シオス西部、ゴーマ空港から北方の洋上上空。
「目標マーク!」
“680のSu-22UGE”の
「OK、攻撃開始」
第1攻撃飛行隊空中指揮官中佐であるロクサーナが、短くそう指示する。
ロクサーナが操縦する中、リリーが目標を入力し、発射を指令する。
24機のSu-22UGEの外翼と胴体下から1機4発、合計96発のUMAMM-1・
ミサイルは低高度へ降下しながら、ロシア純正のKh-35と異なり、ウクライナのMotor Sich社原設計のMS400ターボファンエンジンの推進力で、入力された目標へ向かって飛翔していく。
パーパルディア海軍第3艦隊、旗艦ディオス。
──間もなく会敵だ……
アルカオンは、胸中に重苦しさを感じながら、艦尾楼甲板の上に仁王立ちになったまま、艦の前方を睨むような目つきで見る。
飛竜隊とは、エクスプレッセスティ艦隊への攻撃開始の報告後、一切の通信が取れなくなっていた。おそらく全滅したのだろう。
──沈めるまでには至らなくとも、1・2隻ぐらいは戦線離脱させられていれば御の字だが……
アルカオンは、そう思いつつも、それが希望的観測でしかない事は自覚していた。
──敵の主砲の最大射程は17,000m……必中を期するとしても15,000m辺りから撃ってくるだろう……
アルカオンはそう判断すると、
「全艦、全速での突撃準備を整えよ」
と、下令した。
「閣下、それは……」
副官が、困惑した様子でアルカオンに向かって声を出す。
副官にも、その場に居合わせた誰にも、アルカオンが何を企図しているのか見当がついてしまった。
「全艦で一斉に突撃をかけて、敵艦隊が対応しきれないうちに彼我の距離を詰める。最悪の場合は体当たりをかける」
アルカオンは、それを口に出して説明した。
「これ以外に、我が艦隊が敵艦隊を押し留める手段はない」
「で、ですが……せめて、旗艦はいけません!」
副官は尚も食い下がる。
「旗艦が怖気づいて
アルカオンは、険しい顔で声を張り上げた。
「それに、だ、ここで変針したところで、逃げ切れるか?」
「それは……」
アルカオンが問いかけるように言うと、副官は言葉を詰まらせる。
エクスプレッセスティの主力艦はどれも30ノットを超える。比較的鈍足のヴァルキュリア、クィアストーム級、ウミノシルエット級でも24ノットは出せる。
それに対して、パーパルディア海軍の艦船は、速度が出せる竜母や、戦列艦としては新型のディオスでも15ノットがせいぜい、旧型艦だと12ノット程度だ。
だいいち、砲熕兵器の射程から逃れたところで、エクスプレッセスティ軍にはミサイルもあるし、空母搭載機による対艦攻撃もできる。
戦闘艦搭載の対水上レーダーの索敵範囲はさほど広くないが、偵察用の航空機の捜索レーダーはかなり広い範囲を探知でき、これから逃れることはまず不可能だろう。
「囮船を牽引している艦に、篝火を倒して囮船に火を放ち、ロープを切り離すように伝えろ」
「了解しました」
アルカオンの傍らに控えていた通信伝令兵が、そう
「報告します!」
入れ替わるように、別の通信伝令が艦尾楼甲板に駆け上がり、声を張り上げながらアルカオンの傍らまで来た。
「第1、第2艦隊が攻撃を受けています! 既に40隻以上の戦列艦が轟沈、竜母も沈められたか、激しく炎上しているとの事です!」
「そ、そんな馬鹿な! 敵のミサイル攻撃は我が艦隊に向けられていたはず……」
副官が、愕然とした表情で声を出す。
「航空攻撃だな」
アルカオンは、動じた様子もなく、あっさりとそう言った。
「エクスプレッセスティ空軍が、シオスにあるムーの空港を利用しているのは解っているだろう。そこから飛び立った戦闘攻撃機で襲撃したのだ」
「っ…………」
アルカオンが言うと、副官も悔しそうに、ぐっ、と手を握りしめた。
その間にも、アルカオンの命令が実行に移されていく。囮船の篝火が甲板に倒され、廃艦予定だった旧式戦列艦の甲板に炎が広がる。燃え始めた囮船は“風神の涙”を停止され、艦隊から置き去りにされていく。
「敵艦発見!!」
メインマストの檣楼で、見張員が声を張り上げる。
「全艦“風神の涙”全力! 全速で敵艦に突撃せよ!」
エクスプレッセスティ海軍、エストシラント作戦第1任務部隊。
旗艦アートミス、CIC。
「敵艦、増速しました!」
監視担当オペレーターが、声を上げる。
「全艦、必中を期して弾薬の浪費を避けつつ、自艦の判断で敵艦隊を攻撃!」
「了解!」
サルナイが下令すると、通信オペレーターが応える。
「増速! 第4戦速! こちらからも敵との間を詰める!」
ゲレル艦長が下令する。蒸気タービンへの供給蒸気量が増やされ、蒸気タービン側の増トルクに引っ張られて、本来急激な回転数変動に弱いガスタービンも、スロットル開放度に応じて回転数を上げる。CICでもわずかに動揺が感じられた。
「指揮官の指示通り、狙っていけ!」
「了解です!」
ゲレルの指示に、火器管制担当オペレーターがそれを実行に移す。
「57mm砲、手伝って」
「はいはい」
火器管制担当オペレーターが言うと、監視担当オペレーターがそう言って、コンソールに手を伸ばす。
甲板上では、100mm砲、57mm砲が、パーパルディア艦隊の方を向いて────
ドンッ!
ドンドンドン!!
パーパルディア艦隊の複数の戦列艦が、敵弾に貫かれ、爆発して炎上する。
「『マルタス』『ヴァリリアン』『レジール』『セラフベイン』……『カミオ』『ターラス』、大破炎上中!!」
「構うな! このまま進め!!」
艦隊のあちこちで
悲壮な様子で入ってくる報告に、アルカオンは声を張り上げ、突撃を続ける。
ドンッ、ドゴォンッ!!
その間にも、艦隊のあちこちで戦列艦が破壊され、燃え上がる。何隻かは、魔導砲の発射剤に引火して、大爆発を起こして轟沈した。
「敵小型艦、高速で突進してきます!」
80門級戦列艦『ミスラリス』の見張員が、突進してくる『ダニーポワー』に気がつき、声を上げる。
小型と言っても、パーパルディアの120門級戦列艦並みの大きさだ。
「小癪な! 構わん、全砲門開け!」
ミスラリスの艦長は、ユクラニティに向かって砲撃を命ずる。
ミスラリスの片舷、40門の魔導砲が、ダニーポワーに向かって火を吹いた。
だが、もともと「数撃ちゃ当たる」式の魔導戦列艦の砲撃は、全速で航送していたダニーポワーにはついに1発も当たらなかった。
「手数は少なくないようだが、当たらなければどうということはないのだよ!」
ダニーポワー艦長、ゾラ・エミリー・ジェマ中佐が、不敵に笑いながらそう言った。
「20mmの射程に入ります!」
「射撃許可する!!」
1124計画型コルベットの初期型であるダニーポワーとユクラニティには、前方を向けられる砲塔がない。その為、艦橋前部に搭載されているRWS『SIGMA20』の有効射程内まで飛び込んで来たのだった。
ガガガガガガガ……
GSh-23/20Lガスト式複銃身型機銃がミスラリスの高い舷側に向かって射撃する。砲座が20mm APDSに粉砕され、魔導砲の数門が落下した。さらに誘爆が発生し、ミスラリスは上部が吹き飛び、そのまま松明のように燃え上がる。
「57mmの射角内に敵艦!」
ダニーポワーの砲手が、興奮した声で言う。
「撃っていい!?」
「撃て!」
「撃ちます!」
後部の57mm砲が3発発射する。砲弾は狙われた戦列艦の艦尾艦室に飛び込み、艦尾を粉砕された戦列艦は艦尾から急速に沈んでいく。
「敵艦1隻、急速に接近!」
────駆逐艦『ディアーネ』CIC。
破壊され、燃え上がる敵艦隊の中から、1隻の戦列艦が一気にディアーネに向かってくる。
「照準間に合いません!」
「この角度……まさか……」
ディアーネ艦長、アニタ・エリザベス・タマン中佐が、つぶやくように言って息を呑む。
戦列艦は、側面を向けなければ相手に砲撃できない。だが、その戦列艦は、ディアーネに舳先を向けて遮二無二突っ込んでくる。
「砲撃戦準備────」
「いらんっ! このまま突っ込め!!」
ディアーネに向かって突進する戦列艦────ディオスの艦長が指示しようとするが、それをアルカオンが遮る。
「このままぶつけろ!」
「しかし────」
「こちらの砲では敵に致命傷は期待できない!!」
アルカオンの命に、艦長は躊躇ったような声を上げるが、アルカオンは重ねて指示した。
ディアーネのSIGMA20がディオスに撃ちかけるが、甲板を穴だらけにされながらもディオスはディアーネの右舷側に突入する。
グワッシャ、バキバキバキバキ……
ディオスはその目的を果たした。だが、ディアーネの、第二次世界大戦時の設計を引きずっている重厚な鋼鉄の艦体の前に、ディオスの艦体は一方的に粉砕された。
「……一泡、だけは吹かせられたかな…………」
視線の先で原型を留めないほど潰れたディオスの艦首を見ながら、アルカオンが呟いた直後、ディアーネは60,000hpの機関を全開にして、ディオスにさらなる破壊を加えながら離れていく。
ディオスはつんのめるような姿勢で、艦首から一気に沈み始めた。
エストシラント軍港、海軍司令部。
────司令部公室。
「…………第3艦隊との通信が途絶しました」
その報告がもたらされると、室内の重苦しい空気が、さらに圧迫感のあるものになった。
「ここまで一方的とは……」
参謀のマータルが、ようやく絞り出したような声で呟いた。
敵わない事など最初から解り切っていたが、それでも30倍近い数の差をあっさり埋められるとなると、もう手の施しようがないと言うしかなかった。
相手も息継ぎはするだろうから、ここで後続の部隊を送り込めれば、あるいは敵の作戦意図を挫く事ができるかもしれないが、第1艦隊、第2艦隊ともエクスプレッセスティ空軍の空襲により、半壊、特に竜母部隊は甚大な損害を受け、戦力として計算できない状態だった。
──それでも、このまま皇都の目と鼻の先で跋扈を許すことはできない……
第1艦隊、第2艦隊の残存艦を集結させて、エクスプレッセスティ艦隊に向かわせる、と、海軍総指揮官のバルス海将が苦渋の決断を下そうとした、その瞬間。
「き、緊急! 緊急です!!」
そう声を上げながら、通信士が司令部公室に飛び込んできた。
「こ、皇都よりおよそ18km東側の海岸に、敵揚陸艦出現! 強行接岸の体制に入りました!!」
エクスプレッセスティ海軍、エストシラント作戦第3任務部隊。
強襲揚陸艦『クリミテーサ』、タンクデッキ。
「我が愛しのメスガキ共! 準備はいいか!?」
第1水陸両旅団々長、ビアトリーチェ・ヘルマフロディト・ビアンキ陸軍准将が、マイクを手に声を張り上げる。麾下の、同乗の中隊長、小隊長が、彼女の前に集められていた。
強襲揚陸艦の搭載能力から、水陸両用旅団は1個連隊規模で構成されており、連隊長は実質的に旅団長の兼任で、独立して存在しない。
「喜ばしいことに我々の訓練の成果を発揮する機会が与えられた! その中でも貴様たちは一番槍として選ばれた!! 間もなく艦は強襲上陸に入る!! 相手は戦車の大砲にビビって追撃を控えるようなインポ野郎の集団だが、決して油断してはならない! 戦場は男のものだと勘違いしているインポ野郎共に諸君らのメスガキ魂を存分に見せつけてやれ!」
「オォオォォォォッ!!」
ビアトリーチェの言葉に対し、女性の高い声で雄叫びが上がる。
「作戦内容、各自の役割は叩き込んであるな!? 各メスガキの健闘を祈る! 以上、自隊に戻れ!」
ビアトリーチェの号令とともに、各小隊長が自分の小隊に駆け足で戻っていく。
「いよいよですね」
第1水陸両用歩兵中隊々長のリラ・オリビア・エンリカ少佐が、ビアトリーチェに声をかける。
「ええ……これでお飾り軍団呼ばわりも返上できるといいのだけど」
ビアトリーチェは苦笑しながらそう言って、ウィンクをした。
『これからビーチングをかける!』
クリミテーサ艦長、アルナ・サラ・テムル大佐の声が放送で響いた。
既に、装甲車両はエンジンを始動させている。
『総員、耐衝撃姿勢!!』
ズ……ズン……
アルナの予告の後、わずかにおいて、鈍い衝撃がクリミテーサを揺さぶった。
『艦首ゲート開放!』
艦首部が左右に開き、海岸が見えるとともに、僅かに海水が入ってくる。スロープゲートが伸びて、海岸までの通り道を形成する。
ヴォヴ!!
三菱6VK35Wディーゼルエンジンの咆哮を上げて、T-64-120が前進し、スロープゲートを渡って、フィルアデス大陸の大地に降り立った。
続いて、LBTR-018装輪式装甲戦闘車が跨乗歩兵を鈴なりに乗せて降りてくる。エクスプレッセスティ初の国産装甲戦闘車であるLBTR-018はBTR-4の6✕6型だが、装甲偵察車のBRDM-017が旋回半径を小さくするために前2軸なのに対し、LBTR-018は後ろ2軸になっている。エンジンは1基で、三菱6DC2をベースにした、ディーゼル・ターボコンパウンドエンジンとなっている。
LBTR-018から飛び降りた兵が、UAKB-1/243『
────パーパルディア皇国は、前身のパールネウス共和国時代から通して、初めて海の外からの軍隊の上陸を許したのだった。
エムブラセクス~エナジブリッジ特急を、国の看板列車らしく160km/h運転対応の新製車に変更。
ついでに列車名を「ラヴィサンセクス」に変更しました。
「ラヴィサンセクス」(含む優等列車)編成図
https://twitter.com/kaonohito2/status/1797728408019128793
(2024/06/04-JST基準 改訂)
BTRL-018は実は北朝鮮のM-2010(6×6型)クリソツだとか禁句。
https://twitter.com/KPA_bot/status/1640979036016099328 (3枚目)
ただしエンジン位置が違うから砲塔が後ろよりなのはBTR-4と同じ。
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レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)