『壁越え作戦遂行後...汚染市街外縁部作業用ドック』
「さてさて、今日の依頼は...」
AC技師兼アセンブルアドバイザー『ナイン』は、いつもと変わらず依頼を確認していた。
「おっ、嬢ちゃんから連絡が来てるな」
この前の依頼以降、嬢ちゃんは破竹の勢いで評判を高め、話によれば...遂にはあの『壁』を攻略したらしい。
「おぉ、嬢ちゃんかい?、あの壁を攻略したんだってな...お疲れさん。
ん?、ラスティから伝言があるって?。
へぇ、俺のアドバイスが役に立って楽に壁越えができたと...嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。
ふ~ん、まだ依頼残ってんのか、まぁ嬢ちゃんが納得してるなら良いがちゃんと休息はとれよ?、あの難攻不落の壁を単騎駆けして突破したんだからな、無理は禁物だぜ?。
...そうか、じゃあまた今度な」
通信を切り、俺は壁越え直前のことを思い出す。
「ふっ、まさかあのアセンで本当に壁を攻略しちまうとはな、流石ヴェスパー部隊が誇る最高戦力の1人だ。
だが、それだけに危険だな...あまりあいつに
先走って早死にされちゃ困るからな」
そう言ったナインの視線の先には一機のACが写っているモニターがあった。
「EL-P-00 ALBA、ラスティの実力を最大限に活かすために調整したのは良いが、今のルビコンには過剰過ぎる力だ」
『数日前、壁越えミッション直前』
「聞いたぞラスティ、あのバカフロイトと一緒に『壁越え』をやるんだってな。
お前さんも大変だねぇ、んで...今回はそのためのスティールヘイズの調整が依頼と」
「あぁ、君にしか頼めないことだアドバイザー」
「ふっ、お前さんにそう言われるとねぇ、俺もそう捨てたもんじゃないらしい」
「過ぎた謙遜は嘲りに等しいぞ、君以上のAC技師はこのルビコンに存在しないだろう?」
「どうだろうなぁ、ドーザーのRADって派閥にも凄腕の技術屋はいるし、何よりお前さんたちの所属するアーキバスも何人かエンジニアを抱えてるだろ?、俺が一強とはいかないだろうよ」
「だが...」
「まぁ、負ける気はしないけどな」
「それでこそ君だ」
こいつ、なんでかやたら俺への評価高めなんだよなぁ、俺こいつに何かしたっけ?。
「そんじゃさくっと済ますぞ、数時間後には壁越えが控えてる...それまでに間に合わさねぇとな」
「あぁ、よろしく頼むよ」
さて、しばらくぶりだが見てみますかねぇ。
「あぁ~、ちょっと間接部へのダメージが見られるな、これくらいならAC用のオイルをさせばなんとかなるが問題はジェネレーターだな、かなりガタが来てるから交換しねぇと駄目だなこりゃ、それに右腕のバーストハンドガンもいただけないな」
スティールヘイズに使われてるNACHTREIHERシリーズは軽さと速度を追求し過ぎた結果、積載と防御に反動制御能力、それとジェネレーターへの負荷がかなりキツい。
「この武器は反動制御能力が高くないと弾道が大幅にずれるからな、どっちかっていうと同じ軽量機体でもエルカノ社のフィルメーザの方が適正は高いだろうな」
「なんとかならないか?」
「難しいな、今からパーツをフレーム単位で換装するとなると終わるのがミッション開始間近になっちまう、例えそれより早くできたとしても慣らし作業ができないからこの案は却下だな。
一番現実的なのは武器だけ変えて慣らしまで完璧に済ませちまうって案だな」
「武器は何を使うつもりなんだい?」
「そうだな、バーストハンドガンとあまり使い心地が変わらずそれでいて威力とスティールヘイズの速度を損なわない武器ってなるとあれしかないな」
俺はリストからとある武器を探す。
「在庫あったかぁ?、おっ...これだよこれ!、BAWS製のバーストマシンガン『ETSUJIN』」
「成る程、今使っている武器と開発元が同じ武器か、やはり君は凄い」
「こいつを二丁持ちして左肩のウェポンハンガーにレーザースライサーを装備させよう、それならいつもとほぼ変わらないかそれ以上に良い動きができるはずだ」
俺は早速選んだ武器をスティールヘイズに装備させる。
「良い仕上がりだな、早速試させて貰っても良いかい?」
「あぁ、シュミレーターは用意してあるからミッション開始までにじっくり慣らしておきな」
「感謝するよアドバイザー、やはり君はルビコン一のAC技師だ」
「だぁ!、もう早くシミュレーターで試してこい!!!」
こいつ、いちいち誉めてくるからなんかこそばゆいんだよ!。
『そして現在』
「やれやれ、スティールヘイズの強化案も今度出してやるか、でもあんまりやり過ぎるとそれはそれであいつが強くなり過ぎて、戦況がアーキバスに偏りかねないな」
あまり一つの勢力に力が集まり過ぎると、ギリギリのところで保たれている均衡が崩れてしまう。
「それだけはなんとか避けたいもんだねぇ、これ以上ルビコンの状態が悪くなり、コーラルがアーキバスのクソッタレどもに独占されるようなことがあれば、流石に『アレ』を起動するしかなくなるしな」
あれだけはあまり起動したくはないんだよなぁ、最悪ルビコン中に被害が及び、やってることが企業の連中と変わらなくなっちまうからな。
「さてと、次の依頼を確認するか...おっ?、何個かメッセージが溜まってるな」
嬢ちゃんからの通信に集中し過ぎてメッセージの通知音に全く気づかなかったぜ。
「依頼主は解放戦線と...うぇっ、最悪なやつから依頼来てやがんな」
解放戦線の依頼は受けるとして、もう一つの依頼は無視だな。
流石にRADの頭目を敵に回したくない。
「そういや、嬢ちゃんからも追加のメールが来てたな、作戦開始前にベイラムの連中が動いた結果、解放戦線の連中に包囲され、危うく全滅しかけたと。
んで?、最後に送信された戦闘ログによると途中で所属不明ACが乱入し、レッドガンの隊員2名が消息不明になっただぁ?...まぁ、あいつらならどこかで必ず生きてるだろ、今は目の前のことに集中しないとな」
ナインは調整が済んだ自分の機体を見ながら微笑む。
「仕事の時間だぜ、起きな...ヴェルトロ」
ハンガーには全身の装甲が黒く塗られ、メインカメラが淡い碧色に輝く細身で異形のACが静かに佇んでいた。
『数時間後...壁付近雪原地帯』
陥落した壁の近辺、大量の残骸と瓦礫の上で1人の男が誰かと通信を行っていた。
「あぁ、こっちでも確認したぜ、ジャガーノートが全機大破したうえに『壁』が陥落したんだってな」
『...』
「わかってるって、あのバカのサポートだろ?...正直気が向かないがあんなのでも勢力を均等化するのには役立ってる、こんなところで死なれちゃ困るんだよ...ただACの方は期待しないでくれよ?、おそらく残党狩りを任されるのは
『...』
「あっ?、俺が組んだアセンのせいだって?...まぁ否定はしないが、そもそも壁の防衛をジャガーノート1機とMT部隊に任せたのが間違いだろ、本気で守りたかったなら俺が用意したカスタムACと『アレ』も同時に出撃させれば良かったのによぉ。
戦力の逐次投入は愚策だからやめとけって言ったのに聞かなかったのはお前らだぜ?」
男の通信相手は、どうやらかなり焦っているようだった。
「まぁ、お前らが置かれた状況的に戦力を温存しておきたいのはわかるが兵器は使ってこそだ...もう少し考えて運用した方が良い」
『...』
「そうかよ、じゃあそろそろ切るぜ...
全く...俺もあんまり暇じゃないんだぜ?
フラットウェル」
【今回の武器紹介】
『MA-E-210 ETSUJIN』
BAWSの開発したバーストマシンガン、命中精度が非常に高く軽いため、軽量機に積む武器には最適である。
【ナインからのコメント】
今回はスティールヘイズをプチ強化するのに使ったが、俺は普段からこいつをよく独立傭兵たちにお勧めしてるぜ、扱いやすいから初心者にもうってつけの武器なんだよ。