パーパルディア皇国、皇都エストシラント。
────ドッグヮォオォォォン!!
大爆発が起こり、立ち上る爆煙の中から、やがて炎が立ち上る。
“飛行機械”が、爆弾を落とす度、建物が破壊され、火の手が上がる。
栄華を誇ったパーパルディアの皇都が、無惨に破壊され、あちこちから煙が立ち上っている。
──やめろ……
皇都の空を守る筈の、皇国の最強兵器ワイバーン・オーバーロードが、 “飛行機械” の放つ光弾が命中する度、炎の塊となって落下していく。
──私のせいじゃない……
軍港にひしめいていた、戦列艦、竜母艦。東方最強を誇るはずの皇国の艦隊が、遥か彼方から飛んでくる砲弾によって、成す術なく破壊されていく。
──死んだのは蛮族の平民……平民だぞ……
屈強で鍛え上げられた皇国の戦列歩兵が、薙ぎ払われるように
「レミールを探せ!」
戦車を先頭に進軍する敵の
美しい街並みは無惨に破壊され、焼き払われ、 “女だけの軍隊” が、皇都民の男を殺し、女子供を連れ去っていく。
「レミールを探せ!!」
敵軍だけではなく、焼け出され辛くも逃げ延びた皇都民が、パラディス城に迫り、怨嗟の声を上げている。
──違う、私が悪いんじゃない! 私は────
「私は、このパーパルディア皇国の皇族だぞ!!」
────夜。レミールの私邸。
レミールは声を上げながら、眠りから覚めると同時に、跳ねるように上体を起こした。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
全身から大量の汗が滲み、ネグリジェの胸元にその汗の染みができている。
ムーゲとの会談の後、夜毎、レミールはこの様な悪夢に苛まれていた。
ムーゲから言葉で聞かされたものだけであれば、話半分、せいぜい
だが、レミール自身も、奇襲とは言えたったの2
さらに、デュロも空爆を受けた。デュロにはワイバーン・オーバーロードは配備されていなかったが、エストシラントの奇襲攻撃を受けて、厳戒態勢にあったにも関わらず、皇国の防空部隊はどうすることもできず、一方的に攻撃を受けた。
『エクスプレッセスティの戦闘機は、いずれも音の速さを越えます。我々にはこれをつくる技術はありません』
起きていて尚、1人静粛な夜の寝室にいると、ムーゲやプリヤの声が脳内で響く。
『きさまらパーパルディア皇国は我が国にとって越えてはならない一線を踏み越えた! 貴国がそこまでお望みと言うなら戦争しかない!! 戦争しようではないか!!!!』
──ムーゲ大使は自国民を殺害し、建国の理念を踏みにじったことで、エクスプレッセスティは戦争を決断したと言った……
それに誤りはないのだろう、と思いつつも、レミールは、それだけではないとも感じていた。
──国力、軍事力が皇国に劣るか、最大限良くても多少上回る程度だとしたら、全面戦争には躊躇するはずだ。
フェン在留自国民を殺害され、国家を侮辱されたとしても、その人数は二十数人だ。これが10倍ならまだ解る。だが、 ────どの様な客観的視点から見て考えても、全面戦争まで踏み切るには小さすぎる気がする。
と言うか、皇国でもそうする。いずれ超えなければならないとしても、現時点では、ミリシアルに同じ事をされても、この規模なら、実態では現実的な賠償と謝罪で済ませる。
ムーやミリシアルが支援しているわけでもないのだとしたら……
『ムーにはこのような事はとてもできません。アリを甚振るのと同じ感覚で、スズメバチの巣をつついたのと同じです────』
──最初から、“確実に、絶対的に勝てる”、そう判断して全面戦争を始めた…………
レミールはその事を思い知っていた。
一方で、この事を考える時、どうしても理解できない事象も思い浮かべる。
エクスプレッセスティは建国僅か35年程度の国だと言う。ムーゲの言葉だけではなく、第3外務局や国家戦略局の情報収集でも、裏付けられていると、カイオスやイノスからエルトを介して伝えられていた。
そんな若い国が、皇国に一方的な勝利できる程の力を身に着けた理由 ──── 同じように、複数の情報チャンネルから入ってくる、 “日本国” の存在。
『よいですか、“国の発展を支援した”、これが重要なのです。武力で支配したのではなく!』
『彼女らは自国を “新たな理想社会の建設” を理念としつつも、同時に日本に憧れていた。いつの日か、あのような国になりたいと────』
──フェンに対する皇国の振る舞いが、エクスプレッセスティに戦争を決断させる原因のひとつになったのは確かだ。だが、別にエクスプレッセスティはフェンや、他の文明圏外国を支配しようとは考えていない。敵対したロウリアさえ再度自立させようとしている……────
レミールにとっては、それは全く理解できなかった。ただ……────
──もし、転移国家だとして、転移してきたのがエクスプレッセスティ共和国ではなく、日本国だったら……────
皇国はそれこそ片手、いや指の先であしらわれていただろう。今頃エストシラントは灰燼に帰していたかも知れない。
そして、ここまで考えが及んだ時、レミールにとって最悪の想定に思考が進む。
『敵対したロウリアでさえも再起の機会を与えた』
ムーゲの声でその事が再生された時、レミールの背筋に凍りつくかと思うほど冷たい感触が走る。
──今、皇国が降伏すれば、エクスプレッセスティは皇国に対してもロウリアの様に遇してくれるかも知れない……────
だが、
『いずれにせよ、我が国の国民を殺害し、我が国と貴国を戦争状態においた責任者として、貴方の身柄は要求させていただきます』
「ダメだ、ダメだ、絶対にダメだッ────!!」
降伏を受け入れるということは、レミールをエクスプレッセスティに差し出すということだ。
レミールは地球でのトレンドを知らないが、エクスプレッセスティには死刑制度がある。レミールの想像と異なり、
──そんな事は認めない! 絶対に……
レミールの中に、夢の光景が広がる。
──私はルディアス陛下の皇妃となり、世界統一をそばで支えるのだ────
それが、ルディアス自身、現状では不可能なこと、エクスプレッセスティとの戦争を、体面はともかく、実態としては少なくともパーパルディアの勝利とは呼べないかたちで戦争の終結を模索していることを、彼女はまだ知らない────
エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。
国防省、第1大会議室。
国、というか国民性を反映して、華美とはまた違うが、やたら可愛らしさを表現する内装になりがちなエクスプレッセスティの省庁の中で、ここだけはシンプルな会議室となっていた。 ── ──と言っても、しれっとガル◯゚ングッズが紛れ込んでいたりするが。
「これより、対パーパルディア戦争についての、今後の戦略・戦術についての説明と、会議を始めます」
マコト・ハンナ・イノウエ国防省長官が、険しい口調で始めた。
現在時刻は、ERST9:30。
いつもは、閣僚からは総統のエミリア、ハンナ・テイラー外務省長官が参加しているが、今回はユリ・キャサリン・タナカ内務省長官、レイナ・ソフィア・タカラ産業・保健省長官、以下各省のトップが加わっていた。
当然、総統府情報総局のマリーナ・ボロティン局長もいる。
「まずは、国防省統括作戦本部より、現状を説明致します」
マコトはそう言って、高輝度プロジェクターに写し出された略地図を示す。その中で、パーパルディア沿岸部の、エストシラント、デュロと言った既知の重要拠点の他に、内陸の、アルーニ、パールネウスといった主要都市にもポインタが表示され、更に、アルーク、クーズ、マルタの、属領扱いとなっている3地方に赤い網掛けが入っていた。
「統括作戦本部付情報部、ロザリア・アンドロネ・ダルポッツォ空軍准将です」
マコトの言葉を受け取るようにして、ロザリアはそう名乗った。
エクスプレッセスティ共和国政府には情報を担当するセクションが3つ存在する。総統府情報総局、国防省統合作戦本部付情報部、内務省特別高等警察情報部。
総統府情報総局は海外での諜報活動がメインで、イギリスのMI6に近い。
内務省特別高等警察は、国内がメインで、諜報による情報収集も行うが、逆に海外に対しての防諜に主軸が置かれている。
そして統括作戦本部付情報部は、同様に情報収集が目的のセクションだが、軍事に関して特化した部署である。情報収集は、
総統府情報総局を頂点としてデータベースを共有していて、“船頭多くして船山に登る” を防いでいる。
「アルタラス方面ですが、パーパルディアが統治を取り戻した後、パーパルディア軍はアルタラス島に5万程度の陸上兵力と、中・小型を主軸にした戦列艦を中心にした護衛艦隊を配置しています。航空戦力も配置していますが、確認できている最新のワイバーン・オーバーロードではなく開戦来のワイバーンロードが配置されています」
「うーん……どういう事? フェンの最大動員数が20万前後と推定されていたわよね?」
エミリアが、首を傾げるようにしながら問いかけた。
「はい。これはおそらく我が軍がアルタラス島に戦略的価値を見出していないことを、薄々あちらも解っているのでしょう」
「まぁ、実際、“占領”する気はなかったからねぇ……」
ロザリアの説明に、マコトが、苦笑しながら付け加えるように言う。
「変な話、アルタラス・レジスタンスの蜂起が成功していたとすると、こっちはシーレーン確保で苦労していたし」
元々は大陸国家であるエクスプレッセスティの軍備は陸軍優先で、陸軍については経済規模が遥かに大きい日本並みであるのに対し、海軍は、戦闘艦は新造の駆逐艦8隻、中古の駆逐艦6隻、フリゲート3隻、コルベット9隻、巡視船改装の護衛艦9隻、潜水艦6隻と、ノリで買っちゃった空母1隻、と、海自に比べるとだいぶ小さい。それでも転移前では、周囲では最強級だったのだが。
パーパルディア海軍を相手にする場合、その数が問題になる。個艦の戦闘能力、大きさをガン無視すれば、数で勝負するとエクスプレッセスティ1に対してパーパルディア20くらいにもなってしまう。
「マコト」
エミリアはそう言って、口の端で指を摘むようにして、その反対側の端に引っ張る仕種をした。
「それは本意ではなかったとは言っても、現実に見捨てたのと同じなんだから、迂闊なことを言ってメディアに嗅ぎつけられたら厄介よ」
「へーい……」
エミリアが、語気は強くないが叱責するように言うと、マコトは気まずそうに頭を屈めた。
「続けて」
「はい」
エミリアが促すと、ロザリアの説明が続く。
「パーパルディア軍は首都のエストシラントと、工業都市デュロの防衛のために兵力を集めています」
デュロは先日、エクスプレッセスティ軍による空爆が行われたが、工場地帯のダメージは深刻ではあるものの、完全に壊滅したという程でもない。
「これは、総統府情報総局の結果とも一致します」
ロザリアの隣にマリーナが立ち、そう言った。
そして、ロザリアが更に続けて説明する。
「ただ、その結果、属領から兵力を引き抜いていることが問題なんです」
「それがなんの…………」
エミリアは、ロザリアの説明に不思議そうに訊こうとしたが、途中である事に思いあたり、戯け混じりの苦笑を浮かべた。
「…………リーム王国ね」
「はい」
ロザリア、それにマリーナも困ったように苦笑する。
「この前大分強く釘を指しといたはずだけど、それでもやるつもり?」
「はい」
エミリアが真剣な表情に戻って訊ねると、ロザリアも表情を引き締め直して答える。
「パーパルディアとの国境線の、内陸側に兵力を集めつつあります。それに────」
ロザリアは指示棒を使い、網掛けされた3つの属領を示した。
「クーズ、アルーク、マルタ、この3つの属領で、叛乱を唆す行動をしていることが判明しています」
「どーしてもやる気ってわけね」
エミリアは、不快感を示しつつも、呆れたような口調でそう言って、軽くため息を
「この前の録音は?」
「きちんと保存してあります」
エミリアが問いかけると、ハンナがそう答えた。
「国境線越えたら、ヒルキガに攻撃していいわよ」
「攻撃手段が限られるけど…………」
エミリアが腕組みしながら言うと、マコトが少し焦ったように言う。
「市街地に当たらなきゃいいわよ」
「巡航ミサイルを?」
「許可します」
マコトに対して、エミリアは苛立ち半分呆れ半分といった様子で、そう言った。
「情報部からの報告は以上になります」
ロザリアがそう言うと、エミリアの隣りに座っていたマコトが立ち上がり、ロザリアから指示棒を受け取った。
「それでは、今後の作戦について、国防省の案を説明します」
マコトは、口調を整えてそう言った。
「現在、戦線は言わば膠着状態にありますが、先程の説明にありました通り、リームがパーパルディアに対して領土的野心を抱いて越境する可能性が高くなった現在、この状態の継続は好ましくありません。なので、この際一気にパーパルディア皇国の継戦意志を挫きます」
「大規模作戦であるということは想像できるけど……一体どこを?」
エミリアが怪訝そうな顔をする。
「パーパルディア国民、皇族、指導者層、すべてに我が国、我が軍との戦闘が無謀である事、国家の存続には降伏を受け入れざるを得ないと理解させる事が目的となります」
マコトは、些か険しさを伴った様子で説明する。
「ちょっと待って……まさか、それって…………」
エミリアがだいたいの想像がついたところで、息を飲むようにして声を出す。
「はい」
マコトは、そう言って作戦目標を示した。
「エストシラント近郊に強襲揚陸を実施します!!」
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)