ジェンダーマイノリティに関する記述があります。
「これ……は……」
レミールは、船で護送されると思っていた。
だが、連れてこられた場所は確かにエストシラント港だが、その目の前にあったのは、水に浮いている“飛行機械” ──── 新明和CS-2輸送飛行艇だった。言うまでもなく、US-2の派生型である。
レミールにはそれが文字であるという事以外解らなかったが、胴体には大きく“
元々設置されている桟橋から、細い浮桟橋が設置され、大型サイドゲートから機内に乗り込む。旅客型であるSS-2と異なり、機内は質素と言うか殺風景で、兵員輸送時用のベンチシートが設置されているだけだった。
レミールはパーパルディアの手枷を外され、代わりにエクスプレッセスティが使用している、もう性癖以外の何物でもない日本警察型の手錠をかけられている。
同時に、衣装も替えられていた。囚人服としては清潔だが、色はピンク系ではあるものの彩度が低く、地味な見た目と、普段のおふざけぶりと異なりその用途を逸脱するものではなかった。
レミールの左右に、ティイナと、その部下であるジュリエット・フェラン陸軍二等兵曹が座る。その正面にも、3人の隊員が座った。
ウィイィィィン……ヒュッゴッ、ヴィイィィィィ……
イーウチェンコAI-20Dターボプロップエンジンが始動し、CS-2はゆっくりと桟橋を離れ、そこでエンジンを全開にして離水滑走に入った。
「レミール殿下、私達は食事を摂りますが、貴女は空腹ではありませんか?」
ティイナが、淡々とした口調でレミールに訊ねた。
「食欲などあるものか……」
「そうですか。では、私達だけ失礼いたします」
ティイナがそう言うと、空挺隊員達は軍仕様のウェストポーチから小さな箱を取り出し、その中の包みを開いて、ブロック食を口に運び始めた……
「…………」
──軍人の糧秣にしては随分と質素だな……
レミールはそう思いつつ、ふと気になった。
「この中の隊長は貴女だな?」
レミールは、ティイナにそう訊ねる
「はい、そうですが」
ティイナは怪訝に思いつつも、今更隠してもしょうがないと思い、答える。
「軍での地位はどれほどか?」
「……一応、少尉を務めさせていただいております」
「少尉……将校か」
「端くれではありますが」
「将校が兵と同じ食事を摂るのだな……」
「まぁ、そうですね」
ティイナは答えつつ、レミールの質問の意図を理解した。
エクスプレッセスティ共和国国防軍は、その編成・運用にウクライナの影響を受けているものの、文化としてはやはり日本のそれが強い。
パーパルディアの程度だと、高級将校は食事も豪華というのがお決まりだ。一方でエクスプレッセスティ国防軍では、隊内ではヒラ隊員から将軍階級まで同じメニューが出る。金曜日の夕食と言えばカレーだ。敢えて例外とするなら空軍のスクランブル班は低炭水化物メニューになる。
それ以外には特にやり取りするわけでもなく、CS-2はエナジポリスを経由せず、そのままエムブラセクス空軍基地に向かう。
──陸地の滑走路にも着陸できるのか……
CS-2がエムブラセクスの空軍基地に向かって降下しながら、車輪を展開したところで、レミールはそう胸中で呟いた。
CS-2の主脚が接地すると、プロペラリバースを併用しながら減速し、CS-2は着陸シークェンスを終了させて、駐機場へ向かう。
空軍の地上隊員が、簡易タラップをCS-2のサイドゲートに横付けさせる。
──思ったより殺風景だな……
レミールの、エムブラセクスに対する最初の感想はこれだった。以前にも説明したが、空軍基地はエムブラセクス都心部を避けて建設されている。
「!」
レミールが、ティイナに連れられるかたちで、エムブラセクス空軍基地に降り立つと、その正面に、軍規統制部員 ──── 憲兵隊と共に、ガタイのいい男性が立ち、レミールに憎悪の表情を向け、睨みつけていた。
「あなたは────」
男────ベルトランが、憤怒を感じさせる口調で、レミールに向かって言う。
「あなたは、エクスプレッセスティ側から、降伏の手順について聞いていたそうだな!?」
「それは……
「何が違うというんだ!! 録音を聞いたぞ! エクスプレッセスティ側の降伏の手順を黙殺し、我が軍の降伏手順を伝える事もしなかったそうだな! そのせいで万に達する兵が無意味に犬死にしたんだ!! あなたはパーパルディアの兵士も殺したのだ!!」
「違う……私は……違う、違う……────」
ベルトランの怒声を聞いて、レミールは上体を屈ませるようにし、首を左右に振った。
「はぁ、はぁ……」
ベルトランは、まだ怒りが収まらないという様子だったが、息を整えると、
「要望を聞いてくれて感謝する」
と、隣にいた軍規統制部付の指揮官に向かってそう言った。
駐機場には、露払い役となる特別高等警察の国産軽自動車チャーミ、軍規統制部の国産BCセグメント車ネクストラ、それに2台の護送用デリカコーチ ロングボディが駐車していた。
レミールはベルトランとは分かれてデリカに乗せられる。護送の車列はエムブラセクス空軍基地を出て、エムブラセクス都心部の要人用拘置所に向かう。
「…………!」
自動車そのものはムーゲのシャインラインを見て知っているつもりだったが、実際に乗せられると、馬車では到底及ばない加速力で前進を始めた。
手綱と言えばいいのだろうか、
「あ……」
エムブラセクスの都心部に近づくに従って、車窓の光景が、以前にムーゲから写真で見せられた、超高層が林立する270万都市の街並みへと変わっていく。
道路には、石畳とは異質な、継ぎ目のない濃紺の何かが塗られ、恐ろしいほど滑らかにできていた。
ファションに気を遣った女性で賑わっている。小型トラックやバンが行き交い、トロリーバスが走っている。
写真で見るのとはぜんぜん違う、皇都エストシラントを遥かに凌駕する大都市。
カンカンカンカン……
鐘を打つ音が聞こえてきたかと思うと、車列が停車する。
車高の低いチャーミの頭越しに前を覗き込むと、如何にも早く走ることを突き詰めたような車両 ─── 淡いストロベリーピンクの681系が踏切を通過していく。
準高速規格の西中央本線には踏切はない。この路線、ユニティパーク線は、基本は優等列車の整備基地の入出庫線で、681系/671系やキハ181系、キハ80系/キハ183系、改造編入車だらけの475系/457系、キハ65形を含むキハ58系列、元・台湾鉄路局EMU100形に回送運転台付客車への魔改造を執行した1DR2200系と元・日本国鉄12系/14系客車の混成の急行用客車編成が、この路線を通り、エムブラセクス中央駅とユニィティパーク基地を出入りしている。
その合間に、建国準備委員会の確保車で、現在は半ば動態保存車となった元・名鉄850系が旅客列車として往復している。ただ通勤輸送のために外吊り中央扉が追加されてしまっているが……
踏切が開き、レミールが乗せられたデリカが通過する際、レミールはエムブラセクス中央駅への上り線を681系編成が走り去っていった方向を覗き込む。
すると、過密都市に造り付けられた狭苦しいホームの駅が見え、下り線ホームにその850系が停車して、無数の人間が乗り降りしているところが見えた。
すれ違うトロリーバスの中にも、何人もの人が乗っている。
これらが人員を輸送する車両であることは、レミールにも理解できた。
「ああ……」
首都エムブラセクスは、エクスプレッセスティにとって “転移前世界の最先進国” である日本国、その第3の都市、“ナゴヤ”とほぼ同規模だと言う。
その規模の都市ですら、実際にその地に立てば、エストシラントが片田舎に見えてしまう程だ。
それだけ進んだ世界から来た国を、皇国は蛮族の国と侮り、誹り、挙げ句戦争を仕掛けてしまった。
あまりの惨めさに、レミールは打ちひしがれた。
パーパルディア皇国、皇都エストシラント。
皇宮パラディス城に付随する大講堂。
舞台袖。
「複雑な気分だ」
リルセイドは呟いた。
自分がここにいる事に、自身で違和感が拭えない。
ましてや自分が、パーパルディアの近衛隊の軍服に袖を通すなど、現状が虚構であるかのようにすら感じられた。
「気分が優れないかね?」
リルセイドの様子を見て、男性の声がかけられた。
その声の主に視線を向けると、カイオスが、リルセイドに対してどこか困ったような表情を向けていた。
「いえ! 違和感は拭えないと言うだけで、 …………ええと、言葉でどう表したらいいのか……」
リルセイドは、困惑した様子で、詰まりがちになりながらそう言った。
「まぁ、そうだろうな。皇国がアルタラスにした仕打ちを消すことはできないだろう」
カイオスは、自嘲するようにそう言った。
「ですが、武力侵攻になったのはカスト元大使が原因だと」
リルセイドは、複雑な心境ながら、それを思い出してそう言った。
カストは、エクスプレッセスティ側が身柄引渡を求めたリストには含まれていなかったが、逆にシャーロットが録音した音声データをパーパルディア側に渡されてしまった。
やってることが国家に道を誤らせるものだっただけに、誰かが同情するわけもなく。
結果、カストは、アルタラス出身者と元からのパーパルディア国民、両方に罵られながら処刑された。
彼の最後の命乞いの様子は、関係者の誰に聞いても
「表現に困るほど、他に例がないほどみっともないものだった」
と、言う。
「とは言え、私はヤツの監督責任者でもあったからな……本来であれば、罪に問われても致し方ないところだ」
カイオスは、リルセイドにそう言った。
「うーん……そうは言っても、あの内容を上が承知しろというのも難しいような」
リルセイドは、難しい顔をし、顎を手で支えるようにして、唸るようにそう言った。彼女もカストの録音を聞いている。
「それに、立場が逆になったらと……」
「うん?」
呟くように切り出したリルセイドの言葉に、カイオスが聞き返す。
「もし、アルタラスがパーパルディアの地方を占領したと仮定すると、 ……ルミエス様ならともかくとしても、ターラ14世陛下だったら……と思うと……────」
「なるほどな、そういう考え方もできるか……」
カイオスもそう言って、考え込むようにした。
「結局、お互いに価値観が変わらないと、そこそこの強者が支配し、弱者は支配される、という構図は変わらない……か」
「そういう意味では、私達がエクスプレッセスティと接触したのは、得難い経験だったのかも知れません」
呟くようなカイオスの言葉に、リルセイドが加えるようにそう言った。
その2人の様子を、少し離れたところで彼女は見ていた。
──いけない、このままじゃまた婚期が遠のく……
舞台の上では、大きな着座用の演台に、3つの椅子が置かれ、エミリアとシハン、ルディアスが文書と向かい合っている。
ルディアスの舞台袖側の隣、長い演台の端に花が生けられた花瓶が置かれている後ろに、ルミエスが立っている。
中央のシハンの席には、ルディアス寄りの位置に、フェンの国花がやはり花瓶に生けられていて、その後ろにマグレブが立っている。
そして、ルディアスと対象になるエミリア側の配置には、チャウ・アシュリー・ゴック外務次官が立っていた。花瓶があるべき位置には、何故か1/87スケールのMSM-◯3が置かれていた。
エミリアとシハン、ルディアスが、文書にサインをすると、その背後の、奥へやや離れた位置に立っていた、名目上の第三者であるカナタが前へと出てきて、3つの文書をそれぞれ確認する。そして、カナタがマイクを持つと、
「只今、三者がサインをしたことを確認させていただきました」
と、淡々とした口調でそう言った。
そして、シハンがカナタからマイクを受け取った。
「パーパルディア皇国、エクスプレッセスティ共和国、そして我がフェン王国は、ここにすべての戦争行為の終了に同意した! 以後は互いの怨讐を乗り越え、各自各国の発展と幸福の追求を、我々各国の元首は望み、また約束するものである!」
こうして、後に「大東洋戦争」と呼ばれる、エクスプレッセスティ、フェン、パーパルディアの戦争は ────────
────────リームの一人負けで終わった。
リームの処分については、はっきり言ってエクスプレッセスティ側もパーパルディア側も頭を抱える事態だった。
エクスプレッセスティが巡航ミサイルで文字通りのヘッドショットをしてしまった責任はあるが、他国に攻め込んだ状態で自国の政府が吹っ飛ぶという事態になってしまい、無政府状態になってしまっていた。
結局、人的資源に乏しかったり、独特のジェンダー政策を執っていたりするエクスプレッセスティ側がリームを支配するのは無理なので、リーム自治共和国政府を設立した上で、占領しているパーパルディア皇国の主権領域に組み込まれるという処分になった。
────────
────
──
「んはっ、あくっ、んぁっ、はっ……」
「ほら……もっと可愛い声を出して?」
「可愛いって、はっ、んんっ……」
エクスプレッセスティ共和国。
エムブラセクス郊外、エミリアの私邸。
防空シェルター脇の元倉庫。
エミリアは、実は性自認は男性である。
…………ではあるのだが、それは自身の肉体が男性である事を積極的に受容しているに過ぎない。
彼女の性的な振る舞いは、基本的に女性のものであり、 ……あくまで説明の為に特定の単語を回避せずに言うと、所謂オーガズムは女性的で、ゆっくりと立ち上がり終わっていく中で、射精が発生する。
「だから、私は今まで私は、男性的な、情欲、獣欲を持つことは殆どなかったんだ……」
相手を可愛がり、また責めながら、エミリア自身も熱っぽい息をしつつ、言う。
「そんな……ならっ、なぜ……」
「うん……私自身も良くわからないのよね。説明しようがないんだけど……生まれて初めてなのよ、コレで誰かを蹂躙したい欲求に狩られたのは」
そう言いながら、エミリアは
「ふぁ、んくぅぅぅぅっ!!」
「はっ、はぁっはぁ……ふぅぅぅぅっ!!」
1月半程の時間をかけて、“レミール”という人物は抹消され、それと同時期に、“デミリフ・ハートリス・カマウ”なる短髪の女性が、エミリアの周辺で確認されるようになった。
レミールの処遇は……
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原作通り
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総統閣下のわからせ棒
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行方知れず(故意)