パーパルディア皇国、デュロ北方の上空。
「間もなくだ」
リーム王国軍竜騎士団、第1飛行隊長のベルナードは、麾下の飛竜隊に注意を喚起する。
「上がってくるとすれば、そろそろ接敵になるぞ! 総員、周囲を警戒せよ!」
彼の指示通り、50騎の飛竜隊は周囲に充分注意を払いつつ、編隊を組んで南下していた ── ── のだが。
ゴワァッ
突然、前方上側から、火の塊がリーム王国飛竜隊に降ってきた。
「なっ!?」
4騎のワイバーンが、その火の塊に包まれ、焼け焦げながら
それは、噂に聞くミサイルや機銃といったものではない。ベルナード達にも見慣れた、ワイバーンの導力火炎弾だ。
──だが、いくらなんでも、緊急発進をかけたとして、上方を占められるような高度に達せるはずが……ま、まさか!!
そのまさかだった。
エクスプレッセスティ軍の上陸部隊に対応するため、パーパルディア皇国軍はそちらに向かった ──── これ自体は完全に誤りではなかったが、パーパルディア北東部の守備のため、飛竜隊を含めた部隊の1/3は残されていた。
飛竜隊は22騎。それに対してリーム王国は50騎をぶつけようとしていた。だが、リーム王国竜騎士団はすべてが在来種のワイバーンであり、パーパルディア軍第2飛行連隊は18騎がワイバーンロード、そして────
ビュッ
リーム騎を撃墜した4騎は、緩降下しながら凄まじい相対速度でリーム軍編隊の上方至近をすれ違った。そのまま、その高速の4騎編隊 ──── ワイバーン・オーバーロードは、一度リーム王国軍編隊の後ろへ抜けると、そこで、地球で言うインメルマンターンを決め、再加速しながらリーム軍編隊に後方から迫る。
インメルマンターン類似のこの機動を考案したのは、アスタルらデュロ空襲の際の生き残りだった。彼らはSu-22UGEがそのような機動をとったのを、記憶していたのだ。
ただ、残念ながら従来種のワイバーン、ワイバーンロードでは、翼の形状と強度から危険だとされ、実戦においてはワイバーン・オーバーロードにしか使えないとされた機動法だった。
だが、効果は絶大だった。
ワイバーン・オーバーロードの小隊4騎は、後方からたちまちリーム軍編隊に追いつき、導力火炎弾を放つ。きっちり4騎のリーム騎が撃墜された。
「前方警戒がおろそかだぞ!」
飛行兵用兜の下で、アスタルは不敵に笑う。
ゴワァッ!!
アスタル直率の小隊5騎が、横に広がった編隊から、戦列歩兵の射撃を思わせるかのように、一斉に導力火炎弾を放った。
火炎の幕に突っ込んだリーム騎5騎が、焼けながら墜ちていく。
「次行くぞ! ついてこい!」
『了解!』
アスタルの小隊は、予想されるリーム騎の進行方向上から横転機動で一時離脱すると、徐々に旋回半径を狭め、リーム編隊の横方向から襲撃する。
この時点で、ワイバーン・オーバーロードが3度目の攻撃を仕掛け、3騎のリーム騎を撃墜していた。
「こ、このままでは嬲り殺しになるだけだ! 反転せよ、反転!」
ベルナードが、泡を食った様子で麾下のリーム騎に指示する。
既にリーム騎は26騎にまで数を減らしていた。対するパーパルディア騎は2騎が、ワイバーンロードが負傷して戦線離脱しただけだ。
──ワイバーン・オーバーロードの能力がここまでとは!
エクスプレッセスティの“戦闘機”に太刀打ちできる存在ではないという事実から、従来種のワイバーンでも数さえ揃えば押し切れると考えていたが、実際には一方的に落とされただけだ。
「離脱する敵は追うな! 地上攻撃に備えて帰投する!」
翼を翻したリーム騎に対し、アスタルはそう下令する。
パーパルディア騎も、ワイバーン・オーバーロードを含めて減速し、基地へ向かって引き返す。
アスタルはリーム騎が完全に引き返したか見届けようとしていたが、
「!」
遁走中のリーム軍編隊で、無数の光が迸った。
出現する炎の尾────アフターバーナーの燃焼炎。
「クソッ、クソッ!!」
ベルナードが毒つく。
もはや壊滅────いや、全滅同然だった。
600lド
ヒィイィィィィィン……!!
MiG-23GENがベルナード達の前に姿を現す。主翼下と、胴体下の1200lドロップタンクを切り離し、短射程のASRAAMを発射しながら、直線上にリーム騎が存在するコースから、旋回して一度、やり過ごす。
「リバルの野郎! 何が『エクスプレッセスティは攻撃してこない』だ!」
恨み言を言いながら、急旋回を伴いつつ戦闘空域から離脱しようとするベルナードだが、いかに旧式と言えど超音速ジェット戦闘機から逃れる術はなかった。
MiG-23の放ったASRAAMによって、ベルナードは愛竜共々、バラバラに破壊された。
デュロ方面を攻撃に向かったリーム騎は、文字通り全滅した。
同じ頃、Su-22UGEは、ヒルキガめがけて『万剣』巡航ミサイルを発射していた。
リーム王国、王都ヒルキガ。
王宮セルコ城。
バンクスは、待ちくたびれたという様子で、玉座の肘掛けに肘を突いて、怠そうにしていた。
「そろそろ、先発の飛竜隊の報告が入ってくる頃じゃないのか?」
バンクスは、あからさまに不機嫌そうな口調と表情で、そう言った。
「は……まだ、報告が来ていないようでありますが」
宰相レナルトが、困惑したような、どこか憔悴したような様子で言う。
彼らにとって不幸だったのは、エクスプレッセスティが、リーム王国の軍事施設の配置を完全には把握していなかった事だ。
一般市民への無差別攻撃を避けるため、エクスプレッセスティ空軍は、もっともわかりやすい目標に向かって万剣ミサイルを発射した。
万剣は敵飛行場破壊を目的としたクラスター弾だ。エクスプレッセスティはオスロ条約、オタワ条約ともに未署名である。ただ西側諸国の手前、対人地雷として機能するものは持っていない。
だが、今回の場合、面制圧の意図はないため、撃発信管と目標逸失の際の自爆用時限信管以外を
グワッ、ガッシャーン!!
万剣ミサイルの1発が、セルコ城の窓を突き破って、玉座の間、バンクスの目の前に転がった。
「な────」
外殻が外れた状態で、子弾がむき出しになった弾体を、バンクスが視認した、その次の瞬間── ──
ドゴッグワッグガァアァァァン!!
子弾の遅動信管が作動して、大爆発がセルコ城の玉座の間を吹き飛ばした。
──どうしてこうなってしまったんだ……
パーパルディア皇国、属領クーズ、北方。
先日まで鉱夫をしていた男性、ハキは、何度も自問自答していた。
ハキはクーズが独立したクーズ王国だった時代、爵位持ちの家庭に生まれた。
彼が5歳の時、クーズはパーパルディアの侵攻を受けた。クーズの父は戦場に行って戻らなかった。パーパルディアの圧倒的軍事力の前にクーズは敗れ、パーパルディアのいち属領となった。
この時、ハキの母親はパーパルディアの軍人に連れて行かれ、その後の消息は不明のままだ。
ハキが幼い頃、クーズは資源輸出で潤った豊かな国だった。
だが、パーパルディアの軍門に下ってからのクーズは、悲惨を極めた。パーパルディア中央の収奪は凄まじく、豊かだったクーズはあっという間に荒廃し、人々は日々の最低限の生活を送るのにも不自由した。
パーパルディアの臣民統治機構の官吏は、気のままに物品を奪い、女を犯したければ否応なく連れ去った。
惨めな境遇に、誰もが絶望していた。ただ、死ぬ理由がないから生きている、それがパーパルディア支配下のクーズの民の現実だった。
転機が訪れたのは、パーパルディア皇国が、フェン王国侵攻を始めた時だ。
また不幸な国が増える、ハキは、いや、クーズの誰もがそう思っていた。
だが、その過程でパーパルディアはエクスプレッセスティ共和国の在フェン邦人を虐殺し、外交的に侮辱したことで、エクスプレッセスティの参戦を招いた。
エクスプレッセスティはフェンに派兵し、数万の規模のパーパルディア侵攻部隊を、ほとんど一方的に蹂躙して壊滅させた、という、
しかも“女だけの国”であり、兵も当然
だが、その後、他の文明国からの放送を聴取していた結果、これは事実であり、同じように属領にされたアルタラスに対して、エクスプレッセスティに亡命しているというアルタラス王国のルミエス王女が、市民の蜂起を扇動するメッセージを送った。
ハキは、この頃からクーズでレジスタンスの組織を始めた。それほど時を経たずして、2,500人もの賛同者が集まった。
賛同者が3ケタに達した時点で、ハキはこの組織を「クーズ王国再建軍」と命名し、再独立のためにクーズ領内各所にネットワークを形成し、更に隣接する属領であるマルタ、アルークのレジスタンスとも連絡をとりあうようになった。
だが、すぐにそれに水を差す事態が発生した。
アルタラスの市民蜂起は、単純にアルタラス市民とパーパルディア軍との戦いとならず、アルタラス・レジスタンスに反対するアルタラス人集団も現れ、内乱となってしまった。
結果、エクスプレッセスティは他の72の属領に対しても、「
それとほぼ同時期に、臣民統治機構が事実上解体され、属領は暫定的に皇国軍が主導する軍政に移行した。しかも、市民に対して不正や過ぎた暴力を行った官吏は、“皇帝の権威を著しく傷つけた”として、公開処刑された。
軍政に移行してからも、クーズは貧しいままだったが、貧困者への配給が行われるようになり、とりあえず最低限の生活にはあまり困らなくなった。
なので、2,500もいた「クーズ王国再建軍」の賛同者は、次々にハキ達との連絡を断った。活動に残ったのは、800人ほどだ。
ハキはきちんと認識していなかったが、リーダーである彼の出自も問題だった。
不満分子がいない国家など存在しない。表向き“いない”としている国家は、北朝鮮のような完全封鎖社会だけだ。「地球史上最高のネタ国家」だの「おピンクスチャラカ同人国家」だの言われたエクスプレッセスティであっても、そんなもんが実現できるなら議会に野党などというものは存在しない。野党も基本的に頭ピンクか頭植田ま◯しワールドなのはともかくとして。
ハキは旧クーズ王国の支配層の出自なのだ。そしてそれは、一般市民から見た場合、「パーパルディアに侵略を許した連中」となる。
「エクスプレッセスティはクーズの独立に協力しない」「パーパルディアの支配が是正されてそれなりに改善された」という2つが組み合わさった結果、ひとまず日々の食い扶持に困らなくなった層が離れていくのは自明の理だった。
再度の転機は、ハキ達にリーム王国からのエージェントが接触した時だった。
「エクスプレッセスティ軍はパーパルディアを降伏に追い込むため、大規模作戦を展開するでしょう。その時が狙い目ですよ」
カルマと名乗るそのエージェントは、そうやってハキ達に蜂起を唆した。
「エストシラントか、デュロになるかは解りませんが、いずれにせよ、パーパルディア軍は沿岸部に釘付けになる筈。その頃合いを見計らって、我々は内陸部で南進します。あなた方は …… ── ── そのタイミングで武装蜂起すれば良い。我々は
「ですが、エクスプレッセスティは、属領の独立を支持しないと」
「“女だけの国”がそう言ったところで、一度、既成事実を作ってしまえば、そこからどうこうすることはできませんよ。特にあなた方は内陸の国、エクスプレッセスティ軍が直接攻撃できる場所ではないでしょう?」
ハキの疑問に対するカルマの答えを聞いて、ハキはなるほどその通りだと思った。
ハキは、エクスプレッセスティ軍の作戦に呼応して蜂起するため、再度参加者を集めて回った。だが、以前のような熱意を向ける者は極少数だった。
「今、食べられているのだからいいじゃない」
そう言われるのは当たり前、もっと辛辣な場合、
「パーパルディアを上回る強国に逆らうなんて、君はお父上の反省がないようだね……」
と、ハキの出自を絡めた嫌味を言われる事もあった。
ハキと共にクーズ王国再建軍の結成に奔走し、エクスプレッセスティの属領独立不支持声明を受けて袂別する事になった盟友、イキアにも声をかけたが、
「ハキ、結局お前は何も解ってないよ……」
と、寂しい顔で言われた。
「リームの参戦に協力するだなんて、君はロウリア国王の放送は聞いていなかったのかい?」
『
「完全にリームの事を言っているじゃないか。リームはクーズを独立させようなんて思っていない。パーパルディアに成り代わろうとしているだけだ」
「そんな事は……カルマはそんな事は言っていなかった……」
「じゃあよしんばリームにそんな野心がなかったと仮定しよう。で、エクスプレッセスティは独立反対だ。パーパルディアにここまで一方的に勝ち続けられる国に、リームが対抗できると思うか?」
「…………それは……」
イキアの言葉に対し、ハキは明瞭に答えることができなかった。
結局、クーズ王国再建軍の実働部隊は、750人ぐらいしか集まらなかった。目標としていた2/3程度の人数だった。
そして、エクスプレッセスティ軍はエストシラント上陸作戦を展開し始めた。
「これ以上の機会はない!! 誰がなんと言おうと、クーズを再建する絶好のチャンスを逃してはならない!!」
クーズ王都のパーパルディア軍政本部を封鎖するには人員を確保できなかったため、北部の都市ステルーニで蜂起を宣言した。そのままリーム王国軍と合流し、クーズ王都、さらにはパーパルディア直轄領のアルーニまで戦線を南下させる予定だった。
────計画は、最初から破綻していた。
まず、パーパルディア軍は、クーズ、アルークの駐屯軍を、ハキ達の目論見ほど引き抜いていなかった。
ワイバーン部隊は半数が引き抜かれていたが、24騎は想定より多く、しかも逆にワイバーン・オーバーロード1個小隊4騎が追加配置されていた。
リーム王国軍がクーズ・アルーク方面に差し向けた飛竜隊は50騎と、パーパルディア側より数では勝っていたが、質では完全に劣っていた。
しかも、空中指揮官はデュロ空襲の際の生き残りで、エクスプレッセスティ空軍の戦闘攻撃機の、低高度での戦い方を参考にして、編み出した新戦法をワイバーン・オーバーロード隊に伝授していた。
リーム軍の飛竜隊は、僅か4騎のワイバーン・オーバーロードの機動に翻弄され、数で劣るパーパルディア飛竜隊の前に、44騎撃墜の大損害を出して撤退した。パーパルディア側の被害は4騎が飛行継続不能で不時着しただけだった。
賛同者は少ないと言っても、実際にリーム軍の侵入と自分達の蜂起が現実になれば、市民の蜂起が起きると思っていた。だが、クーズではついに発生しなかった。アルークでは旧首都で起きたものの、その規模は期待したものではなかった。
パーパルディア軍は市街戦を避け、アルークは旧首都を封鎖しつつ、リーム・蜂起軍を北端の都市の市街地を抜けたところで、野戦砲と戦列歩兵で待ち構えていた。
パーパルディア軍の損失は決して少なくなかったが、リーム・蜂起軍は完全に挫かれた。
更に、悪い情報が降り掛かってきた。
「デュロ方面で越境したリーム軍飛竜隊に対し、エクスプレッセスティ軍は戦闘機を差し向け、パーパルディア軍との戦闘で潰走中のリーム軍飛竜隊は全滅した」
────決定的だった。エクスプレッセスティはリームを敵対する交戦当事国と見做した。当然、蜂起軍 ──── 反乱軍の位置付けも決まったのだ。
砲火の音が止んだ。ステルーニ南側に展開していた部隊が壊滅したのだろう。
パーパルディア軍の突入に怯えるハキの脳裏に、ルミエスの一言がよぎる。
『滅びた国を、滅ぶ前に戻すことはできません』
その通りだった。クーズには再度自力で立つことの理解と覚悟がなかったのだ。
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)