「クリスマス……というのは、なかなか興味深いものだな」
ロウリア連合王国、王都ジン・ハーク。
王城。
イルミネーションが仕掛けられたテラスで、ルセリアはエクスプレッセスティで売られていたという、この祭りに向けた衣装を身に纏っていた。
「元々はある宗教の聖人の生誕祭だったとのことですが、エクスプレッセスティの転移前の世界では、一般化した行事になっていたようです」
傍らにいたマオスが、そう説明した。
「彼の国────彼女らの国は、古典的な宗教とは相性が悪いと言っていたが、 ……まぁ普段からして面白ければそれでいいという国民性のようだからな」
ルセリアは、苦笑しながらそう言った。
「しかしなんだな……この格好は、ちと寒いな……」
「ですな。季節を考えますともう少し暖のとれる格好の方が良さそうだとは思います」
ルセリアの言葉に、マオスが同意しつつそう言った。
「まぁ、冷えて風邪などひかぬ程度に堪能しておくか」
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759228670718493002
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759229162878103899
エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。
総統府、総統執務室。
「マリーナ」
少し、苛立ったような呆れたような様子のエミリアが、情報総局々長のマリーナを呼んで言う。
「急ぎじゃないけど、ルセリア陛下にこのサンタビキニ贈ったの、誰だか調査して」
「了解しました」
マリーナは応答しつつ、自身も軽くため息を吐いた。
露出の高いサンタコスは、エクスプレッセスティの国柄に合致しているというのもあるが、そもそもは南半球に位置したエクスプレッセスティにとって、元々クリスマスは
パーパルディア皇国、皇都エストシラント。
皇宮パラディス城、皇帝ルディアスの居室。
夕刻、公務の時間が終わり、ルディアスがそこに戻ってくる。
────ヒュウ…………
夜風が入り込んでくる感覚に、ルディアスは
ルディアスは表情を険しくしつつ、同じように机に置かれた封書を手に取った。
『親愛なるパーパルディア皇帝ルディアス陛下。差し出がましくも老婆心から伝えさせていただきます。北東の悪童が悪戯を企んでいる様子。そちらにも注意を払うよう進言致します。なお、この書簡の内容が、我が国の軍事作戦を円滑に進める為の計略ではないことを示すため、我が軍も近日中に大規模な作戦を実行することを明かしておきます。エクスプレッセスティ共和国総統府情報総局々長マリーナ・ボロティン』
明らかに印刷でそう書かれた本文の後に、
『ご所望になられた資料、近日中にお届けします。シーマ・ルガッハ』
と、書簡の下の端に、ペンで書いたとは思えない
ルディアスは、その走り書きを読んで唇の端に一瞬笑みを作った後、魔話機に向かう。受話器を上げて、交換呼び出し用のハンドルを回した。
「軍務局に繋いでくれ」
ルディアスが言い、軍務局との回線が繋がった。
『陛下、如何なされましたでしょうか?』
回線越しに、アルデの声が聞こえてくる。戦時下と言うこともあって、アルデは軍務局で寝泊まりするのが常態化していた。
「これから登城できるか?」
『はっ、陛下のご命令とあらばすぐに!』
「よし。だがその前に、デュロとアルーク、クーズの駐屯皇軍に警戒態勢を厳にするよう指示してくれ」
『ハッ? デュロは解りますが、アルークとクーズは、エクスプレッセスティ軍が攻撃するにしてはかなり内陸のようですが……』
「いやエクスプレッセスティではない。“北東の悪童”だ」
不思議そうな口調で聞き返してくるアルデに、ルディアスはそう言った。
『! そう言うことでありますか。了解しました』
その言い回しで察したらしく、アルデはそう言った。
『それでは、今から2時間以内に』
「頼んだぞ」
エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。
停止中の国営CSテレビ放送と共有している公共ストリーム放送のスタジオ。
「それでは、只今より『北ロデニウス戦争を振り返る』と題しまして、お招きした皆さんに語っていただきたいと思います。その前に、まずは皆さんのご紹介します」
扇情的な衣装を着たアナウンサーがそう言うと、カメラは円卓についたゲストの方を向く。
「まず、北ロデニウス戦争ではクワ・トイネ方面派遣軍指揮官を務められたルイーゼ・ホフマン将軍」
「よろしくお願いします」
軍の礼装を着けたルイーゼが、机の上で手を組んだ姿勢で、静かにそう言って、軽く一礼した。
「それから、ジン・ハークでの戦闘に参加されたエリカ・シュミット少佐」
「戦車は女の浪漫! 来たれ若人よ! エリカです。よろしく」
同じく礼装姿ながら、ルイーゼとは対象的にガッツポーズを見せてから、手を振りながらフランクな様子でそう言った。
「当時は第21独立飛行中隊に少尉として参加していました、ティンティン・マリー・ゲン中尉」
「あのさそこ強調するのわざとだよね? だよね!?」
マリーは、アナウンサーの方に戯け混じりの睨むような表情を向けてそう言ってから、顔を正面に戻して、一礼した。
「変わりまして、当時はロウリア王国王都騎士団の団長、現在はロウリア連合王国王立軍総司令官のパタジン将軍」
「よろしくお願いします」
パタジンは緊張した面持ちで、そう言って一礼した。
「それから、当時は王都騎士団重装歩兵に所属しておられました、現・ロウリア王立陸軍教練総隊の長であられるスワウロ氏」
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。よろしくお願いします」
スワウロは、椅子に座ったままながら、姿勢を正して一礼した。
「なおスワウロ氏は既婚者ですので、映像配信で御覧の方々は変な気を起こさないように」
アナウンサーがそう言うと、スワウロが軽く赤面した。
「そして、ロウリア王立軍特別竜騎教練隊のターナケイン隊長。当時は第2竜騎士団に所属しておられました」
「よろしくお願いします」
真面目そうではあるが、パタジンやスワウロと比べると、少しとっつきやすそうな様子で言った。
「それでは、今回のテーマについて、早速語っていただきたいと思いますが、まずはルイーゼ将軍からお願い致します」
「はい。そうですね……────総論的に言わせていただきますと、緒戦のクワ・トイネ領内での戦闘は、ほぼこちらの想定通りの戦闘の推移でしたが、ロウリア領内に入ってからは、厳しい戦いだったという印象でした」
「そうなのですか?」
ルイーゼが言うと、パタジンが意外そうにする。
「我々としては、神がかりの能力を持つ軍隊に一蹴された、という認識です。実際、損害もこちらの方が遥かに多いですし……」
パタジンは、一般の放送に乗ることを配慮して言葉を選びつつ、そう言った。
「結果論で数字だけを比べますと、そうなりますが……────」
ルイーゼは、微かに苦笑する。
「戦争においては、戦略上、損害が少ないに越したことはありませんが、評価は作戦目標を達成したかどうかが最も重要になります」
「つまり、エクスプレッセスティ軍にとって、ロウリアでの戦闘は思い通りに進んだわけではないという事ですね?」
パタジンが、手振り混じりに問いかけるように言う。
「はい。我が軍は無用の犠牲を抑えるために、ジン・ハークへの電撃戦を行ったわけですが……────簡単に言ってしまえば、我が軍は貴国軍を“舐めていた”と、これに尽きるでしょう」
「始めの躓きは、スワウロ氏の盾ですね」
ルイーゼに続けて、エリカがそう言った。
「あの盾が……ですか」
スワウロが、少し目を広げて言う。
「はい。我々はクワ・トイネ領内での戦闘で、ロウリア王国軍の装備水準を見極めたつもりで、ロウリア領内での戦闘も、それに合わせた装備で逆侵攻の準備をしていたんです」
エリカが説明する。
「我が軍は、中口径の機関砲弾として20mm弾を使用しています。ロウリアでの戦闘には、“ロウリアには我が国の水準の装甲材がない”という前提で装備をしていました。20mm弾はその前提で、高威力の徹甲弾、装甲を貫くための弾丸ですね、これを用意していなかったんです」
「でもそれだと、結局、エクスプレッセスティ軍は余裕があったってことですよね……」
ターナケインが言う。
「自分は攻撃ヘリを1機落とした事になっていますが、それも新型があって、性能はかなり見劣りしたものだって言う……」
「いや、それは違うぞ」
ターナケインの塞ぐような言い方に、パタジンが反論するように言う。
「作戦立案と作戦指揮は、想定されるすべてのリスクを考慮するものだ。徹甲弾の不備や、こちらの竜騎隊に対抗する戦闘機がない状態で攻撃ヘリを飛ばした点は、明らかに軍指導層の不手際だ」
「その通りです。さすがパタジン将軍ですね」
ルイーゼがすかさずといった感じで言う。
「我々はクワ・トイネ領内での戦闘と、ロウリア軍の“見てくれ”で、過小評価していたわけです。クワ・トイネとの交流でロデニウス大陸に音声通話可能な通信装置があると解っていたにも関わらずに、です」
「ヘリにしても、新型だからって空中戦に強いわけじゃないですからね。元々ヘリコプター自体が空対空の近接戦闘をするのに向いてないんです」
マリーが、苦笑気味の表情で言う。
「敵に航空戦力があると解っていたのだから、戦闘機は使えないにしても自衛用の空対空ミサイルを装備して行く必要があったのを怠ったわけです。それに、ターナケイン氏の戦術も見事でしたし」
「俺の……あ、いえ、自分の、ですか?」
マリーの言葉に、ターナケインが意外そうに聞き返す。
「我が軍は空中警戒装置として、電波の反射で探知するレーダーを使うのですが、超低空は地表や建物、海面で電波が乱反射するので、探知できない場合もあるんですよ」
ルイーゼが苦笑しながら言う。
「悪路走破性の高い車両に乗る程度の対空警戒レーダーだと、アンテナの高さも限られるので、ワイバーンならではの超低空飛行は引っかかりにくいんです。空中早期警戒機……上空から高性能なレーダーで監視する航空機なら探知できますが、あの時はそれも飛ばしていませんでしたし」
「それも“過小評価からくる侮り”ということですね?」
「そうです」
スワウロの問いかけるような言葉に、ルイーゼが答えた。
「何より私達の誤算はロウリア王都騎士団の“士気の高さ”です。スワウロ氏の盾が20mm弾を防いだのを見て、犠牲を厭わず包囲を開始したことが、我が軍の作戦を狂わせたのです」
「それで疑問に思っていたんですが……」
ルイーゼの言葉に、スワウロが不思議そうに眉を顰めた表情で問いかける。
「戦車は120mm砲がありますよね? あれであれば私を攻撃するのは容易かったのでは?」
「弾数の問題ですよ」
エリカが答える。
「我々の戦車の自動装填装置には、即応弾が22発しか装弾されていません。その状況で、散開した騎兵部隊が数の優位で包囲を開始したわけですから……」
「と、言うことは、魔導兵器を前提に、重装歩兵で正面を引き付けての散開攻撃による魔力切れを狙った作戦は……────」
「はい、的外れではありません。むしろロウリア軍の装備水準から言えば最適解です」
「砲弾だけではなく、戦車は油……燃料もドカ食いしますから……」
エリカの答えに、重ねるように問いかけたパタジンに対し、ルイーゼが答え、エリカが付け加えた。
「これらの補給が必須ですが、包囲されてしまうと、輸送部隊が攻撃に晒される事になります。輸送用の車両は頑丈と言っても、ロウリア軍でも破壊できないほど頑丈ではありません。ましてやロウリアには魔導師がいたわけですから……」
「そうか……爆発性、引火性のある物資を載せた荷車を魔導師部隊が攻撃したら……」
「軽く大惨事ですね……」
ルイーズの説明を聞いて、パタジンが少し考えるようにしながら言うと、エリカが戯け混じりの苦笑でそう言った。
「ロウリア王都騎士団の戦いぶりは素晴らしかったですよ。対応の柔軟性、高い士気、 ……変な話ですが、これで装備水準がパーパルディア並みだったら、ジン・ハーク作戦は失敗していたかも知れません」
「勝者にそう言われるのは、どこか気恥ずかしさもありますね」
ルイーゼの言葉に、パタジンが照れくさそうに苦笑した。
「あとはそうですね、今すぐどうこうというわけではないですが、我が国とロウリアが共有するだろう懸念点ですね」
「そんな物がありましたか?」
ルイーゼの発言に、パタジンが意外そうに言う。
「スワウロ氏の盾を、補修する事を条件に預からせていただきましたが、調査の結果、あの盾の主要構成材である合金は、我が国ではまだ再現できない事が判明したのです」
「エッ!?」
スワウロが短く声を出す。パタジンとターナケインも驚愕の表情になった。
「エクスプレッセスティでも生産不可能な素材でできている……と?」
パタジンが、ルイーゼを見て問いかける。
「はい。えっと、あの盾そのものはヒビ割れの部分を別の素材で補うことで盾としての抗堪性を保つことができますが、同じものを製造できるかと言うと不可能です。成分自体は解析済みですが、あの純度で製造することは……────我が国だけではなく、我々はあれを造れるだろう国を、転移前の1ヶ国しか知りません」
ルイーゼが、一気に説明した。
「あれは
スワウロが説明し、問いかけた。スワウロだけではなく、ターナケインも信じられないような表情をしている。
「推測から言うとそのようになります。また、トーパを襲撃した魔王も、魔法帝国に由来があると、魔王ノスグーラは派遣部隊の
「『世界に我ら復活せし時、世界は再び我らに平伏す』……魔法帝国の復活が近い将来だとしたら、確かに考えなければならない問題かも知れません」
ルイーゼの言葉に、パタジンが、古代魔法帝国が
「エクスプレッセスティの工業体系に、我が国やクワ・トイネの魔法学を取り込んだのは……」
「はい。我が国やムーの科学技術
パタジンの発言に、ルイーゼがそう答えた。
「本来であれば、国力を戦争に費やしている場合ではないのですが……」
「
ルイーゼが少し言いにくそうな口調で言うと、パタジンもまた、同じような口調でそう言った。
「────と、まだいくらか議題が続きそうですが、放送時間が
スタジオの音声がフェードアウトし、別スタジオのアナウンサーの映像と音声が被さってきた。
「ストリーミングで御覧の皆様には、後ほど完全版をお届けいたします。よろしくね」
この番組は、インターネット網によるストリーミング配信と合わせて、国内FM・VHF地上波ラジオ放送、国際SSB(AMの亜種で、対称になる搬送波の片側を取り除いたもの)・
レミールの処遇は……
-
原作通り
-
総統閣下のわからせ棒
-
行方知れず(故意)