エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。
外務省、第1面談室
「お待たせしました」
ゲストに先に入室してもらっていたところへ、ハンナ外務省長官とマコト国防省長官が、タイピストを連れて入ってきた。
相手は、そちらから面会を申し込んできたにも関わらず、入室してきたハンナ達に対し、立ち上がることもしない。
「…………改めて名乗らせていただきます。私はこのエクスプレッセスティ共和国で外務省長官を務めさせていただいております、ハンナ・テイラーと申します」
「私は国防省長官を務めております、マコト・ハンナ・イノウエです」
「これはこれは」
相手は紳士然としているものの、どこか鼻につく様子を見せている。
「自分はリーム王国のカルマと申します。ところで、総統はいらっしゃらないので?」
カルマは名乗りつつ、わざとらしく室内を見回すようにしながら、そう言った。
「申し訳ありませんが、エミリア総統は多忙につき、まずは私達でお話をお聞きして、必要であれば改めて面談致します」
ハンナは、努めて丁寧にそう言った。
「ふぅん……文明国の使節が
カルマの慇懃無礼で尊大な態度に、ハンナがちらりとマコトに視線を向ける。すると、マコトは黙って、軽く首を左右に振った。
「それで、その用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ハンナが、カルマと対面するかたちで席に着き、そう訊ねた。マコトはその隣の椅子に座り、その反対側でトランク型パソコンの準備をしていたタイピストも、席に着く。
「御国とパーパルディア皇国の戦争も、ここへ来て
「そうですね。周辺国として、貴国にあっても関心事だとは思います」
どこか回りくどい言い回しをするカルマに対し、ハンナは当たり障りなく返した。
「デュロ攻撃は見事なものでしたが、パーパルディア側もこのまま黙っていませんでしょうなぁ……」
カルマの発言に、ハンナとマコトは、一瞬顔を見合わせた。
「リーム王国との国境線に近い場所ですし、累が及ぶ可能性についての抗議…………と、言ったところでしょうか?」
ハンナが、柔和な口調で問いかけた。
「失礼します」
給仕役の職員が室内に入ってきて、カルマと、ハンナ達のそれぞれの前に、ティーカップに注がれた紅茶を置いていく。
「いやいや」
ハンナの問いに対し、カルマは、文字通りに
「この先戦争が激しさを増すと、御国だけで列強国の相手は厳しいでしょう?」
「それは……まぁ。戦費の国民負担は避けられませんし……」
ハンナは、どこか困惑した
「そこで、ですよ。我がリーム王国が、御国の側として参戦し、御国を助けようと言うことです」
「要りませんね」
「はっ!?」
カルマはニヤニヤとした様子でそう言ったが、ハンナが即座にバッサリと切り捨てると、カルマの表情が愕然としたものになって固まった。
「いやいや……この先本当に、御国だけでパーパルディアと戦い続けるおつもりで?」
「必ずしもそうというわけではありませんが……」
カルマの問いかけに、ハンナは断定を避けた言い回しで返す。
「ですから、文明国である我が国が、パーパルディアを側面から攻撃し、戦力の一部を引き受けようというのですよ」
カルマが得意げな顔でそう言うと、ハンナとマコトは顔を見合わせ、はぁ、とお互いわざとらしいため息を
「ではお聞きしますが、貴国はその代償に何を求めていますか?」
「代償とは……」
「まさか、無償の奉仕をするというわけではないでしょう?」
ハンナの問いかけに、一瞬詰まったカルマに対し、ハンナは、ジト目を向けながら畳み掛けた。
「おーかた、戦争の混乱に乗じてパーパルディアの、北部、東部の属領扱いの領土、あわよくばデュロを奪取するつもりでしょう? 違いますか?」
マコトが、呆れたような苦笑を浮かべ、肩を竦める様なポーズでそう言った。
「それの何が悪い!」
カルマは、図星を突かれた体裁の悪さを誤魔化すかのように、口調を荒らげた。
「文明圏外の、しかも “女だけの国” を助けてやろうと言っているんだ、それぐらいの見返りはあって当然だろう!」
「ですから、不要、と」
ハンナは、はっきりとした口調でそう言った。
「これ録音してる?」
「はい」
マコトが、ハンナ越しにタイピストに問いかけると、タイピストは短く答えた。
すると、ハンナが文字通りに口火を切った。
「我が国は理由の如何を問わず、力による現状変更を認めません。それは、パーパルディア皇国の領土に対しても同様です。万一、領土奪取を目的に貴国軍がパーパルディア国境を越境した場合、我が国は貴国を敵対する交戦当事国と見做し、貴国に対して実力行使でこれを排除します! よろしいですね!?」
「ふ、ふ、ふ、ふざけるな! 蛮族の国が!! たまたま今、パーパルディア相手にうまくいっているからと言って、調子に乗るなよ!」
「残念ですが、調子に乗るのはここからです」
顔を真っ赤にして怒鳴るカルマに対し、マコトが一瞬、戯け混じりに言う。
「もし、貴国軍がパーパルディア領内に侵入した場合、パーパルディアがその排除のために貴国内に逆侵攻したとしても、我が国は
急に表情を険しくし、カルマを睨みつけるようにして、マコトはそう言い切った。
「後で後悔するぞ」
「それは脅しですか?」
ちゃちな恫喝をするカルマに対し、マコトが、何かハンドサインをしながら、問いかけるように言う。
「北側のマオ王国の安全もありますし、今この場で開戦がお望みでしたら、我が国は一向に構いませんが?」
「不愉快だ! このままで済むと思うなよ!」
カルマは、そう言いながらも、図々しくティーカップを口に運ぶ────
「!?◯✕△□●◇▼※▽◎◇( ;゚;ж;゚;)♥♤♦♧━━━━ッ!!」
ブーッ、と、紅茶を吹き出し、カルマは口元を押さえて悶絶した。
「な、な、な、なんだこのお茶は!?」
ティーカップを放り出してしまいながら、カルマは、驚いたような憤ったように声を上げる。
「我が国名物のお茶ですが」
「まぁ、今は茶葉がクワ・トイネ産になりましたけどね」
ハンナが言い、マコトが付け加える。
「“女だけの国”だとか、何を考えているのかわからん!! 失礼する!!」
カルマはそう言って、面談室を後にしようとする。ハンナが、見送り役として、それを追って出ていった。
────そこへ、ひょこっ、とエミリアが姿を表す。
「何入れた?」
マコトが、ニタニタと笑いながら、エミリアに問いかける。
すると、エミリアは手に持っていたそれを、マコトに見せた。
「ブッ」
マコトは吹き出し、ゲラゲラと腹を抱えて笑う。
「こっ、こっ、コブラチリはやり過ぎ、あは、アハハハハハ」
「いいでしょこのくらい。
エミリアは、腕組みをしてやはりニヤニヤと笑いながら、そう言った。
ちなみに、それ自体は全部のカップに入っている。ただ、エクスプレッセスティ側は誰も手をつけていなかった。
「まぁねぇ……」
「まぁそう言うことだから、リーム王国に対しても、大規模な必要はないから、航空攻撃はかけられるようにしておいて」
エミリアは、真顔に戻って、マコトにそう指示した。
「あれだけ言っといても、強行してくるかな?」
「多分」
「根拠は?」
「うーん…………」
マコトが、解ってはいるけど念のためにと言った感じで問いかけると、エミリアは、わざとらしく思い悩んだようにしてから、悪戯っぽく苦笑する。
「
『タスの日』────元アルタラス王国、旧王都ル・ブリアス。
この日ばかりはと言った感じで、パーパルディア占領後の殺伐とした雰囲気が拭われ、メインストリートでは建物から通りを跨ぐように渡されたカラフルな三角旗の連なる連続旗が下げられ、 …………なんかエクスプレッセスティ国民が見たらやたら喜びそうな形状の、建国王タスを祀る神輿が担がれ、歓声とともに紙吹雪が舞い散る。
流石に花火やクラッカーの類は、叛乱防止の為に禁止されていたが、それでも普段の暗い空気を晴らすかのように、祭りは盛況を極めていた。
しかも、はしゃいでいるのはアルタラス人だけではない。
「頼めるか?」
「らっしゃい。お、レオナルトの旦那」
普段は商店街に店を出しているアルタラス・タコスの店の主が、今日は広場に屋台を出していた。
「メニューはどれにします?」
「チキンを2つ。ソースはトマトと、サワーをひとつずつで」
「へい!」
レオナルト、と呼ばれた、パーパルディア陸軍の制服に身を包んだ男が、タコスを頼むと、店主はいそいそと作業を始めた。
「いやー、『タスの日』の祭りも、なんか今年が最後になるんじゃないかと思うとねぇ……」
店主は、手を動かしつつ、どこか寂しげにそう言った。
「? 何かあったのか?」
怪訝に思い、レオナルトはそう問い返した。
「いや、パーパルディアとしては、『タスの日』の祭りは困るんじゃ?」
「うーん……別に本国から、
「でしょう?」
「別に祭りを止めることはないだろう。そうだ、どうせなら皇国の建国日にも祭りをやればいい」
レオナルトは苦笑しながらそう言った。
「いいんですかい? そんな事言って」
「こっちだって息抜きの日ぐらいなきゃあ、やってられないよ。軍人なんて」
意外そうにしつつも、笑いながら言う店主に対し、レオナルトも苦笑しながらそう言った。
「そう言えば、ナビールとかいったか、あの爺さんの孫はどうした?」
「ええ、おかげさまで最近はだいぶ元気になったようです」
「それは良かった」
そうしている間にも、2つの、紙包みに入ったタコスが、レオナルトの前に差し出されてきた。
「これでいいか?」
レオナルトは、そう言って軍票を渡す。
「構いませんよ。まいど!」
店主が軍票を受け取ると、レオナルトは受け取ったタコスを持って、パーパルディア軍の市内部隊の詰め所へと戻っていく。
その建物は、臣民統治機構がアルタラスでの本部として使っていたが、本国からの指示により、臣民統治機構は引き上げ、暫定的な措置として完全な軍政へと移行していた。
アルタラス駐留パーパルディア皇国軍の駐屯地、ハイペリオン基地。
元々はアルタラス軍の本拠地だったこの基地は、首都ル・ブリアスの過密地区を避けて設けられ、軍港施設、ワイバーンの滑走路などが併設されている。
「ここにおられましたか、リージェック将軍」
アルタラス駐留軍の総指揮官であるリージェックが、少し離れたル・ブリアスの市街地を司令部の建物の屋上から見ていると、そこへ彼の副官がやってきた。
「今日はアルタラス人の祭りだそうだな……ル・ブリアスが市民で溢れかえっている」
仏頂面のリージェックは、なんだか面白くなさそうにそう言った。
「ええ、露天も出てまして。タコス屋が今日だけのメニューだと言って出していたものが美味しかったので、お持ちしました」
副官はそう言って、木皿にのせられたタコスをリージェックに差し出した。
「…………」
「どうしました?」
リージェックが僅かに逡巡した様子を見せると、副官は怪訝そうに訊ねた。
「いや、貰おうか」
リージェックはそう言って、タコスに手を伸ばした。
ひと口かぶりつき、咀嚼し、嚥下する。
「多少辛いが、なかなかに旨いな」
「お口にあったようで良かった」
リージェックの言葉に、副官は顔を綻ばせた。
「私は街も食べ物も皇国風が最良だとは思っている────」
リージェックは、自身の胸中を言葉に出し始めた。
「だが────良いものは良いと素直に認めることは必要なのかも知れん。このようなものを手に入れたのは皇国の勝利の象徴なのだと考えるべきではないのかと…………」
「それは…………どういう?」
リージェックの言葉に対し、副官は不思議そうに聞き返す。
「フェンでの敗北は、上陸の時点でフェン軍相手に多大な損害を出していたと言う。エクスプレッセスティ軍はその後になって上陸したのだ。エクスプレッセスティの武器で武装したフェン軍が皇軍相手に対等に戦ったわけだ……つまり、必要なものは受け入れていくという発想が必要だということだ」
リージェックはそう言い、視線を丘陵地帯に向ける。
そこでは、滑走路の建設が始まっていた。
「ワイバーン・オーバーロードの滑走路は今建設中だ……────」
ワイバーン・オーバーロードは、ムーの戦闘機に対して、高速飛行と高い運動性能を実現するため、従来のワイバーンロードよりも、より高い性能の離陸促進装置が必要となっていた。
「────だが、伝え聞いたところによると、エクスプレッセスティの “飛行機械” は、ムーの『マリン』よりも遥かに性能は高く、ワイバーン・オーバーロードでも困難な敵らしい……無論、最終的に皇国が負けることは有り得ないだろうが、今後ムーやミリシアルと対峙するためには、それらを導入する必要も出てくるだろう……」
────同、海軍通信室。
「ん?」
1人の通信士が、通信端末に向かっていると、緊急用の周波数で着信が入った。
「こちらハイペリオン基地。何があった? 詳細を送れ」
『メーデー・メーデー……こちら竜母「ヴェロニア」……原因不明の爆発により、大量の浸水発生中……救援を乞う! 救援を乞う!!』
通信士が電話機型の受話器を取り上げて訊ねると、通信の向こうから、絶望的な声が聞こえてきた。
竜母『ヴェロニア』は、ワイバーン・オーバーロードの運用を前提に新造されたばかりの超大型飛竜母艦で、その全長は木造船としては構造学上の限界に近い100m超に達していた。
その皇国最新の
ル・ブリアスの北東沖の海域────
────────の、海中。
「圧壊音確認。敵艦、撃沈したと思われます」
ミズリューム級(2023年度発注型)潜水艦『ミズハルカ』の司令塔で、静かに、はっきりとした声で、そう報告が上がる。
「…………使っちゃったねぇ魚雷」
ミズハルカ艦長、オディ・キャサリン・テムジン中佐は、苦笑しながらそう言った。
「もったいない気がするんだけどなー……」
ミズリューム級の対水上艦兵装は、JTPD-89魚雷とSM.79『エグゾセ』対艦ミサイル。前者はエクスプレッセスティ製だが、原設計号「J」と数字「89」で分かる通り、日本の89式魚雷のコピーである。 …………あるのだが、まるっきりそれではない。
と、言うのもエクスプレッセスティの水上艦は、所謂 “NATO寄せ” の際にも、その長射程を買われて居残ったソ連型対潜ミサイルRPK-2『ヴィユガ』の運用のため、533mm長魚雷発射管を持っているので、この活用のためにJTPD-89は水上発射に対応させる設計変更が行われているのである。
単純に調達価格で言えば『エグゾセ』の方が安いぐらいなのだが、転移が発生してしまい、元々内製化率向上の為の技術取得が進んでいたJTPD-89魚雷に対し、『エグゾセ』は潜水艦でしか使わないために内製化が後回しになっていた。
「仕方ありませんよ」
事情を知っているオペレーターもまた、苦笑しながらそう言った。
「まぁ、敵航空戦力は優先攻撃対象だし……これが戦列艦だったらちょっと躊躇っちゃうけどね」
オディが言うとおり、この司令塔からは直接肉眼では見ることができない先で、新鋭竜母『ヴェロニア』は分解しながら、搭載している高価なワイバーン・オーバーロードとその搭乗員ごと、海中に引き込まれていっていた。
コブラチリ(間違っても飲み物に混ぜて他人に飲ませたりしないように!!)
https://www.wingace.jp/j/product/food/21/index.html
評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。
https://twitter.com/kaonohito2
レミールの処遇は……
-
原作通り
-
総統閣下のわからせ棒
-
行方知れず(故意)