兵戦闘車だった。
グォォ……
空から、低音の爆音が響く。それも、複数。
「おお!?」
視察団メンバーが反射的に空を見上げる。ハンキが驚きを声に出した。
フライアブルのレシプロ戦闘機6機が、カラースモークを焚きながら、編隊での水平飛行から、ターンしてアクロバット飛行を披露する。
「あれも機械竜ですかな!?」
「はい、あれはP-63『キングコブラ』という、今からおよそ80年前に我々の世界で起こった大陸間戦争の際に開発された戦闘機です。現在は保存と、このようなエア・ショーの為に保有しています」
ハンキの問いかけに、マリアが答える。
ただ、この
『それでは────』
会場内の放送から、アナウンスが流れる。
『────続きまして、Su-22のデモフライトを行います!』
基地上空からP-63が去った後、滑走路上にスホーイ Su-22UGE 『ドレスメイカー』戦闘攻撃機が1機、待機状態にあった。
航空機搭乗員制服の上から、対Gスーツと電熱服を着け、ヘッドマウントディスプレイ付きのヘルメットを抱えた女性搭乗員が2人、観衆のいる方を向いて、笑顔ながら直立不動で敬礼している。
Su-22複座型の最後期生産型Su-22UM3K(Su-17UM3として生産されたものを含む)の現代化・NATO兵装対応型で、どちらかと言うと戦闘攻撃機として対艦・対地攻撃任務の機能を重点に強化を行ったものだ。
あくまで改修はエクスプレッセスティ国内でやる、という建前で、三菱重工・三菱電機・NECでアップデートパッケージを設計し、ShinMaywa Service Expressesti エナジポリス本社工場で改修が実施された。
決して新型機ではないが、東側型の機体を日本企業に弄らせたものだから某国家主席はイラッ☆としたらしい。ちなみにロシアは自国でのセールスにフランス製のレーダーを積もうとしたことがある(Su-22M5)ので無反応だった。
ペットネームは、NATOコードネーム『
「うーん、でもSu-22かぁ……」
マリアが腕組みして、苦い顔でそう言った。
「今年は海外からの見学者がいないですし、国内では人気ですからねぇ……」
マリアの傍らに来ていた、空軍の士官が、やはり苦笑しながらそう言った。
エクスプレッセスティ空軍の制空戦闘機は、ミコヤン・グレヴィッチ MiG-29GE 『
Su-22UGEは48機保有しているが、これにはSu-22複座型の、やたら太い胴体とノーズコーン全周型エアインテークというデザインが
そもそも、MiG-29GEと、自動空戦フラップを持つMiG-23MLDから改修されたMiG-23GENを主力戦闘機としているところへ、
マリア達が苦笑している間にも、搭乗員がコクピットに収まる。
ヒィイィィィン……ドォオォォッ!!
エンジンが始動され、轟音が響く。
「こっ……これは……」
身構えながら、ハンキが声を漏らす。
現代においても飛行艇のゆったりしたそれとは違う、平常時の運用ではあまりやらない、アフターバーナーを使っての緊急離陸。滑走路から浮かび上がりながらも、そのまま直進し、あっという間に彼方に行った。
そこでターンを打つと、可変翼を最後退角にし、全力での直進。その姿が視界から去ってからの、ドン……ッという、ソニックブーム。
「これが……これがエクスプレッセスティの
「はい!」
ハンキの声に、マリアが答える。
「戦闘攻撃機Su-22UGE。戦場を駆けるための飛行機です!!」
アフターバーナー燃焼中のエンジンの最大出力で、風を掴むワイバーンには到底不可能な、高々度への急上昇────
「では、Su-22UGEについて説明を」
「はい」
マリアが促すと、空軍の士官が
「Su-22UGE『ドレスメイカー』は、ツマンスキーR-29BS-300ターボジェットエンジンを搭載し、最高速度マッハ1.66、固定武装としてT75 20mmリボルバーカノンを搭載し、主翼下と胴体下に合計4トンのペイロードを────」
彼らにエクスプレッセスティ空軍士官の声は届いていなかった。
彼らの少年のような好奇心はすでに消えていた。
彼らの脳裏に浮かぶのは、あの機械の戦竜に全く為す術もなく、撃墜される
2時間後、エナジポリス駅。
エムブラセクス中央駅行、特急『ラヴィサンセクス』12号が、専用ホームに停車している。
「ハンキさん、もう驚かないんですか?」
ヤゴウではない、別の視察団メンバーが訊ねた。
「こんな貴族屋敷のような空間が、走るのか……って」
首都エムブラセクスと、第2の規模の都市であり国の玄関口でもあるエナジポリスを結ぶ『ラヴィサンセクス』は、エクスプレッセスティ国鉄681系電車で運行される。 ────JR西日本681系を
車体は軽量ステンレス車体で、流線型の前頭部はアルミ製のブロックをボルト接合したもの。
1等車の座席は、「人間工学に基づいたとか言って可動式ヘッドレストとかバケットとか意外と万人受けしない」ということで、万人受けの究極である、日本国鉄R31系シートにサービス設備追加したものを2+1配置としている。これは新幹線200系のグリーン車に使われていたもので、日本の中古車両の1等車(グリーン車)のアップグレード用に同じく中古品が使われていたが、681系のものはあえてライセンスを取得して再生産したものだ。
カフェカーのサハシ681形は、日本中古車時代にオハネフ24形から改造して組み込んでいたサハシ480形の台車を履き替え、引き通し線を変更したものになっている。
基本9両に増結3両構成となっているが、増結3両の一部の編成は元・相模鉄道新7000系の足回りと主電動機を流用し、台車に高速走行対応の魔改造を執行し、歯車比を変更したものが使われた「671系」となっている。ちなみに車体は車体で別の台車履かせて通勤形電車にされた。
また、これはエクスプレッセスティ国鉄車両全般の事だが、連結器にナックル形の密着自動連結器が使われている。
────で、クワ・トイネ エクスプレッセスティ視察団は、基本9両の前に連結された、国賓送迎用の貴賓車クイ680形の中にいた。そのさらに前に、牽引役の供奉車クモロニ681形が連結されている。
視察団メンバーの言った “貴族屋敷のような” 貴賓室は、当然のように防弾ガラスが使われている。
これでもクワ・トイネの人間にとっては、「ありえない!!」というレベルの物だが、エクスプレッセスティに到着してから、否、まずSS-2V飛行艇に搭乗したところから、好奇心旺盛な少年のように声を上げていたハンキが、今は少し沈みがちな様子で、黙り込んでしまっている。
「あんなものを見せられてしまってはなぁ……」
ハンキは、疲れ切った様子の声で、そう言った。
「どうやら、エムブラセクスでの我々の行動が、
ヤゴウが言う。地位としてはハンキより下位だが、外交という点においては、今回の視察団のリーダー的な立場だった。
「皆さん、まもなくエムブラセクスへ向かって出発致します!!」
貴賓室内に入ってきたマリアが言う。
プルルルルル……
日本では絶滅危惧種の、ミュージックではない電子音の発車ベルが、ホームに響いた。
681系の本編成に牽引されるかたちで、貴賓車も滑るように発車する。
「国防軍感謝祭見学でお疲れだと思いますので、冷たい、甘い飲み物をご用意いたしました。それと、空腹の方はお申し付けください。軽食をカフェカーに用意させますので」
そう言いながら、マリアは他の外務省職員とともに、エクスプレッセスティでもっともメジャーな炭酸飲料────
────────『ドクターペッパー』を、ヤゴウ達視察団メンバーに配った。
日本がやたら積極的なのはツッコミ無用ということで……
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