フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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薀蓄+ルセリア回、以上!!


幕間~薀蓄編
トマトはロウリアにあり!!


 パーパルディア皇国、皇都エストシラント。

 皇宮パラディス城、ルディアスの私室。

 その日の公務を終え、ルディアスが戻ってくると────

 ヒュウ……

「!」

 今回は、風と書簡だけではなく、窓際に1人の人間────パンツスタイルのスーツを着た女性が立っていた。

「君が、あのメッセンジャーか」

「はい。何度かお邪魔させていただきました。シーマ・ルガッハです。もっとも、世を忍ぶ仮の名ですが」

 ルディアスの問いかけに、シーマ────エクスプレッセスティ総統府情報総局付、ウィラ・マロンウォズ空軍少佐はそう言った。

「お持ちした資料は、お役に立ちましたでしょうか?」

「ああ」

 ウィラの問いかけに、ルディアスはどこか自嘲気味な笑みを浮かべてそう言った。

「今まで皇帝は絶対であるべきと思っていたが──── いや。絶対であるからこそ、このような振る舞いをする必要があるのだな……もっとも、実際に私自身の身柄が要求にあったら、あのように振る舞えていたかは自信がないが」

 ルディアスは、そう言いながら室内に進み、机の上に置かれた、翻訳文が添えられた、転移前世界の国の皇帝 ──── 昭和天皇に関する書籍に手を添えた。

「お役に立てた様なら何よりです」

 ウィラは穏やかに笑ってそういった後、口元では()んだままながら、目元を引き締める。

「それでは……私も女性ですし、変な噂が立つ前に失礼いたします」

「ああ、手間をかけたな」

「いえ、ちょっとしたサービスですよ」

 ウィラはそう言うと、足音もたてずに、窓に吸い込まれるかのように姿を消した。

「…………今回の戦争では助けられたが、宮城内の警備の強化もしなければならぬな……」

 ルディアスは、ウィラが消えていった窓の処まで歩いて近づきつつ、呟いた。

 

 

 ロウリア連合王国、王都ジン・ハーク近郊の農園。

「短期間にここまで農地を広げることができるとは……」

 ダブルキャブの小型トラックから降り立った、筆頭大臣マオスが、その光景を見て、息を飲んだかのように言う。

 エクスプレッセスティから提供された種子で作られたトマト畑には、一面の緑の中に無数の朱が鈴生りに成っている。

「うむ、機械の力は偉大よの」

 護衛の近衛兵を伴い、その光景を見ながら、腰に手を当てた姿勢のロウリア現国王、ハーク・ルセリア・ロウリア35世が、満足気な表情でそう言った。

 少し離れた場所では、麦の植え付けのために、トラクターが畑を耕している。エクスプレッセスティが黎明期に日本の低金利貸付で購入した三菱農機MT720という1995年発売のモデルで、減価償却後に民間放出された後、政府の推奨で、産業用エンジンとして国内で生産している、トヨタのディーゼルエンジンを、点火時に微量の軽油(実際にはウェットガス由来の代替ディーゼル燃料)を噴射してLPGに点火する二元燃焼式エンジンとした3Z-Lに載せ替えたシロモノである。

 蛇足をしておくと転移直前の農業用特殊車両の国内トップシェアはヤンマーディーゼルになっていたのだが、建国委員会時代は三菱重工から様々な設備を買っていたことから、グループ企業のしがらみで三菱製を買っていた。ただし今でも第2位ではある。

 元が日本国内モデルだけに排気量3,500ccと、転移前だと世界的には小型の部類に入るのだが、この世界の住民にしてみれば単体重量2.4t超、生身の人間では到底及ばないマンパワーを発揮する怪物そのものだった。

 エクスプレッセスティ国内では、まだまだガソリン車・ディーゼル車が主流だが、供与品は自国で採れるエタンガス田由来のLPGを使う車両が主流になっている。

 乗ってきた小型トラック、セダクション モーターヴィーグル エンジニアリング『ルーシア』も、原型はマツダ・3代目WG系『タイタン』だが、エンジンは国産乗用車用のVVT-OHV直列エンジンとシリンダー構造を共有するV6型2,400cc二元燃焼式LPGエンジン車だ。

「しっかり結実したようですね」

 エクスプレッセスティ(産業・)(保健衛生)省営農局、ロウリア技術支援班に所属するアイミ・モーガン・ゴヤは、トマト畑を、サンバイザーのように手を額に当てて見回しながら、そう言った。

「問題は品質ですが……ひとつ、いただきますね?」

 語尾を上げる質問形で、アイミはトマト畑の担当の農夫長に問いかけた。

「はい、どうぞ」

 農夫長の返事を待ってから、アイミは1球手に取ると、小さい剪定鋏で茎をそっと切断し、そしてそのまま、ガブッ、とトマトにかぶりついた。

「おお! 期待通りの出来ですね! いや、期待以上かも知れません!」

 アイミは、自身がかぶりついた噛り後を見つめながら、少し興奮した様子で言った。

「ほ、本当ですか!?」

 農夫長も、興奮したように目を開きながら、問いかけるような言葉を大きい声で出す。

「ええ、身も締まっていますし、酸味も抑えられています」

「あ、ありがとうございます!!」

 アイミの評を聞いて、農夫長は興奮した様子のまま、感極まったように言った。

「余もひとつ、試させてもらってよいか? 必要であれば対価は支払うが……」

「い、いえ! 国王様、ぜひ試してみてください」

 ルセリアが訊ねると、農夫長は手を差し出すように振りながら、ルセリアに薦める。

 アイミが1球を採り、ルセリアに渡す。ルセリアはそれを、アイミと同じように思い切りかぶりついた。

「おお! これは良い」

 ルセリアも興奮したように言う。

「余は他国産のトマトはよく知らないが、この出来が良いのは理解できる!」

「転移してから、トマトは質の良いものがなくて……ロウリア産はブランド物でも行けそうですね」

 アイミが、朗らかな笑顔で言う。

「…………クワ・トイネではトマトは生産していませんでしたかな?」

 マオスは意外に感じて、アイミに訊ねた。

「クワ・トイネは、環境が良すぎちゃうんですよ」

 アイミが苦笑しながら答えた。

「良すぎる、とは?」

 マオスが重ねて訊く。ルセリアと農夫長も、不思議そうな表情をしながら視線をアイミに向けた

「トマトは多雨多湿に弱いんです。それに、甘みを増すには肥料のコントロールが必要なんですよ。やればやるだけいいって感じじゃないんです」

 アイミが苦笑しながら言う。

「む、そうだとすると、エクスプレッセスティ本土もトマトの栽培にはあまり適していないと」

「ええ、そういう事になります」

 マオスの問いかけに、アイミはそう答えた。

 このトマト畑に成っているのは『アイチ・ファースト』、原産国の日本では漢字で『愛知ファースト』となる。

 売買される農作物の種苗のうち、種子で供給されるものは、親品種同士の交配による特徴がその1世代しか発露しない“F1種”と、自身の子世代以降にも受け継がれる“固定種”が存在する。

 エクスプレッセスティは現代農業の定着と自立の為、政府主導で導入し、現在も政府推奨品種とされる品種は、日本で流通していた固定種で占められている。

 ただ、品質以上に優先される目標があったため、第二次世界大戦直後までに開発された旧い品種が多い。

 トマトで言えば、政府推奨品種はアイチ・ファーストと『世界一トマト』で、いずれも昭和10年代に開発されたものである。

 と言っても、江戸徳川時代から品種改良が盛んだった日本で近代化以降に開発された品種だけに、この世界においては先進的な品種だとも言えるのだが。

 ────だが、品種は同じでも栽培方法で品質はだいぶ変わってくる。

 トマトが含まれるナス科原種の大元の原産地はアンデスの高地だとされている。冠雪しているイメージがあるが、空気は冷涼で乾燥していて、植物が吸い上げる事のできる水分が限られている。

 こーれを多湿のエクスプレッセスティや、女神の加護とやらで株そのものを富栄養状態ですくすく育ててしまうクワ・トイネで栽培すると、採れるっちゃ採れるんだが、酸味は強くなるわ糖度は低いわゼリー分増えてスカスカになり食感も良くないわ、となる。

 エクスプレッセスティでは、元々ナス科農作物は環境耐性の高い紫ジャガイモ以外は盛んではなかった。転移前は輸入に頼っていたのである。

 クワ・トイネに世界一トマトとアイチ・ファーストの種を持ち込んでみたものの、結果は前述のとおり。

 生食用の他、ケチャップやミートソース、デミグラスソースを割と大量消費している食文化なので、トマトの問題は結構深刻だったのだが、

「…………ロウリアの内陸部なら栽培に適しているんじゃね?」

 と、いうことになって、ロウリアの農業改良支援の一環として、エクスプレッセスティの政府推奨品2種をロウリアで栽培し始めたのである。

 高品質トマトの品不足が深刻だった為、ぶっつけ本番でかなりの面積に作付けしたのだが、

「エクスプレッセスティなら、多分農業も超技術なんだろう」

 ってなノリでロウリアの営農者が指導通りに栽培を続けた結果、今この様に結実したというわけである。

 まぁ、トラクターにコンバインなどの車両に加えて、ドローンやKa-26An/Dヘリコプターによる液肥や薬剤の空中散布など、確かにエクスプレッセスティの農業技術はロウリアから見れば遥かに先進的ではあるのだが。

「限られた種類とは言え、我が国がクワ・トイネ産に勝る農作物を輸出する立場になろうとは……一昨年までは考えられませんでしたな」

「うむ」

 マオスの言葉に、ルセリアは誇らしげな様子でトマト畑を眺める。

「神の加護であろうと試練であろうと、与えられたものをどの様に活かし、あるいはどう作り変えるかは、結局は人の叡智よ」

 そう言ったルセリアだったが、直後に苦笑を浮かべ、頬をかいた。

「まぁ、列強に侮られぬ国になる、という歴代ロウリア王の悲願が、余の御代で手が届き始めたと言うのは、皮肉かも知れぬが」

 ルセリアはそう言うと、振り返って、視線をアイミに向けた。

「農業とは……いえ、現代農業はそれに充分に含まれますね。エネルギー資源産出国である我が国にとって、周辺国の発展は長期的に利益になります」

「うむ。今しばらく貴国の力を借りることになるが、 ……よろしく頼む」

 言葉を交わし、アイミとルセリアは握手を交わす。

「さて、他にも見て回るところがありますかな?」

 マオスがアイミ達に問いかける。ハーク34世の時代には、常にどこかおどおどとした様子の彼だったが、最近は憑き物が落ちたかのような溌剌とした様子になった。

「そうですね、ナス科ついでにそのナスの様子を拝見させていただけますか?」

 アイミが言うと、マオスとルセリアは農夫長に視線を向けた。

「もちろんいいですよ。こちらも、私達としてはかなり想像以上に順調でして……────」

 農夫長の言葉を聞きながら、5人はトラックのキャビンに収まる。エンジンを始動して、ナス畑の方へと向かっていった。

 ちなみに、ナスのエクスプレッセスティ政府推奨品種がこれまた日本にあった固定種、日本ナスの『立石中長茄子』と西洋ナスの『フローレンパープル』の2種だったりして────

 





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独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……

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  • そんなことよりカツ丼定食
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