フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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強襲! エストシラント Part.I

 パーパルディア皇国、皇都エストシラント、────

 エストシラントは、繁華街の大通りから、平民の住宅街に至るまで、皇都を脱出しようとする皇都民で阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 パーパルディアの力の象徴であり、皇都の空の守りである飛竜隊が ──── 両手の指より僅かに多い程度の数の、敵国の“飛行機械”により、一方的に屠られた。

 皇宮に繋がる大通りの広場では、奇妙な沈黙が支配していた。 ──── そこへ、20mm機銃弾で騎乗兵諸共血と肉の塊と化したワイバーン・オーバーロードが、街の一角に落下した。

「うわ、ぁあぁぁぁぁぁっ!!」

 それがきっかけとなり、群衆にパニックが発生した。

 この時、『ヴァルキュリア』の搭載機が、皇都軍基地に攻撃を開始したところだった。

 誰も彼もが、軍基地からは離れた方へと逃げようと、雪崩を打って走り始め、転げる。

「軍基地の塔が!!」

 叫び声が上がる。

 スクルド小隊の攻撃により、軍基地の塔が倒壊していく。

「まだ来るぞ!!」

 叫び声が上がる。

 ツマンスキーR-29BS-300ターボジェットエンジンの爆音が、皇都の空を切り裂く。見上げると、ゴーマ空港から飛来したMiG-23GEN、それにターボファンエンジンのMiG-29GEが、皇都の空へ侵入してくる。

 この時、空母隊の基地攻撃の最中(さなか)になんとか離陸したワイバーンロード隊は、既に『ミーティア』AAMでほとんどが撃墜されていた。

 それに続いて、Su-22UGE・8機とBr-1050A・16機からなる攻撃隊が侵入してくる。

 

「敵地竜群確認。空母隊のマークの通り!」

 シャルリーンがウェポンアシスタント席で声に出す。

「2航過でバラまく!」

「了解!!」

 ノリコの言葉に、シャルリーンが返答する。

 翼の下にはCRV7ロケット弾の5連装ディスペンサー4基が搭載されていた。

 ノリコの視界の先で、ヘッドアップディスプレイに照準リングが表示される。

 その中に数頭の地竜を確認すると、ノリコはトリガーボタンを押し込む。

 外翼の2基のディスペンサーから10発のロケットが発射される。地竜は、防御力のある甲羅の部分ですら、CRV7の高威力榴弾の破壊力に耐えられず、叩き割られ、肉塊に変えられていく。

 地竜舎を攻撃したBr-1050Aは、低空で旋回し、再び地竜舎へ反対側から機首を向ける。

 地竜兵や厩務員が逃げ惑うところへ、Br-1050Aから内翼2基のロケット弾が発射された。

 空母隊の爆撃によって既に煙を上げている兵舎群へ、Su-22UGEが追撃の爆弾を投下していく。96発もの250kg爆弾が投下され、兵舎が薙ぎ払われていく。

 

 皇都がパニックに包まれる中、カイオスは第3外務局から自宅へと馬を駆けさせていた。

 ──皇都への本格的な攻撃……エクスプレッセスティはこの戦争への終結へ向けて大きく動き出している……

 馬を走らせながら、カイオスは逡巡する。

 ──奇妙な話だ。

 カイオスは思う。思惑に多少の差異はあるだろうが、現状のパーパルディアを作り変える必要がある、その点ではパーパルディアの国主であるルディアスと、エクスプレッセスティ共和国が一致している。それに対する抵抗勢力となっているのは、パーパルディアの既得権益の受益者なのだ。

 ──兎に角……一刻も早く、こちらからエクスプレッセスティと連絡を取らなければ……

 

 キィイィィィィン……ドッゴォオォォォォン!!

 ターボジェットエンジンの甲高い爆音が接近してきたかと思うと、直上で爆発するような音が響いた。

「ひぃっ!!」

 追い詰められるように寝室の(すみ)で縮こまっていたレミールは、離脱するSu-22UGEから放たれた音速突破の衝撃波の音を聞き、竦み上がる。

 皇都が攻撃を受けている。それも、過日の奇襲攻撃の様なものではない。エクスプレッセスティ軍は、より大きな力を以って、軍基地を攻撃している。

『レミールを探せ!!』

 夢の中での光景────エクスプレッセスティの軍が、国民が ──── 加えて、パーパルディアの皇国民が、何も知らずに、或いは知って尚敵わぬ敵に挑まされた軍人が、怨嗟の声を上げながら、レミールを探し、吊るし上げようとしている様が、脳裏に再生される。

「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だぁっ!!」

 レミールは、体裁も何もなく、抱えていた枕を振り回しながら泣き叫んでいた。

 

 

 エストシラント南東沖、パーパルディア皇国海軍第3艦隊。

 旗艦『ディオス』。パーパルディア皇国海軍最大の150門級戦列艦で、同型は3隻しか建造されておらず、しかも2隻は先日の奇襲攻撃で破壊され、現状は唯一の存在になってしまった。

 エクスプレッセスティ軍の第1波攻撃──── 空母隊が来襲した時点で、海軍司令部は第3艦隊に緊急出港、南東海域に展開を命令していた。

 空襲を受けた軍基地は主に陸軍の設備であり、この時点では軍港とそれに隣接する海軍司令部建屋は、桟橋の一部が以前の奇襲攻撃後の仮復旧状態であること以外は、無事だった。

 大小合わせて180隻もの戦列艦、それに20隻もの竜母が属し、今、海上に展開している。今までであれば、第3文明圏最強の海軍と、壮観な光景だったが、今は木っ端が浮いているだけのように見えるほど、頼りない存在になっていた。

 ──エクスプレッセスティ軍には、 “対艦ミサイル” という遠隔攻撃手段がある……

 第3艦隊指揮官のアルカオンは、頭の中でエクスプレッセスティ艦隊にどう立ち向かうか、思慮を続けていた。

 第3外務局が収集した情報で、エクスプレッセスティ海軍艦にR-360K『ネプチューン』ミサイルが搭載されている事が判明している。そのものの詳細なスペックは伏せられているが、原型とされるソビエト連邦Kh-35の性能表に基づくと、射程は少なくとも115km以上、飛翔速度は900km/h以上。しかも2022ウクライナ・ロシア戦争におけるウクライナ軍の評価では、威力と射程の割に小型で視認による発見が困難である事、なども伝わっていた。

 これらの情報は、パーパルディア皇国軍にとって有益な情報であることには違いない。ただ、最適の行動がとれないという事が最大の問題だった。

 ──そんなものはミリシアルすら持っていない! なぜそんな国と戦争を始めた!?

 最適の行動、それは降伏だという事は、アルカオンでも ──── 誰が考えてもこれ以上ない程明白だった。

 だが、国が抗戦を選択している以上、職業軍人としてそれ以外の選択肢を考え出すしかない。

 ──こちらの射程外から敵が攻撃できるということは…………

「先制攻撃しかないな」

 敵も、自軍の竜母にあたる艦種である“航空母艦” を持っている、という情報も、アルカオン達にはもたらされていた。ただ、()()()()()()()()()()()()()では旧式小型であり ──── 全長で『ヴェロニア』の倍ほどにもなる艦のどこが小型なのかという話にもなるが ──── 搭載数は限定されている、と言う。

 通信室では、軍基地の悲惨な様相が伝わってくる発信がいくつも飛び込んできていたが、その中からアルカオンに有用な情報をなんとかピックアップしていた。

 その結果、エクスプレッセスティ軍空母『ヴァルキュリア』の推定搭載数のほとんどすべてが皇都攻撃に向かったことが解る。

 ──速度差を考慮したとしても、帰還した攻撃隊を収容して再度出撃可能になるにはまだ時間がかかるはず。

「敵艦隊を発見し、先に攻撃できればいいが……」

 アルカオンがそう呟いた時、

「報告です! 敵“飛行機械”、我が艦隊の上空を通過しています! 飛竜隊は追いつけません!!」

 スー()()ーク()()ーズ()能力を持たないMiG-29とは言え、巡航速度は850km/hと亜音速に達する。しかも燃料を節約するためにだいたい10,000m以上を飛ぶ。

 だが、アルカオンにとっては、それは充分に有用な情報だった。

「敵の“飛行機械”が飛行していった方向へ、索敵の飛竜を飛ばすのだ!」

「えっ、ですが……」

 報告に来た部下は、アルカオンの命令を聞いて、一瞬戸惑ったような声を出す。

「その方向に敵艦隊がいる! 残りの飛竜隊もすべて攻撃に上がらせろ! 詳細な位置情報は飛行中に受け取らせるのだ!」

 ──先制攻撃が可能であれば、一矢ぐらいは報いることができるかも知れない。

 パーパルディア海軍が唯一突けるだろうエクスプレッセスティ海軍のウィークポイントが数だ。エクスプレッセスティが陸軍大国であり、海軍の規模が限定的なのは、純然たる事実なのである。

「途中、敵が放ったと思われる飛翔体などがあったとしても、そのまま敵艦隊を目指せ! 敵の攻撃を防ぎ切ることは不可能だ! それよりも敵に髪の毛程でもダメージを与える事だけを考えるようにせよ! これは艦隊全体に伝達せよ!」

 アルカオンの下令を受けて、竜母部隊から360騎ものワイバーンロードが、エクスプレッセスティ艦隊の想定存在位置へ向かって飛び立つ。

 個艦の能力は高いが、数が限られるエクスプレッセスティ艦隊に損害を負わせ、継戦の意図を挫く ──── 現状のパーパルディア海軍が取り得る、次善の策だった。

 

 ────ただ、エクスプレッセスティ側も、前回のエストシラント軍港奇襲やデュロ空襲と異なり、パーパルディアとの戦争を決着させるための、最大限の戦力を投入した作戦を展開していた。

 

 エクスプレッセスティ海軍はこの作戦に、3個任務(Task)部隊(Force)を編成した。

 

 第1任務部隊:

  駆逐艦『アートミス』(ヴェネレイト級)

  駆逐艦『ファネシー』『ヴィールニィ』(ファネシー級)

  駆逐艦『ポルツィフルガール』(ポルツィフルガール級)

  駆逐艦『イシュタール』『ディアーネ』『ヘスティア』(イシュタール級)

  コルベット『ユクラニティ』『ダニーポワー』(アンドロジー級)

 第2任務部隊:

  空母『ヴァルキュリア』

  駆逐艦『ヴェネレイト』『ヴェスト』『アフロディーテ』『エクリプス』

  (すべてヴェネレイト級)

  フリゲート『クィアストーム』『エンパワメント』(クィアストーム級)

 第3任務部隊:

  揚陸母艦『セリーヌナ』

  強襲揚陸艦『クリミテーサ』『アムビリーナ』

  駆逐艦『リベラートラ』『セクスレティア』(ヴェネレイト級)

  コルベット『ビフォーリア』(準アンドロジー級)

 

 …………潜水艦と近海警備用の艦、それら以外のほぼ全力出撃である。外洋型の水上艦で本土に残されたのはヴェネレイト級8番艦『エレガンディア』(“Elegandea”)と、クィアストーム級『ライバーシー』のみ。

 さらに空軍も、Su-22UGE装備の攻撃飛行隊2個(16×2)をゴーマ空港に展開し、この内エストシラント軍基地攻撃に向かった2個小隊8機以外は対艦攻撃で待機していた。Su-22UGEは1個戦闘偵察小隊4機も展開し、エストシラント近海の索敵に当たっている。

 エストシラント強襲作戦における作戦意図は上陸するだけではなく、その上陸部隊を迎撃するパーパルディア海軍を殲滅し、エクスプレッセスティに対する攻撃手段の一切を奪うことにあった。

 ──こちらの情報総局の接触に対する反応や、あちらの第3外務局の接触を考えると、皇帝とその周囲は、ただ戦力差から勝ち目がないだけではなく、パーパルディアの国内事情的にも継戦が不可能であると判断している────

 エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。

 総統府、総統執務室。

 エミリアは、執務席の椅子に座り、机に飲み干した『リポビタンN3』の空き瓶を優に二桁並べながら、腕を組み、軽く目を閉じた状態で、右手の指で左上腕部をトン、トンと叩いている。 ──── 「指で叩く仕種」という点では、ある人物と妙な共通点があるとも言える。

 ──問題はその間にある官僚組織……これらに現状を …… エク()プレッセ()ティとの戦争だけではなく、パーパルディアが瀕している危機をより広範囲に認識させる必要がある……その為に、パーパルディア軍には犠牲になってもらう……か……

 皮肉なことに、これはパーパルディア、ことレミールがとる手段の見てくれだけを変えたものになっている。パーパルディア皇国軍推定70~700万の犠牲で、総人口約7000万人のパーパルディア皇国に自国の過ちを受け入れさせる。

 海軍の部隊編成もそう言う事だ。エクスプレッセスティ側も()()()()()は覚悟している。なので矢面に立つ1(第1)T(任務)F(部隊)は、旗艦を除いて価値が低い中古艦で固めてあるのである。

 ──結局政治家とアイドル(芸能人)のやることは、どちらもこちらも見てくれがキレイかどうかの差だけ、か。

 エミリアが、そこまで胸中で呟いた時。

 ビーッ

 緊急のコール音が鳴り、メインディスプレイに留められた赤色灯が点滅を始めた。

 エミリアが目を開くと、左側のミニディスプレイに、ハンナ外務省長官の姿が表示された。

「何か起きた?」

『緊急を使うまでもないかとも思ったのですが……』

 エミリアが問いかけると、画面の向こうのハンナは、硬い表情でそう始めた。

「パーパルディア絡みでしょ? なら、構わないわよ」

『解りました。先程────』

 

 その数十分前。

 パーパルディア皇国、皇都エストシラント。

 ────カイオスの私邸。

 自宅に帰り着いたカイオスは、馬をグルーム(私邸にいる馬の世話係)に任せると、裏庭の倉庫に向かう。

「これからここで、少しけたたましい音がするが、音と多少の焦げた匂いだけなら危険はないので近づくな」

 使用人にそう言ってから、カイオスは倉庫の中に入る。

 奥に、布の被せられた直方体の物体が置かれている。カイオスが布をばっと剥ぐように取ると、ヤンマーYDG250-E空冷ディーゼル発電機 ──── 日本国内では生産・販売終了品 ──── が姿を表す。

 カイオスはそれを倉庫の入り口の近くまで移動される。いかにもパソコンで即製しましたという手順書に沿って、燃料コックを開き、イグニッションスイッチを倒す。

 プリヤ達の説明では、バッテリー始動はあてにならないかもしれない、と言われていたが、スイッチを “始動” に押し進めると、ギュギュン!! とセルモーターが跳ねるような音を立てて、エンジンが始動した。

「…………よし」

 発電機のエンジンが調子良く回っているのを確認してから、カイオスは邸宅の中に入り、書斎の隠し部屋へと向かった。

 無線機の置かれている机に向かう。通電ランプ付きタップの通電ランプが点灯していることを確認して、電源装置のスイッチを入れた。無線機の液晶表示が点灯する。

 カイオスはスピーカーマイクのスイッチを押し込む。

「J9ZB、応答願います、J9ZB、こちらはJ9BY……」

 手順書の記述を確認するまでもなく、暗記してしまっていたコール(呼出)サイン(符号)を呼びかける。

 エクスプレッセスティはI(国際電)T(気通)U(信連合)に加盟する際、無線通信・放送局用コールサインの国・地域別プリ()()クス()に未割り当ての「J9」を要望して取得した。

 ……と、説明している間に、2分ほどが経過したが、無線機からカイオスの呼びかけに答える声は返ってこない。

「そ、そんな馬鹿な! こ、こんな時に故障など……!!」

 カイオスは取り乱し、マイクを片手に握ったまま手順書を再確認する。確認できる限り異常はない。周波数も変わっていない。

『我が国の機械なので────と、言えたらいいんですけど、ここは何より信用できる日本製の未使用品を用意しました』

 プリヤが、苦笑しつつも自信ありげに言った言葉が蘇るが、今はそれに裏切られたという絶望感に襲われた。

「そ、そんな、この場面で……」

 カイオスは脱力し、マイクを取り落とした。

 すると────

『J9BY、応答してください、こちらはJ9ZB。J9BY、こちらはJ9ZB、エクスプレッセスティ共和国内務省非常事態局エナジポリス送受信所。J9BY、カイオスさん、ですよね? 応答してください!』

「…………え?」

『無音送信……P(Push)T(to)T(Talk)スイッチ押しっぱなしなのかな……J9BY、聞こえていますか?』

 ──そ、そう言う構造だったのか……

 カイオスは、相手に見えるはずもないが赤面しつつ、

「J9BY、カイオス局です」

 と、改めて相手に呼びかけた。

 





『Gleam ray of hope』初出時は「ケロシンエンジン」と書いたのだけど、ケロシンエンジンは始動の手順が色々煩雑だなと思い、ディーゼルエンジンに変更しました。

それとエクスプレッセスティ海軍に3隻(バステット級2隻-元ウクライナ海軍1241.1型と準アンドロジー級-元ウクライナ海軍1124.2型)が追加されました。
ちなみに1124.2計画型は1124計画型に対して前方砲がついています。うん欲しがるよね。

あと蛇足:今回命名したヴェネレイト級7番艦(IHI製)は『セクスレティア』の綴は“ Cexletia”(解る人には解る)。

エミリアのドーピング剤が飲んでいる『リポビタンN3』はエクスプレッセスティ国内商標。オリジナルはこれ


評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2

レミールの処遇は……

  • 原作通り
  • 総統閣下のわからせ棒
  • 行方知れず(故意)
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