「オーラーイ! オーラーイ! オーラーイ!」
エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。
エムブラセクス中央駅地平ホーム、15番線。
駅員が緑の信号旗を掲げて振りながら、そう声を上げている。。
平日の帰宅時間帯に入り、ホームはごった返している。すでにホーム内には元・日本国鉄101系、現在もそのまま
前面の貫通扉を開いて、そこに作業員が待機している。
エクスプレッセスティらしくセクシーコンパニオンみたいな衣装の乗務員・駅員と異なり、作業着は色こそピンク基調だが、長袖のツナギに軍手、黄色いヘルメット、履物は多少拘ってロングブーツだが保護板入りの安全靴になっている、と、転移前の他の国、特に先進国と大差ない。
その反対側、駅員が視線を向けている方から、ゆっくりと増結用の4両編成が進入してくる。
以前にも説明したが、エムブラセクス中央駅はともかく、特急・急行通過駅では、長短様々な車両が入り混じっていた時期に10両程度で建設してしまったため、ホーム有効長に対して日本で標準的な国鉄20m級(連結面間長さが20.5~21.5m)の車両がギリギリ10両入らない。なので、通勤ラッシュ時は16~18m車2両を挟んでいる。
中でも101系の場合、元主電動機の牽引力が弱めの車両であるため、軽量小柄な、営団銀座線、名古屋市営地下鉄東山線の旧型車を、1,067mm用台車に履き替えて使われている。
実際のところ、建国準備委員会・建国委員会はもう少し幅のある、営団丸ノ内線の500形系列を狙っていたのだが、ほとんどタッチの差でアルゼンチンのメトロビアスに先を越されてしまい、代わりに銀座線・東山線車両と日比谷線用3000系の台車を持っていったという経緯がある。
その、元営団2000形のクハ1300形が先頭になって、基本編成に接近してくる。規格統一の為に採用されている日本の国電幌が、“着られている”感じになっている。ホームとの隙間が大きくなるため、ドア下にステップが取り付けられている。塗装は101系基本編成とまとめてラインカラーのオレンジバーミリオン。銀座線色とも近いがやや濃いため、車体番号は営団時代と同じ位置に白文字で書かれていた。
「ストップー!!」
ホームで旗を振っていた駅員が、そう声を張り上げながら反対側の手に持っている赤い旗を掲げた。増結車編成はブレーキをかけて一旦停車する。
増結編成側の運転台から作業員がホームの反対側に降り、
「よいしょっ……と」
と、お互いの密着自動連結器のナックルを、抱えるようにして開かせる。前後の車体の間から出て、ツナギ姿で増結編成を運転していた運転士にハンドサインで「ちょい前へ出して」と示す。
増結編成が僅かに前進して、ガチャン、と連結器同士が握り合う。
基本編成側の貫通路で待機していた作業員が、増結編成側から連結幌を引っ張って固定を始める。他方で、外にいる作業員は制御線とブレーキ管の接続にかかる。
……と、言っても、クハ1300形の、複数の主要形式と連結するために多数ぶら下げているジャンパ栓は使わない。現在の中古組の主要系列は名鉄式の電気連結器(車両そのものを繋ぐ連結器の、普通は下側に添えられている、連結時に同時にか、待機位置からせり出させるだけのいずれかで制御線がつながるデカいコネクターのこと)ですでに繋がっている。
ブレーキ管も接続部分自体は密着自動連結器に組み込まれていて、この時点で繋がっているので、バルブを開いて編成で1本のブレーキ管にするだけになっている。
バシュッ
短く、気体が漏れる音がする。
「ブレーキ管圧力確認!」
連結器の作業をしていた作業員が声を張り上げると、両方の編成の運転台にいる作業員が、運転台の圧力計を見る。
「6C側圧力よし!」
「4C側圧力よし! 空調再起動してー!」
「りょーかい!」
すでに猛暑の季節は過ぎているが、満員電車の不快指数はまだまだ上がる時期である。
ヒュウゥゥ……
基本編成側の冷房機のコンプレッサーが止まりかけた直後、
ゴォン
と、増結編成も合わせて冷房機が動き始める。車内では扇風機も回り始めたのが見える。
日本では新製冷房車のトレンドはダクト埋め込みのラインデリアだが、エクスプレッセスティでは今でも首振り扇風機併用である。ルッキズムのお国柄でこれは意外と思われることも多いのだが、逆に、
「特に夏場なんか、扇風機が回ってる方が涼しい風が来る感じしない?」
と、言う理由で国産の新製車、3DR131系、4DR133系、3DR135系でも扇風機併用になっている。
例外は元営団組と元京阪組。営団組は首振り扇風機ではなく地下鉄由来の低い車高のために採用された埋込式の円形ファンデリアをそのまま整備して使っている。このグループは屋根に冷房載せる余裕もないので、床下に搭載している。
京阪組は回転ルーバーが「おもしろーい」ってんで元々これを装備していた元京阪車以外も、冷房が既設で扇風機がない車両にわざわざ京阪の廃車発生品をもらってきて取り付けたりしている。
車外にいた作業員が、襟に留めていた小型マイクに手を伸ばす。
『業務連絡! 15番連結作業終了』
『15番了解』
作業員の声が放送で流れると、地平ホーム観察室から別の放送が流れる。
『準備できましたらドア扱い願います』
そう放送されると、10両編成になった列車の客室扉が一斉に開く。
『お待たせしました。15番線の電車はセクシュアリア線快速、セクシュアリア行です』
その放送が流れた時、サンディ・アンビセクス・ジャバは、すでに急ぎ足で車内に入っていた。
まぁ当然と言うか、帰宅時間帯の、都心ターミナル始発列車の宿命である席取り合戦である。
「あー座れた。3両目と4両目が穴場って言うのはホントなのか」
サンディは、軽く腕を上に向けて
天井を見上げるとファンデリアが回っている。内気循環に設定されていて、床下搭載の冷房の冷気を撹拌していた。
サンディは自動車メーカー、セダクションの第2営業部に所属している。第2営業部は事業用車担当で、主に扱うのは小型トラック『ルーシア』、中型トラック『ファイター』、大型トラック『ディオナトラ』、バスの『ローザ』『エアロスター』『エアロスターデュオ』『エアロクイーン』、となる。
乗用車では国内設計の国産車がそれなりに普及しているが、貨物車・バスは未だに日本のライセンス生産車が多い。挙げた中でルーシアとエアロスターデュオ以外はすべて三菱ふそうのライセンス生産車である。
ルーシアはマツダ、エアロスターデュオはベルギーのヴァンホールのNewAG300であり、要はトラック・バスのすべてがライセンス生産車である。 ────あるのだが。
先進国では猫も杓子も直6直6と、直列エンジンがトレンドの中、エクスプレッセスティのトラックは
その他に横置きシリンダーの対向ピストン型2ストロークディーゼルなんてのもラインアップに入っている。
4ストロークエンジンは基本的に三菱の少し旧いエンジンをベースに設計しているので、『ディオナトラ』などは8DC2を搭載していた三菱の旧い世代の大型トラックになぞらえて、「『スーパーグレート』の皮を被ったFシリーズ」などとも呼ばれていた。
────閑話休題。輸出シェアがなくなってしまった中、第1営業部はなんとか国内で売ろうと奔走しているのだが、第2営業部の事業用車関連は友好国へのインフラ供与に必要だということで政府からまとまった発注がある。なので、
「第2は楽よねー」
と、特に第1営業部の人間から言われてしまうのだが、
「こっちはこっちで政府や現地との調整で忙しいんだぞ」
と、サンディ達は言い返す。
本来、自家用車部門の『ハイエース レジアス』(日本のトヨタからのライセンス取得・継続生産車)の、日本のD◯N向け逆輸出型『マトリア エクスタシー』用のデカグリルとバンパーは、不良在庫化したため結局強引に黒く塗りつぶした上でロウリア向けとして
この件も含めて第2営業部も、というか政府との摺合せの関係で第2営業部こそが “広く薄く忙しい” となってしまって、残業が多くなっていた。
サンディも今日定時帰宅なのは、超過勤務の月上限を超えてしまって、上司に半ば無理やり帰されたのである。
「ん────」
サンディは、今日はそれほど疲れていないと思っていたのだが、電車に揺られていると、ウトウトとし始めた。
日本かぶれの国だけにエクスプレッセスティはそれなりに治安がいい。特に性犯罪は「理想的なフリーセックス社会の対極に位置するもの」として厳しく取り締まられている。
ついでに、サンディの下車駅はこの列車の終点であるセクシュアリア駅なので、乗り過ごす心配もない。もっともトイレで寝落ちして乗務員も気付かず電車もろとも車両基地に放り込まれた泥酔者がいたことはあったが。
セクシュアリア市はエクスプレッセスティ版小牧市エムブラセクス近郊の衛星都市で、首都のベッドタウンだが、商業施設などはひと通り揃っている他、リベレックシスの白物家電工場もあったりする。
セクシュアリア線はここを経由する通勤路線として建設された。セクシュアリア駅から先はプロパラダイススへ向かう南東本線との合流点まで続いているが、セクシュアリア駅から先は電化されていないため、1日数本だけある気動車の直通列車以外は、どちらもこの駅で折り返しである。
────なく終点、セクシュアリア、セクシュアリア駅です』
「んぁ」
サンディが気がつくと、電車は衛星都市の中を走り、終着駅に向かって減速しつつあった。
車内はだいぶ
『どちら様もお忘れ物のないよう、今一度お手回り品をご確認ください。本日はエクスプレッセスティ国有鉄道をご利用いただき、誠にありがとうございました』
その放送が終わった頃、電車はセクシュアリア駅のホームへと滑り込んでいた。
キンコーン キンコーン……
プシューッ……ガラララララッ
大規模修繕時に取り付けられたドアチャイムの音とともに、扉が開く。
「さてと」
サンディは、ポケットからスマートフォンを取り出す。
『課長に残業禁止された今日定時ー』
サンディがそう送ったメッセージに対し、
『りょーかい晩ごはん用意して待ってるねー』
と、返信が入っていた。
サンディは、更に、
『何か買っていくものある?』
とメッセージを送る。
エクスプレッセスティ公共交通共通のICカード『ExR-Touch』の定期券を取り出し、自動改札を通った。
そこで、再度相手から、
『特にないよー』
と、返信があった。
それを確認してから、バスターミナルに向かう。
トロリーバスが鉄道を挟んで1路線ずつあるが、サンディの家の近くからは外れている。少量の軽油を送り込んでLPGに点火する二元燃焼式LPG・ディーゼルの小型バス ──── まぁ、サンディにとっては自社の製品の『ローザ』の2扉車なのだが、それに乗り込んだ。
注文住宅の並ぶ住宅街のバス停で、バスから降りた。直ぐ側に日系コンビニのミニストップがあるが、特に買い物は必要なさそうなので、サンディはそこには寄らずに自宅へ向かった。仮にここで買いたい物ができても徒歩で5分ちょいだ。
2階建て3DKの小型一戸建てである自宅に帰り着く。
バッグから取り出したキーで鍵を開け、ドアを開けて家の中に入る。
「たっだいまー!」
「あ、おかえりなさーい」
サンディのパートナー、ビアンカ・アレキシー・ジャバが、開けっ放しになっていた扉からサンディの方を、ダイニングキッチンのカウンター越しに覗き込むようにして、弾んだ声でそう言った。
「おかえりなさい、サンディママー」
「おかえりなさいー」
同じくキッチンの方にいた2人の
「あのね! ビアンカママのお手伝いしてたんだよ!」
「そうか、偉いなー」
下の娘がハキハキとそう言うと、サンディはそう言ってその頭を撫でる。
「今日は残業なかったんだねー」
上の娘が、サンディにそう言う。サンディは苦笑した。
「今月はこれ以上残業しちゃダメなんだって」
「ふーん……」
エクスプレッセスティでは、固定されたパートナーを持つ事は推奨されている。それどころかパートナーは同一の姓となる制度になっている。
そして子どもが生まれた場合、性機能に関わらず双方が “母親” と呼称される。
「ご飯もう少しでできるからー」
ネクタイを緩めつつ、ビアンカの声を聞いたサンディは、
「じゃあ、お風呂の準備をしてきますかね」
と、呟くように言った。
「その前に部屋着に着替えてきたら?」
ビアンカがそう言う。
「そのついでよ。洗ってはあるんだし、ざっと流してスイッチ押すだけなんだから」
サンディは苦笑しながら言った。
エクスプレッセスティ政府の戸建て向け推奨品であるパーパス・エクスプレッセスティ製の屋内設置型FE式ふろ給湯器は、自動湯張り機能を持つ。
……屋内設置型なのは、今でこそ治安の良いエクスプレッセスティも、10数年前は今ほどには良くなかったため、屋外設置型は盗難に遭う事が少なくなかったからで、その当時から屋外設置型を追加設定していないままになっている。
サンディとビアンカは、サンディがエクスプレッセスティ国内の大企業、セダクションのそれも花形の営業であるため、結婚してからはビアンカが市内でパートタイマーとして働きつつ主婦役をしている。 ────────なのだが、サンディは自身の由来である先住民族フェチ族(Phetis)が長年高い自然放射線に晒された結果の遺伝子エラーでしばしば生まれる女性的両性具有、所謂フタナリであり、ビアンカの方はシーメール、というカップルだったりする。つまり────
ともあれ、大東洋戦争の後始末もだいたい終わったエクスプレッセスティの、よくあるいち日は、平穏に夜更けを迎えつつあった。
エクスプレッセスティ国鉄の特急以外の乗務員・駅員イメージ
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759224870087561571
特急乗務よりは大人しくなってるはず……ハズ……
一方で作業員は、色はピンクだけど服の目的が目的なのでわりとオーソドックスです。
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759225622835171410
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独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……
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あり
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なし
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そんなことよりカツ丼定食