「…………この叛乱の目的はなんだ?」
レミールが、睨むような目つきでカイオスを見据えながら、問いかけた。
「いくつかありますが、最大の目的は、エクスプレッセスティ共和国との戦争を止める事です」
「どうやって?」
カイオスの答えに、レミールより先に、リウスが問い返す。
「エクスプレッセスティと、どうやって交渉を開始するのか、貴殿には手があるのか?」
「…………今更隠しても仕方がないでしょう。私はエクスプレッセスティとの交渉決裂後も、連絡をとる手段を確保しておいたのです」
「つまり、この叛乱の背後にエクスプレッセスティが居るということか!!」
レミールが、カイオスを指差しながら、声を荒げる。
「仮にも皇国の官吏を纏める立場にありながら、国を売るとは! 厚顔無恥にも程がある!!」
「では、レミール様には現状を打破するのに、より良い手段があるというのですか!!!?」
癇癪を起こしたようなレミールの怒声に、カイオスは、低く重い声で、しかしレミールよりも強く張り上げた。
「既に海軍は壊滅状態、皇都の周囲に陸上部隊が上陸し、最早皇国は喉元に短剣を突きつけられた状態────この状況から、エクスプレッセスティを排除する手段が、他にあるのでしたら、ぜひお聞かせ願いたい!!」
「ぐ…………」
カイオスが逆に睨み返しながら言うと、レミールは言葉を詰まらせてしまった。
「…………連絡がとれる状況にあったと言うが────」
当然帝前会議にも参加していたイノスが、落ち着いた口調でカイオスに問いかける。
「そうだとすると、エクスプレッセスティ側と、意見の摺合せはできているのか?」
「ええ、エクスプレッセスティ側が、講和に向けた条件は……────」
1.フェン王国におけるエクスプレッセスティ非戦闘員24名に対する賠償として、1人あたり5kgの
2.前項に関して、フェン王国より別途、同種の請求があった場合にこれを受容すること。ただし、その額に関してはエクスプレッセスティ共和国が仲介し、法外な額とならないよう調整する
3.レミール、並びに戦争及び戦争に至る状態において非道徳的、非人道的行為を働いた者、その実行者と管理者の身柄引渡
4. 昨年9月に発生したフェン近海での武力衝突以降、エクスプレッセスティ共和国が負った損失に関して、次のいずれかで補償する
1.金1,800トン
2.パーパルディア領内での資源探査、及び優先採掘権の付与
5.パーパルディア皇国内において、直轄地と属領の区分を廃し、公平公正な政治体系を構築することを確約すること
5-1.本項が遵守される限り、エクスプレッセスティ共和国はパーパルディア皇国の主権の存在を保障する
6.前項について、エクスプレッセスティ共和国はパーパルディア皇国との戦争終結に向けた交渉においては、パーパルディア皇国の主権範囲について、中央歴1640年1月1日を基準とする
7.今後、パーパルディア皇国は、エクスプレッセスティ共和国と安全保障の利害を共有すること
「なるほど……資源で支払えと言うことか……」
「いや」
イノスが呟くように言うと、カイオスがそれを否定する。
「あくまで資源探査とその優先採掘権、つまり、エクスプレッセスティ共和国が独占的に採掘する権利を求めているが、資源の出荷による利益は皇国内で発生したものとする、という形になる」
「つまり、資源に対する対価を支払うと?」
意外そうな様子で、イノスは再度問いかけた。
「簡単に言うとそうなる。少し説明が難しいし、私も完全に把握できているか不安なのだが……採掘はエクスプレッセスティの営利企業が実施することになるが、これらの企業の皇国内での利益に対し、皇国は課税することができる、ということになる」
カイオスが説明すると、イノスやエルトは、意外そうな顔をする。
「とすると、この内容、とても戦争の勝者が敗者に要求するには過小ではないかしら!?」
エルトが、目を
「…………真の
ルディアスが呟いた。
「そうだ……」
それを聞いたレミールが、はっとしたように言う。
「陛下はどうなる。エクスプレッセスティは陛下の身柄は求めていないのか!?」
「はい。求めていません」
カイオスは即答し、説明を続ける。
「エクスプレッセスティ側が要求しているのは、犯罪的行為に携わった者で、実際に戦争を決定した者はその対象外になります。なぜなら、戦争を起こした事そのものが犯罪的な行為となってしまうと、自国の防衛のための戦争も否定する事になるからです」
「私もそのような事をした覚えはないぞ!」
それを聞いたレミールは、そう言って声を荒げた。
「貴女は今回の戦争、特にエクスプレッセスティに対する殲滅戦の宣言は、貴女が導いたものと見做されているからです! その意思決定を行った陛下の責任は問わないが、陛下にその判断を下させる要因となった貴女は許し難いということだ!!」
「そ、そんな……」
カイオスの強い語気に、レミールは、僅かに気圧された様子を見せつつ、視線をルディアスに向けた。
「陛下、このような要求は受け
レミールが、縋るような様子でルディアスに訴えかける。
「そのような決定を下す叛乱軍など、皇国臣民が支持する訳がない!」
すると、ルディアスが
「レミールよ、殲滅戦を宣言した時、余はお前に、外務監察官として責任をとれるか、と問うたはずだな? 忘れてしまったか?」
「それは…………」
「皇国本土が攻撃に晒された。皇都民は既にエクスプレッセスティ軍の実力を目にしてしまった。叛乱軍が支持されるとは限らぬが、このまま戦争を長引かせれば、皇帝の権威も失墜することになる。そうなれば、皇国が瓦解するであろう」
「だからといって、陛下……────」
レミールは、目を潤ませながら、言う。
「陛下は私がどうなっても良いというのですか!? 今まで、陛下は私を良くしてくださったではないですか!!」
「そうだな」
レミールの訴えに、ルディアスは自嘲気味に苦笑する。
「レミールは……年の近い者がほとんど周囲になかった幼少の
その言葉を聞いて、レミールは、どこか安堵したような表情になりかける。
「で、でしたら…………」
「だが!!」
レミールが更に言いかけたのを制して、ルディアスは表情を引き締めながら、声を上げる。
「
レミールのみならず、議場にいた全員が、軽く驚いたような様子でルディアスに注目する。
「事ここに至り、本来であれば余自らがこの身を差し出して皇国臣民に対する寛大な処遇を求めなければならぬところ。皇族とて私情で庇うことはできぬ!」
ルディアスの言葉に、レミールは、絶望のあまりかえって緊張を失った様子で、すとん、と自らの席の椅子に座ると言うか、落ちた。
「…………一応、この案はエクスプレッセスティ側が停戦し、講和に向けての交渉を開始する大前提で、実際には講和に至る為の仔細の交渉が残っていますが……」
「よい。交渉については一任する。必要であれば適した人材を登用せよ」
カイオスの言葉に対し、ルディアスは、己が主体とならない事を宣言するかのようにそう言った。
それに対して、カイオスは言う。
「それでは、陛下にも協力していただきます。よろしいですね?」
皇都エストシラント────────
ピロピロピロリン ピロピロピロリン
魔導周波によるラジオ放送、それが緊急度の高い臨時ニュースのチャイム音を発した。
『この後午後3時より、重大発表の放送があります。ラジオ受信機をお持ちの皆様はこのチャンネルを聴取してください。また、個人で受信機をお持ちではない方に、臨時設置の公共聴取所を利用するよう伝達してください。繰り返します。この後午後3時より、重大発表の放送があります …… ────』
重大、とは一体何が起こったのか────エストシラント皇都民にはどのような内容となるか、だいたいの察しはついていた。
──皇国が敗北したのだ────
もはや議論の余地もない。エクスプレッセスティ軍はエストシラントの間近に橋頭堡を確保し、いつでも皇都を攻撃できる。
もはやエクスプレッセスティ軍がどれだけ強いかなど、皇都民は嫌というほど思い知っていた。 ──── エクスプレッセスティの “飛行機械”は、 容易く皇都の空を蹂躙し、10倍以上の飛竜隊を屠り、軍基地を破壊した。
これで皇国が勝てました、という発表があるとは到底思えなかった。
「いったい、重大発表、って、一体何なんだろうな」
公共聴取所のひとつに集まってきた皇都民が、憶測を口にし始める。
「皇国が敗北して ──── 国民が全て奴隷にされるとか?」
「いくらなんでもそんなはずがあるか! 仮に敗けたとしても、全土を占領されたわけじゃないんだぞ!」
「でも、実際エクスプレッセスティ軍に対応する力がないじゃないか。皇都の目と鼻の先に上陸されて追い落とすこともできないし、空の戦いもほとんど一方的にやられたじゃないか」
「噂話に過ぎないが……海軍も
ピロピロピロリン ピロピロピロリン……
皇都民が好き勝手言っていると、スピーカーからチャイム音が発された。
『只今より、特別放送を開始いたします』
アナウンサーのその言葉の後、僅かに間をおいてから、
『皇国臣民に告ぐ。余はパーパルディア皇帝、ルディアスである』
その声を聞いて、皇都民に動揺が走った。
皇帝からのメッセージがラジオで放送される事はあったが、直接本人が出てくる事はなく、大抵は補佐官が読み上げるのが普通だった。
皇都民の動揺を余所に、ルディアスの言葉は続く。
『此度の放送は、余が皇帝として、皇国臣民に対して説明し、謝罪しなければならないいくつかの事項についてである────
まず、我が皇国とエクスプレッセスティ共和国との戦争についてだ。
既に気付いている者も多いと思うが、残念ながら現状、皇国軍にエクスプレッセスティ軍を打ち払う力はない。
これ以上続ければ、皇都やその他都市が戦場になり、一般の皇国臣民が犠牲になる事態となるであろう。
それを回避するため、皇国はエクスプレッセスティ共和国の講和条件を受諾する事となった。
現在提示されているエクスプレッセスティの講和に至る条件は、皇国臣民に対して著しく不利になるものではない。
これ以降も皇国の態度が頑なであれば、戦争によって犠牲者が出続け、最終的には無条件降伏を飲まされる事になるであろう。
そしてその時、皇国は全土が荒廃し、再起の力を失っている。
余は国主として、その状況だけは避けねばならぬ。
よって、余はこれが事実上の敗戦である事を理解しつつ、エクスプレッセスティ側の提示する講和条件を受諾する事を認めた。
これが、余が皇国臣民に対して謝罪しなければならないひとつ目の事項である。
次に、その結果に至る経緯についてだ。
これも、既に少なくない皇国臣民が気付いているであろう。
エクスプレッセスティ軍は強大であるが、数は皇国軍に遥かに劣る。
本来であれば、エクスプレッセスティに対してより有利な条件で講和することも不可能ではない。
だが、現状の皇国は、粉飾された砂の楼閣となってしまっている。
官僚機構に不正が
皇国が軍を支える力を失いつつあることも、エクスプレッセスティの講和条件を受諾する理由となっている。
官僚機構の不正は、背任行為を行っている個人が問われる罪だが、官僚機構に対し充分に目を光らせていなかった余にも責任があると言えよう。
これについても、皇帝として、皇国臣民に深く謝罪するものである。
そして、これは特に、これまで属領、としていた地方の臣民に対するものだ。
余はこれまで、特に属領に対して、“恐怖による支配”を敷いてきた。
これ自体間違っていたのかも知れぬが、問題はやはり、官僚たちがこれを悪用していたという点にある。
余はこれによって、皇国内が円滑に統治されていると信じていた。
だが、実際に臣民統治機構を点検したところ、属領の官僚機構は、これを私利私欲の為に使い、属領の民を虐げ、飢える程に収奪し、不法を働いていた。
無論、これを見抜けなかったことについて、皇帝である余の責任を問われれば、それを否定することはできない。
これらについて、余は皇帝として謝罪する。
その上で、これまで属領、と呼んでいた地方の民に願う。
我が皇国の崩壊は、地域に長く混乱をもたらす結果になるであろう。
よって、皇国を解体する事は認められぬ。
これは、エクスプレッセスティ共和国も求めるところである。
以上の理由から、皇帝として、今後も皇国の一部として、共にある事を望む。
無論、ただ現状維持するというわけでは決してない。
支配機構を是正し、公正かつ、利益を共有できる体制にする事を、皇帝として約束するものである。
────────以上が、余から此度の、事実上の敗戦と、そこに至る経緯について、余が皇帝として、皇国臣民に対して説明し、謝罪しなければならぬ重要な事項である。以降、余は再び不正が蔓延る事のないように目を配りつつも、これより打ち立てられる新たな政府に、公正かつ明快な統治を期待し、皇国を見守らせてもらう』
ルディアスの言葉を聞いて、人々は呆然としていた。
中には、出征し、エクスプレッセスティ軍との戦闘で命を落とした兵士の遺族などが、泣き崩れたりもしている。
だが、大部分の者は、いったいどうなるのか、狐につままれたように感じていた。
戦争に敗れれば、国がなくなり、自分達は敗戦国民として、惨めな生活を敷いられる────空で皇国軍が一方的に蹂躙された光景を見て、誰しもがそれを予感していた。
だが、エクスプレッセスティは皇国を解体するつもりはないと言う。
これまで All or Nothing の戦争しか経験してこなかったパーパルディアの市民達は、悲観にくれるというよりは、これからいったいどうなるのかと、楽観でも悲観でもないふわっとした感情を、胸中に抱えることになった。
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)