ル・ブリアス北東沿岸海域上空、高度13,500ft(約4,100m)。
『
洋上の駆逐艦を中継して、生き物であるワイバーンには届かないだろう成層圏から可視光、不可視光波、電波で洋上を監視している偵察装備のSu-22UGEからの情報が伝達されてくる。
「3
無線に対し、ノリコはそう応答した。
「一番槍は潜水艦にとられたけど、落ち穂だけでも拾おうかね♪」
「了解」
ノリコがそう言うと、隣のウェポンアシスタント席に座るシャルリーンも、軽い口調でそう言った。
「目標ロック」
「撃っちゃえ」
「りょーかい」
ノリコの操縦するBr-1050Aから、内翼に4発搭載しているペンギンASMの1発が切り離され、
────ノリコ機の現在地から、西南西方向へ約36km、海上。
パーパルディア皇国軍・アルタラス駐留艦隊の50門級戦列艦『ヒデル』は、この日、旗艦となって、洋上警備任務に当たっていた。
「さっきの通信は、一体何だったんだ!? ハイペリオン基地に確認を急げ!」
艦長のダーズは、緊張した様子で言う。
この直前、ヒデルの通信室は、竜母ヴェロニアの緊急通信を傍受していた。
最新鋭の、ワイバーン・オーバーロードを搭載する超大型竜母が、突然の爆発によって破滅的な事態に陥り、救援を乞うているという、彼らにとって俄には信じられない事態が起きていた。
──いくらエクスプレッセスティの “飛行機械” や “鋼鉄艦” が優れていたとしても、姿も表さずに大型竜母を攻撃し、致命打を与えるなんてことができるのか!?
彼らには“エクスプレッセスティの兵器はムーよりも先進的で、遥かに高性能である” とは伝えられていたものの、それ以上の詳細を想像するには至っていない。せいぜい、第二次世界大戦時の兵器群程度が、彼らの認識できる限界だった。ミサイルなど、思い描くことも不可能なのだ。
「こうなれば、ヴェロニアが消息を絶った位置まで行くぞ! 航海長、場所は把握しているな!?」
「魔導探知機が反応した方角、おおよその距離は把握しています」
「よし、全速で向かう! 『風神の涙』起動、麾下の艦にも『我に従え』と送れ!」
「了か────」
い、まで、状況は待ってはくれなかった。
ドッグワァアァァァンっ!!
「なんだっ、どうしたっ!?」
ダーズは、自らその目で確かめようと、甲板へと上がった。
麾下の50門級戦列艦の1隻が、爆発に見舞われ、片方の舷側がごっそりとなくなり、マストはなぎ倒され、ただ “浮いてはいる” というだけの絶望的な状況で漂っていた。
ドゴッ、ドッグワァアァァァッ!!
ダーズがそれを視認した次の瞬間、別の戦列艦が、大爆発を起こして木っ端微塵になった。
「炎が、炎の矢が!」
「炎の矢が、どうしたというのだ!?」
見張りの混乱した声に、ダーズが問い質す。
「海面スレスレを、炎の矢が飛んできて、それが突き刺さった後、あんなになっているんです!」
「なんだと────」
グワォンッ!!
それは、ダーズの目にも捉えられた。
炎の尾を引く矢──── ペンギンASMが、既にほとんど崩壊して漂っている戦列艦に突入し、完全にバラバラにした。
「あれ、運のいいのが生き残りましたね……」
ディスプレイを覗き込みながら、シャルリーンがそう言った。
「よし、しゃーない。掃射かけるか。相手は木造船なんだし」
しょうがない、と言う割には、妙に楽しそうに、ノリコがそう言った。
「えーっ!?」
後部座席から、レーダーオペレーター兼後部銃手のルイアが、素っ頓狂な声を出す。
「本気ですか!?」
「だって、司令部からは
問い質すルイアに対し、ノリコは、楽しげな様子のままそう言うと、無線のPTTスイッチを押す。
「モス1より3AS各局! これより残敵に掃射をかける! タイガー以下は付近を警戒せよ。モス各機、無理せずついてこれなそうであれば離脱せよ」
そう送信してから、ノリコは操縦桿を倒し、一気に高度を下げていく。
低高度の厚い大気を、プロペラでかき分けながら、Br-1050Aは敵の所在地へと向かっていく。
「まもなく有視界内!」
ルイアがそう言った。
「オーケー! ルイア、後部銃座に着け!」
「了解ですッ!」
ノリコの指示に、ルイアは座席から降り、M621機銃が装備されている、掃射用の機銃座に着いた。
洋上に浮かぶ小さな点が、徐々にだが、ノリコの視界の中で近づき、大きくなってくる。
「くぅーっ、軍隊相手に低空襲撃かけられる日が来るとは思ってなかったーッ! 感謝するよパーパルディア海軍! これはその御礼だ、受け取れッ!!」
ほとんど死んだ機能と考えられていた、Br-1050Aの操縦手用ヘッドアップディスプレイの照準リングに捉えられた戦列艦 ──── ヒデルに向かって、ノリコは、訓練時以外は押した事がない操縦桿のトリガーボタンを押し込んだ。
ダダダダダダッ!!
主脚格納バルジの、レーダーアンテナ類への干渉を避けて突き出した顎状の部分に装備された、M621機銃が火を拭き、ヒデルにその火線が吸い込まれていく。
「ぐぁっ!」
「がぁっ!!」
甲板で悲鳴が上がった。
────敵の“飛行機械” のうち、比較的ムーのそれに近い姿をしているとされるそれが、突然雲の上から降下してきたかと思うと、その翼の中程から、連発式銃で射撃を駆けてきた。
その威力はマスケットの比ではなく、甲板を容易く撃ち抜き、その下の対魔弾鉄鋼式装甲も容易く貫通して、蜂の巣のように穴だらけにされる。
「くそっ! まだ来やがる!」
最初の1機が上空を通り過ぎるが、まだ3機、列を成してヒデルに向かってくる。
勇敢にも、1人の甲板員が、対ワイバーン用の
ダダダダッ
「がはぁっ!!」
そのバリスタに取り付いた甲板員の背中が爆ぜた。
「後ろにも攻撃できるだと!?」
ダーズは、ヒデルを飛び越えていった1機を凝視する。
ドォッ!
ノリコは、ヒデルを中心に大きく旋回しながら、スロットルを押し込んで、水噴射を開始する。
ターボプロップエンジンには、タービン後流に燃料を噴射するアフターバーナーはあまり意味がない(例はあるっちゃあるんだが)。エクスプレッセスティの発注に端を発する21世紀型Br-1050に搭載されているAI-24VTなどは、吸気に水アルコール混合液を噴射して、吸気温度を下げて吸気密度を上げつつ、燃焼室内で水が蒸発・膨張することで一時的に出力を向上させる機構がついている。
ただ、レシプロエンジンでも有効な──── 水膨張が閉じたシリンダー内で発生するため、相対的にはより効果的 ──── この装置だが、ガスタービン系エンジンでこれを使うと────
「やった、やった、のか?」
ダーズは、黒煙を吹き出し、尾のように引くBr-1050Aを見て、相手が何らかのダメージを負ったと考えた。
だが、喜びに浸る間もなく。
「まだ来ますッ!!」
モス小隊4番機が、ヒデルに向かって機銃掃射をかけてきた。
「…………うーん、流石にノーダメージではないけど……」
ノリコは、Br-1050A・4機の機銃掃射を受けたヒデルが、あちこち細く煙を吹きつつも、まだ浮いているのを見て、失敗だったかな、と、苦い笑みを浮かべた。
マストは折れ、『風神の涙』は後ろに倒れ、満身創痍だが、沈む様子はないように見えた。
だが────
「あ゙」
戦列艦は大きさの割に喫水が浅く、その為に復元性が悪い事が多い。3層構造の80門級以上よりはマシとは言え、2層の50門級でも、現代船舶を知るエクスプレッセスティに言わせれば「トップヘビー」のひと言に尽きる。
────20mm APDSに穴だらけにされたうえ、マストを折られ、『風神の涙』が後ろ向きに倒れ込んだ結果、重心が狂ったヒデルは、ノリコ達の見ている中で、海面の軽いうねりで簡単に横転した。
ハイペリオン基地上空。
ボ、ボ、ボンッ、ボンッ
「な、なんだ、なんだ!? 何が起きている!?」
リージェックが、視界の中で突然始まったそれに驚き、狼狽える。
エクスプレッセスティの攻撃が予想されたため、上空警戒の為に飛ばしていたワイバーンロードが、空中で破裂したように見えた。
ヒィイィィィィン……
「この音は!」
リージェックは、ワイバーンロードが破裂する空域の先に、忌々しげな視線を向けた。
彼の予想通り、MiG-29GEが姿を表す。
「エクスプレッセスティ軍!!」
ゴァアァァァァンッ!!
誘導魔光弾、彼らがそう認識しているそれでワイバーンロードをいとも容易く片付けると、射程外にいたワイバーンロードを追って、
──高速と大柄さ故、小回りは効かぬようだが……
旋回半径だけで言うなら、現在の超音速ジェット戦闘機はレシプロ戦闘機に劣るし、レシプロ戦闘機同士で言うなら、単葉で高速の中島キ-84 四式戦闘機『疾風』やグラマンF8F『ベアキャット』は、複葉で速度が半分~2/3程度の川崎キ-10 九五式戦闘機やボーイングF4Bに劣る。
──だがッ、圧倒的高速ッ! これではワイバーンロードが止まっているのと同じだッ!!
低高度へワイバーンロードを追い込んだMiG-23GENを、ワイバーンロードが連携して逆に包囲しようと試みるが、MiG-23GENは目標を屠ると、
ドンッ ゴォオォォォォォッ!!
アフターバーナーに点火し、高度的優位を取り戻すためにジェットエンジンの大推力で急上昇する。
「うーし、今度は軍事施設だし遠慮はいらないってことで」
ロクサーナはそう言いながら、ヘッドマウントディスプレイの下で舌なめずりをしてから、
「
『了解』
と、ロクサーナが指示すると、麾下の小隊長からそう返ってくる。
ゴォオォォォ……
「!」
リージェックの視界の中で、飛竜隊を追い回している “飛行機械” とは別に、4手に別れて低高度をどこか悠々と侵入してくる編隊が目に入った。
「不味い、退避しろ!」
リージェックは言い、副官に先行させるかたちで、司令部建屋の塔屋部に飛び込もうとする。
「侵略をした側が無様な姿を見せるな! 軍人なら覚悟を決めろ!」
操縦を後席のリリーに渡し、彼女達から見て司令部建屋の手前、陸軍の隊舎の並ぶその上へと飛行コースを維持するSu-22UGEのコクピットで、ロクサーナはヘッドマウントディスプレイの中でパニックを起こしているパーパルディア軍兵士に、苛立ったような声を上げた。
「Bombs away!!」
投下ボタンを押す。ロクサーナの “680のSu-22UGE” の主翼の下に吊り下げられていた計12発の250kg爆弾が、隊舎群めがけて投下された。
ドゴォッ、グォワッ、ドォオォォォン!!
「ぬぉっ!!」
2発程の250kg爆弾が、司令部建屋の近くまで転がり、そこで炸裂した。爆風と破片が司令部建屋に強い衝撃をもたらす。リージェックも爆風で吹き飛ばされた。
「コントロールリリース」
「コントロールオン」
リリーから操縦を受け取り、スロットルをアフターバーナー非使用時の最大まで開く。
「……空中の目標は残っていないか……」
ヘッドマウントディスプレイの表示を確認し、ロクサーナはそう呟く。
敵の航空戦力を最優先に無力化するという作戦目標から、MiG-29GE、MiG-23GENの戦闘飛行隊だけでは手が回らない場合は、Su-22UGEも空中戦に参加する指示を受けていたが、そのつもりでロクサーナが操縦桿を握った時、既に目標にする相手は残っていなかった。
ドォン……ドゴォッ……!!
軍港に停泊していた戦列艦には、戦闘飛行隊が飛竜隊をハイペリオン基地直上まで押し込んだところへ、安全圏から、空軍のBr-1050Aと、同じくゴーマ空港に展開していた海軍のBr-1050A/Sが、ペンギンASMを放ち、港内の20隻余りの戦列艦、輸送艦が、爆発し、炎に包まれていく。
「なんということだ……」
塔屋部の床で、うつ伏せに倒れていたリージェックは、なんとか仰向けになって、呟くように言う。
リージェックの視界に、この状況では不気味な程、澄み切った青い空が見えた。天井は崩壊していた。
「基地が……陸軍も……海軍も……全滅してしまった…………」
リージェックの認識できる範囲で、パーパルディア皇国軍が利用していた設備は全て、破壊されているように見えた。
ル・ブリアス市街地。
「な、なんだ今の音は!?」
「見ろ! 軍の基地の方から飛んできたぞ!」
誰かが指さしたそれを見上げると、Su-22UGEが、R-29BS-300ターボジェットエンジンの爆音を轟かせながら、東へ向かって飛び去っていく。
その時、ライアル達は市民に紛れるかたちで市内を見回っていた
「隊長、これはもしや……!」
「うむ、見張りの塔へ
ライアル達3人組は、市街地の外れの近くにある、アルタラス王国時代の見張り塔に向かい、階段を駆け上がった。
「こっ、これは……────!!」
塔の最上階からハイペリオン基地の方を向くと、意識せずともその光景が目に飛び込んできた。
「パーパルディア駐屯軍の基地が燃えている!」
ハイペリオン基地から何本もの黒煙が立ち上り、桟橋に舳先を連ねていた戦列艦はすべて燃えて崩れ落ち、パーパルディア軍が増設した隊舎も粉微塵になっている。
「これはッ!」
部下の1人が、声を上げる。
ヒィイィィィィィン……
戦列艦にとどめを刺すかのように、CRV7ロケット弾を撃ち込んだBr-1050A/Sが、ライアル達の頭上を飛び去っていった。
「まさに、『その時』!」
ライアルは、かっと目を見開く。
「塔にアルタラス旗を掲げろっ!」
ブワサッ!!
そのまま、塔に、隠し持っていたアルタラス旗を翻す。
「立ち上がれ同胞たちよ! アルタラス王国は不滅なり!!」
「ウォオォぉぉぉぉッ!!」
ル・ブリアス市内で市民に紛れていたレジスタンスメンバーが、雄叫びを上げ、それは怒涛の勢いで伝播していった。
「なんだ、さっきから様子が変じゃないか?」
「こっ、これはッ!!」
市内の詰め所にいた、まだハイペリオン基地の状況を知らないパーパルディア軍治安維持隊の面々が、それを目にして、驚愕と恐慌を表情にする。
「武装蜂起だ!」
「アルタラスを取り戻せ!」
レジスタンスメンバーの声に、パーパルディア皇国の支配に抑圧されていた市民が合流する。
「俺にも武器をくれ!」
「こっちもだ!」
アドレナリン放出状態のアルタラス市民の勢いに押され、パーパルディア兵はあちこちで追い込まれている。
「くそっ、銃に弾を込めろ! 暴徒は射殺もやむを得ない!」
3名ほどのパーパルディア兵が、路地に追い込まれていた。レジスタンスの矛先がこちらに向く隙を伺いながら、マスケットに装弾しようとする。
「レオナルトの旦那!」
そこへ、路地の奥の方から声がした。パーパルディア兵が振り返ると、そこにタコス店の店主がいた。
「こ、これは一体……」
店主は、路地の先の光景に、愕然として立ち尽くしている。
「こちらへ来るな! 巻き込まれるぞ!! 家族の女子供を避難させるんだ! ここから離れろ!!」
レオナルト達の意識が、僅かに背後に逸れたその時、その意識の反対側から、シミターの一振りがレオナルトの命を薙ぎ払った。
他にも複数名が攻撃し、3人のパーパルディア兵は、全員が血濡れになってその場に倒れた。
「おう、タコス屋の旦那じゃないか。助かったな、もう大丈夫だぞ」
まるで、自分達が彼を救ったというように、武器を手にした男が言う。
「…………」
店主は、しばらく立ち尽くし、レオナルトの亡骸を見ていた。
「おい、パーパルディア軍の本部を包囲するぞ!」
「ああ、今行く!」
刀を持った男が、そちらに意識を取られた瞬間、店主はレオナルト達の亡骸に素早く駆け寄ると、装弾されたマスケットを拾い上げ、憎悪の眼差しの顔を上げ────
ターン…………
────レジスタンスのアジト。
何か起きるかと、メンバーが直前まで聞き耳を立てていた、広帯域受信機が、スイッチが入れられたままになっていた。
ホーン型スピーカーから、これまでよりも明瞭に、ルミエスの声が流れる。
『────「その時」は来ました。アルタラスの民よ、いいですか、理性をもって行動してください。憎しみを忘れろとは言いません。ですが、暴力は野放図であってはならないのです。無法を無法で返してはいけません。そのような隣人を望むものはいないのです……────』
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)