その時とあまり設定は変わっていません。
プロローグ
ー西暦2022年11月6日北海道某所ー
「ふわぁ…眠たい……」
とても大きな欠伸をしてしまう。
やや少し寝不足気味だろうか、まぁその理由は色々とあるが、一番大きいのは朝から鳴りやまない携帯だ。
(全く…俺が授業で遊べないのいい事に……)
今日はとあるゲームの稼働開始日。
そのゲームとは≪SAO≫、通称ソードアートオンラインと呼ばれるナーヴギアを用いて遊ぶVRMMOである。
12時から稼働開始なのだが、俺は学校があるので帰ってからじゃないと遊べないのに、それを分かっていてか、両親からあれこれとメールが届く訳だ。
(俺としては父さんも母さんも仕事で忙しそうだし、たまには遊んで気晴らししないと)
俺の両親はちょっと有名で、母は血液関係の病気の治療と研究をしており、父は医療機器開発兼医者で、俺はそんな2人の息子である。
因みに4つ上に姉が居て、姉は母の仕事を手伝って現在横浜にいる。
そして俺の名前は雪風直人。
父の背中に憧れて、父と同じ仕事がしたいと思い、ある大学目指して必死に勉強している高校生である。
(さて…そろそろ時間か)
時計の針が12時に差し掛かろうとしている。
予定通りなら稼働開始になり、両親からのメールも途絶えるだろう、昼休みに入るし一言返信だけしておくか。
(でもなんか嫌な感じなんだよね……)
少しだけ嫌な予感がしている。
言葉には出来ないが、何か大きな事が起きそうな予感だ。
子供の頃からこういった予感は度々的中することが多く、その度に姉か幼馴染に相談している。
(余計な心配か。あの2人に限って何も無いだろう)
なんて思っていると、時計の針が12時になりチャイムが鳴る。
昼休みに入りクラスメイトはそれぞれ昼食を取りに行く中、1人の長身の女性が向かいの席に座った。
彼女の名前は小比類巻香蓮と言い、俺の子供の頃からの幼馴染で…恋人である。
中学時代のある件を切っ掛けに、彼女の両親に押すに押されて任されたのを切っ掛けに付き合っているのだ(両親同士が超仲いいのもあるのだが)。
「眠そうだねナオ。原因はそのメール?」
「そうだよ。見てみ」
俺の携帯に届けられた大量のメールを見せる。
そのメールを見た香蓮は、苦笑いを浮かべつつも中身を見ることは無かった。
俺としても親の自慢メールなんて見てほしくないし。
「そういえば…午後はどうする?授業も一時間しかないし早く帰ってゲームするの?」
「やらない。テストも近いし、父さんの仕事も手伝わないといけないし」
「そっか。βテストやってたからやるかと思ってたけど」
実際のところ俺もやりたいのだが、テスト近いし、父さんの仕事も手伝わないといけないし、可愛い妹分とのやり取りもあるし。
なのでやる時間はあまりないので、父さんと母さんの話で我慢しようと思っている。
「雪葉さんもやらないのかな?」
「やらないだろうな。木綿季の体調や薬の投与もあるし。実験だって大変だからな」
父の仕事も大変だが、母の仕事も大変だ。
毎日実験と検証の繰り返しつつ定期的に論文を提出し、学会にも出席し、大学の講師までやっている。
そんな母の助手をしているのが姉なのだが…まぁ色々とあってやや性格悪いのだが、とてもいい姉貴だ。
「色々大変だね…。本当に」
「うん。大変だよ……」
大変だからこそもっと助けになりたいのだが、さすがに横浜と北海道とは距離があるのでなかなか難しく、基本メールか電話だ。
長期休みの度に会いに行っているが、仕事を助けに行くより、魔窟と化した自宅の掃除の方が多い。
もう少し何とかしてほしい所だ。
「ところで…お弁当持ってきてないのナオ?」
「ん。どうせ午後の授業は一時間しかないし、食べると眠たくなるから。香蓮は?」
「私も持ってきてないね。今はちょっと」
「そっか。っと…またメールか」
再びメールが届き宛名を確認。
今度は『姉』と書かれてあったので、内容を確認すると、軽くデータを纏めるのと。父さんの仕事ぐるみで一件プログラミングを頼みたいとの内容だった。
なので、返信した後にカバンの中に入っているタブレットを取り出す。
「お仕事?」
「まぁね。データまとめとプログラミング。内容確認しないと」
タブレットに入っているフォルダを開いて確認し、それから自宅のパソコンにデータを転送。
それからフォルダを閉じてタブレットの電源を落とそうとしたとき、あるフォルダが目に入る。
ある人物とやり取りし、とあるシステムの一部のプログラミングを手伝った時に使ったもの。
そういえば…結局あの人はあのシステムではなく、もう一つの方を採用したんだっけか。
ならこのフォルダももう必要ないかも知れないな。
「…消すかこれ」
「消すの?直人にとって大事なものだから置いておいた方がいいと思うよ」
むむ、そう言われると消すのが惜しくなってくる。
しかし、香蓮の言う通り置いておいた方がいいかも知れない。
嫌な予感もしているし、もしかしたら約に立つかもしれないか。
「それじゃ置いておこうか。役に立つかもしれないし」
「うん。その方がいいよ。所で直人。今度どこ遊びに行く?」
「あ、そうだな……最近遊べてないし、行くならテストの後か」
遊びに行くならどこがいいだろうか。
行くなら冬休み入ってからだし、季節的に都市部に行かないと。
でも北海道広いしなぁ…帯広は雪降るとえぐいし、札幌は距離あるし。
「また親父達に会いに行くけど付いてくる?」
「そうだね。たまに行こうかな。ナオの可愛い妹分に会いたいし」
「きっと喜ぶよ。詳しい予定はまた伝えるから」
「ん。待ってる。それじゃ席戻るね。そろそろ昼休み終わるし」
「あぁ。また後で」
自分の席に戻っていく香蓮。
その後ぐらいにチャイムが鳴って午後の授業が始まる。
授業の内容はあまり難しくないのでの要点だけノートに書きつつ、テストに出そうな所は赤ペンで記していく。
(それにしてもやな感じだな。何か言葉に出来ないけど)
言葉に出来ないモヤモヤが中々消えない。
変に考えすぎなのかも知れないな。
こういうときは切り替えて楽しいことでも考えよう。
(デートどこにするかね…)
何て考えつつ授業を聞いているとあっという間にチャイムが鳴る。
授業もキリが良かったのでそのまま終わり、その後のホームルームも短かった。
まぁ土曜日なんてこんなものだろうと思いつつ荷物を纏め、香蓮と一緒に帰る事に。
家まではバスと徒歩で、香蓮とは途中まで一緒になる。
雑談しながら近くのバス停に向かうと、丁度バスが来た所だった。
運がいいと思いつつ乗車し長椅子に座ると、隣に座ろうとした香蓮が、盛大におでこを手摺にぶつける。
「あぅ!」
「…大丈夫?」
「うぅ…大丈夫」
おでこを摩りながら隣に座る香蓮。
とても痛そうなのだが、この光景は日常茶飯事であり、今朝登校する時もタバコ屋の看板に頭をぶつけていたし。
「何でこんなに大きくなったんだろ?」
「その分モデル体型の絶世の美女でいいじゃん。写真集とか出せば人気出るんじゃない?」
「いやだよそんなの。興味ないし」
「でも少し前に服を買いに行ったときに、店員さん発狂してたじゃん」
「そんなこともあったね」
香蓮はとても嫌そうな顔を浮かべる。
彼女の身長は現在180センチで、女性で見るとかなりの高身長である。
その代わりといっては何だがスタイルは超抜群だ。
呉服店に行ったら必ずと言っていいほど店員の目が輝くほどに。
ちなみに身長はまだ伸びているとか。
「はぁ…昔はそれほど大きくなかったのになぁ…」
「確かに小さくて可愛くて走り回ってたな。それが今では真逆の大きくて大人しい人になったね」
「直人は昔から変わらないけど。文部両道でかっこいいし」
「そうか?今は部活とかしてないし、週末だけじっちゃんと組手してるから中学の頃に比べたら全然だぞ」
子供のころから元陸自のじっちゃんに鍛えられ、柔道やら剣道やらをしていたのだが、それも高校に上がるのと同時にやめて、ある程度維持する程度に納めている。
ま、中学の時に軽く問題起こしたし、キレると加減が利かなくなるから、やめて正解だったかもしれない。
「俺より姉貴の方がかっこいいぞ」
「それは知ってる。なのに結婚できないよねあの人。合コンとかお見合いとかしてるのに」
「まぁ性格に難ありだしね…っと次だぞ香蓮」
香蓮が降りるバス停のアナウンスが鳴ったのでボタンを押す。
少し経つとバスは止まり、香蓮は荷物を持って降りようとするが、その前に誰も周りに誰もいないことを確認し、気づかれないように頬にキスをする。
それから手を振ってバスを降りて行った。
「ったく……」
普段からアレぐらい大胆になってくれたら嬉しいのだが、切っ掛けがないと難しいか。
時間が解決してくれると思いつつ、ワイヤレスイヤホンを取り出して音楽を聴きながら最寄りのバス停まで外の景色を眺める。
所々雪で白く染まっており、『もうこの季節か……』と思いつつ最寄りのバス停前に到着したので降車。
それとほぼ同時に冷たい風が襲ってきて体が軽くぶるっと震えた。
「さっむ。早く帰ろ」
やや足早に歩くこと15分。
大きな木造建ての屋敷が見えてくる。
ここが俺が今住んでいる家で、じっちゃんとばっちゃんの3人で暮らしている。
家の中に入り、居間にいるであろうじっちゃん達に声をかける。
「ただいまじっちゃん。ばっちゃ…っていない?どこに…あ。手紙ある」
机の上に手紙があり、それを手に取って内容を確認。
手紙には『老人会の旅行に行ってきます』と書かれてあった。
となると1週間は帰ってこないか。
ま、いい息抜きになるしいいだろ。
「んじゃ姉貴からの頼まれごとを片付けますか」
自室に戻りジャージに着替えてからパソコンの電源を付ける。
共有フォルダに入ってあった頼まれごとを確認し、片付ける順番を決めてから作業を始める。
「最初はデータを纏めるか。過去半年なら4時間で済むか」
いつもと変わらない手順でデータを纏め始める。
ただまとめるわけではなく、母さんが見直さないで済むように簡易化しつつ見やすいようにして、あと訂正箇所を赤文字に。
あとついでに誤字も直しておこう。
忙しいのか変換ミスが多いんだよね。
そういうのも俺や姉貴がきちんと確認して訂正しておかないと。
「あとは…ここをこうやって…それとこのグラフを…あぁこっちの方がいいか……」
纏めと修正と簡易化を繰り返し、できる限り手間がないように。
忙しいあの2人に余計な無駄を与えるわけにはいかないから。
そして作業を続けることおよそ6時間ほど。
思ったよりも時間がとられ、気づけば夜の7時。
いったん休憩を取ろうとしたとき、パソコンの横に置いてあった携帯に怒涛の着信履歴があったことに気付く。
「全く…なんだよ鬼電しやがって」
急ぎの要件でも出来たのかと思い電話をかけると、思ったよりも早く姉貴は出て、何事か聞くよりも先に、姉貴の大きな声が聞こえてくる。
『やっと出たな弟!いいか冷静に良く聞け!』
「っぅ…声大きいよ姉貴。何でそんなに慌ててんだ?」
電話越しでも分かるほど慌てている姉貴。
これは絶対何かあったな。
データか何かを損失でもしたのだろうか?
でも、声が少し震えてるし…まさか。
『いいか弟。落ち着いて聞いてくれ。夕方頃にアインクラッド内で茅場先生がある宣言したんだ』
「……宣言?アップデートか?」
『違う。そんなことじゃない。あの人は……』
「あの人は……?」
聞き返すと、姉貴は少し言葉を詰まらせ、少し間が空く。
そして軽く息を吐いてから、姉貴は言った。
『プレイヤーをログアウト不能にしたんだ。プレイヤーがゲームクリアするまで出てこれない』
「……は?」
『しかも、ゲーム内での死は現実世界での死と同じなんだ。体力が無くなったらナーヴギアから高電圧が流されて脳が焼けて死に至る』
「………」
あまりに唐突なことで頭が追い付かない。
一体どう言うことなのか?
いくらなんでも冗談が過ぎる…と思うが、姉貴の声を聞けば嘘ではないことが分かる。
『頭追い付かないと思うが、ニュースで話題なってる。それを見てある程度情報集めておいてくれ』
「あ、あぁ。それで俺達は……どうする?」
『……私らは信じて待つしかない。だから耐えろよ直人。馬鹿なことはせず、待っていよう』
「…そうだな。待ってるしかないな。よし、冬休み入ったらそっち行くよ。色々大変だろ?」
『助かる。母さんの方は私と倉橋先生で何とかするから心配するな。んじゃな』
電話が切れる。
取り敢えずは情報収集だ。
姉貴の言った通りに馬鹿なの事をするわけにはいかない。
親父と母さんが生きて帰ってくることを信じて待つしかないだろう。
だけどやっぱり腑に落ちない、何でこんなことをあの人はやったのだろうか?
「……考えても仕方ない。ニュースを見ないと」
ある程度の情報を集めるため、テレビをつけるのであった。