本作は基本的にコミカライズ版準拠ですので、「フィシャヌス級」は大型竜母となっています。
エストシラント作戦第1任務部隊、旗艦『アートミス』CIC。
「ミツルギ4より入電中。敵艦隊発見」
通信オペレーターが報告する。
同時に、
「ヒューゥ♪」
火器管制担当オペレーターが、その数の多さを見て口笛を鳴らした。
「さて、どれからいきます?」
「言い方」
気楽な口調で言うオペレーターを、アートミス艦長、ゲレル・メーガン・アルダン中佐が窘めた。
「…………展開の仕方から言って、水上艦ばかりの部隊みたいね」
1TF指揮官、サルナイ・エミリー・オチル少将は、眉を顰めるようにしながら言う。
ミツルギ4────戦闘偵察小隊のSu-22UGEから発された情報では、相手は直線状の陣形を採っている。
パーパルディア皇国海軍の戦術がどうなっているかは、完全には把握していなかったが、地球の定石を当てはめるならば、空母の周囲を護衛の艦艇が囲むようにするはずだ。
「でも……とりあえず発射管を空けておいた方がいいかしらね」
サルナイは、呟くように言ってから、
「全艦に通達、SSM射撃」
「了解」
通信オペレーターが応答する。
「本艦もSSM発射」
「了解、SSM発射」
ゲレルの指示に、火器管制オペレーターがコンソールを操作する。
アートミスの可変角ミサイルキャニスターから、装填されていたR-360K 『ネプチューン』 ミサイルが、ロケットブースターの炎の尾を曳きながら飛び出す。高度と速度が一定に達したところでブースターを切り離し、メインサステナーのMS400ターボファンエンジンの推進力で、与えられた標的へ向かっていく。
他の艦からも、同様にR-360Kミサイルが発射される。サルナイの 「発射管を空ける」 とは、アートミス自身よりも、R-360Kと艦隊防空ミサイルのアスター30 Block1 NTが可変角発射機を共有している中古艦組を意識したものだ。
ヴィールニィ。
「次発SAM、再装填急げ!」
艦内インカム越しに、タホー・エリザベス・スミスの指示が飛ぶ。
VLSは一度の作戦で1セルあたり1回しか装填できないのに対し、エクスプレッセスティ海軍型(つーても開発元ウクライナのルーチ設計局なんだが)可変角ミサイル発射機は、自動装填装置が取り付けられている。
全行程が動力装置で行われるが、緊締時に不良が発生する可能性がそこそこあるために、甲板員が付き添う。
キャニスターが垂直状態になり、尾栓が自動で開くと、同時に甲板下の弾倉の防爆シャッターが開き、アスター30 Block1 NTミサイルがせり出してきてキャニスター内に収められる。自動緊締装置がミサイルを固定すると、尾栓とシャッターが締まる。それを確認して、2人の甲板員は艦内に退避する。
パーパルディア海軍第3艦隊麾下の竜母『ワーグナー』…… エクスプレッセスティ側が、この艦の名前を知っていたら万難を排して真っ先にR-360Kをブチ込んでいただろう ──── を発った竜騎士ラカミは、敵の “飛行機械” が飛び去った方角へ向かっていた。
ラカミは、偵察の為に他の24騎と共に先行していたが、336騎もの攻撃隊が続いていると聞いて、ピリピリした緊張が薄れ、むしろ口元が綻ぶような思いをしていた。
──総数360騎の出撃なんて、史上空前だ……観艦式でもこれほどのことはないぞ!
ラカミは、パーパルディア軍全体に漂っていた頽廃的な空気から解放され、自信を取り戻すかのように興奮していた。
──これなら、一矢報いるどころか、殲滅できるかもしれない。
ラカミがそう感じた時、
ヒュンッ……
と、至近距離、自分達のすぐ下を、自分達とは反対方向に何かが通過していった事に気がついた。
それがひとつであれば、ラカミは見落としていただろう。 ──── ターボジェットエンジンの西側型対艦ミサイルと異なり、R-360Kはターボファンエンジンを使っている為、飛翔中に燃焼炎が目立たない。 ──── だが、それが何十と続けざまに起こると、不自然なものと気がつく。
「3艦隊司令部!!」
ラカミは、すかさず魔信で報告する。
「今、敵のものと思しき飛翔体が我が艦隊に向かっているのを発見した! 数、少なくとも10を超える!」
『了解。飛竜隊は飛翔体に対処する必要なし。そのまま敵艦隊攻撃に向かえ』
艦隊司令部からの返答は、どこか無機質なように感じられた。
「くっ────」
その意味を理解して、ラカミは悔しさから声を漏らす。
「敵の攻撃を防ぐことはできない」、司令部の指示はそういう事だ。
──こうなれば……どうあってもエクスプレッセスティ艦隊への攻撃を成功させなければ!
ラカミは強く決意をし、睨むように前方を向いた。
アートミスCIC。
「グレイス3より入電中。敵艦隊の方角からUnknown多数接近中」
通信オペレーターの報告と共に、C4Iディスプレイに多数の “Unknown” が表示される。
「はーっ……ノラから聞いてたけど、ホント第二次大戦みたいね……」
表示を見て、ゲレルは、ロデニウス北東沖海戦で実際、ロウリア軍の200ものワイバーンを迎撃した『アフロディーテ』のノラ・アンナ・ジャパロヴァ艦長の名前と共に、感嘆と呆れの混ざった声を発した。
「!」
すべての“Unknown”が、 “Enemy” 表示に変わった。
3つの部隊は、アイサル・ソーニャ・バイタナ中将が総指揮官となり、
そのヴァルキュリアのC4Iシステムで “Unknown” を “Enemy” と設定したため、データ・リンクを通じて、他の艦にも反映されたわけである。
その“Enemy”の表示のうち、本隊と思われる大群の東側から南側にかけて放射状に、いくつかの小集団が先行している。そして、そのうちの1つが1TFに接近しつつあった。
「迎撃しますか?」
ゲレルが、指揮官のサルナイを伺うようにそう訊ねた。
「……SAMは後ろの大群に備えておいて。接近するようならCIWSとRWSで対応して。他の艦も同じ」
「了解」
サルナイの指示に、先に通信オペレーターが応答した。
「了解。CIWS、RWSスタンバイ」
「了解、CIWS、RWS、
ゲレルが復唱するように言うと、C4Iオペレーターが更に応答した。
その頃────
ディオスの艦尾楼甲板で、アルカオンは腕を組み、仁王立ちでいた。
「か、閣下…………」
不安そうな表情の部下が、アルカオンに声をかける。他にも複数の部下が、同じように当惑していた。
「ここは危険です。せめて艦内に……」
「安全な場所などあるものか」
部下の声に、アルカオンははっきりとした声でそう言った。
「敵の攻撃を防ぐことは不可能。ただ、ミサイルだけでは200隻をすべて攻撃することもできない。つまり …… どの艦が犠牲になるのかは、完全に運だと言うことだ」
アルカオンの言葉を聞いて、部下たちはゴクリ、と喉を鳴らす。
ドッ……バァアァァァァァン!!
単横陣で進む第3艦隊の、ディオスのすぐ横を並走していた120門級戦列艦『アディス』の艦首に何かが飛び込み、次の瞬間、アディスは火を吹きながら木っ端微塵になった。
「あ、あ、あ……」
先程アルカオンに声をかけた部下は、一瞬でバラバラになったアディスの方を見て、恐怖混じりに愕然としている。
ドッバ、ァアァァァン!!
それを皮切りに、艦隊のあちこちで戦列艦から
──やはり、“R-360K”には囮火は通用しないか……!!
アルカオンは、険しい表情をしたまま、己の判断を胸中で呟いた。
艦隊の何隻かは、旧式小型の戦列艦の艦首付近で篝火を焚かせ、別の大型戦列艦と舳先同士をロープで繋ぎ、遠隔で“風神の涙”を作動させて無人で航走するようにした ………… つまり、ミサイルジャマーである。
「本艦が無事なうちに本国へ伝達。『R-360Kには囮火は無効』だ」
「あ、はッ、はいっ!!」
アルカオンが指示すると、通信伝令役の兵が艦内へと駆けていく。
第3外務局が入手した資料には、フェンでの戦いに使われたと思しきAGM-119A 『ペンギン』
さらに、この時の戦いの生き残りから、「竜母のみにミサイルが命中した」事と、「炎上中の竜母に追撃が入った」事、という情報を取り出すことができた。
この為、ペンギンASMであれば、強い熱源があればそちらに引かれるのではないかと考えたのである。
だが、R-360Kや、UMAMM-1 (Kh-35)の終端誘導は、電波レーダーを使った “アクティブレーダーホーミング” であり、しかも高い耐妨害能力を持っているとされていて、囮には引っかからないだろうと言うことは、パーパルディア側でも想像はついた。
アルカオンらの想定通り、R-360Kは慣性航法による中間誘導を終了すると、自身のホーミングヘッドのレーダーで目標を見つけ、突進していく。
「想定より、少し多かったな……」
55隻の戦列艦が、敵の先制のミサイル攻撃で失われた。アルカオン達、第3艦隊司令部はこの半分程度を想定していた。
──ということは、想定よりも敵の数が多い可能性が高いな……
エクスプレッセスティ海軍の
この事から、アルカオンらはエクスプレッセスティ艦隊の規模を、空母を含む7隻程度と想定し、一度に発射可能なR-360Kミサイルは30~40発と想定していた。実際にはその1.5倍乃至2倍が発射された計算になる。
「早くも計算が崩れてきた、か」
アルカオンがそう呟いた、その直後、
「飛竜隊より通信! 『敵艦隊発見、これより攻撃に移る』」
と、通信伝令役の兵が艦尾楼甲板に上り、アルカオンに告げた。
──唯一期待できるとすれば、飛竜による飽和攻撃…… 敵の対処能力を上手く飽和させることができるか ……!?
エクスプレッセスティ海軍第1任務部隊付近、低高度。
「
魔信でそう告げて、ラカミは手綱を握って愛竜を操る。
──対艦攻撃はかなり強力だが、空の守りはそれほど硬くもないという事か?
ラカミらの定石であれば、本来、艦隊の空を守るべき “航空母艦” の姿はなく、また “戦闘機” の姿もない。
ラカミは多少、怪訝に思いつつも、闘志を研ぎ澄まし、エクスプレッセスティ艦隊の、その中でも一番厳つい大型艦に狙いを定め、急降下で突撃する。
先頭を行く、全体的にのっぺりとした
「デカい……“空母”程じゃないとは言え、こいつもフィシャヌスの1.5倍はある!!」
ラカミは、距離感が狂わないよう注意を払いながら、導力火炎弾の射撃体勢に入る。
「くらえ、化け物!!」
必殺のはずの一撃──── その一瞬前に、化け物 ──── ヴィールニィのRWS 『SIGMA20』が、くるりとラカミの方を向き、 20×102mm弾の火線を投射した。
パーパルディア軍は、皇都を易々と侵し、デュロを半壊させた “戦闘機” の能力は既に思い知っていたものの、まだ自軍が体験していない部分については、はっきりと脅威に感じていなかった。
イノスはロウリアで情報収集をしていたが、彼らの調査では、ハーク34世の捕縛による混乱期のものしか得られず、その為確度の高い情報は限られていた。
ルセリアの親政に移行すると、混乱は落ち着き国家の機能を取り戻す一方で、綱紀引締めと、パーパルディアとの関係の消極化から、特に軍事に関する情報はそれまでほど入手できなくなっていた。
実際、エクスプレッセスティ軍にBr-1050Aを見せつけられて、戦力、軍事技術力を過小評価する一端になっている。
つまり────────
「敵編隊、全機艦隊防空圏内に入りました!」
アートミスCIC。
監視担当オペレーターが、険しい声を出す。
「防空戦闘開始! 各艦、自艦の判断で敵編隊を攻撃せよ!」
「了解」
サルナイが凛として声を上げると、通信オペレーターが先ず応答する。
「了解、防空戦闘開始! 中SAM8セル発射!」
「了解!」
アートミスの背中に、8セル3列で並んだシルヴァーA50 VLSのうち1列分の扉が開き、アスター30 SAMが2段式ロケットサステナーに点火し、炎の尾を曳いて弧を描きながら、艦の進行方向へと飛翔していく。
続く8隻の可変角発射機からも、垂直状態のキャニスターからアスター30が発射される。
72発の対空ミサイルが、視界の外へ向かって飛翔していく────
「そろそろ敵艦隊の位置だぞ、洋上に注意を払え!」
エクスプレッセスティ艦隊より北西方向、およそ32海里(約60km)、洋上。
第3艦隊飛竜隊々長のダイロスが、魔信用のインカムのマイクに、麾下の飛竜隊に指示をする。
『隊長! 前方から光が!!』
「!?」
部下からの発信に、ダイロスが視線を上げると、無数の光が真正面から向かってくる。
「散開しろ! “対空ミサイル”だ!」
ダイロスは、インカム越しにそう声を上げる。
訓練された竜騎士の機敏な動きで、密集編隊を解いて散開する。
アスター30の弾頭は破片弾頭、早い話が対空用榴弾である。破砕範囲は2m。密集していなければ、高価なミサイルを浪費させられる。
『1発引き付けます! 隊長、みんな、お元気で!! さようなら!!』
1人の竜騎士は、散開後も、自分の視界内の “ミサイル” の見た目が円形のままであることに気付き、それはレーダーホーミングが自身に向いているのだと判断し、味方騎からできる限り距離を取ろうとして ──── そこへアスター30ミサイルが飛び込んだ。
「クソッ、必ず一矢報いるぞ!!」
ダイロスは、これを肯定しなければならない悔しさを感じながら、同じ思いだろう、生き残った竜騎士達に檄を飛ばした。
アートミスCIC。
「敵編隊、マーク残り254!」
監視担当オペレーターが声を上げる。
「うーん……対策されたなぁ……」
相手にスペックがある程度伝わっている以上、仕方ないとは言え、コストの割に少ないアスター30ミサイルの戦果に、サルナイは軽く頭を抱えた。
それを余所に、ゲレルが自艦のオペレーターに下令する。
「短SAM発射!」
「了解!」
火器管制担当オペレーターが応答する。
完全なステルス艦ではないものの、電波反射低減を考慮されたのっぺりとした21世紀の西側型艦体の上で、場違いなソ連型陸戦用ミサイル発射機が頭を起こす。
バッシュ━━━━ッ!!
3M9UE『クーブ』ミサイルは、開発当時の最先端だったインテグラル・ロケット・ラムジェットサステナーに点火されると、いかにもソ連型らしい、けたたましい音と派手な炎の尾を出しながら、彼方に向かって発射される。
セミアクティブレーダーホーミングのクーブは、発射した艦の誘導レーダー波の反射を捉えて、より直線的に目標へと向かっていく ──── まだ、編隊は見えない。
エクスプレッセスティ艦隊より北西方向、およそ15海里(約28km)、洋上。
「なっ!?」
ドバァンッ!!
真正面から向かってきたが故に、高速でもまだ余裕のあったアスターと異なり、クーブは眼下の広がった低い雲を突き破って唐突に現れ、あっという間に飛竜隊の編隊に飛び込み、近接信管が作動して炸裂した。
発射角からの深い飛び込みと、1960年代という、第二次世界大戦の名残と精密誘導攻撃時代の過渡期に開発されたゆえに、重量でアスターの4倍に達する弾頭の炸裂は、皮肉にもより大きな被害を、飛竜隊に強いた。
アートミスCIC。
「残り167!」
「ありゃ。クーブの方が1発辺り大きいわね……」
「両用砲高角射撃! CIWS、RWSスタンバイ!!」
『敵艦隊発見!!』
「全隊対艦攻撃体勢、突撃!」
部下の声に即答するように、ダイロスが声を上げる。
「戦場は、────戦場は、男のモノだ!!」
『ウォオォォォォォッ』
思わず吐露されたダイロスの言葉に、しかし部隊は鼓舞され、咆哮を上げて────
─────────絶望の空域へと、踏み込んだ。
ドォッ! ドォッ! ドォッ!
ドンドンドンドンドンドン……!!
Modèle 68 100mm砲、Mk110 57mm砲のそれぞれ8門が、飛竜隊に向かって火を吹く。
編隊のあちこちに穴があき、血と肉の襤褸切れとなった竜騎士が墜落していく。
「怯むなぁぁっ!! 突っ込めぇぇぇっ!!」
「CIWS、RWS起動!」
ダイロスの鼓舞とゲレルの命令が、お互い知る由もなく同時に発された。
三菱/BFA『ガーディアンスフィア』CIWSが起動し、ボール型レドームを傾かせつつ、T75 20mmリボルバーカノンを、ダイロスらの方へ向けた。
先にRWS『SIGIMA20』からミストラル近SAMが発射され、続いて、呵責のない20mm弾の射撃が浴びせられる。
「このっ……このっ、女の姿をした化け物共がぁっ!!」
ゴワァッ!!
奇跡的に、ただ1騎、ダイロスが導力火炎弾の発射に成功した。
ボボォッ!!
炎の塊が、アートミスの艦橋構造物の横に直撃し、一瞬、炎が広がった。
その光景に満足した次の瞬間、ダイロスの意識は永遠にかき消された。
「対空目標クリア!」
監視担当オペレーターが、まだ緊張の残る声を上げた。
「CIWS、RWS、停止位置に。被害確認と再装填、急げ!」
ゲレルが下令する。
「損害、まったくのゼロ……とは行かなかったか」
サルナイが、ふぅ、とため息をついた。
他の艦と異なり、ヴェネレイト級であるアートミスは電波吸収塗料が使われている。しかも、これは日本製であり、成分の中には日本でしか合成できなかったものが含まれている。友好国の協力を得て再現の努力の最中だが、見通しはまだ立っていない。
まさに
クリミテーサとアムビリーナ擬人化。 (何
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759224559562342889
クリミテーサは西側組に比べていろいろ控えめですが、
今更ですが、個人的に『日本国召喚』のテーマソングを、flairの『すばらしき新世界』で設定してたり。(何)
評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。
https://twitter.com/kaonohito2
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)